担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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はい、続きです!



第六話 温泉での一幕

「…はぁ……」

 

 会談も終わり、帰路についている一同。その最後尾に、スーッと空中を滑りながら移動する人影があった。華蓮だ。

 身体中から負のオーラを撒き散らしながら項垂れる華蓮は、十六夜の爆弾発言?を聞いてからずっとこの調子である。

 顔は常時朱に染まり、時折恥ずかしそうに身をよじったかと思うと、一転して顔を曇らせため息をつく。先ほどからこの繰り返しだ。

 

「大丈夫ですか?華蓮さん……?」

 

 黒ウサギも心配して声を掛けるが華蓮からの返事はない。

 

「ちょっと十六夜さん、華蓮さんに何を言ったんですか?!さっきからずっとあの調子なのですが!」

 

 堪り兼ねた黒ウサギは十六夜に詰め寄り、華蓮に聞こえないように気をつけながらも、語気を強くして話しかける。

 しかし、当の十六夜は面白そうに笑うだけで何も言わなかった。

 

 そして結局何も解決しないまま、お世話になる温泉宿についてしまった。

 

「はぁ〜……結局何もできなかったのですよ……」

 

 ガックリと肩を落とし、黒ウサギは大きくため息をついた。

 そんな意気消沈の黒ウサギに声がかけられる。

 

「何があった黒ウサギ?……大体想像はつくが、お前がここまで落ち込むのは珍しいな」

 

 声の主はレティシア。

 吸血鬼の元・魔王であり、以前のノーネームの失われた同士である。

 神格は諸事情により失われたが、実力は折り紙付きであり、現在のノーネームの貴重な戦力だ。

 

 そんな彼女は今、あの問題児達によってメイド服を着せられていた。

 彼女の着るメイド服は、フリルをあしらった可愛らしいデザインのものだった(誰かさんが何処かの駄神に着せられたようなものではない)。

 それをレティシアは完璧に着こなしていた。自身の金髪と幼い外見もあってか、人形のような可愛さがある。

 

 因みに華蓮は、レティシアを始めて見た時、その幼い外見からか子供扱いしていた。が、のちに分かったレティシアのハイスペックさに、今では師匠と崇め尊敬しているのはここだけの話。

 

 〜閑話休題〜

 

 レティシアの心配する声を聞いた黒ウサギは、これまでの経緯を説明した。

 黒ウサギが一通り説明すると、レティシアは不意に考え込むような仕草をしてボソッと呟いた。

 

「ふむ、なるほどな。……ということは、もし十六夜と華蓮が付き合うこととなれば、サウザンドアイズとの間に今以上の友好な関係を築くことが………」

「レティシア様?!」

 

 黒ウサギはその言葉に唖然とする。まさか身内の恋を利用して、コミュニティ間の関係を向上させるとは思わなかった。

 そして黒ウサギは恐る恐る後ろを向く。しかし幸いにも、後ろの二人には聞こえなかったようだ。

 

「安心しろ、冗談だ」

「もう!言っていい冗談と悪い冗談があるのですよ!!」

 

 肩を竦めてそう言ったレティシアを、幼い子供を叱る時のように怒る黒ウサギ。

 それでも表情を崩さないレティシアは、突然真面目な顔になって言った。

 

「…黒ウサギ、実は先ほど飛鳥が何者かに襲われた」

「飛鳥さんが!?」

 

 途端に声を荒げ、レティシアに詳しいことを聞こうと詰め寄る黒ウサギ。

 そして後ろでは、いつの間にか近づいたのか華蓮が真剣に話を聞いていた。

 

「飛鳥が襲われたのは少し前、ちょうど十六夜と分かれて逃げたあとのことだ。」

 

 つまり一人のところを狙われたのか、華蓮は内心歯噛みする。未来のことが分かる者はいないが、それでも自分の行動が迂闊だったと反省する華蓮。

 レティシアの話は続く。

 

「……飛鳥の話だと、展示会場で襲われたらしい。相手の姿は見えなかったが、ネズミを操り攻撃してきた。……しかも、どうやら通じなかったらしいのだ。飛鳥のギフト、『威光』が、ネズミに対して」

「なんだって!?」

「そっ、それは大変です!!」

 

 そう言うと黒ウサギは一目散に旅館へ駆け込んで行った。

 突然の行動に面食らう華蓮とレティシアだったが、視界から消えるギリギリで呼ぶことに成功した。

 

「黒ウサギ、どこ行くの!?」

「もちろん飛鳥さんのところです!おそらく飛鳥さんは、大変落ち込んでいると思います!そこで、黒ウサギが元気付けようかと思いまして!」

 

 そう言って視界から完全に消える黒ウサギ。

 華蓮とレティシアはしばし呆然とするも、顔を見合わせ、仕方ないなと笑って黒ウサギと同じ方へ歩いて行った。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 華蓮とレティシアが風呂場に到着した時、その中では大変なことが起こっていた。

 

 まず聞こえてきたのは白夜叉(駄神)の声。

 豊満な〜やら、柔肌が〜などのワードが入っていた気もするが、華蓮は無視した。これにいちいち反応してたらキリがないことは、サウザンドアイズで嫌という程経験している。

 

「黙れこの駄神!」

 

 そして、いきなりそんな声が聞こえてきたかと思うと、扉を開けた華蓮のすぐそばに風呂桶が転がってきた。

 そして目の前には顔を赤くした飛鳥と黒ウサギがいる。しかし白夜叉の姿がない。

 華蓮は、どこだあの駄神!と見回すがどこにもいなかった。

 

「すごい状況だね……白夜叉はいないの?さっき声が聞こえたんだけど……」

「あの駄…いえ、白夜叉ならそこに転がって……あら?いないわね、どこに行ったのかしら」

 

 それを聞き、飛鳥たちが気づかないうちに逃げたのか、と思った華蓮は体を洗おうと移動しようとする。

 が、その油断が命取りだった。

 

「隙ありぃぃぃぃぃィィ!!!」

 

 背後から聞こえる駄神の声、ハッとしてよけようとするも間に合わなかった。

 ドロップキックを食らった華蓮は、頭から飛鳥達の入っているお湯にとびこんだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「いったぁ〜…ちょっと飲んじゃったし、何してんだよ白夜叉……」

 

 ずぶ濡れの華蓮はそう言って、起き上がろうと思い手をつこうとする。しかし、その手に触れたものは予想外に柔らかかった。

 

「ん?何だこれ?」

「…ぅ…あっ……」

 

 なんだろうと思い、その物体を数回揉みしだいた華蓮の耳に艶のある声が聞こえた。

 ビクッとする華蓮は、そこでやっと現在の状況を理解した。

 

「く、黒ウサギ?」

 

 そう、華蓮は黒ウサギを押し倒していたのだ。となれば、今華蓮が触れている柔らかいものの正体もわかってくる。

 慌てて手を離した華蓮は、背中に誰かが乗っているのを感じた。

 華蓮は、落とさないようそっと見る。するとそこには、飛鳥がぐったりと乗っていた。どうやら気を失っているらしい。

 

「……え〜っと…や、やぁ黒ウサギ!………ハァ…どうしてこうなった…ってそうだ、白夜叉!」

 

 この状況を作り出した原因を思い出した華蓮はその名前を呼んだ。

 しかし当人は華蓮の声が聞こえていないようだった。

 そして三人を見ていた白夜叉は突然、感動したかのように涙を流した。

 

「し、白夜叉……?何で泣いてんの?」

 

 思わず理由を聞いてしまう華蓮。

 その瞬間、白夜叉はクワッと目を見開きペラペラと喋り出す。黒ウサギにはデジャヴを感じる光景だった。

 

「うむ、よくぞ聞いてくれた!私は今、真の芸術を見たのだ!」

「………」

 

 いきなり芸術を叫び出した白夜叉に唖然とする華蓮達。

 しかしそれはまだ序の口だった。

 

「華蓮と黒ウサギの豊満な胸が重なり形を変える様はその柔らかさを強調しており、白い肌に黒の長い髪が絡みつくことで二人の妖艶な魅力を引き立てることは確定的に明ら……」

「「黙れ、この駄神!!」」

 

 叫んだ瞬間、旋風により加速した盥が白夜叉を吹き飛ばした。ちょうど扉が開かれたため破壊は免れたが、脱衣所の壁にドォンと音を立ててぶつかる。

 そして、扉を開けた耀とレティシアは呆然として言った。

 

「「何この状況……」」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 本日二回目の盥シュートを食らった白夜叉は、ほとんどダメージが入っていないらしくピンピンしていた。

 

「……まったく、この駄神が…」

「何か言ったかの?」

「いえ何も…」

 

 華蓮はボソッと悪態をつく。

 駄神でも一応上司のなので大きな声では言わない。

 

「……うぅ…ここは?」

 

 すると、気を失っていた飛鳥が目を覚ました。

 

「おっと、目が覚めたみたいだね!」

「柊さん……なんで私は気を…」

「あっ、あ〜無理に思い出さない方がいいと思うよ!あっ、風邪引くといけないからもっかい浸かろう!」

 

 気を失った経緯を聞く飛鳥。

 華蓮はそれを強引にごまかして、再び湯に浸かることを進めた。飛鳥は訝しげな表情をするも素直に従う。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 湯に浸かり温まる女性陣、おしゃべりも交えつつ賑やかな入浴となった。話題は様々で、火龍誕生祭のこと、サウザンドアイズでのこと、ノーネームでのことなど尽きることがない。

 すると当然あの話題も出てくるわけで、

 

「皆さんに重大発表があります!」

 

 突然黒ウサギが真剣な顔で話し始めた。

 場の空気に緊張が走る、そして黒ウサギは重大発表を(爆弾を投下)した。

 

「どうやら華蓮さんは、十六夜さんのことが好きらしいのですよ!」

「はっ?!えっ、ちょっ、はい!?」

 

『……ほう……』

「えっ、どしたの皆……」

 

 黒ウサギの発言を聞き、盛大に吹き出す華蓮。

 華蓮としては、なぜばれたのかを聞きたかったのだが、周りの視線に肩をすくませ縮こまった。

 

「へぇ、あの十六夜くんをねぇ。ニヤニヤ」

「華蓮は十六夜が好きなのかぁ。ニヤニヤ」

「聞けば同い年というではないか、お似合いだと思うぞ。ニヤニヤ」

「まぁまて、まだ華蓮の一方通行だ、経過を見ないとな。ニヤニヤ」

 

「……うわぁぁぁぁ!!!皆、そのニヤニヤやめて!!!」

 

 そしてこのニヤニヤ地獄である。

 華蓮は恥ずかしさのあまり、どうにかなってしまいそうだった。

 唯一の救いは場の鎮静に努めている黒ウサギたが、そもそもこの状況を作り出した張本人のため、極薄の救いだった。

 

 こうして祭りの夜は更けて行った。

 




自分で書いておいてなんですが

白夜叉……(ドン引き
つまり自分に、ドン引き
書いていてすごい恥ずかしくなりました。
ではでは〜

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