今年も今作品をよろしくお願いします。
では、続きをどうぞ!
「ほう…そんなことが……」
白夜叉に連れられて、私たちがやって来たのは宿泊する宿ではなく、サウザンドアイズ北街支店。
華蓮は隣の部屋で寝かされていて、今は私と白夜叉の二人で話し合っているところだ。
「今の話じゃと、お主とその黒装束の……男かの?」
「ああ、言ってなかったわね。あの黒装束野郎は男。私の古馴染みのクソ野郎よ」
「おお……お主がそこまで言うとは。昔に因縁でもあったのか?」
白夜叉はそう言ってくるが、正直この場で語り尽くせるほど私たちの因縁は浅くない。
「ええ、思い出すだけで焼き殺したくなるくらい」
「……そうか」
「あなたに話すことは以上よ。ちゃんと話したのだから、約束通り華蓮のこと助けてあげてよ」
そのために思い出したくもない昔話をしたのだから。
「もちろんそのつもりじゃ。華蓮は私達サウザンドアイズの同志なのでのぉ………じゃが」
そこで白夜叉は目を伏せ、言葉を切った。
何か良くない感じがして、私は白夜叉に詰め寄った。
「なんか問題でもあるの?」
「……ああ。情けないことだが、華蓮の様な症状は珍しいのだ。別に治らんということはないぞ!」
私が睨みつけると白夜叉は慌ててそう言った。今の私なら視線で人殺せると思う。
「そんなの当然だ。治せないとか言ってたら、ここら焼き尽くして私が直してたよ」
そう言って肩を竦める。
私が先天的に持つギフト《
正直、それを使ってしまえば、リセットしてしまえば華蓮は今すぐにでも助かる。
だがそれは出来ない。
私だけではなく、私達が持っていたギフトは全て封印の最深部に転がっている。
それの欠片ほどの力を使いたいと思うのならば、封印を三段階目まで解くしかない。
ま、もしそれが使えても私は使わないんだろうけど。
「恐ろしいことを言うのぉ………じゃが、口には気をつけろよ三下魔王が。口先三寸とはいえ、仲間を危険にさらされて私が黙っているとでも思ったか?」
声の大きさは変わらない。だが含まれる重さの全く違う声と共に、白夜叉から殺気と怒気が入り混じった圧倒的圧力がかかる。
それは全盛期の彼女を知っている私としては、欠伸が出るくらいの物だったが、同じく力を失っている私にとって十分脅威となるものだった。
「ふん、流石に一筋縄じゃいかないか。それで華蓮の状況は?教えてくれてもいいんじゃない?」
「……ふむ、いいだろう。こちらの専門医が一通り視た結果……華蓮の身体には異常はそれほどなかった」
「身体には、ってことはそれ以外に?」
「ああ……華蓮の存在そのもの…霊格が普通では考えられないほど磨耗していた。それによって華蓮は今、とても不安定な状態となっている」
「………多分封印が壊れて力が溢れ出した時だね」
ついさっき起きたことだから、今でもありありと思い出せる。激痛に悶え苦しむ華蓮、悠々と歩く黒装束の男、そしてーーー
「……!封印は?!」
「封印?」
「そうよ封印!なんで忘れてたのかしら!あいつが華蓮に何かしてたのよ!!」
「落ち着け!お主が狼狽えてどうする……それならもう検査済みじゃ。異常などなかった。むしろ前より強固になったほどじゃ」
ああ、あの自衛システムか……確かに。
「……それはそれで腹立つわね」
「まあ良いではないか。こうして命があるのだからのぉ」
「言われなくてもわかってるわよ」
「ふ〜む、それにしても……」
白夜叉はそう言うと私をジロジロと見てきた。
「お主のその姿は、何か意図があってそうしているのか?人化の術などを使えば好きな容貌にできるだろう?……それを考えると、お主らしくない可愛らしい容貌と衣装のチョイスには不気味さすら感じるぞ……」
「はあ…何を言うかと思えばそんなこと……」
「そんな事ではない…私にとって重要すぎる案件じゃぞ」
確かに言いたいことはわかる。
私も好きでこんな格好してるわけでもないしね。
「お主は頼れる姉のような印象だったのだがなぁ。何だその髪型は?ツインテールとな……それでその容姿か?幼いのぉ…あざといぉ…」
「なっ!?うっさい!焼くぞ!!」
「事実じゃろうが。少女体型に…それはロリータファッションか?何じゃ私に対抗でもしておるのか?」
「違うわ!これは華蓮がーーー
『外に出る時は幼女の格好がいいよ!まさか元・魔王が
って言って無理やり……」
華蓮に隷属しているから拒否権ないしね。
「ふふ…確かに……華蓮らしいのぉ」
「……助けてあげてね…華蓮のこと…」
「もちろんじゃ…任せろ」
全く…すっかり仲間思いになっちゃって……私もか。
十六年も一緒にいるからねぇ…仕方ないね。他の奴らのことは知らないけど。
「よし!話はこれでおしまいじゃ!ここからは私的な話になるのじゃが……耀のことは知っておるか?」
「ああ、知ってる。猫を連れている子でしょ?」
「その耀のことなんじゃがな……お主はこの火龍誕生祭で『造物主達の決闘』というギフトゲームが行われるのは知っておるか?」
「いや、知らないけど…」
「それに耀が出るのだが、温泉でのぉ…耀が華蓮にサポートとして参加して欲しいと言っていたのじゃ…」
本当に?あの子無口な印象だったんだけどな。
「コミュニティが違うからのぉ、時々しか会えないから思い出作りのために誘ったらしい。華蓮も承諾したそうだ…だが……」
「華蓮は意識不明の重体……残念だけど…」
思い出は作れないね。
だが、白夜叉の発言は予想の斜め上をいった。
「そこでじゃ!お主、華蓮の代わりにギフトゲームに出てくれんか?」
「えっ!?…いいの?じゃない…なんで?!」
「まあ私もこのままではあまりにも不憫だと思っての…考えてたのじゃ。だが何も思いつかなくてのぉ、諦めていたところに……お前じゃ」
「私?……なるほど、そういうことか」
私は白夜叉の言わんとすることを理解した。
でもそれって……
「うむ…これは私も苦渋の決断なのだが……お主が華蓮の代わりにギフトゲームに出てくれんか?」
「確かに私と華蓮の記憶は共有されてるけど、記憶だけで経験は共有されないわ。それじゃあ意味がないでしょう…?」
そんなのは、思い出とは言わない。
思い出は、一緒に協力して取り組んだ経験があってこそ作られると私は思っている。
私は私、華蓮は華蓮。これの区別はしっかりしないといけない。
「別に華蓮の代わりになれというわけではない……ただ、耀はどうも一人で戦いたがる節があるのじゃ。それはこれからの魔王の戦いではリスクでしかない。そこでお主が一緒に戦って、ついでに説教みたいなこともしてくれんかのぉ……みたいな?」
「……まあ、それくらいなら…いいよ。その代わり私の身分とかしっかり隠しとけよ!」
「決まりじゃな!」
白夜叉はそう言って高らかに笑った。
全く…元・魔王がギフトゲームに出るなんてね。パワーインフレも甚だしいよ…。
まあ唯一の救いは、運良く封印が二層まで解かれていることかな?