担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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はい、続きです。
話進まなくてすいません。


第十四話 危惧

 衝撃のカミングアウト(十六夜のみ)から数十分後、十六夜と耀の二人は一軒の飲食店にいた。

 

「黙っていてくれて助かったよ十六夜。借りができちゃったね」

 

 そう言ったのは耀。まあギンロが取り付いているため、どっちの意見か全然分からないのだが。

 

「気にすんなよ」

 

 それが分かっている十六夜は、考えても無駄と思っているのか、どうでも良さそうに返事をした。

 

「気にするさ、僕はそういうタチなんだよ。だからさ、何でもいいから言ってみてよ!」

「何でもって言うけどよ……その体は春日部のものなんだぜ?お前が勝手に決めていいのかよ?」

 

 テーブルから身を乗り出し満面の笑みでそう言った耀から目をそらす十六夜。

 それを見た耀は一瞬きょとんとすると、すぐジト目になって十六夜を睨みつけた。

 

「……えっち」

「おいふざけんな」

 

 いきなりの発言に思わず反応してしまう十六夜。しかし耀はまったく気にすることなく続けた。

 

「なに言ってんのさ。なんでも言ってみてよ、とは言ったけど何でもしてあげる(・・・・・・・・)とは言ってないんだよ。……ばか……」

「……ああ、そういうこと」

 

 耀の言葉を聞いてようやく理解する十六夜。確かに迂闊な発言だった、と反省。

 だが直ぐに立ち直り、ギンロに聞くべき質問を考え始めた。これはただの質問ではない、謎の多い華蓮を知るための貴重なチャンスなのだ。

 というわけで現在進行形で熟考している十六夜な訳だが、そこで重大なことに気付いた。

 

(俺はなんでこんなに必死で考えてんだ?)

 

 別に謎のままでもいいではないか。

 アイツが話さないならムリに聞く必要も、こうやって探る必要もない。

 今まで通り普通に接すればいい。……今まで通り……普通に。

 

(………………気に入らねぇ)

 

 それでも十六夜は、自身の思考を一言で切り捨てた。

 

(なにが今まで通りだ。いつから俺は欲を我慢するようになったんだ。知りたいことがあるなら、気の済むまで知り尽くす。それが俺だろうが!)

 

 自身の考えを改め、華蓮のことを知る覚悟を決めた十六夜は質問をする。

 

「……なら質問だ、アイツはーー華蓮は一体何者だ?」

「何者だ、って言われてもなぁ……。内容が漠然としててどう答えればいいか……」

 

 戸惑うギンロをーー耀ならば動揺しない質問のためーー見て、それもそうか、と頷く十六夜。

 頭の中で素早く意見をまとめ、ようやく話は進み始めた。

 

「まずは華蓮の家系について知りたい。神獣を四体も体内に宿していることとも関係があるんだろ」

「……おっけー、了解。マスターもいつかは話すんだし……いいでしょ」

 

 そう言ったギンロの顔には様々な感情が渦を巻いていて、その中でも悲しみはひときわ大きく見て取れた。

 それを見た十六夜の覚悟は再び揺らぐが、渾身の意地で押しとどめる。そして一つ頷くと、ギンロに話すよう伝えた。

 

「……分かった。でも覚悟してね、今から話すのは楽しいことばかりではないよ。……闇、『柊』の抱える闇と業の話だ」

「構わない、覚悟ならできてる。さぁ……続けてくれ」

「…………分かった」

 

 十六夜の覚悟を感じ取ったギンロはそれ以上警告しなかった。

 こうして十六夜は、『柊』の闇を知る。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ーーーーギフトゲーム『The PIED PIPER of HAMELIN』が、もうすぐ再開されます。それに当たり、ゲームの行動方針を発表したいと思います。ご静聴ください……」

 

 凛然としたサンドラの言葉が広間に響く。

 この広間には魔王と戦う参加者、そのほとんどが集結していた。

 本来ならば全員が参加しなければならないのだが、今回は特例として許可された。というのもその参加していない人物こそ、今作戦の鍵だからだ。

 まあ、鍵だからこそ参加しないといけない気もするがーー実際サンドラの兄、マンドラは納得していないようだったーー事前に欠席を伝えていたことと、すでに作戦を伝えてあることが幸いした。

 

(まったく、あの問題児様方は……)

 

 が、それでも、黒ウサギの心労は凄まじいものだった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 所変わって北の街、一週間前に壊した時計塔のてっぺん(修復済み)。そこに十六夜と耀はいた。

 

「あとちょっとで再開するけれどーーねぇ十六夜?緊張とかしてる?してるんだったら、ほぐしてやってもいいぜ?」

「ああ?別にしてねぇよーーってか黙れよ。ゲーム再開を前に集中してんだ、邪魔すんな」

「へいへい、分かったよ〜」

 

 足を投げ出しリラックスした様子の耀に対し、何処か不機嫌そうな十六夜。というのも、理不尽な約束をさせられたからでーーその約束というのが、

 

「……確認するぞ。まず、再開したら即、ヴェーザーとかいう軍服男を見つけて倒す。……で、ヴェーザーとは…………」

「…………」

 

 十六夜の声が途絶える。

 沈黙が場を覆いかけるその時、十六夜はその続きを話した。その顔には、今までに見たこと無い程の屈辱と悔しさが張り付いていた。

 

「……俺とお前、二人で戦う」

「はいその通りーーってかよく言えたなぁ十六夜。話し合いの時は荒れ荒れの大荒れだったのに」

「まあ、駄々こねてる場合じゃ無いのは理解してるつもりだからな。納得はしてないが」

 

 一対一(サシ)で戦いたかった相手を二人がかりで倒すこととなった、これが理由。

 そんなことかよ、と思うかもしれないがプライドの高い十六夜にとっては重大なことだ。加えてさらに、話し合いの内容が酷かったことによる意地も追加されていた。

 

「何度も話し合ったでしょ?十六夜は腕折れてるんだから勝てないってーーだから二人で戦うってさ」

「何度も言ってると思うが、腕折れた位じゃ負けねぇよ」

「何度も言ってると思うけど、舐めてると痛い目見るぞ」

「何度も言ってると思うが、舐めてねぇ。いい勝負ができるだろう、とは思ってるが」

「それを舐めてるっていうんだよ」

「…………」

「…………不毛だね」

「…………そうだな」

 

 揃って肩を落とす二人。ちなみにこれ、六回目の問答だったりする。

 

「……まあ、今回は俺が折れよう」

「腕折れてるから?」

「黙れ」

 

 と、軽口を叩きつつ本題へ。

 

「で、お前はどうなんだよ?まともに戦えんのか、アイツと」

「何言ってんのさ、僕を舐めてもらっちゃあ困るよ。リンクが切れてるからこれ以上の力は出せないけど、今の状態でも全体の五割強ーーまあ、十分に戦えるさ」

 

 ギンロの意識を奪ったあの一撃。皮肉なことに、そのおかげで出力があがっていた。

 あの一撃は効いたなぁ、と思い出していたその時、ギンロの頭にある疑問が浮かんだ。それはとても不確定で不安定なもので、論理的に考えれば直ぐに論破できるようなものだったのだが。

 

(……だったら、なんで僕は気を失ったんだ?……あの一撃を受けた時、確かに封印が一つ解けた。にも関わらずそのまま意識を失うなんて……)

 

 ……いや落ち着け、こんなの疑問でもなんでもねェだろ。

 

(怠慢に油断……完全に僕の所為だ。……そのおかげでマスターに傷を負わせてしまったんだし。…………でも)

 

 己の失態を思い出していたギンロは、ある一つの可能性に思い至った。

 

(もし……外部から力を加えられて、リンクが切れかけたのだとしたらーーーー)

 

 この北の街に、超一流の術師がいるということじゃないのか?

 しかも敵意を持っている。少なくとも、マスターか僕に対して。

 自分で作り出した可能性に戦慄するギンロ。

 そんなギンロに対して、十六夜が強く言葉を発した。

 

「始まるぞ!」

「ーー⁉︎わ、分かった!」

 

 その声に驚くも、すぐに気を取り直し、前を向くギンロ。

 

 ーーその眼前で、

 見慣れた北の街が、

 地鳴りと共にその姿を変えていったーー

 

 ◇◇◇◇◇

 

「ーーーーハーメルンの街⁉︎」

「何だと⁉︎」

 

 目の前で起きたことに驚きを隠せない参加者たち。

 しかし、驚き以上に感じた思いがあった。

 

 それはーー焦り(・・)。ゲームの難易度が上がったことに対する不安だった。

 というのも、このゲーム、勝利条件の一つに『偽りの伝承を砕く』というものがある。要するに、正しいハーメルンの伝承以外を破壊するのだ。

 破壊する(・・・・)ということは、破壊できる物体が会場の何処かにあるということで。

 確認を取った所、他のノーネーム名義で出展された100枚以上のステンドグラス(・・・・・・・)があるということが分かった。

 そこで、ゲーム開始と同時に、主力以外の全参加者でステンドグラスを砕きに行こうとしたのだがーーーーフィールドの変化によって、場所が大幅に変わってしまった。

 よって難易度は急上昇。

 参加者の中にも、無理だ、と言い始める者も出てきた。

 

 だが、そんな絶望を一つの叫び(希望)が一閃する。

 

「大丈夫です!」

 

 声を発したのはレイラだった。

 何故ここに⁈華蓮のそばにいるはずじゃ⁈と、黒ウサギたちが問いかけてくるが、レイラはそれに答えずに、叫ぶ。

 

「街並みが変わったとしても、ステンドグラスが消えたわけではありません!当初の作戦通り、手分けして探しましょう!ーーーージンさん!指示を!」

 

 レイラはそう言うと、ジンに視線を向ける。

 その燃える炎のような赤色は、緊張と動揺で固まっていたジンを動かす力を持っていた。

 

「…………わ、分かりました!で、では皆さん、教会を探してください!ハーメルンの街を舞台にしたゲーム盤なら、縁のある場所にステンドグラスが隠されているはずです!『偽りの伝承』か『真実の伝承』かは、発見した後に支持を仰いでください!」

 

 ジンの指示の元、参加者たちがクリアに向けて動き始めた。

 が、その前に解決するべきことが一つ。

 

「レイランさん⁉︎華蓮さんは大丈夫なんですか⁉︎」

「……意識は戻ってない」

「なら、どうしてここに⁉︎」

 

 その問いを聞いたレイラは、一瞬顔を伏せた。が、すぐに上げ、黒ウサギを見つめ返す。

 

「勝つために」

「…………!」

 

 絶句する黒ウサギ。

 そして、レイラは続けて言い放った。

 

「確かに、私がそばにいたほうがいいのかもしれない……。でも、それでは勝てない。貴女たちでは、アイツ(・・・)に勝てない」

「あの……アイツとは?」

 

 黒ウサギはそう問いかける。

 が、それに対するレイラの言葉はなかった。

 返ってきたのは、言葉ではなく、獄炎(・・)

 それは黒ウサギを通り過ぎ、すぐそばまで(・・・・・・)迫っていた(・・・・・)死の風を燃やした(・・・・・・・・)

 

 真横を通った炎に顔を引きつらせ、死の風が背後に迫っていた事実に冷や汗をかいたところで、黒ウサギは標的を視界に捉えた。

 

黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)……!」

「一週間ぶりね、ウサギさん。元気にしてたかしら?……あら、そっちの赤髮さんは初めてかしらね?」

「おっしゃる通り、はじめましてですよ、魔王様。……さて、早速ですがーーーー始めますか(・・・・・)

 

 その言葉が引き金となった。

 吹き荒れる死の風と、燃え盛る獄炎、加えてインドラの雷が一点でぶつかりあった。

 撒き散らされる衝撃波。

 膨大なエネルギーを含んだソレは、ハーメルンの街を破壊していく。

 そして、すでに戦闘モードに入ったらしい三人は、躊躇いなく第二撃を放つ。

 

 他者の介入を許さない、高次元の戦闘。

 こうして、魔王のゲームが再開された。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 コツ……コツ……

 大理石の床を歩きながら、その者は考える。

 

(なかなかに面白いことになっているね。まあ、原因は私なんだけど)

 

 チラリ、とレイラ達の戦闘を見やる。

 

(…………くだらない戦いだ……)

 

 そう切り捨て、なおも歩き続ける。

 そして、その者はたどり着いた。

 ーーーー待ち望んでいた闘いに。

 




皆さん、次こそは早めに投稿します。
ではでは〜

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