担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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はい、続きです!


第十一話 交錯する思い

 一同を驚愕させた登場から数分後、ギフトゲーム開始まで後少しとなった隙間の時間。

 その少しの間、女性陣は獣化した華蓮をわさわさしながら無事を喜んでいた。

 

「初めて見た時は驚いたけれど、改めて見ると凄いわね。この耳…ちゃんと生えてるのね……」

 サワサワ

 

「YES!おそらく華蓮さんは今、虎と人間の高位生命体

 (ハイブリッド)である人虎と呼ばれる存在になっているのだと思われます!」

 モフモフ

 

「華蓮…ふわふわしてて気持ちいい………あっ、尻尾発見…えいっ」

 ギュッ

 

「ひにゃッ!!……耀、いきなりは本当にやめて…」

 

 話題は尽きることなく、四人の楽しげな声が響いていた。

 そう、四人しかいなかった。もちろん、黒ウサギ、華蓮、飛鳥、耀の四人である。

 

 ならばあの二人はどこで何をしているのか?

 問題児筆頭の十六夜と、昔、箱庭三大問題児と称された白夜叉はこんな楽しいイベントそっちのけで何をやっているのか?

 

 ◇◇◇◇◇

 

 その姿は意外と近くにあった。

 四人から数十m離れているかいないかの場所。しかし四人からは死角になっており誰も気づかない、そんな場所に二人はいた。

 そしてその後ろには、白夜叉を睨みつけるふくれっ面のレイラ。

 なぜか?詳細を省いて簡単に説明すると、華蓮に突撃しようとしたレイラを白夜叉が引きずってきた…というわけだ。どうやらシスコン?の気があるらしい。

 

 その三人は触れない分を補おうと言わんばかりにジィ〜ッと華蓮を見つめていた。

 

「へぇ、やっぱ尻尾や耳は敏感なんだな。なんつうか…見てるだけで触りたくなっちまうぜ」

 

「私も同じ意見じゃ。特に尻尾がフサフサとして気持ち良さそうじゃのぉ」

 

「華蓮のケモミミがぴょこぴょこ動いてカワイイ!あぁ〜触りたい!撫で回したい!!」

 

 だが我慢できないのか、このように触りたくて仕方が無いと言った様子である。

 ならばなぜこんなところにいるのか、むしろ率先して……十六夜に関しては性別の壁すらぶち壊して弄り倒しに行くであろう二人がなぜこんなところにいるのかというと、

 

「男子禁制!当たり前でしょう?!」

 と、飛鳥から。

「だめです!白夜叉様は絶対に参加しないでください!!」

 と、黒ウサギから言われたから………ではない。

 

 当たり前だろう。

 この二人……もう三人だな……この三人ならばむしろフリなのかと積極性にガツガツ行くに決まっている。

 

 その三人がいかない理由……それよりも重要な案件があるからに決まっている。

 

「さて…あんまり見てると、俺も撫でに行きたくなっちまう。白夜叉、始めようぜ」

 

 議題は……

 

「そうじゃな……では今から、華蓮の異変について話しあおうと思う」

 

 突然変異かと思うほどの変貌を遂げた、華蓮のことである。

 

「俺も異常だとは感じていた……白夜叉、人ってのは幻獣になれるもんなのか?」

 

「可能じゃ。人の幻獣自体は珍しくもない。魔法使いや巨人などが有名じゃな。じゃが……」

 

 十六夜の問いに白夜叉はそう答えたが、その顔は険しかった。

 

「華蓮のは少しばかり特殊なのじゃ。あれは人虎と呼ばれる、人と虎の因子から生まれた高位生命(ハイブリッド)…………のような別のナニカじゃ」

 

「はぁ?」

 

 思わず間の抜けた声をあげてしまう十六夜。

 だがそれも仕方のないことだろう、レイラですら白夜叉に言われるまで気づかなかったのだから。

 

「なぜそう思うんですか白夜叉…様?」

 

 話に驚いていたのか素に戻りかけるレイラだったが、不自然に思われないギリギリのところで持ち直した。

 

「理由は複数ある。幻獣になるために必要な工程を華蓮が踏んでいないこと、眠っていた華蓮が急に獣化したことなどなど……そして、一番の理由はレイラ(・・・)…お主がよく知っておるはずじゃ。何世紀もそばにいるお主ならな」

 

 白夜叉はそう言った。偽名ではなく本名を使って。

 だが十六夜はさほど驚かなかった。むしろ、やっぱりな…とでも言いそうな顔をしていた。

 

「おっと、もう隠す気ねぇのか?俺はてっきり、ずっと隠し続けるもんだと思ってたんだが」

 

「隠し続けるとも……じゃが、お主だけには話しておこうと思ってな」

 

「そりゃあ随分と信用されたもんで」

 

 十六夜はそう言って笑う。

 が、すぐに真面目な顔に戻り二人を見た。

 

「で、聞かせてもらおうじゃねぇか?その元・魔王と華蓮の関係についてな」

 

「?!………へぇ…ばれていましたか。いつ、気づきました?」

 

 流石に驚いた二人を見て、ニィっと頬を吊り上げる十六夜。

 

「俺が気づいたのは、お前が襲撃時の現場の状況を話してた時だよ。あん時お前はこう言ったよな、『華蓮が襲われた時、周りに人がいなかった』ってな」

 

「言いましたね」

 

「周りに人がいない……そんな場所がこの北の街に存在するのか?まあ、存在するだろうな、普段なら。だが、今は火龍誕生祭が行われていて外から大勢の客がこの街にやってきている。場所は限りなく少なくなると俺は考えた」

 

「ほう…それで?」

 

「ならば方法は一つ、周りから人を払えばいい。詳しくは知らんが人払いってやつだな。これで条件一つクリアなんだが、一つ疑問が残る。人がいないことをどう(・・・・・・・・・・)やって知ったのか(・・・・・・・・)だ。そりゃ遠くから見ればすぐなんだろうが、意味もなくぶらりと高台に登るのも変な話だろう?なら選択肢は一つ、お前は華蓮と一緒にいた」

 

 二人は驚愕を隠せないでいた。

 レイラが発した一言から、ほとんど完璧な推理をして見せたのだから当然だろう。

 

「加えるならば、お前と華蓮は同僚の関係ではない。人払いに引っかからず、一緒にいることができたのならば襲撃者の目的にお前も含まれていたんだ。ならばお前は何者か?単純、華蓮がこの箱庭に来てやらかしたことを考えれば簡単に推察できる」

 

「「………………」」

 

 二人はしばらく何も言わなかった。

 言わずとも、沈黙が肯定の意を表していた。

 

「いやぁ、驚きましたよ……逆廻さんでしたよね?見事な推理です……私のゲームをクリアしただけのことはあります」

 

「てことは、お前が朱雀か。まさか幼女とは思ってなかったぜ」

 

 幼女の単語に渋めの顔をするレイラ。

「いろいろと事情がありまして……」と、説明はしたが十六夜はニヤニヤ笑ったままだった。

 

「レイラの幼女趣味は置いといて、話を戻すぞ」

 

「おい白夜叉」

 

 しかし白夜叉、これを華麗にスルー。

 

「レイラとともに封印されていた神獣が、一番の原因だと言ったじゃろう?その神獣は白虎。『白き旋風の魔王』と呼ばれていた存在であり、華蓮がその身に宿す一体でもある」

 

「あのギンがねぇ……」

 

「おい、ギン…って白虎の名か?」

 

 レイラの口から出てきたのは、聞き覚えのない名前。

 レイラは一つうなづくと話し始めた。

 

「ギンロ…それが白虎の名です。私たちは縮めてギンと呼んでいます……でも、本名かどうかは分かりません」

 

「本名じゃないかもしれないって、どういうことだ?」

 

 十六夜は、首を傾げそう言った。

 

「ギンは…というより私達は、他の存在に決して心を開きません。同族嫌悪とでも言いますか……同時期に暴れた魔王達にライバル意識を燃やしているのかもしれませんね」

 

「ってことはお前も偽名を?」

 

 十六夜がそう言うと、レイラは気恥ずかしそうに俯いて言った。

 

「……はい。先程も皆さんに言いましたが、『レイラン』という仮名で通しています」

 

(うっわ、まんまだ。それで隠してるつもりかよ…)

(もっと良い名があったじゃろうに…)

 

 二人がそう思ったのは内緒。口に出さなかったのはせめてもの優しさか…それとも情けか。

 

「それで、ギンが一番の理由ってどういう事ですか?」

 

 呆れる二人に全く気づかないレイラは、そう白夜叉に問いかけた。

 

「ん……ああ、そのことか。まぁ単純に、タイミングというのもあるが……存在がそもそもおかしい」

 

「というと?」

 

「そもそも高位生命体(ハイブリッド)というのは、異なる種族の間に子はできないという条理を、捻じ曲げ生まれてくる不条理な存在のことじゃ」

 

「てことは前提条件から違うじゃねぇか。あいつは人として生まれた普通の存在(ノーマル)だろ?」

 

 もっともな十六夜の言葉を聞いてもなお、「その通りなのだが……」と煮え切らない返事の白夜叉は、意を決したように口を開いた。

 

「私は今から真実だけを言う。どんなにあり得ないことだとしても、最後まで聞いて欲しい………初めに提言しておく。確かに華蓮は高位生命体(ハイブリッド)ではない…が、今この時、あの場所にいる華蓮は、間違いなく高位生命体(ハイブリッド)なのじゃ」

 

「はぁ?何を言って……」

 

「理解できないのはわかる…私自身、あり得ないことだと思っておる。じゃが、そうとしか考えられん」

 

 しばしの沈黙。

 三人が三人とも、ことの異常さに気がついていた。

 

 そんな沈黙を破ったのは十六夜だった。

 神妙な面持ちの十六夜は静かに口を開いた。

 

 だが二人はすぐに唖然とする事となる。

 今までの話が軽いジャブに思えるほどの一撃を食らって。

 

「まぁ、華蓮にはまだ一個俺たちが知らないギフトがあるし、それの仕業だろうが………白夜叉」

 

 そう言う十六夜の顔は、いつになく真剣なものだった。

 

「華蓮は、大丈夫なんだよな?」

 

「あ、ああ……大丈夫だぞ。確かに異常事態ではあるが、体に悪影響は無いだろう」

 

 しっかし、と白夜叉は続ける。

 

「お主はあれじゃのう。もっと素直になれば良いと思うぞ」

 

「そうですね、逆廻さんはもっと素直になればいいと思います。そうすれば華蓮とも、もっと仲良くなれると思いますよ」

 

 レイラもそれに続いて言う。

 二人の魂胆など分かり切っている十六夜だったが、だからこそ呆れたように言い返した。

 

「まあ、華蓮とはコミュ二ティも違うし、交流が少ないからな。……だが、仲間として、だ。それ以上の感情は無い」

 

「嘘じゃな」

「嘘ですね」

 

 即答する二人。

 流石に面食らったのか、しばし呆然とする十六夜。

 その隙に、二人は詰みに入る。

 

「「で、本当の所、華蓮のことはどう思ってるんだ⁉︎」」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 キーーーーン

 と、耳鳴りがする程の大声。絶対わざとだ。

 

 恐らく他の奴らにも聞こえているだろう。

 黒ウサギにも、お嬢様にも、春日部にも……華蓮にも。

 

 まぁいいさ、いずれ伝えることになる言葉だ、こいつらに話しても問題ないだろ。

 

「……あぁ、そういうことか。どうやらお嬢様だけじゃなかったみたいだな……この分じゃ、あの時風呂に入ってた全員グルと考えるのが妥当か…」

 

「いずれにしても」と、俺は前置きを入れチラリと背後を伺った。

 

 いない

 

 黒ウサギも、お嬢様も、春日部も、華蓮も。

 俺の動揺に気づいたのか、白夜叉が説明した。

 

「恐らくあやつらは会場の控え室に向かったのじゃろう。随分と話し込んでしまったのぉ………じゃが、お主の話を聞かずに行くわけにはいかん……話してもらうぞ」

 

 ハァ…

 全く…俺らしくねぇ

 

 どうも俺は…アイツ絡みの話に弱えらしいな。

 理由は……分かってるつもりだ。

 

「そうだな……いずれにしても、話しておく必要があるな……二人にも、黒ウサギや春日部にも……華蓮にも、俺の気持ちを…」

 

 それがお嬢様との約束だしな。

 

「「…………………」」

 

 空気が張り詰めるのが分かる。

 沈黙が場を支配し、口が乾く。

 

 緊張してるってのか、この俺が?

 ハッ………その通りだよ。

 

 緊張で張り付く喉を無理やり動かし、俺は告げた。

 

 

 

 

「俺は、華蓮の事を恋愛対象として見ることができない」

 

 

 

 

「………そうか。理由を聞かせてもらえるか?」

 

 白夜叉はそう言ってきた。

 口調はあくまで穏やかだが、俺には必死に感情を押し殺そうとしているようにしか見えなかった。

 

 それにしても理由……理由ね。

 

「………俺は元の世界で、孤児院にいた事があった。そこを出てからも時々顔を出してたしな………多分俺は、そこの幼い子供達と華蓮を重ねて見ているんだと……思う。だから華蓮を恋愛対象として見れない…見ることができない。あそこの子供達を守ってきたように、華蓮のことを守る存在として見ているんだろうぜ…俺は」

 

 淡々と話す俺を二人は黙って見ていた。

 その表情からは何も読み取れなかったが、良い気持ちではないだろうぜ。

 

 俺の独白は続く。

 

「『己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの〝箱庭〟に来られたし』……笑っちまうよな、俺はここに来たってのに、まだあっちの世界を捨て切れてない…」

 

「………それで良い。すぐに捨て切れるほど、世界というものは軽くない……お主たちが十数年生きた記憶は消えないのだからな」

 

 白夜叉がそう言ってきた。

 フォローしてくれたのだろう、正直な所助かった。予想以上に、独白ってのは辛いものがあるな。

 

 さて、これで理由は全部だが、最後に言い訳地味だことを言うかな……本心には変わりないが。

 

「……恋愛対象としては見れないけれど、華蓮は素敵だと思うぜ。あれは将来美人になるタイプだな、多分俺好みの」

 

「……フッ、成長期はとっくに終わっておると思うがの………小僧、お主の決断は間違ってないぞ。本気の気持ちには、本心から接しなければならんからの。もしそれが断りでも、相手はスッパリ諦めることができる……だから、臆するなよ(・・・・・)

 

 心配いらねぇよ、って返したいんだが無理っぽいな。

 多分、華蓮と相対したらガチガチに緊張しちまうんじゃねぇか?俺。

 

「………ああ」

 

 だから、そう返すのが精一杯だった。

 白夜叉もそれを察したのかなにも言わなかった。

 

「…………あの」

 

 レイラが口を開いた。

 華蓮と親密な立場ってことは……

 

 俺が構えていると、レイラはとんでもない爆弾を落としてきた。

 

 

「ギフトゲーム……あと数分で始まるんだけど、白夜叉って主催者だよね?」

 

 

「あっ…」

 

「あっ…じゃねぇよ!急ぐぞ!!」

 

 この後、全力疾走した俺たちは、ギリギリ間に合うことができた。

 

 だから、気がつかなかった。

 レイラが何か言いたそうな顔をしていたことに。

 

 そして、俺たちは侮っていた。

 華蓮の異常、

 白虎の異常を。

 

 様々な思いが交錯する中、

 ギフトゲーム『造物主達の決闘』の幕が、上がろうとしていた。

 




隙間にしては時間長くねぇか?
とか、そういった質問は受け付けません。
ではでは〜

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