担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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はい、続きです。
今回長かったので、二つに分けました。
ではどうぞ。


第十五話 誤算

「派手にやってるみたいだな」

「みたいだね。しかし、レイランが外に出てるなんてねぇ。いいなぁ」

 

 ヴェーザーを探す十六夜と耀の二人は、屋根から屋根へ飛び移り移動していた。

 しかし一向に見つからない。

 暇を持て余した二人はこうして駄弁り始めていた。

 

「アイツは隷属してるからな。羨ましいならお前もすればいいだろ」

「それはそうなんだけどさ……。僕は今の関係が気に入ってたりするんだよ、だからこのままでいい。…………それに、隷属したら働かされるじゃん」

「ハッ、そりゃそうだな!」

 

 最後の本音を聞いた十六夜は、同感だと笑う。

 その時だった。

 並外れた五感をもつ耀が、地中より迫る何かを捉えた。

 

「……っ⁉︎下がれ十六夜!下から来るぞ!」

 

 慌てて警告し、十六夜と共に後ろへと跳ぶ。

 ヴェーザーの不意打ちは失敗したかに思えた。

 が、しかし。

 

「ぐっ……!」

「くそっ、視界が!」

 

 突如として地面が爆発。

 散弾のごとく迫る瓦礫と共に、もうもうと粉塵が立ち上った。

 粉塵は二人の視界を、降り注ぐ瓦礫は逃げ道を奪った。

 そうして生まれた隙をヴェーザーは逃さない。

 

「おらァ!死ね小僧‼︎」

「――ぐぁッッ‼︎」

 

 粉塵を切り裂くようにして現れたヴェーザーの手にあるのは、巨大な笛。

 ヴェーザーはそれを大きく引き絞ると、体のひねりを加え十六夜に突き立てた。

 

「大丈夫か、十六夜!」

 

 建築物を破壊しながら吹っ飛んで行く十六夜を見て、耀が驚愕の声を上げる。だが、おかげでヴェーザーがすぐ近くにいることが分かった。

 耀はすぐさま迎撃の体制をとる。

 ――その手に生み出されたのは、超圧縮された渦巻く風。

 

「――――チッ……喰らえヴェーザー!暴力的な暴風(バイオレンスハリケーン)‼︎」

 

 耀が叫ぶと同時に解放される風。

 その名に恥じない烈風は一瞬でヴェーザーを攫い、吹き飛ばした。

 それを確認した耀は、飛んでいった十六夜の元へ向かう。

 かなり遠くに飛んでいったと思っていたが、意外とすぐに合流することができた。どうやら十六夜もこちらに向かってきていたらしい。

 

「おいおい、いきなり全開かよ?」

 

 呆れたように言う十六夜。

 だがそれを聞いた耀は安堵の表情から一転、険しい表情となった。

 

「――――全開じゃ……ない。今の私の全力は、あんなものじゃ無い」

「……時間が足りなかったのか?」

 

 十六夜の問いかけを、首を振ることによって否定する耀。

 

「私が風を生成して、放つまでの時間は一定。風の威力や規模は関係無い」

「それなら――」

 

 何故だ?と、それ以上言葉を発することはできなかった。

 突如として飛来する巨石。

 十六夜は一つ舌打ちをすると、腕を一振りし巨石を粉々に打ち砕いた。

 

「――おい、邪魔してんじゃねぇぞ木っ端悪魔」

「あー逢い引きの最中だったか。そりゃあ、邪魔して悪かったなクソ餓鬼」

 

 相対する二人から溢れ出す殺気。

 合図が無いにも関わらず、二人はほぼ同時に動いていた。

 二人の行なったことは至極単純。残像が見える程の勢いで前へと走り、己の全力を相手に叩き込んだのだ。

 技術のいらない力比べ。だからこそ、この勝負の結果は互いの力量を顕著に表す。

 

「ぐッ……ぁあ……ッ!」

「十六夜、お前⁉︎」

 

 崩れ落ちたのは十六夜だった。右腕を抑え、額に汗を浮かべている。

 

「――――馬鹿野郎!なに折れてるほうで殴ってんだよ!」

 

 そう言いつつ、耀も戦闘に参加する。

 先制攻撃だ、と全力の飛び蹴りをかまし、庇う様に十六夜の前に立つ。

 動物の脚力舐めんな!と言わんばかりの一撃に、若干ふらつくヴェーザー。

 流石にノーダメージとはいかなかった様で、口の端からツゥと血が垂れる。

 

「なかなかやるじゃねぇか!……だが甘い‼︎」

 

 お返しだ、とヴェーザーが大笛を振るう。

 一目でヤバイ一撃だと分かるが、避けることはできない。

 don'tではなくcan't、後ろには蹲る十六夜がいるのだ、避けることは――――出来ない。

 覚悟を決めた耀は、せめてダメージを減らそうと、腕をクロスさせて防御姿勢を取る。

 

「――――ごッ……あ……」

 

 意識が断絶した。

 渾身の一撃はやすやすと防御を突破し、腕をこじ開け腹に突き刺さった。

 スピードファイターのギンロは防御が薄い。よって耐久強化の恩恵も、四神の中で一番低い。

 後ろの十六夜諸共吹っ飛んだ耀は、多くの建物を破壊して、破壊し尽くし、自身も破壊されて――――止まった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 レイラ達と魔王の闘いは激しさを増していた。

 地面には既に巨大なクレーターができており、三人が激突するたびに深さを増している。

 そして意外にも、両陣営の力は拮抗していた。

 

「――くっ、決めきれない!」

「……い、いいえ!決める必要はありません。私たちの役目はあくまで時間稼ぎ、十六夜さん達が傘下の悪魔を倒すまで耐えればいいんです!」

 

 焦るレイラをそう言って諭す黒ウサギ。

 だが、レイラの表情は優れない。というのも、レイラにはある心配事があったからだ。

 

「――……ダメだ。そんな考えじゃダメだよ、黒ウサギ」

「何故ですか⁉︎」

 

 それはあまりにも低い可能性。

 だがもし起こり得れば、最悪敗北すらあり得るリスク。

 

「……黒ウサギは…………十六夜達が負けた時の(・・・・・・・・・・)ことを考えてる(・・・・・・・)?」

「……っ⁉︎な、何を言っているんですかレイランさん⁉︎そんなこと、あるわけ無いじゃ無い(・・・・・・・・・・)ですか(・・・)⁉︎」

 

 そんなこと、あるわけが無い。いや、あってはならない。

 そもそもこの作戦は、十六夜達が各悪魔達を倒すことができる(・・・・・・・・)という前提条件のもとで成り立っている。

 それが崩れるということは、一気に勝ちが遠くなるということだ。

 

「分かってる。分かってはいるんだ!でも……何か嫌な予感がするんだよ」

 

 その時だった。

 

 ドッガァァ‼︎という轟音と共に近くにあった民家が崩壊し、その中から何かが飛び出してきた。

 




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