「随分と派手にやらかしたの、お主ら……」
呆れ顔でそう言ったのは白夜叉。
華蓮たちは今、サラマンドラの本拠地にいる。
あの後、憲兵達に連行される形で連れて来られたのだ。まあ、あれだけの被害を出したから当然なのだが。
因みに、動けない華蓮を十六夜が運んで(もちろん、お姫様抱っこで)行こうとしたが、顔を真っ赤にした華蓮が全力で拒否したため断念。
十六夜は面白くなさそうだったが、こればっかりは仕方ない。
黒ウサギが、運びます!と立候補してくれたが、そもそも華蓮は相手が誰であろうと、お姫様抱っこされること自体が嫌なのだ。
じゃあどうするんだよ、と十六夜に言われ、考えること十数秒。
華蓮は、
白夜叉の呆れ声を聞き、呆れさせた張本人である十六夜と華蓮は揃って声を上げた。
「ご要望通り、祭りを盛り上げてやったぜ」
と、十六夜。
「十六夜は、本当に強かったよ」
と、華蓮。
「「ってか、なんで戦うことになったんだっけ?」」
「知りませんよ!!」
声を揃えて言い放った二人に、黒ウサギがタイミングよく突っ込んだ。
全く反省していない二人に、黒ウサギはハァと一つため息をつく。白夜叉もサウザンドアイズの幹部として、この状況に内心頭を抱えていた。
◇◇◇◇◇
その様子を忌々しげに見ている者がいた。
名前はマンドラ、
マンドラは、図々しくもフロアマスターの前で談笑している華蓮たちに苛立ちを隠せないでいた。
「お前たち!フロアマスターの前で談笑とは、無礼極まりない行為だぞ!特にお前!」
怒鳴ったマンドラが最後に指差したのは華蓮。
「この場でのギフトの使用はやめてもらおうか!それは我々、サラマンドラへの挑戦と捉えることもできるんだぞ!」
マンドラがそういうのも無理はない。フロアマスターを抱える身としては、余計なリスクはむしろ率先して払うべきだろう。
しかし今華蓮は、先に述べた理由により浮きながらの移動を余儀無くされている。
そのためにギフトの使用は仕方ないのだが、封印をいじった副作用がここで現れたのだ。
それは、
つまり今華蓮は、浮くために必要な風を生み出すため、白封ーー白虎の封印を一段階解除しているのだ。
それにより、華蓮の身体は白虎の力によって強化される。
これをマンドラは見過ごせなかった、何の力を得ているのかは分からずとも、ギフトによって身体能力を上げているのは分かる。それも自分たちを凌駕するほどの力だ、それを放っておくわけにはいかなかった。
「すまんのマンドラ。じゃが大目に見てくれんかの、こやつは歩くのが困難な怪我を負っておるのじゃ」
華蓮の代わりに答えたのは白夜叉。
だがマンドラは、未だ険しい顔のまま言いはなった。
「ふん、大方先ほどの乱闘騒ぎでおった怪我であろう!自業自得だ、今すぐギフトの使用をやめろ!」
痛いところをつかれ黙り込む白夜叉。
仕方なく華蓮は白虎を再封印する。途端に風がやみ、華蓮
はバランスを崩して倒れそうになる。
「おっと、大丈夫か?」
「うふぁあ!!い、十六夜?!さ、支えてくれるのは嬉しいけど、近いって!」
それを間一髪で十六夜が支えた。
華蓮は急な密着に、変な声を出してしまう。密着なら先ほどもしたが、今回は心の準備ができてなかった。
そして十六夜は華蓮の反応を見て、ニヤニヤしていた。
◇◇◇◇◇
「……えっと、何じゃあれは?十六夜に触れられた途端に、華蓮が顔を真っ赤にして変な声を出したように見えたが…まさかあやつら……」
そう言ったのは白夜叉。
最初は華蓮の行動に戸惑っていたが、今はナルホドと言った様子でその様子を眺めている。
「いえいえ、違いますよ白夜叉様。今は華蓮さんの片思いでございます」
黒ウサギは、白夜叉の考えを訂正した。
そして白夜叉と同じく、二人の様子を眺めていた。
それは、我が子の成長を喜ぶ親のようであったとここに記しておく。
◇◇◇◇◇
華蓮がギフトの使用をやめたことで、ようやく話が始まった。
審議(と、呼ぶには早い判決だったが)の結果、二人が罪に問われることはなかった。
死傷者がいなかったことと、白夜叉が壊れた建物を直してくれたおかげだ。
白夜叉は、報酬の先払いだと黒ウサギに言った。が、それはノーネームに対しての計らいのため、サウザンドアイズ所属の華蓮には適応されなかった。
よって、
「華蓮、お主は減給じゃ」
華蓮の給料は当分の間、減らされることとなった。
「………」
「…華蓮?」
だが、減給されたにも関わらず華蓮から反応がない。
白夜叉は再度名前を呼ぶが、華蓮が返事を返すことはなかった。
◇◇◇◇◇
華蓮は十六夜に触れられたあたりから、正常な判断ができなくなっていた。
もともと華蓮は、このように男性と接する経験がなかった。告白されたことは何度かあるが、それらは全て断っているため、実際男性に触れられるのは十六夜が初めてとなる。
そのため華蓮は今、陶酔にも似た状態となっていた。意識には霞がかかり、頬は朱に染まり、時折吐かれる息は熱い。
そして華蓮は、自身を支えてくれている十六夜を感じながら考える。
(十六夜…の…体…あったかい……それに…大きい…がっしりしてる…同い年なのに……やっぱり…男の子…だなぁ……十六夜…)
そして華蓮は、強く十六夜の服をつかむ。
おそらく無意識に行ったことだろうが、華蓮は今確かに十六夜を求めていた。
十六夜の暖かさ、その存在をーーー強く、求めていた。
「……十六夜…」
ポツリと呟かれたその言葉は、誰にも届かない。
それでも華蓮は今、とても幸せそうだった。
◆◆◆◆◆
ーーーそして会談後、
「ええっ!?減給?!聞いてない!」
「じゃろうな……それに、あんなに幸せそうなお主は始めて見たぞ」
「えっ……はっ…はぁあああ〜〜〜〜??!!!!」
改めて告げられた事実と、見られていたことに対する恥ずかしさで、華蓮は顔を真っ赤にして叫んだ。
「まあまあ、そんな叫ぶなよ、華蓮」
「い、十六夜……」
十六夜はそう言うと、彼らしいニヤッとした笑みを浮かべ、
「俺の服を掴んできた時、華蓮……小動物っぽくて可愛かったぜ」
「ふぇっ?!か、かわっ……?!」
「……それにーーー」
そこで十六夜は言葉を切ると、華蓮の耳元で囁くようにして言った。
「ーーーいきなり俺の名前いうもんだからさ……ちょっと、ドキッとしたぜ…」
どうやら十六夜には、あの呟きが聞こえていたようだ。
華蓮は顔を真っ赤にして何か言おうとしたが、結局その場に崩れ落ちた。
………うん、
脈アリ…なのか?
次回、温泉入ります。
ではでは〜