華蓮が
「………あれ?」
いままで下方向に向けていた視線を上にあげたのだ。理由など特にない、ただ何と無く。だがその何と無くのおかげで気づくことができた。
人が消えている。
先ほどまで夜とは思えないほどの喧騒に包まれていた街の姿は見る影を失い、まるで異世界のようだった。
「えっ……何?何が起こってんの?!」
突然の出来事に、動揺し声を上げる華蓮。
すると突然、静寂の街に一つ声が響いた。
「うん?私の仕業ですが、なにか?」
突然後ろから聞こえてきた声に、慌てて振り返る華蓮。
そこにいたのは、黒装束に身を包んだ人間だった。
「やっと見つけましたよ、
「………何のことだ」
黒装束から放たれた聞き覚えのない言葉を、華蓮は警戒しながらも聞き返した。
「とぼける気ですか?まあ、
「だから何のことを言っている!!」
そう華蓮が叫ぶと、黒装束は体をピクリと動かした。
「本当に覚えていない…のですか?そんなはずはない…記憶は受け継がれるはず……そういう
驚愕を露わにする黒装束の声はだんだんと小さくなり、ボソボソとした呟きになってしまった。
「受け継がれる?システム?何を言っているんだ?!」
だが今の華蓮ならば聞き取ることも容易だ。
声を荒げ問い詰めると、黒装束は呆れた様子で言った。
「やれやれ…エラーですか。私が長年求めていた個体に起きるとは………まあいいです記憶がなくても…私的には素体さえあれば十分なので!!」
突然、黒装束の圧力が爆発的に増大した。押しつぶされる錯覚を覚えるほどに。
「ッ!!?白封ーーー
それを受けて、華蓮は反射的に戦闘態勢に入った。しかし、
「ぐあっ!!?な…んだ……これ!!?」
限界だった。
白夜叉の言っていた通り、同じ封印を解き続けたツケが回ってきたのだ。
ーーーバキン
そんな音ともに、白封ーーー白虎の封印膜にヒビが入った。
そこから台風の如く、風を模した力が溢れ出してくる。それは一人間が抱え込める量では到底なかった。
「が、がああああああああぁぁァァァァァァ!!!!!」
全身を駆け巡る激痛に絶叫する華蓮。その体からは限界を超えた力が際限なく溢れ出している。
そんな近づくのもままならない状況の中、黒装束は慌てることなく、むしろ先程より脱力して言った。
「おおっと、アクシデントですかね。ふむーーあのままでは、力に喰われてしまうね。それは困る」
仕方ないね、と首を振りながら、黒装束は烈風の中へ躊躇いなく入って行った。
常人であれば、浴びただけで再起不能になるほどの力。それが黒装束の体に触れた途端、まるで喰われるように消えて行く。
そうして十秒もかかることなく華蓮の元にたどり着いた黒装束は、一通り観察すると華蓮の胸に手を当てたーーー正確には胸の中央の痣に。
「
そう言った黒装束の体から、腕を伝い一つの光が華蓮に吸い込まれて行った。
その瞬間、吹き荒れていた風が急に消えた。
激痛から解放された華蓮だが、蓄積されたダメージに視界がぼやけるのを感じた。
「ふう……応急処置はしといたから、しばらく安静にしてなさい。間違ってもその封印を解いちゃいけないからね」
その言葉を最後に、華蓮は意識を失った。
◇◇◇◇◇
ーーー
現状把握_危険と判断
現状最も最適な手を判断及び実行
ーーー
記憶にない声が聞こえたと思ってたら、私はいつの間にか外に出ていた。
突然のことで少し慌てたけど、すぐに戦闘態勢をとる。記憶を共有していると便利だよね。
「久しぶりだねぇ」
相変わらずの黒装束に呆れながらも、私は言う。
「そうですね、お久しぶりです。レイラさん」
「あんたに名前で呼ばれる筋合いはない」
相変わらずの馴れ馴れしさに、私こと朱雀(本名レイラ)はゲンナリした。
「冷たいですねぇ。あなたと私の仲ではないですか」
「そうかい?少なくとも私はそうは思ってないけどな」
一見旧知の中の会話に見えなくもないけど、私の背中は汗ばんでいき、冷や汗も頬を伝う。
今こいつとやり合ったら、100%負ける。勝つ可能性なんて微塵もない。ただ一方的に虐殺され、私は消えるだろうね。
そうならないためにも、こうやって会話して、諦めてもらうよう頼むしかない。私、ネゴシエーションなんてやったこともないけどね。
「まあ冗談はこれくらいにしましてーーレイラさん」
「……何かな?」
ついに来たか、と私は覚悟して身構える。何を覚悟していたのかは、私にもよく分からなかったけど。
その分、次の言葉にはビックリした。
「今日はこの辺で失礼します」
「………え?帰るの?」
あまりにも意外な言葉に、つい間の抜けた声が出てしまった。
「ええ、今日は挨拶のつもりで来たので。まあ、記憶がないというのには驚きましたが」
「いろいろあるんだよ、こっちにも」
「ふむ、そうですか。まあここでは聞きませんよ、いつかまた、二人きりの時にでもゆっくりと」
その言葉に、私が返事をするより早くアイツは消えてしまった。まるで最初からそこにいなかったかのように、音もなく。
それと同時に喧騒が戻ってきた。私が周りを見ると、いつも通りの北の街だった。
「ふう…生きてるね、私……助かった〜」
それを確認した途端、緊張の糸が切れたのか、私はその場にへたり込んでしまった。立とうと思っても力がうまく入らない。
華蓮もしばらくは目を覚ましそうにないし、ここで少し休んでから移動しようかな。
そんなことを考えていると、
「ねぇねぇどうしたの、君たち?座り込んじゃって、大丈夫?」
「俺たち、ゆっくり休めるところ知ってんだけどよ。一緒に行かね?」
5人の男どもに絡まれた。一目で対したことないとわかったから大丈夫だと思うけど、面倒だなぁ。
「私達なら大丈夫ですよ。この子一人なら私でも運べますし、宿も近いんで」
これで引き下がってくれれば話は早いんだけどなぁ。
やはり男たちは諦めてくれなかった。
「そんなこと言わないでさぁ。ほら俺たち力あるしさ、楽に運んであげるよ」
「そうそう、安心安全にね」
男たちはそう言うと、私じゃなくて意識のない華蓮に触れようとした。
「おい!いい加減にーー」
私は声を荒げて制止の声を上げた。
だが男たちは止まらず、華蓮の体に
瞬間、
『赤封ーーー
「………はい?」
突然私の力が膨れ上がった。この量……まさか!
………どうやら
自衛システムのようなもので、華蓮の意識がない時のみ作動するらしい。
完全自動で、私クラスの元・魔王を勝手に呼び出したり、封印を勝手に解いたりと自由過ぎる。
(あ、あの野郎!!これ、過剰自衛過ぎるだろうが!!!)
「コイツ何を!?」
「な、なんかヤベェぞ!!」
男たちは完全に萎縮しちゃってるし。
幸いにも自我は保てるみたいだから、別に問題はないかなぁと思っていると、
「お主たち、一体何をしておるのじゃ?」
「………このタイミングで?」
懐かしい声が聞こえてきた。もう絶対聞きたくなかったけどね。
「懐かしい気を感じたのでのぉ、散歩ついでに来てみれば、当たりじゃったか」
「………本当に今日は顔見知りによく会うよ。久しぶりーーー」
ーーー白夜叉。
あれ?まさかこれって……修羅場?
黒装束によって、過剰自衛システム追加。
朱雀達が勝手に出てこれるようになりました。
ではでは〜