担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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はい、続きです。



第十七話 戦況を変える一手

(な、何なのよアイツ⁉︎まさかあんな隠し技があるなんて!)

 

 銀ウサギに睨まれたペストは、その目に恐怖する。魔王であるペストのことをただの獲物としか思っていない、そんな目だった。

 

「……くっ。…………仕方ない、人材は諦めるわ。白夜叉だけ確保して他は、皆殺しよ」

 

 まともに戦っても無駄、と判断したペストは人材を諦めることにした。が、勝利を諦めたわけではない。

 正面から戦って負けるならば、まともに戦わなければいいのだ。

 

 ペストを中心に、黒い風が四方八方に広がっていく。

 先ほどとは違い、触れたもの全てに「死」を与える漆黒の風。それが、ステンドグラスを探すチームを飲み込まんと突き進む。

 

(こうすればこいつも助けに行くはず。その隙に一発当てればーー)

 

 不意打ちでもなんでもいい、勝てばいいのだ。

 泥臭くとも、醜くとも、卑怯者と罵られようとも、勝てばいい。

 

(私はこんな所で負けられないのよ!)

 

 だがペストは知らなかった。

 今黒ウサギに憑いているギンロが、昔魔王だったことを。

 そして、風を自在に操ることで恐れられていたことを。

 

「隙をついて一撃必殺ってか?いい作戦だ、だがーー」

 

 言った瞬間、銀ウサギは駆ける。

 仲間の救出ーーではなく、黒い風に向かって。まっすぐ、全速力で。

 

「ーーなっ⁉︎バカじゃないの⁉︎」

 

 ペストは思わずそう叫んでいた。

 敵に向かって言う言葉ではないこと位自分でもわかっている。それでも、反射的に叫んでしまったのだ。それだけ銀ウサギの行動は異常だった。

 

 そして銀ウサギはそのまま速度を緩めることなく、死の風に突っ込んーー

 

「ーーーーぐッ⁉︎」

 

 だ。と知覚した瞬間、ペストの体に激痛が走った。

 一体何が、そう思ったペストは痛みのした所に目を向ける。

 そこには、

 

「な、んで……生きてーー」

「まったく……最近の魔王は僕たちのことを知らないのかい?あーやだやだ、時間って怖いわー」

 

 死の風に触れたにもかかわらず、平然と愚痴をこぼす銀ウサギがいた。

 

「まあでも、作戦自体は良かったぜ。僕じゃなかったら(・・・・・・・・)倒せてたなーー!」

 

 銀ウサギはペストをぶん投げた。

 ペストの足を持ち、振り上げ、地面に投げ落とした。

 

 ドガガガガガガッッ‼︎と、レンガ造りの地面を削っていくペストを見ながら、銀ウサギは誰に聞かせるわけでもなく言った。

 

「ーーこんなんでも、元魔王なもので」

「へえ、知らなかったぜ」

 

 後ろから声が聞こえる。

 黒ウサギの聴力があるから気づいてはいたが、まさか返事が来るとは思ってもいなかった。

 

 銀ウサギはゆるゆると振り返る。

 そこにいたのは、案の定ヴェーザーだった。

 

「……お前か。不意打ちとかすればいいのに」

 

 それが皮肉であることは間違いなかったが、ヴェーザーは「契約」の場面を見てないので気づかない。

 

「最初はそんなことも考えたけどな。まあ、どうせ気づいてんだろうし、そんなことする意味はねぇよ」

「そうか」

 

 対する銀ウサギの返事は素っ気ないものだった。

 ちゃんと話を聞いていたのか疑いたくなるほど簡単に一蹴する。

 

「ーーああ、そういえば一蹴って一蹴りって書くのか」

 

 その呟きにヴェーザーは疑問を抱く。

 が、しかし、ヴェーザーが問いを口にすることはなかった。

 

 刹那。

 ヴェーザーの視界からかき消えた銀ウサギは、一瞬ですら足りないほどのスピードで、その腹部を蹴り上げた。

 

 そのあまりの速さに音すら遅れた。

 痛みすら初めは感じなかった。

 ーーそして、

 

 ーーボゴォ‼︎

 一拍遅れて音。その直後、

 

「ーーーー…………‼︎⁉︎」

 

 想像を絶する激痛がヴェーザーを貫いた。

 

 白目を向き痙攣するヴェーザーだったが、しばらくすると、糸が切れたかのように崩れ落ちた。

 

 銀ウサギは、洗濯物のような格好になったヴェーザーを睨みつけると、ブンッと足を振り地面へと叩きつけた。

 

「一回勝ったくらいで調子にのんなよ若造がーー」

 

 なんとも理不尽なセリフだが、これがギンロなのだ。

 負けず嫌いで、戦闘狂ーー特に他の魔王とは、見つけ次第バトルしていたーーであるギンロにとって、これが普通。

 これが平常で、日常なのだ。

 

「さて、トドメをーーっと、まだやる気か?」

「ーー愚問ね、諦める理由なんて、ないと思うけど?」

 

 立ち上がったペストを見下ろしながら言う銀ウサギ。

 

 身体中に傷を負って尚戦意を無くさないペストを眩しそうに見つめる銀ウサギであったが、すぐに気を取り直し告げる。

 

「ーー……これが最後だよ。降参して、敗北を認めるんだ。そうすれば仲間も死なないし……あなたの目的も果たせるーー」

「ーー冗談じゃないわ」

 

 即答。取り付く暇のない即断。

 回答は拒絶だった。

 それが意外だったのか呆然とする銀ウサギ。

 

 ーー意味がわからない。

 

 銀ウサギの頭の中を言葉が埋め尽くす。

 

「ーー何故?こんなに戦力差があるのにーー勝つ可能性なんてないのに……どうして⁉︎」

 

 ペストの行動が理解できない、と狼狽える銀ウサギ。

 ペストはそんな銀ウサギを鼻で笑い、言った。こんなことも分からないのか、と。

 

「ーーそんなの、決まってるわ。零じゃないからよ(・・・・・・・・)

「零じゃ……ない?」

 

 何を言っているんだ、と言いたそうな顔の銀ウサギ。

 確かに可能性は零ではないだろう。だが、実力差の歴然とした銀ウサギに加え、十六夜、レイラ、飛鳥といった実力者。そして、サラマンドラの一団がいるこの状況でその可能性は限りなく零のはずだった。

 

(今はいないけど、マスターの力も凄まじいーーそれなのに……)

「ーー勝つつもりなのか……⁉︎」

 

 驚愕の表情を浮かべる銀ウサギを一瞥するペスト。

 そして一つ、

 

「ーー当然でしょ」

 

 そう言った瞬間。

 

 ペストが高密度のーー全力の死の風を放った。

 一泊遅れて、銀ウサギが烈風で迎え撃つ。

 咄嗟のことで動揺した銀ウサギは、力加減を間違えた。

 拮抗は一瞬。

 

 黒い風を吹き散らした白銀の風がペストを襲い。

 そしてーー

 

 超巨大な爆音が、街を揺らした。

 余波の影響で街はしばらく揺れた。

 そしてそれも終わり、

 

「ーーくそッ……!」

 

 銀ウサギの目線の先、そこにあったのは巨大なクレーター。

 

 そしてその中心に横たわるーーボロボロのペストだった。

 

 意識は途切れ、ピクリとも動かない。だかーー

 

「ーーまさか……生きているのか⁉︎」

 

 ゲームが終了していないということは、そういうことなのだろう。

 だが、次に浮かんだ思考がギンロの頭を占有する。

 

 ーー勝利条件はペストを打倒すること……それができてないってことは……まだ、

 

 ーー負けを認めていないということかーー

 

「ーーダメか…………上等だ、それなら仕方ない。精神が屈しないのなら、肉体を破壊する!……お前をーー殺す‼︎」

 

 銀ウサギは叫び、ペストに向かって突っ込む。

 これで終わりだ、と右の拳を振り挙げ、そしてーー

 

「ーーストップです」

 

 ーー立ちふさがった男の手で止められた。

 

「ーーーー⁉︎なんで、お前がここにいる‼︎」

 

 止めたのは全身黒づくめの男。

 男は、ペストを背にしながらにこやかに笑っていた。

 

 まあ、顔すら真っ暗で視認できないが、

 ーーこいつは、そういうやつだ。僕はーーいや、僕達はそれをよく知っている!

 

「おい、質問に答えろ!どうしてここにいるんだ‼︎」

「……まったく、乱暴な言葉遣いですね。貴女も女性ですのに……もっと清楚にできないのですか?」

 

 驚愕し、激昂するギンロを軽くいなす。

 そして黒装束の言葉に、ギンロはさらに熱くなっていった。

 

「ーー余計なお世話だ!……お前のその喋り方もそうだけど、皆が皆女性に優しすぎるんだよ!」

「おや、自分の性別が嫌いですか?」

 

 黒装束の言葉はあくまで平坦、落ち着いている。

 だがその言葉は、的確にギンロの精神を逆なでする。

 

「嫌いだよ!女だからってだけで皆が皆、守ってやるだの下がってなだのーーうるせぇんだよ‼︎余計なお世話だってんだよ‼︎」

 

 ーーそんなの嫌だ。僕はーー

 

「ーー僕は、闘いたいんだよ‼︎全力で‼︎‼︎」

 

 ギンロは、溜まっていたストレスやら鬱憤を吐き出すかのように叫ぶ。

 ギンロは、もうすでに冷静な判断もできなくなっていた。

 

 ーー黒装束がニヤリと笑ったーー気がした。

 

「いい……いいですよギンロさんーーいや、ビャクレイ(・・・・・)!」

「ーーーー‼︎」

 

 その言葉に、ついにギンローービャクレイが、キレた。

 

「ーー僕を……その名で呼ぶなぁぁぁあああ‼︎」

 

 一瞬のうちに黒装束との距離を詰める銀ウサギ。

 だが黒装束は慌てることなくーー

 

「ーーだからストップ(・・・・)ですって」

 

 止めた。

 今度は完全にーー銀ウサギの全身を。

 

「……さて、ビャクレイさんも大人しくなったことですし……始めましょうか(・・・・・・・)

 

 名前を呼ばれ再び激昂するビャクレイであったが、続く言葉で一気に冷静になる。

 

 ーーヤバイ。

 

 ビャクレイの虎としての本能が、大音量で警報を鳴らし始める。だがしかし、体は未だ動かない。

 

 黒装束は、そんなビャクレイを気にすることなく、スゥと右腕を上げた。手は、握りこまれている。

 

「ふふふ……これ、なんだと思いますか?」

 

 黒装束はそう言うと、握りこんでいた手を開いた。

 ソレを見た瞬間、ビャクレイの顔が驚愕と焦りでゆがむ。そこにあったのはーー

 

「封印術式……四神相応、だって⁉」

「ミニチュア版ですけどね」

 

 ーーただし、

 

「性能は完全コピー……しかも、ちゃんとリンクしてますよ(・・・・・・・・)

「ーーーー‼‼」

 

 もがくビャクレイ。だが、動けず。

 そして、黒装束の男は告げる。勝利に傾いていた戦況をひっくり返す、破滅の言葉を。

 

「その器で耐えられますかねぇーー」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その時、戦場から遠く離れたサウザンドアイズ支店。

 意識のないはずの華蓮の口が動いたのを、いったい何人が気づいただろう。

 華蓮はこう言っていた。

 

「白封、第三層解放(サード・シフト)

 




なにこれ、ペストさんマジ主人公。
ではでは~

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