担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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はい、続きです。
もう一つのサブタイトルは、『魔王降臨』
では、どうぞ。


第十二話 造物主達の決闘

「ーーーーそれではこれより、ギフトゲーム『造物主達の決闘』決勝戦を開始する‼︎」

 

 白夜叉の言葉が響くと同時に、会場を歓声が包み込む。

 空気を震わせ、会場のボルテージが一気に高まっていくのを、肌で感じながら思案する。

 

 大半の客は『ウィル・オ・ウィスプ』又は『ラッテンフェンガー』目当てだろう。決勝まで勝ち進んだとはいえ、『ノーネーム』の注目度は高くない。

 

 ーーーーということは、

 僕が圧倒的な力で、

 相手をねじ伏せればーーーー

 

 誰にも気づかれないように、華蓮(・・)はニヤリと口を歪ませた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「あっ、始まったわ!」

 

 久遠さんはそう言って、より見やすい手すりの方へと歩いていく。

 それをチラリとだけ見た私は、すぐに注意をステージに向けた。

 

 あの後、私達は全速力で会場に向かった。

 開始まであと数分という、普通ならば絶望的状況だが、そこは規格外問題児と最強の階層支配者といったところか、余裕で間に合って見せた。

(まあ、それが分かっていたからこそ、何も言わなかったんだけど……)

 

 そして今に至る。

 そしてさらに今、私は華蓮の監視の任についている、もちろん私が望んだことではない。

 と、いうのもーー

 

「ーーーー己が宇宙の中にあるッッ‼︎」

「なん……だと……」

 

 なんだと……は、こっちの台詞だ。

 何やってんだあのバカ2人は。今はそんなことをやっている場合じゃないってのに。

 と、私は横目でどうしようもない2人組を見た。

 こんなに広い範囲をどうしろと……全く……

 仕方ないな。

 ハァ……と、ため息一つ。

 次の瞬間には、私は会場全体を認識(・・)していた。

 

 《創炎》索敵系ーー《火の子の(まなこ)

 広範囲に極小さな火の粉を撒き、範囲内の物体を知覚・認識する。

 

 これでいいでしょ、あとは知らん。

 私は索敵をオートに設定すると、華蓮の試合の観戦を再開した。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「あっつ!マジ熱い‼︎」

 

 何度も何度もそばを掠める火の玉に、華蓮は悪態をついた。しかし、相手にしているカボチャは気にせず、火の玉を放ち続けている。

 

 ギフトゲームが始まり、すでに十数分が経過しようとしていた。

 決勝の舞台となったのは、はるか南のアンダーウッドにそびえ立つ巨木。

 ギフトゲームの名は「アンダーウッドの迷路」。その名の通り、迷路と化したこの巨木からいち早く抜け出すゲームだ。

 ただ、「相手のギフトを破壊しても勝ち」なので、なかなかに荒っぽいゲームなのだ。

 

 因みに、お互いが守るべきギフトは、

 耀が「生命の目録(ゲノム・ツリー)

 対戦相手のアーシャは「ジャック・オー・ランタン」だ。

 

 そして現在、華蓮はその「ジャック・オー・ランタン」そのものと対峙していた。

 勝利する絶好のチャンスだが、それはほとんど不可能だった。

 開始数分で判明したのだが、

 

 ジャック・オー・ランタンは不死の怪物(・・・・・)だったのだ。

 

 不死。

 つまり死なない、壊れない、破壊できない。

 よって、勝ちたくても勝てない。

 こうなってくるとやることは一つ、

 全力で足を止めて、耀が先にゴールするのを祈るしかない。

 

「……全く、ふざけた特性だな!」

「ヤホホホ、それは失礼!しかし、箱庭のルールは知っていますね?」

「あぁ、知ってるよ‼︎」

 

 そう言いながら、圧縮された空気を放つ。

 針の穴ほどの隙間から放たれた風は、凄まじい勢いでジャックを撃ち抜く。

 だが、

 

「ヤホホホ!良い攻撃です。しかし、威力はあっても規模が小さい。それでは私を倒すことはできませんねぇ」

 

 ヤホホホ、と笑うジャックに焦りは一切ない。

 不死という特性だけではなく、これまでの魔王との戦いの経験と観察眼から、華蓮は脅威になり得ないと判断したからだ。

 しかし、そんなジャックにも一つだけ疑問があった。

 

「……一つ聞きたいことがあるのですが。よろしいでしょうか?」

「ん?いいよ、いいよ!時間稼ぎにはもってこいだ!私が答えられる範囲でよければ答えるさ!」

「そうですか、ありがとうございます。……では、」

 

 ジャックはそれを言う。

 確証も証拠も何もない。しかし、もし正しかった場合を想像して、その空っぽの体を震わせた。

 

「あなたの持つギフトの名前、《創風》じゃないですか?」

「ーー⁉︎な、何故そう思うんですか?」

「ヤホホホ、何故でしょうねぇ。強いていうならば、その攻撃パターンに見覚えがあるから、なんですが……私の怨敵なんですよねぇ、その攻撃をしていたのは。一抹の不安に駆られて尋ねてみればこの反応ですよ…………どうやら、本物(・・)みたいですねェ……」

 

 空っぽの目に業火が踊る。それは彼の怒りを表すかの如く、ゴォゴォと熱く燃え盛っていた。

 

 それを見て華蓮の動悸が激しくなる。呼吸も乱れ、頭の中を疑問がぐるぐる回っていた。

 どこでばれた⁈何故こんなにも簡単に……

 

 瞬間、チャンネルが変わるかの如き速さで頭の中がクリアになった。動機や呼吸すら元に戻る。

 ……あァ、そういえば。

 

「僕が活動してたのって、そういや北側だったねェ。そん時にウィル・オ・ウィスプを壊滅寸前に追いやったこともあった……っけな?」

「ヤホホホ、本性を現しましたね。『白き旋風の魔王』ーーーーギンロ‼︎‼︎」

「その名も久しぶりに聞いたよ、ジャックさん」

 

 そう言うとギンロは高らかに笑いだした。

 唐突に何の脈略もなく、ただただ笑い続けた。

 そして一通り笑うと、ジャックをその茶色い双眸で見ながら話出した。

 

「で、あなたはどうするつもりなの?僕のことをみんなに話す?僕を捕まえる?それともーー」

殺す(・・)

 

 タイムラグなど一切なかった。

 ジャックがそう言った瞬間、先程とは比べ物にならない炎が吹き出した。

 その炎はギンロの逃げ場を奪い、そして次の瞬間にはーー

 

 ギンロ(・・・)そして華蓮は(・・・)跡形もなく、消えた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「柊さんが‼︎」

「華蓮‼︎」

 

 華蓮が炎に飲み込まれた瞬間、飛鳥とレイラは揃って声を上げた。加えてレイラは、審判の黒ウサギに向かって叫ぶ。

 

「黒ウサギ‼︎あれは明らかな過剰攻撃(オーバーアタック)です、ゲームの中止をーー」

 

 否、叫ぼうとした。

 

「待て、レイラ‼︎」

「やめろ!今はダメだ‼︎」

 

 遮ったのは白夜叉と十六夜だった。

 十六夜はレイラの腕をガシッと掴み、白夜叉は黒ウサギにゲーム続行の説得をしている。

 この対応にレイラの頭に血が上る。

 

「なぜ止めるのですか⁈華蓮が、死んでしまいますよ‼︎」

 

 激昂し、白夜叉に詰め寄るレイラ。

 仲間が危険だというのに一体何をしているのか、何故ゲームを続けさせるのか、レイラの頭はこれだけに支配されていた。

 だが、対する白夜叉は冷静だった。

 

「落ち着くのじゃレイラ、私も今すぐにやめさせたいと思っておる!」

「ならば、」

「だがそれはできない!……あの冷静なジャックがあそこまで感情を露わにしているのじゃぞ。よほどのことがあったと考えるのが妥当じゃろう」

 

 レイラの言葉を遮り、一息に白夜叉は言った。

 レイラはしばらく考えていたが、不意に何かに気付いたかのようにハッと顔を上げた。

 

「ま、まさか……」

 

 その声は震えていた。

 

「そのまさかじゃろう、恐らくジャックは華蓮が魔王の力を使っていることに気づいたのじゃ……」

「つまり、このままゲームを中断したら……十中八九華蓮の正体がバレるってことだ」

 

 白夜叉の言葉を十六夜が補足すると、三人の間に沈黙が降りる。最悪の状況だ。いずれゲームは終わるだろうし、何かしらの手を打たなければ華蓮の正体は白日の元に晒されるだろう。そして最後に待っているのはあの時と同じ(・・・・・・)、上層の天軍による討伐。

 

 奇跡は二度も起きない、次は死ぬ。

 

「じゃあどうすれば⁉︎」

「……私にも分からん。ジャックが見逃すとは到底思えんし…………華蓮に任せるしかないようじゃの」

 

 三人は一縷の望みを抱きスクリーンを見る。

 戦局は大きく傾こうとしていた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 時間は少し戻る。

 ジャックは燃え盛る業火を見つめていた。

 あの程度でギンロが死ぬとは到底思えないが、そのギンロの気配が一切感じられなかったのだ。

 感じるのは吹き荒ぶ風だけ、これはギンロが今も生きている証拠でもあった。

 

 風を掌握するだけでなく、無から風を生成する《創風》。

 それによって生み出された風は、所有者の意識が途絶えない限り消えることはない。

 つまり、ギンロはこの周辺に隠れているのだろう。

 

 そしてジャックは、隠れん坊に付き合う気などなかった。

 ジャックとて、ギンロを一人で倒せるとは思っていない。

 箱庭三桁に届くと言われたあのスピードは、十二分に脅威だった。

 個人的にも因縁のある敵を自分の手で倒せないことは悔しいが、そこは仕方ないと割り切り、スクリーン越しで見ているであろう審判に向けて中止を叫ぶ。

 叫んだ、しかしーー

 

「何故ゲームが中断されない⁈……まさか、こちらの声が聞こえていないのか?」

「その通り、流石に気付くよね〜」

 

 突如聞こえた声にジャックは即反応した。

 振り向きざまに一発。

 放たれた炎弾は木の根に当たり、赤々と燃え盛る。

 

「反応なし……気配も消えましたか」

 

 半ば予想通り手応えはなかった。

 現れては消える気配に、ジャックは完全に翻弄されていた。

 自然と動悸は早まり、姿の見えないプレッシャーは焦りを生む。そして焦りはジワジワと冷静な思考を奪っていった。

 このままではいけない、そう思ったジャックは姿の見えない敵に向けて話しかける。

 

「ギンロ……貴女がこちらの声を遮っている方法はわかっていますよ」

 

 返事はない。

 

「風を操り、一時的に真空空間を作り出したのでしょう?振動させるものがなければ声は届かない。流石『白き旋風の魔王』、この程度朝飯前ということですか?しかしそこまでして正体を隠すとは、貴女も恐れているのでしょう?かつて自分に瀕死の傷を負わせた天軍の存在を……」

 

 ギンロからの返事は、ない。

 

「私はこのゲームが終わり次第、貴女の正体を公表します。阻止するためには、姿を現し私の口を封じるしかありませんよ?」

 ーーーーそれはいけませんねェ。僕はともかく、マスターまで危険に晒すわけには行けませんから……

 

 突如、ジャックの内から響く声。それは紛れもなく、ジャックの待ち望んでいた声だった。が、

 にも関わらず、ジャックは何もなかったかのように平然と話し続ける。

 内から響いた声に違和感すら覚えずに、どこか虚ろな調子で返事をした。

 

「それでは、どうしますか?」

 ーーーーそうですね、それではこうしましょう。

 

 既にジャックには、自力で判断を下せるだけの意思は残っていなかった。一時的とはいえ、ギンロ(主人)の言うことに従順な召使いに成り果てたのだ。

 そしてそれ以上に驚くべきはそのギフトだ。

 対象に一切気づかれることなく、自身の支配下におくギフトなど恐怖でしかない。

 

 ーーーー貴方がここで見て、聞いて、知ったことは全て忘れなさい。そして今から話すことを新たに記憶しなさい。

「はい」

 

 そしてこのギフトは他のものとは違う。肉体だけではなく、記憶すら支配する。

 

 ーーーーこのゲームは私と貴方が戦い、決着はつかなかった。私は普通の人虎で、貴方は私を倒そうとするもスピードに翻弄されて時間切れ、OK?

「分かりました」

 

 ジャックはそう言うと、フッと力を失いその場に崩れ落ちた。ジャックの中では記憶の改変が行われているのだろう。

 

「予想外の事態で、全然活躍できなかったじゃん。あ〜やだやだ、せっかくマスターと契約(・・・・・・・)できたのにさっ!」

 

 ジャックの意識が完全に失われたことを確認したギンロは姿を現した。不平不満をこぼしながら周辺をぐるぐる回る。

 

「でも、やっぱり思った通りだったよ。やっぱり僕とマスターが(・・・・・・・)皆の中で一番相性いい(・・・・・・・・・・)みたいだねっ(・・・・・・)!」

 

 ギンロが意味深な発言をした直後、黒ウサギの声でリザルトが発表された。

 

 ◇◇◇◇◇

 

『勝者、春日部耀‼︎』

 

 ギフトゲームの終了と共に、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。だが、華蓮の事情を知る者の顔は険しかった。

 

「さて、どうなる……」

「…………何も、起こりませんね……」

 

 客席から見る限り、対戦相手のジャックに変わった様子はない。むしろ親しげに談笑すらしている。

 その様子を見て、レイラはホッと胸を撫で下ろした。

 

「よかった……どうやら上手くいったみたいですね」

「あぁ……そうだな」

「そうじゃな……」

 

 しかし、対する二人の表情は険しかった。

 何故それほどに警戒するのか、レイラには理解できなかった。いや、魔王襲来の予兆があるし仕方ないのか……。

 そうレイラが考えていると、十六夜がおもむろに口を開いた。

 

「初めてかもしれないぜ……俺が、心の底から恐ろしい(・・・・)なんて思うのは……」

「それは私も同意じゃの…………ジャックがギンロに抱いておる恨み、怒りといった負の感情……それも、尋常ではない量のものを打ち消したギフト……しかし、あれは本質ではないだろう(・・・・・・・・・)

 

 レイラは愕然とした。この二人がここまで恐れるギフトを華蓮が持っているという事実に。

 レイラが驚愕し、二人が恐怖しているとその空間に、正確には三人限定で声が聞こえた。

 

『やっほ〜聞こえてますか〜?』

「ーー華蓮⁈」

「ギンロか⁉︎」

「ギン!お前‼︎」

 

 その声の主は華蓮だった。

 対する反応は三者三様、十六夜は驚き、白夜叉は警戒し、レイラは声に怒りが込められていた。

 

「お主……ジャックに何をしたのじゃ……」

『え〜何?もしかして迷惑でしたァ?』

 

 白夜叉の言葉を軽い調子で返すギンロ。その声に焦りや恐怖と言った感情は一切無かった。

 

『あはっ!嘘嘘、冗談だって!ちょっとマスターのギフト(・・・・・・・・)を使わせてもらっただけだって!』

「華蓮の……万長権限(プレジデントコード)か⁉︎」

 

 十六夜の言葉を聞くと、白夜叉は何かを考えるかのように黙り込んでしまった。ギンロの言葉は続く。

 

『その通り。ただ白夜叉のいった通り、記憶の改竄(アレ)ギフトの本質ではない(・・・・・・・・・・)けどね』

「ギン……貴女、契約したのね。それも、旧型の方法で(・・・・・・)……」

 

 契約?と十六夜が尋ねようとしたその時、

 

「ねぇ……アレ、何かしら?」

 

 飛鳥が突然上空を指差してそう言った。

 

「……どれだ、お嬢様?」

「アレよ!あの黒い…………契約書類(ギアスロール)⁈」

『何だって?……ふ〜ん、そういうことねェ』

「……あ、やばッ……!」

 

 異常に気づいたのか、会場が次第にざわめき始める。

 白夜叉と十六夜も同じく警戒の色を強め始めた。が、レイラのみ違うことに対して警戒しているようだった。いや、警戒というより、やってしまった感の溢れ出る様子だった。

 

「どうした!魔王が来たってのに、何を気にしてるんだ⁉︎」

「いやぁ〜気にしてるっていうより、地雷を踏み抜いたってところかな……」

 

 地雷だと?二人が疑問を抱くのと、会場全体に声が響いたのはほとんど同時だった。

 

『誰だか知らないけどさァァあああ!喧嘩売ってんなら覚悟しろよ!思いっきり安く買ってはやるが、くっだらないもんだったら、切り裂いてやるぞ‼︎この野郎‼︎‼︎』

 

 聞き間違いなどあり得ない、これは紛れもなく華蓮の声。いや、中身はギンロだから……それでも華蓮か。

 

「……どうしたんだアイツは」

「アレがギンですよ……」

「答えになってねェよ」

 

 レイラは、一つ大きなため息をつくと話し始めた。

 

「……ギンは、負けず嫌い(・・・・・)なんですよ。そして喧嘩っ早く、戦闘狂(バトルジャンキー)。バトルとなると、普段の落ち着いた様子とは一変して……ああなるのよ……」

 

 落ち着いた様子って何だよ、二人が一緒にそう思い。十六夜が華蓮とのバトルを思い出した瞬間。

 

「魔王が……魔王が現れたぞォォォォォおおお‼︎‼︎‼︎」

 

 絶叫と共に契約書類がばら撒かれる。魔王の襲来を知らせるソレは、一体どちらのものなのか。

 今、この北の街に二人の魔王が降臨する。

 

『面白いじゃん♪』

 




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ではでは〜

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