担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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はい、続きです。


第十九話 救出

「十六夜くん、しっかりしなさい!」

 

 その声を聞き、十六夜はハッと顔を上げる。

 魔王側に攫われていた飛鳥が、そこにいた。超巨大な自動人形(オートマタ)を使役し、その肩に乗った久島飛鳥がーー仁王立ちしていた。

 

「お嬢様……」

「まったく、腑抜けた顔をするなんて十六夜くんらしくないわよ!」

 

 そして、十六夜に向けて叱咤激励をとばし続けていた。

 その言葉を聞くたびに十六夜の意識は鮮明になり、本来の調子を取り戻していく。

 

(いや本当ーー助かったぜ、お嬢様!)

 

 威光ーー久遠飛鳥の所持するギフト。命令した人物やギフトを従わせる効果がある。

 その力によって、十六夜の意識に残っていた怠惰の残留物を取り除いたのだ。

 

「ヤハハハハハハハハハハハハ!ーー……こうやって笑うのも久しぶりだ!ーーんじゃあ早速、復活一番、黒ウサギを助けるとするか!」

「ーーやっぱりアレ、黒ウサギなのね……。でもどうやって?」

「そんなのーーこうするに決まってんだろ!」

 

 そう言って十六夜は、全速力で、暴走中の黒ウサギ(・・・・・・・・)の元へ駆けた。

 

「ちょ、ちょっと十六夜くん⁉︎」

 

 後ろから聞こえる飛鳥の声を振り切り、真っ直ぐ一直線に突き進む。そして当然、暴走中の銀ウサギは迎撃をーーーーしなかった(・・・・・)

 

(予想通りーー)

 

 十六夜は内心ほくそ笑む。

 相手の謎を看破する久しぶりの感覚に、気分も高揚してきていた。

 

(春日部がーーギンロが言っていた。自分たちはーー封印されている神獣たちは、契約という形でしか外に出られない。器を借り、願いを一つ叶えなければ、自由も与えられない。ーー契約は絶対だ、逆らえないってな!)

 

 考えている間も走り続ける。

 そして銀ウサギとの距離が十数メートルとなったその時、銀ウサギが動いた。

 銀ウサギは、まるで錆びた機械人形の如き緩慢な動きで右腕を上げ、そしてーー

 

 ーー烈風怒涛‼

 

 ドォン‼と大砲の如き轟音とともに、その手のひらから圧縮された空気の塊が打ち出された。

 それはかなりの速さでーーしかし、先の攻撃と比べれば見劣りする速さでーー飛んでいく。

 十六夜はそれを見て、走る速さを緩めたーーが、しかし、避けようとしない(・・・・・・・・)

 

(これでいい……。俺の読み通りならーー……ん?)

 

 そこで十六夜はあることに気づいた。

 

 ーードガガガガガガガガガガガガガガガガーー‼︎

 

 連続的に鳴る音。

 その音の出処を探して見てみるとーー空気が地面を抉っていた。

 どれだけ強風でも風自体に破壊性能はない、それが常識だったーーしかし、そんな常識を軽く超えていくのがギフトーーひいては箱庭の世界なのだ。

 

「これが三層目を解いた恩恵ーー風自体に質量(・・・・・・)重さを与える(・・・・・・)のか……ヤバイな」

 

 そう言いながらも十六夜は、迫る空気弾を横跳びでよけた。避けるつもりはなかったのだが仕方ない。

 作戦を実行に移すには不確定事項ーー新事実が邪魔なのだ。

 

「ーーヤハハ……、こりゃあ本当に、覚悟を決めねぇとダメみてぇだな」

 

 そう呟く十六夜に二発目の空気弾が迫る。

 十六夜はーー動かない(・・・・)

 

「危ない!」

 

 飛鳥が叫ぶ。だが十六夜は、動かない。

 額に汗を浮かべ若干頬が引きつっているものの、その顔から笑顔がーーニヤリと口を歪めた笑みは消えることはない。

 そして数瞬後ーー随分と派手な音を響かせ、それは着弾した。

 

「ーーッ、っがあ……‼」

 

 激痛。冗談抜きで一瞬呼吸が止まった。

 十六夜の体は反動で真後ろへと飛んでいく。

 どこまでも飛んでいくのではないか、と思わせるほどのスピードだったが、

 

「受け止めなさいーーディーン!」

 

 ーーDeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeN‼

 

 ドンッ、と背中に衝撃。突然、十六夜の体が止まった。

 見上げるとそこには赤い自動人形が。そしてその上から、飛鳥の心配した声が聞こえてきた。

 

「十六夜君、大丈夫⁉」

「……ああ、なんとかな……」

「ーーどうして動かなかったの⁉十六夜君なら避けることもできたでしょう⁉」

 

 飛鳥の指摘は正しい。あの程度のスピードならば、避けることーーさらには反撃することも容易だ。

 だが、それでは黒ウサギを救えない。

 

「まあ、試したいことが……あったからな」

「試したいこと……?」

 

 疑問の声を上げる飛鳥。

 それを見た十六夜は、人差し指を立て正面を指し示した。右腕は折れているため、勿論左腕で。

 

「ーー見てみろよ」

 

 指し示した、そこにはーー

 

「ーーがっ!うっ……ぐあっ!がアッ‼︎」

 咳き込み悶える黒ウサギと、

 

「ーーがっ!うっ……ぐあっ!がアッ‼︎」

 同じく咳き込み悶えるビャクレイの姿があった。

 

 わかりやすく言うならば、契約が切れかけて来ているのだ。それにより、一体化していられなくなったビャクレイが外にでてーー今は少しだけずれているだけだがーーこのような状態となったのだ。

 

 

 

 後に十六夜は語る。

「考えてみればすぐわかることだったんだがな。神獣(あいつら)は契約しなければ外に出られない。そして契約には逆らえない。ーーならばそれを逆手に取ればいい」

 つまり、

願いを(・・・)ーー器の願いを叶えること(・・・・・・・・・・)ができなければ(・・・・・・・)契約は成立しないんじ(・・・・・・・・・・)ゃないのか(・・・・・)?と、俺は思ったのさ。まあ、推測でしかなかったけどなーー自信はあったが」

 そう言って十六夜はヤハハと笑った。

 昔の自分を思い出して、その行動をーー自殺行為とも捉えられるその行動を、懐かしんでいるようでもあった。

「まあ、器がーー願ったのが黒ウサギで助かったんだけどな。……なんせ方法が分かったところで、肝心の願いがわからなければ意味がないんだからーー。だが、黒ウサギの願いならば簡単に想像がつく」

 ーーあいつの願いなんてーー

 

 

 

「仲間をーー参加者みんなを守りたい……、に決まってんだろ。だから俺は、あえて避けなかったーー攻撃をくらったんだ」

 

 十六夜はそう言って立ち上がる。まだ、終わってない。

 このままいけば、黒ウサギとビャクレイは切り離される。それでいい、黒ウサギは助かる。

 だが、ビャクレイはどうなる。

 黒装束は言っていた、四神の力を得るのが目的だと。ならこのままではダメだ。

 このままではビャクレイが危ない。ひいては華蓮、レイラ、残りの二体の神獣にも危険が及ぶ可能性がある。

 そのためにも、何か手は無いのか!

 

「ーー……ないな。そもそも俺は、そういうことに関して聞きかじっただけの素人だ。だが、そんな俺にもできることがあるーー簡単に打てる手がある!」

 

 そう言って十六夜は立ちふさがる。

 ビャクレイを背にして、黒装束の前に、立ちふさがった。

 

「通さねぇぞ」

「ーーおやおや、これは困りましたねぇ。白虎の力は欲しい、ただし立ちふさがるは逸材。ーー困りました、どちらも傷つけたくない」

 

 その言葉に、

 

(ーー傷つけたくない、だと?)

 

 十六夜は疑問を抱いた。

 

(俺が逸材ってのはわかった。だが、こいつがそこまで執着するものなのか?)

 

 と、意識が逸れかける。十六夜は頭を左右に振り、強引に意識を戻した。

 同じ鉄は二度と踏まないのだ。

 

「傷つけたくないってんなら、これで引いてくれねぇか。こっちもなかなか大変なんだよ」

「残念ながらそれはできません。私としても、この絶好の機会を逃す訳にはいかないのですよ」

「そうかよ」

「だからーー」

 

 黒装束の体がーー影が蠢き始め、

 

「だから、あなたを諦めます。四肢がなくなってもーーまあ、問題はないでしょう」

 

 その言葉と同時に、影がーー暴食が十六夜を喰らおうと襲いかかって来た。

 その動きは単調だが、速い。

 十六夜は横跳びで回避。続けて前方へ、黒装束との距離を詰める。

 だがそれを許すはずもなく、足を狙った一撃が背後から迫る。十六夜はそれを足を上げることで回避。

 

「逃がさねぇよ!」

 

 そしてその足を影の背に振り下ろした。

 鈍い音が響く。十六夜の蹴りは影を貫通し、地面にヒビを入れていた。

 影はしばらくもがいていたが、やがてペタッと地面に張り付き動かなくなった。

 

「暴食断罪ーーどうする、まだやるか」

 

 これで黒装束は丸腰。もし他の七大罪を使用したとしても、黒装束が十六夜を殺せない事情がある以上、十六夜の優位は揺るがない。

 だがしかし、黒装束はなおも余裕の様子だった。

 

「確かにこれは良くない状況です。まさか暴食をそんな風に押さえつけるなんて驚きです。ですが……あなたは一つ思い違いをしている」

「なんだと?」

「暴食という影は、人の感じる欲求の一つ、「食欲」の具現化したものなんです。その、踏みつけている影は私の食欲です。……まあ、何が言いたいかと言いますと……私が操ることのできる影は、一つじゃない(・・・・・・)ってことなんですよね」

 

 ーー暴飲暴食‼︎

 

 十六夜の影が揺らめいた。

 そう知覚した瞬間には、第二の影が襲いかかっていた。

 回避などできるはずもない。飲み込まれる右腕、ほとばしる鮮血。

 十六夜も何が起きたのかわからない、といった様子でしばらく呆然としていたが。

 

「ーーーー…………はぁ、あああーー⁉︎」

 

 時間が経つに連れて痛覚が蘇り始める。

 右腕がないことによる違和感も途轍もない。

 が、そんなことより十六夜の頭を占めていたのは一つの感情。

 右腕を失ったことによる精神的ショック。

 ーー絶望だった。

 

「ーーッがぁ、があああぁぁぁぁぁああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーー‼︎‼︎」

 

 街に十六夜の叫びが響き、木霊する。

 それを聞きながら、黒装束は嗤う。人間という生き物の限界をあざ笑う。

 

(弱い。これだけのことで喚き、絶望するなどーーやはり人間は弱い)

 

 人間でありながらーー否。だからこそ人間を憎み、蔑みーー自身がその劣悪種であることに絶望した。

 絶望して絶望して、黒装束は人間を辞めることにした。

 そのための四神。そのための力ーー七大罪。

 そして黒装束は、念願の力に手を伸ばし、

 

(まずは一つ目ーー!)

 

「「ーー……やめろよ」」

 

 強烈な悪寒を感じ、慌てて手を引っ込めた。

 

「……往生際が悪いですよ。あなたは負けたんです。右腕を喰われて無様に!それをいまさらーー」

「……関係ねぇよ」

「なんだと⁉︎」

 

「負けってのは、お前が勝手に言ってることだろうが……!俺はまだ、負けちゃいねぇ!」

「ーーその通りだ、十六夜。お前はまだ負けてない」

 

 いつの間に近づいて来たのか、十六夜のそばにはビャクレイがいた。

 

「力がないなら貸してやる、その腕はーー僕がなんとかする。だから十六夜、あいつをぶっ飛ばそうぜ、一緒に‼︎」

「ーーああ!」

 

 そう言うと、ビャクレイは十六夜の肩に手を置いた。

 

「耐えろよ」

「思いっきりこい」

 

 りょーかい。ビャクレイは一つ息を吸い。

 

「契約ーーあなたの願いをーー…………あーやばい、めんどくさ。そんなこと分かりきってるよな」

「面倒くさがるなよ……。まあ、その通りだけど」

 

 契約なんていらない、目的はーー願いは同じだ。

 

「「あいつを倒す‼︎」」

 そして、

「華蓮のケモミミをモフる‼︎」

 

 ………………。

 

「マジでかーーあり得ないわ、引くわ、ドン引きだわ」

「ドン引くなよ」

「まあ、いいんじゃねぇの?マスターも十六夜のこと好きだし、喜ぶんじゃねぇ?」

 

「…………。まあ、それはこいつを倒してからだな」

「…………?ーーんじゃまあ、僕も新しい契約を見せるとすっかな」

「新しい契約だと?」

「そう、名付けて!」

 

 ーー安心安全超強い!

 新型変則契約《纏》‼︎

 

 地雷臭の凄まじいキャッチコピーだった。

 




ではでは〜

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