……あれ?反応が薄いような……。えっ、もしかして……。
「あァ〜、こうも時間が経っちゃうと、僕のこと忘れちゃうよね〜。いや、新人さんなのかな?……う〜ん……」
新人さんねェ、もしそうだったら実力的に考えて……萎えるなァ。……いや、まてよ。
……やっぱり、全開ってわけじゃないねェ。良くて三割ってとこかな。……まァ、仕方ないってのは分かってんだけど……これじゃあ、足りないな。魔王と戦うんだったらもう少し欲しいけど……。
「無い物ねだっても仕方ないな。……よし、行くぞ!」
風を生成。全身に風をまとわせて、一気に飛び上がる。
「会いたかったぜ、魔王様ァァ‼︎」「ちょっとばかり相手してもらうぜェェェ‼︎」
…………。
「「……え?」」
声が重なった、そう気付いた時には既に手遅れだった。
ゴシャァ‼︎と、およそ体から出してはいけない音と共に、軍服男の体は遠く遠くへ吹っ飛んで行った。……かっ、体ってあんなに曲がるもんなんだ……。
「あ〜らら、飛んでっちゃった」
「……おいお前、何してんだよ⁉︎あいつは俺が倒す!横取りすんじゃねェよ!」
…………は?
「お前こそ何言ってんだよ?あいつは僕の獲物だ、横取りしようとしてんのはお前だろうが!」
「ハッ!だったらどうする?早い者勝ちにするかァ⁉︎」
早い者勝ち?この僕に?
「へェ〜、愉快な挑発ありがとォ!スピードで僕に勝てると思ってんのか三下ァ‼︎」
「あァ、思っているとも!そんな
…………。
「……言いやがったな三下ァ、後悔すんじゃねェぞ‼︎」
「後悔すんのはお前だ‼︎」
僕たちはほとんど同時に飛び上がった。その瞬間、目の前を黒い風が多い尽くす。
一目でわかる、これは良くない風だ。生温くて、ネットリと絡みつくような感じ……。
近寄りたくもない風だなァ。僕がそんな風に思っていると、
「邪魔だァ!」
バキッ‼︎という轟音とともに、黒い風が霧散していった。
マジかよ……コイツ、あの風を殴り壊しやがった⁉︎
「お先!……っと、借りるぜ!」
「あっ、てめェ‼︎」
アイツ、僕が唖然としてる隙に先行きやがった‼︎しかも僕の風を踏みつけて加速して行きやがるとは…………舐められたもんだなァ。
「アイツぶっ飛ばす‼︎軍服男も倒すけど、ついでにあいつもぶっ飛ばす‼︎まっすぐ行って、ぶっ飛ばす‼︎」
加速だ加速‼︎生成した風だけじゃ足りない、ありったけを掌握してブーストだ‼︎
酸欠?他の客?知らんな。
「十六夜ィ!さっきはよくもやってくれたなァ‼︎」
「は?お前なに言って……」
十六夜が何か言ってたけど、多分僕とは関係ない。僕は言葉のその先を聞くことなく右の拳を振り抜いた。
当たるだろ、せめてボディーにしておこうかな、そんなことを僕は考えていたけど、その考えはあまりにも楽観的で甘かった。
不意をつかれて反応が遅れていたにも関わらず、十六夜は対処して見せた。だが、流石によけることはできなかったようで、腕をクロスさせて打撃を受けていた。
「ぐあッ……!」
呻く十六夜。防御したとはいえ、威力大の右ストレートのエネルギーは十六夜に十分届いていた。
その時、
「痛ッ……なんだ?」
突然、腕に電流にも似た衝撃がはしった。より正確に言うならば右腕、それも骨に。
つまり、痛めた右腕が悪化しているってこと。だけどそんなはずは……骨折してたのは知っているけど、ほとんど治りかかっていたはずだ。
「あらら、体自体が限界っぽい?」
僕とマスターの繋がりが弱まってるのか?そのせいで身体強化と回復が追いついてない、そうとしか考えられない。
でもなんでいきなり……。だがその思考は十六夜の声で中断させられた。
「おい、避けろ!」
「――――⁉︎」
なにを?とか、そんなことを聞いていられる場合じゃなかった。
気付いた時には目の前を黒い影が覆い尽くしていた。
それがさっきぶっ飛ばした軍服男で、そいつがでかい笛を振りかぶっている。
そこまで認識した時にはもう手遅れ。僕は手痛い打撃を受けて、轟音とともに地面と激突した。
その瞬間、
「――――⁈ ッ〜〜〜〜〜〜ッがあァァァァ‼︎‼︎」
(な、なんだ!これ‼︎)
いつもならたいしたことないダメージ、だが今回は違った。激突した背中から侵入してきた衝撃が臓器に浸透し、ザラザラした石材によって皮膚をヤスリにかけたような痛みが襲いかかってきた。
明らかな、異常事態だった。
僕は、込み上げる吐き気を抑えながら必死に考えた。
(やっぱり思った通りだ、身体強化が効いてない‼︎くそッ、これじゃあ……)
必死に耐えるも、次第に目の前が暗くなっていく。
明滅する視界の中、まだ戦いたいなんて場違いな事を考えていると、突如雷の音が鳴り響いた。
それが
◇◇◇◇◇
――
現状把握_危険と判断
意識の断絶を察知し、システムが起動した。例の過剰防衛システムだ。さて今回は何をするのか。
前回はレイランを召喚していたが、あれは隷属関係にあったからこそできたことだ。召喚は使えない。
ならば憑依だろうか。憑依なら契約無しで華蓮の体に入ることができる。まあ、消費がデカすぎて積極的にはしたくないが……さて。
警戒レベルをダウン_治癒に移ります
それにしても、外じゃ何が起きてんだ?ギンロは華蓮と契約して出て行くし、少ししたらシステム作動するし……魔王でも来てんのか?
たいした奴じゃないんだろうけどな。本当にやばいんなら俺が呼ばれるだろ。
………………あぁ暇だ。
――
◇◇◇◇◇
(う、うう……ここは?)
うっすらと目があき、数回瞬きをするとギンロの意識は完全に覚醒した。
目覚めたギンロが最初に感じたのは違和感だった。もっとも、ギンロ自身もなぜ感じたのかよく分からなかったのだが……。
(なんだ、この感じ。十六夜もレイランもいる。白夜叉は……いない。ここはサウザンドアイズの支店で間違いない……ここまで分かっているのに、なんだ?何に違和感を感じてるんだ、僕は⁈)
ギンロは
そして気づく、違和感は確かに存在していた。
(なんで……。なぜ
そう、違和感はコレだ。
目覚めた後、散々動き回ったにも関わらず、誰もギンロに声をかけてこない。それどころか目覚めていることにすら気付いていないようなのだ。
(……っ!まさか!)
勢い良く振り返る。
そしてソレを見た瞬間、ギンロの体に衝撃がはしる。その目に飛び込んで来たのは、
(――――なっ⁉︎何だ、この状況!あそこにマスターがいて、ここに僕がいる⁈……まさか‼︎)
慌てて自分の姿を確認する。
そこでギンロは再び衝撃を受けた。
(
慌てて姿見の前に立ち、全身をうつす。
案の定というか、そこに映っていたのは、紛れもなくギンロ本来の姿だった。
愕然とするギンロ。だがそれも無理はない。何世紀と生きてきたギンロも、こんな事態は初めてなのだ。
(なんだこれなんだこれ……なんなんだこれ‼︎……この髪も、この目も、背も顔も全部‼︎…………僕じゃないか……)
ギンロの頭の中はだんだん真っ白になっていった。
そして、さらに状況は悪化していく。
(……最……悪だ。考えられる中で、最ッ悪の状況だよ……。
リンクとは文字通り、華蓮と神獣を結ぶ呪的システムのようなものだ。そして、リンクするためには何らかの方法で繋がりを作る必要がある。
その方法は多岐にわたるが、主流なのは二つ。
一つは『契約』。霊格が上の存在が下の存在に条件を提示し、両方合意のもの行われるものだ。
もう一つが『憑依』。霊格の大小に関わらず、対象と繋がるもの。もちろんノーリスクではない。大量の呪力、霊力、エネルギーを消費するのだ。
(契約の期限は24時間……。とっくに過ぎてると思うし、それは仕方ないんだろうけど……こんなことになるなんて……)
茫然自失のギンロ。解決策も思いつかず、絶望していた。
だがその時、
「おい、レイラ。春日部の具合はどうだ?」
「未だに意識不明です。私が治療に当たってはいますが、参戦は難しいでしょうね」
十六夜とレイラの何気無い言葉、会話が聞こえた。
それがギンロにある策を思いつかせる。
(…………そうだ、この手があったじゃん!この方法ならマスターとの繋がりも快復するし、なにより戦える‼︎)
そうと決まれば早速実行!と、ギンロは部屋を飛び出して行った。
◇◇◇◇◇
そして時間は流れ、魔王のゲーム前日サウザンドアイズ支店。
その空間でちょっと一騒動起きていた。
それは、
「春日部の黒死病が治ったそうだな」
「YES!よかったのですよ!」
春日部耀の快復。
一同が歓喜に沸く中、黒ウサギの様子はどこか暗かった。
「……ですが、病み上がりの体では辛いギフトゲームです。耀さんは出るとおっしゃるでしょうが、今回は断念してもらうしか……」
仲間思いの黒ウサギらしい気遣いだった。いや、黒ウサギでなかろうと止めただろう。
黒死病は死亡率の非常に高い病気なのだ。治ったからといって安心はできない。暫くは絶対安静が普通だろう。
この話し合いでも耀の不参加で決まりそうだった。
しかしその時、
「……待って、私も出る」
「耀さん⁉︎どうしてここに⁈安静にしているよう、言っておいたじゃないですか!」
耀が襖の向こうに立っていた。
黒ウサギは、慌てて病室へ運ぼうとする。しかし耀はスルリと避け和室に入った。
「……寝ている時に話はだいたい聞いた。飛鳥が行方不明なんだよね?それに人手がいるはず、このギフトゲームには」
「ですが……」
必死に説得する耀。しかし、黒ウサギ達はまだ不安なようだった。
その様子を見た耀は、早々に切り札を切ることにした。
「……もし認めないんだったら、勝手に参加する」
「なんですって⁉︎」
「よ、耀さん⁉︎」
「…………」
その言葉に騒然とする一同。ただ一人、十六夜を除いて。
「最初から許可なんて求めてない。このギフトゲームの参加条件は『テリトリー内の、全コミュニティの全人員』なんだから」
「……なるほどな。つまりお前が言っているのは、手綱の有無だろう?」
「そう。私という存在に手綱をつけるかつけないか……私はそのことを話している」
その言葉は決定的だった。
再び話し合いは行われたが、結果など火を見るよりも明らかだった。
「耀さん、貴女の参加を認めます。その代わり、無茶はしないで下さいね!」
最終的にこうなった。
二者択一ならば、作戦通りに動いてくれるほうがいいに決まってる。
こうして話し合いは終わり、明日に向けて準備をする……はずだった。しかし、
「わかってる、無茶はしない。……ただ」
「ただ?」
「
「……ッ⁉︎まさか、お前!」
耀はそう言うと十六夜の方に歩いていく。
そして目の前まで来ると、十六夜だけに聞こえるよう耳元でそっと囁いた。
「僕があれ位で満足すると思ったのかい?」
「………………ッ⁉︎」
そう言うと耀は顔をはなし、警戒する十六夜を正面から見据えた。
「まあ、コッチも事情があるんだよ。あ、心配しないでね。暫くしたら出て行くし、この子の事も大切にするからさ」
そう言った耀の目は一瞬だけ、ほんの一瞬
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