「うう……、有り得ないのですよ。まさか説明に二時間弱もかかるなんて……!」
あの後。
華蓮たち四人からうさ耳を弄られまくったた黒ウサギは、割と本気の涙を浮かべながらへたり込んでいた。
華蓮的にその姿はとても愛くるしかったりするのだが、十六夜たちは特に気にせず黒ウサギに話しかける。
「それで? この世界のことはだいたい分かったが、お前のコミュニティに案内とかはしてくれないのか?」
十六夜がそういうと、黒ウサギはへにょらせていたうさ耳をピンと立てた。
「はい! いろいろとイレギュラーはありましたが、今から皆様を、私たちの拠点へ案内させていただきます!」
ついて来てくださいね! そう言って歩き出す黒ウサギ。
だがしかし、それを素直に聞く問題児達ではない。
「俺、ちょっと世界の果て見てくるわ」
黒ウサギに聞こえないように言ったのは十六夜。華蓮たちは十六夜に親指を立て、了解のサインを送った。
それを見た十六夜は物凄いスピードで走り去って行く。
何時気づくのだろうか。
三人はニヤニヤしながら黒ウサギについて行くのであった。
◆◆◆◆◆
しばらく歩くと、前方に何か建物が見えてきた。入口の傍に一人、少年らしき人影が見える。
「ジン坊ちゃん! 新しい仲間の皆様を連れて来ましたよー!」
「お帰り黒ウサギ。そちらの女性三人がそう?」
「はい! こちらの御四人方が……?」
振り向く黒ウサギ、だがそこに十六夜はいない。
華蓮たちも流石に待ちくたびれた。故にリアクション無し、要は飽きたのだ。
「……あれ? もう一人いませんでしたか? あの目つきが悪くて、みるからに凶暴そうで、身体中から『俺、問題児‼』……って雰囲気をだしている方が……?」
黒ウサギはうさ耳をヒクヒクさせながらそう問いかけた。
「あぁ、十六夜君なら、『ちょっと世界の果て見てくるぜ!』ってあっちの方に駆けて行ったけど」
「なっ、何で止めてくれなかったのですか!」
「『止めてくれるなよ』っていわれたから」
「なんで黒ウサギに教えて下さらなかったのですか!」
「『黒ウサギには言うなよ』って言われたからね」
ニヤリと笑いながら華蓮たちはそう言った。そもそも真面目に答える気など最初からない。
「嘘です。絶対嘘です! ただ面倒臭かっただけでしょう!」
「「「うん」」」
故に、全く悪びれずにこう言うことができる。それを聞いた黒ウサギは、ガックリと肩を落とした。
「た、大変です! 世界の果てにはギフトゲームのために野放しにされている幻獣たちが!」
「幻獣?」
「ギフトを持った獣のことです! そこには強力な力を持ったものもいます、人間ではとても歯が立ちません!」
「あら、それじゃあ彼はもうゲームオーバー?」
「ゲーム開始前にゲームオーバー? ……斬新?」
「冗談はやめてください!」
「でも、十六夜なら大丈夫だと思うけどね」
必死に事の重大さを話すジンだが、華蓮たちは気楽な様子で談笑を始めてしまう。
するとその時、今まで肩を落としていた黒ウサギがため息をつきながら話し始めた。
「はぁ……、ではジン坊ちゃん、御三人方をお願いします」
「……わかった。黒ウサギはどうする?」
「それはもちろん! 箱庭の貴族の名にかけて! 黒ウサギは、あの問題児様を連れ戻しに行ってまいります‼」
怒りのオーラを漂わせ、髪を淡い緋色に染める黒ウサギ。
――なぜか。
なぜか華蓮は、それに軽い既視感をもった。
「それでは皆様、良い箱庭ライフを!」
黒ウサギは地面にクレーターを作りながら物凄いスピードで駆けて行く。もうすでに、黒ウサギの姿は見えない。
「へぇ、箱庭のウサギはずいぶんと早く動けるのね。素直に感心するわ」
「ええ、ウサギたちは箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」
ジンは心配そうな顔をするが、
「まぁ、黒ウサギもああ言ってたし箱庭を案内してもらおうかな。ジン君、柊華蓮と言います。よろしく」
「私は久遠飛鳥。それで、そちらの猫を抱えている人が、」
「春日部耀。よろしく」
「……コミュニティのリーダーをしている、ジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですが、よろしくお願いします。――では、行きましょうか」
互いの自己紹介も終わったところで、ジンは華蓮たちを先導して歩き始めた。
華蓮たちは未知の世界への期待に胸を膨らませながら、箱庭の内部へ続くゲートをくぐっていった。