担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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はい、続きです。




第三話 月下の銀虎

 華蓮が十六夜達に隠していること。それは華蓮の中に封印されている神獣のこと。そして、その封印が壊れかかっていることだ。

 

 十六夜の命令はその秘密を話すこと。

 もちろん、そんな命令は聞けない。話せば絶対、黒ウサギたちは手伝おうとする。私がどんなに危うい存在だとわかっても、必ず。

 ……その優しさはきっと間違ってない。

 間違っているのはむしろ私。そんなことは、サウザンドアイズに入った時からずっと分かっていた。

 でも、それでも巻き込むわけにはいかない。大切だからこそ、危険に晒す訳にはいかない。

 だからこのゲーム、

 ーーーーー絶対に勝つ!

 

 ◆◆◆◆◆

 

 十六夜が土壇場で問いに答えたのは、華蓮を動揺させるためだ。十六夜は、華蓮が何か重要なことを隠していることに気づいていた。

 それを言えば華蓮は動揺し、少なくとも一瞬動きを止める。その間に捕まえて勝つ。これが十六夜の考えた作戦だった。

 そして十六夜の思惑通り、華蓮は動揺し動きを止めた。

 勝利を確信した十六夜は、華蓮との距離を一気に詰める。そして、華蓮を捕まえようと手を伸ばした。が、その手が華蓮を捕まえることはなかった。

 

「白封、第二層解放(セカンド・シフト)

 

 華蓮はそう一言呟いた。

 

 その瞬間、十六夜の視界から華蓮が消える。

 十六夜は目を見開き、辺りを見渡した。

 そして十六夜は気づく。

 華蓮の蹴りが真後ろ(・・・)から迫っていることに。

 

「なっ!?」

 

 十六夜は慌てて身をひねり回避する。そしてそのまま後方へ大きく飛び、距離をとった。

 そして華蓮を視界に入れた時、十六夜は再び目を見開き驚愕した。

 そこにいたのは、今までとは比べ物にならない力を体に纏い、

 ーーーーー髪を白銀に染めた華蓮だった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 華蓮がこの一ヶ月の間に行なったこと。それは自身の力を安定させることだった。

 最初に行なったのは、自分の中にいる神獣の力の確認。白夜叉に例のゲーム盤を用意してもらい、そこで神獣の力を解放した。

 結果、ゲーム盤をクレーターだらけの荒地に変化させたものの、華蓮は残り三体の力を確認した。

 三体は、思った通りそれぞれ例の反則級ギフトを持っていた。

 次に行なったのは封印術の学習。

 白夜叉に、封印のギフトを持つコミュニティを紹介してもらい、時間を見つけては通っていた。

 無償で教えてもらうのは悪いと思ったが、華蓮のもつ封印を間近で見せてもらえれば十分だと言われた。

 華蓮は封印の基礎から応用までを、スポンジが水を吸うが如くどんどんマスターしていった。そのスピードには、封印専門のコミュニティの全員が目を丸くしていた。

 

 そして、その研鑽の日々と華蓮のアイデアによって作られたのが現在の華蓮の封印。

 四神を封印膜で覆い、一つずつ外していくことによって段階的に力を強くする封印。四神をただ封じ込めておくのではなく、逆にその力を利用する攻撃的な封印だ。

 これによりギフトカードの表記も変わった。

 現在の表記は《四神相応ーー三封一門》

 華蓮はこの一ヶ月で確実に成長した。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 そして今に至る。

 

「髪が……ってことはまた魔王が!」

 

 十六夜は明らかな焦りを浮かべている。

 それもそのはず、朱雀に呑まれ魔王化した華蓮をあの時見ているからだ。

 十六夜の認識では、髪まで変化する時は人格まで変わってしまう、となっている。

 軽く煽っただけで魔王化するとはさすがの十六夜も思っていなかった。

 そう思っていたのだが、

 

「い〜や、違うよ十六夜。これはまだ二段階目だ」

 

 人格は華蓮のままだった。

 これには十六夜も疑問を感じた。

 

「俺の後ろを取るスピードが二段階目とはな…。しっかしどうなってんだ?あの時は、髪に加えて人格も変化してただろうが」

「ふん、これが一ヶ月もの努力の結果よ!」

「一ヶ月でこれかよ……」

 

 実際、華蓮の言い分は正しい。

 元の封印を弄るついでに、綻びをある程度直してもらっていたのだ。

 それによってエネルギーのロスを減らすことができ、結果、二段階目にも関わらず髪にまで変化が及んだというわけだ。

 だが十六夜も言っていたとおり、一ヶ月でここまでの変化を見せるのは、はっきり言って普通ではない。

 華蓮にその類の才能があった、といえば話は早いが、華蓮は封印の(こういう)ことを何一つ知らなかったのだ。

 

 謎が多い奴だ。

 十六夜はそう結論付け、再びゲームに集中する。

 

「にしてもお前、なんであん時捕まえずに蹴ったんだ?蹴りの風圧で気づけたようなもんだぞ?」

 

 十六夜は華蓮に問う。

 実際、あの時蹴りをしないで素直にタッチしていれば十六夜は負けていた。

 

「そりゃあ……十六夜の意識を狩って(・・・・・・・・・・)から捕まえようと思っ(・・・・・・・・・・)ただけだけど(・・・・・・)?」

「な、なるほどな。オーケーオーケー、一旦落ち着こうぜ、柊」

 

 首を傾げながらそう言ってくる華蓮。

 それを聞いた十六夜は背筋に冷たいものが走るのを感じた。同時に十六夜はある仮説を立てる。

 

(やっぱ変だな、今の言葉。普段のアイツのことはそんなに知らないが、少なくともあんなことを言うタイプじゃない。ってことは、人格にも少なからず影響が出る(・・・・・・・・・・・・・・)ってことだろうな)

 

「どうしたの?来ないならこっちから行くよッ!」

 

 動かない十六夜に業を煮やしたのか、華蓮が仕掛けた。

 それはもはや瞬間移動だった。気づいた時には華蓮の姿は消えており、十六夜も気づけたのはほとんど偶然だった。

 左後ろからの風圧。

 側頭部を狙った一撃を、十六夜はギリギリ左腕一本で防ぐ。

 

「がっ!?」

 

 だが、スピードの乗った一撃を片腕で防げるはずもなく、十六夜は吹き飛ばされ、時計塔に当たってようやく止まった。当然、時計塔の被害は甚大だ。

 粉塵の舞う中、十六夜は咳き込みながらも悪態をついた。

 

「ゲホッ、ったくあの野郎、本気で蹴りやがったな!にしてもあのスピード……目で追うのがやっとだ」

 

 十六夜がそう言っている間も華蓮は攻めてくる。

 旋風を纏い、空中にも関わらず加速する華蓮は真っ直ぐ突っ込んできた。そう、真っ直ぐ。

 十六夜が横に飛んだ次の瞬間、先ほどまで十六夜がいた場所を、勢いそのままに華蓮が蹴り砕いた。

 

「チッ」

「おい、今舌打ちしたよな!」

「何のことかなぁ?……ただ十六夜がちょこまかと逃げるのが、めんどくさくてちょっと嫌なだけ!」

「そ〜かよ。なら!今度はこっちから行かせてもらうぜ!」

 

 十六夜は再び華蓮に迫る。先ほどのように逃げられないよう、全身全霊で警戒しながらだ。

 しかし、それを見た華蓮は、避けるどころか迎撃の構えも取らなかった。ただただ、十六夜の拳を眺めているだけ。

 そして、

 

「あぁ?」

 

 十六夜の拳は、華蓮の真横の空間を撃ち抜いていた。

 それを見た十六夜は訝しげな声を上げる。なんせ華蓮はその間、微動だにしていなかったからだ。

 この現象の謎は分からないが、十六夜は取り敢えず殴り続けることにした。

 だが、

 

「無駄」

 

 先ほどと同じように十六夜の拳は、全て空を切った。

 華蓮はその隙に十六夜の腹部に蹴りを叩き込む。

 今度は吹き飛ばされなかったが、十六夜は軽く吐血する。華蓮の蹴りをノーガードで受けたのだ。本来ならば、この一撃で大抵の敵は倒せる。だがそこは流石十六夜というべきか、骨は折れたが意識を保っていた。

 そして当人は、吐血しているにも関わらず口元に笑みを浮かべていた。それは、十六夜が強者と闘う時に見せるものであり、十六夜が華蓮を強者と認めた証拠であった。

 

「いいなお前!想像以上だぜ、柊!!」

「それはどうも!ってか、想像以上なら名前で呼べよ十六夜!!」

 

 二人が吠え、その衝撃で大地が揺れる。今の二人を止めることは不可能だった。

 

「行くぜ、柊!」

 

 そう言って十六夜は駆ける。しかし、先ほどのように殴りには行かなかった。

 加速する十六夜。それを見た華蓮は悔しそうに言い放った。

 

「チッ、もうばれた!」

 

 華蓮は両腕をクロスし、十六夜の攻撃を受けた。

 それはパンチやキックといった、武術的なものではなかった。十六夜がしたのはタックル。簡単に言えば体当たりだ。

 しかし、たとえ体当たりと言っても、十六夜並の質量が猛スピードで突っ込んでくるのだ。風で多少威力を殺したとしてもそのエネルギーは膨大。

 現に華蓮は、ものすごいスピードで後方へ吹き飛んだ。時計塔の壁を破壊し、上空へと飛ばされる華蓮。

 それでも、風を操りなんとか姿勢を正して十六夜を見た。十六夜は、蓄積したダメージに体をふらつかせるも、ニヤリと笑って華蓮を見返した。

 

「やっぱりな」

「………」

 

 十六夜が、何かを確信した顔で話し始めた。それを無表情に、内心冷や汗をかきながら華蓮は聞く。

 

「あの当たらない現象の正体は風だ。それも超圧縮された空気、それを解放させて軌道をずらしたんだ。真っ正面から拳を弾くには、風は力不足。かといって防御力も高くない。その結果がコレか。あの狭い空間に、常に暴風が吹いてんだ、全く気がつかなかったぜ。……それも計算のうちってか?」

「………」

 

 華蓮は答えない。だがその沈黙は、十六夜の推論が当たっていることを、黙に肯定していた。

 

「……それで、どうすんの?十六夜の推論はほとんど正解。だけど、こんなに距離があるんじゃあ、もう拳の届く範囲まで近づけさせないよ」

 

 華蓮の言う通りだ。十六夜の推論が当たっていようとも、それで警戒されては元も子もない。

 だが華蓮の言葉に反して、十六夜は笑っていた。

 

「確かにその通りだ。だがな、あの時お前が流せなかった攻撃があっただろ」

「あのタックル?悪いけど届か」

「別にタックルかまそうってわけじゃねぇよ。あの攻撃で分かったのは、そこそこ重い物体は流せないってことだ。なら話は簡単だ、流せないほどの大質量の物体をぶつければいい」

 

 そう言って十六夜は、半壊しかけた時計塔に手を当て、

 

「ま、まさか……」

 

「その通りだ柊!避けれるもんなら避けてみやがれぇぇぇェェ!!!!!」

 

 思いっきり蹴り飛ばした。

 蹴られた時計塔は、瞬く間に巨大な瓦礫へと姿を変え、第三次宇宙速度で華蓮へと迫る。

 

 因みに、第三次宇宙速度はなんと、時速60,100km!

 〜閑話休題〜

 

 第三次宇宙速度で迫る瓦礫。

 普通ならば考える間も無く、一方的にやられる攻撃に華蓮は対処して見せた。

 いや、対処というにはあまりにも強引なものだったが。

 

 まず今までに圧縮して、ストックしてある空気玉を周囲の空気とともに一つに再圧縮。ここまで来ると、抑え込めるのは数秒ほどになるが、十分足りた。

 だがこれでも巨大な瓦礫を全て飛ばすことはできない。これはあくまで瞬間的な風圧で流しているに過ぎないのだ。

 ならばどうするか。簡単なことだ、飛ばした瓦礫同士をぶつけて、無理矢理スペースを作ればいい。

 だが、あの一瞬でそこまで計算できるはずもなく、涙目になりながら感で行ったのだが、運は華蓮の見方をしたようだ。

 そして今に至る。

 

「ふっざけんな!!私を殺す気か!!!」

 

 目を見開き、すごい剣幕で怒鳴り散らす華蓮。

 しかし当人は、呆然としていて聞こえてないようだった。

 十六夜の意識を占めるのは、今しがた目の前で起こった絶技。偶然の産物と一蹴するのは簡単だが、十六夜にそんなことはできなかった。

 そして、知らぬ間に呟いていた。胸の奥から湧き上がる感情を。

 

「……イイな、お前。最高だぜ、華蓮(・・)

 

 その呟きは風の音にかき消され、華蓮には届かなかった。しかし、届く届かないの問題ではない。この時、十六夜の頭の中は華蓮のことでいっぱいだった。

 

(強ぇ、今までのどんな奴よりも。あの才能(センス)、並外れた状況判断能力、想像力豊かなアイデア、どれをとってもお前は最高だ。……楽しいな、すげェ楽しい。箱庭……来て良かったな)

 

 もう十六夜は華蓮のことを侮らないし、見下さない。自分と同格のライバルとして、十六夜は華蓮を認識した。

 

「十六夜、これで終わりにしよう。最後、自分の全力をぶつけ合うんだ」

「……あぁ、望むところだぜ!華蓮(・・)!!」

 

 十六夜が叫ぶ。

 その瞬間、華蓮は全身に電流が流れたような錯覚を覚えた。

 初めて名前で呼ばれた華蓮は、顔を真っ赤にして十六夜を見る。その華蓮の目を十六夜はまっすぐ見返した。言葉はなくともその顔は語っていた、お前を認めると。

 十六夜に認められた華蓮は喜びに震えた。が、同時に自分を恥じた。

 正直なところ、華蓮はこの一騎打ちを真面目にするつもりはなかった。

 一騎打ちと称し、交差する瞬間に十六夜を捕まえて勝つ、そう考えていた。

 

 ここで補足だが、華蓮の解封には時間制限がある。噴き出す力に華蓮の体が絶えられないのだ。時間制限は開封する層が多くなるにつれて、短くなる。

 

 華蓮は限界(それ)を感じていた。

 実際、華蓮はひどい頭痛に現在進行形で苦しんでいる。体のあちこちにガタがきて、動くたびに激痛が走った。

 だからこそ、この作戦を決行したのだ。

 だが、十六夜に認められた今の華蓮にその選択肢はない。

 

(全く…さっきまでの自分をぶっ飛ばしたい。こんな方法で十六夜に勝っても、意味がないってのはわかってたはずなのに……。なにが限界だ!限界でもなんでも、本気で倒さなきゃ意味がないだろうが私!!)

 

 華蓮は決意を新たに、十六夜を睨みつける。

 それを見た十六夜は嬉しそうに笑うと腰を落とし、一撃を放つ用意をした。

 十六夜が用意したように、華蓮も力を貯める。

 後ろに引き絞った右拳に風がまとわりついて行く、まるで小型の台風を持っているようだ。

 

「………」

「………」

 

 二人はそのままタイミングを見計らう。

 お互いが必殺の力を持っている以上、下手な攻撃は出来なかった。

 

 しかしその時は意外と早く訪れた。

 やはり限界だったのか、華蓮の顔が痛みで歪む。その瞬間、十六夜は華蓮目掛けて跳んだ。

 一瞬遅れて華蓮も駆ける。右拳に纏った空気が高速で回転し、螺旋の軌跡を残しつつ十六夜に迫る。

 

「華蓮!!!!」

「十六夜!!!!」

 

 二人の拳がぶつかり合う。

 その瞬間、あたり一帯に爆音や衝撃と共に暴風が吹き荒れーーー

 

 ーーー勝敗が決した。

 




決着!!第二章完!!!(嘘)
なんか長くなりましたこの回。

補足ですが、十六夜も華蓮も本気ではないです。
あいつらが本気だしたら、あの街が吹っ飛んでしまいますからね。

お互いにひどいダメージを受けてしまい、満身創痍。
………こんな時に魔王と戦えるんですかねぇ?(ゲス顏)

次回をお楽しみに!!

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