担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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では、どうぞ!


第七話 口論_不協和音_追跡者

 街灯の明かりで夜にも関わらず明るい北の街。そこを一人の人間が歩いていた。

 その人間は夜の闇を体現したかのような黒づくめの格好をしており、目深にかぶったフードの奥の顔は全くと言っていいほどわからなかった。

 そんな人間を、すれ違う者は皆不思議そうに眺めるが人間は気にせず先へ進む。

 目的を達成するために人間は進む。そいつは不意に道の端へと寄ったかと思うと、一枚の写真を取り出した。

 それをジッと見た人間は再び歩き始める。先ほど見ていた写真を握りしめてながら……

 そこに写っていたのはサウザンドアイズに所属する、黒髪の女の子だった。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「はぁ…」

 

 旅館の一室。

 明かりを消し月明かりが差し込むだけの真っ暗な部屋の中で、華蓮は一人ため息をついた。

 原因は分かっている、先ほどの大広間での会話の所為だ。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 風呂から上がった華蓮達を出迎えた十六夜は、彼らしく大胆にあるいは変態的に浴衣姿を評価した。

 それ自体は誉め言葉だったが、その後に続けた言葉が火種となった。

 

「ーーーまぁ、似合ってるぞ。特に、華蓮の艶のある漆黒の髪を束ねた姿は浴衣との相性バッチリだな、機会があったら和服姿も見て見たいもんだぜ」

 

 桶をぶつけられたところを摩りながら十六夜はそう言った。

 その言葉に再び動揺し狼狽える華蓮だったが、飛鳥は逆に険しい顔をして十六夜に詰め寄った。

 

「ねえ十六夜くん、ちょっといいかしら?」

「ああいいぜ、なんだ?」

「ちょっと話があるのよ……場所を変えましょう」

 

 そういうと、飛鳥は十六夜と共に店の外へと出て行ってしまった。

 首を傾げる一同だったが、不意に白夜叉が華蓮に話しかけた。

 

「どうじゃ華蓮、怪我の具合は?」

「温泉に使ったからかな?だいぶ楽になったよ白夜叉、でも骨まではくっつかなかったみたいだね」

「そりゃそうじゃろ。骨折の治る温泉があったらそれで稼いでおるわい」

 

 呆れた声で言う白夜叉。

 

「……しかし、それを言えばお主の回復力も尋常ではないのぉ。全身の筋肉が断裂したにもかかわらず、今では平然と歩いておる。温泉だけではこうはならんぞ……お主、まだ何か隠しておるのか?」

 

 白夜叉はジロリと華蓮を睨みつける。

 

「さ〜ね、知らないよ。力もらったら回復力も上がったんじゃないの」

「………うむ」

 

 白夜叉は納得いかない様子だったが、それ以上は追求してこなかった。

 

「それならば、常時力を受け取っておる方が良いの。魔王襲来の兆候もある、体調は万全にしておくに限るぞ」

「な〜るほど。オッケー、分かったよ。

 それじゃあ、白封ーー第一層解放(ファースト・シフト)

 

 瞬間、華蓮の全身から光り輝く力が溢れ出した。それと同時に、華蓮を構成する要所要所が飛躍的に強化され、五感が鋭く研ぎ澄まされる。

 一度見たことのある黒ウサギと白夜叉を除く全員が驚愕に目を見開いた。

 だがその視線を一身に受けながらも、華蓮の意識は全く別のところに向いていた。

 

 ……は………るの?!

 

「華蓮、同じ封を解きすぎじゃぞ!バランス良く解いていかねばならないと言われておったじゃろうが!ーーー聞いておるのか!」

 

 …ど…した……しく…ぇぞ……様?

 

「落ち着いてください白夜叉様!華蓮さんも無視するのはいけませんよ!ーーー華蓮さん?」

 

 もう白夜叉と黒ウサギの声も届かない、既に華蓮は外で行われている口論に集中し切っていた。

 それはーーー

 

 ーーーだから、十六夜くんは華蓮さんのことをどう思ってるのって聞いているのよ!!

 

 どうやら他人事ではないみたいだ。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「はぁ……」

 

 華蓮は再び大きくため息をつき、敷かれた布団に寝転ぶ。

 天井を見つめるその白銀の目は、月の光によって不思議な輝きを放っていた。

 

「……ちょっと夜風に当たってこようかな」

 

 いつまでもこうしているわけにもいかない。そう思った華蓮は気持ちを切り替えるため、夜の街へ繰り出すことにした。

 夜は治安が悪くなると、散々注意された覚えはあるが歩みに迷いはない。そもそも行くなと言われれば行きたくなるのが華蓮なのだ。サウザンドアイズに入っても、やはり問題児性に変わりはなかった。

 華蓮はギフトカードから衣類と靴を取り出すと、浴衣から手早く着替え、最後に鏡で自分の姿を確認した後、窓から勢い良く飛び出して行った。

 

 と言っても特にやることなどなく、ただ黙々と明るい通りを歩いて行く。

 そうしていると、自然と思考はあの口論のことになっていった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 ーーーだから、十六夜くんは華蓮さんのことをどう思ってるのって聞いてるのよ!!

 

 鋭くなった聴覚が捉えたのは飛鳥の叫びだった。

 華蓮は突然のことに目を見開き固まった。だがここで華蓮は迷うべきではなかった。多少白夜叉達に訝しげに思われようとも封印し直し、五感を元に戻すべきだったのだ。

 だがもう遅い、華蓮が固まっている間に話は進んでいった。

 

『どうしたお嬢様?らしくないぜ、そんな大声を出すなんてよ?』

 

『どうでもいいわ、そんなこと!それより質問に答えなさい十六夜くん!!華蓮さんのことをどう思ってるの!?』

 

 どうやら飛鳥と十六夜の口論というよりは、飛鳥が一方的に突っかかっているようだ。

 話は続く。

 

『それを聞いてどうするってんだ?もしかして妬いてんのか?』

 

『なわけないでしょうが!

 ………いい、十六夜くん。私はね、単純に友達の恋を応援したいと思っているのよ。あなたのことだから、もう華蓮さんの気持ちには気づいているのでしょう?それはいいのよ、鈍感な人よりはましだわ』

 

 でもね、と飛鳥は言葉を切り、一つ息を吐いて話した。

 

『私はね。十六夜くん、あなたの華蓮さんへの態度が許せないのよ。気持ちを知っていながら、ああいう風に気持ちを弄ぶような行為が許せないのよ。………だからここで聞いておきたいの、あなたの本心をね』

 

 それを聞いた時、自分の心臓がバクバクなるのを華蓮は感じた。口はカラカラに乾き、体が熱を持ち始めるのが自分でも分かるほどだった。

 長い空白の時間が過ぎ、十六夜の声がようやく聞こえた。

 

『弄ぶ気なんてねぇよ、ただーーー』

 

『………そう…それが十六夜くんの本心なのね』

 

 華蓮に届く十六夜の言葉。

 それを聞いた華蓮は、時間が止まったかのようにピタッと動きを止めた。

 そして心ここに在らずといった様子でフラフラと部屋へ戻ってしまった。

 黒ウサギ達が何か言っていたような気もするが、今の華蓮の歩みを緩めることもできなかった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 そして今に至る。

 

(考えるだけで頭の中が真っ白になる、こんなの初めてかも)

 

 華蓮一人、物思いに沈んでいた。

 これからの事とか、次にどんな顔をして話せばいいのか、小さい思考が次々出てきては泡のように弾け飛んでいく。

 

 あの二人は華蓮が聞いていたことを知らないのだ。その事が華蓮をより悩ませていた。

 

(もう…どうすればいいの……)

 

 華蓮は一人、夜の街を歩き続ける。

 

 夜はまだ、始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………見つけた……」

 




どうでしたでしょうか!
これからも、皆様が楽しめる作品を作っていこうと精進する所存ですので、おつきあいいただけると幸いです。
ではでは〜

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