今回長かったので、二つに分けました。
ではどうぞ。
「派手にやってるみたいだな」
「みたいだね。しかし、レイランが外に出てるなんてねぇ。いいなぁ」
ヴェーザーを探す十六夜と耀の二人は、屋根から屋根へ飛び移り移動していた。
しかし一向に見つからない。
暇を持て余した二人はこうして駄弁り始めていた。
「アイツは隷属してるからな。羨ましいならお前もすればいいだろ」
「それはそうなんだけどさ……。僕は今の関係が気に入ってたりするんだよ、だからこのままでいい。…………それに、隷属したら働かされるじゃん」
「ハッ、そりゃそうだな!」
最後の本音を聞いた十六夜は、同感だと笑う。
その時だった。
並外れた五感をもつ耀が、地中より迫る何かを捉えた。
「……っ⁉︎下がれ十六夜!下から来るぞ!」
慌てて警告し、十六夜と共に後ろへと跳ぶ。
ヴェーザーの不意打ちは失敗したかに思えた。
が、しかし。
「ぐっ……!」
「くそっ、視界が!」
突如として地面が爆発。
散弾のごとく迫る瓦礫と共に、もうもうと粉塵が立ち上った。
粉塵は二人の視界を、降り注ぐ瓦礫は逃げ道を奪った。
そうして生まれた隙をヴェーザーは逃さない。
「おらァ!死ね小僧‼︎」
「――ぐぁッッ‼︎」
粉塵を切り裂くようにして現れたヴェーザーの手にあるのは、巨大な笛。
ヴェーザーはそれを大きく引き絞ると、体のひねりを加え十六夜に突き立てた。
「大丈夫か、十六夜!」
建築物を破壊しながら吹っ飛んで行く十六夜を見て、耀が驚愕の声を上げる。だが、おかげでヴェーザーがすぐ近くにいることが分かった。
耀はすぐさま迎撃の体制をとる。
――その手に生み出されたのは、超圧縮された渦巻く風。
「――――チッ……喰らえヴェーザー!
耀が叫ぶと同時に解放される風。
その名に恥じない烈風は一瞬でヴェーザーを攫い、吹き飛ばした。
それを確認した耀は、飛んでいった十六夜の元へ向かう。
かなり遠くに飛んでいったと思っていたが、意外とすぐに合流することができた。どうやら十六夜もこちらに向かってきていたらしい。
「おいおい、いきなり全開かよ?」
呆れたように言う十六夜。
だがそれを聞いた耀は安堵の表情から一転、険しい表情となった。
「――――全開じゃ……ない。今の私の全力は、あんなものじゃ無い」
「……時間が足りなかったのか?」
十六夜の問いかけを、首を振ることによって否定する耀。
「私が風を生成して、放つまでの時間は一定。風の威力や規模は関係無い」
「それなら――」
何故だ?と、それ以上言葉を発することはできなかった。
突如として飛来する巨石。
十六夜は一つ舌打ちをすると、腕を一振りし巨石を粉々に打ち砕いた。
「――おい、邪魔してんじゃねぇぞ木っ端悪魔」
「あー逢い引きの最中だったか。そりゃあ、邪魔して悪かったなクソ餓鬼」
相対する二人から溢れ出す殺気。
合図が無いにも関わらず、二人はほぼ同時に動いていた。
二人の行なったことは至極単純。残像が見える程の勢いで前へと走り、己の全力を相手に叩き込んだのだ。
技術のいらない力比べ。だからこそ、この勝負の結果は互いの力量を顕著に表す。
「ぐッ……ぁあ……ッ!」
「十六夜、お前⁉︎」
崩れ落ちたのは十六夜だった。右腕を抑え、額に汗を浮かべている。
「――――馬鹿野郎!なに折れてるほうで殴ってんだよ!」
そう言いつつ、耀も戦闘に参加する。
先制攻撃だ、と全力の飛び蹴りをかまし、庇う様に十六夜の前に立つ。
動物の脚力舐めんな!と言わんばかりの一撃に、若干ふらつくヴェーザー。
流石にノーダメージとはいかなかった様で、口の端からツゥと血が垂れる。
「なかなかやるじゃねぇか!……だが甘い‼︎」
お返しだ、とヴェーザーが大笛を振るう。
一目でヤバイ一撃だと分かるが、避けることはできない。
don'tではなくcan't、後ろには蹲る十六夜がいるのだ、避けることは――――出来ない。
覚悟を決めた耀は、せめてダメージを減らそうと、腕をクロスさせて防御姿勢を取る。
「――――ごッ……あ……」
意識が断絶した。
渾身の一撃はやすやすと防御を突破し、腕をこじ開け腹に突き刺さった。
スピードファイターのギンロは防御が薄い。よって耐久強化の恩恵も、四神の中で一番低い。
後ろの十六夜諸共吹っ飛んだ耀は、多くの建物を破壊して、破壊し尽くし、自身も破壊されて――――止まった。
◇◇◇◇◇
レイラ達と魔王の闘いは激しさを増していた。
地面には既に巨大なクレーターができており、三人が激突するたびに深さを増している。
そして意外にも、両陣営の力は拮抗していた。
「――くっ、決めきれない!」
「……い、いいえ!決める必要はありません。私たちの役目はあくまで時間稼ぎ、十六夜さん達が傘下の悪魔を倒すまで耐えればいいんです!」
焦るレイラをそう言って諭す黒ウサギ。
だが、レイラの表情は優れない。というのも、レイラにはある心配事があったからだ。
「――……ダメだ。そんな考えじゃダメだよ、黒ウサギ」
「何故ですか⁉︎」
それはあまりにも低い可能性。
だがもし起こり得れば、最悪敗北すらあり得るリスク。
「……黒ウサギは…………
「……っ⁉︎な、何を言っているんですかレイランさん⁉︎そんなこと、
そんなこと、あるわけが無い。いや、あってはならない。
そもそもこの作戦は、十六夜達が各悪魔達を
それが崩れるということは、一気に勝ちが遠くなるということだ。
「分かってる。分かってはいるんだ!でも……何か嫌な予感がするんだよ」
その時だった。
ドッガァァ‼︎という轟音と共に近くにあった民家が崩壊し、その中から何かが飛び出してきた。
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