担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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続きです。

色々な小説読んでると、新しいジャンルの小説が書きたくなる今日この頃。

多分この展開はないと思います。


第二話 衝突

 華蓮はサウザンドアイズにいる時に貰った服を着て、店の外へ出た。(断じてメイド服ではない)

 

  ちなみに華蓮は、ワンサイズ大きなシャツをヘソ上で結ぶという上に、裾の広がったゆるーいズボンの下、加えてポニーテールというどこぞの堕天使エロメイドを幾分かまともにしたような服装だった。

 

「ーーー後で、タップリオセッキョウデス。ニゲナイデクダサイネ?」

「りょ、了解」

 

 そして、店から飛び出した時、既に事件は起こっていた。中心にいるのは黒ウサギ。

 華蓮は初め、黒ウサギがいたことに驚いた。が、すぐに黒ウサギの放つ怒気に気づき顔を青ざめさせる。

 その黒ウサギだが、空中に浮かぶ耀のブーツを掴み、座った目で説教を予告していた。

 しばらくその様子を傍観していると、黒ウサギがゆっくりとした動作でこちらを向いた。その瞬間、怒気はそのままに黒ウサギは、カチンと固まってしまった。

 

「……」

「……」

 

 二人の間に気まずい空気が流れる。華蓮も黒ウサギも言いたいことが山ほどあるのだが、いざとなると……という奴だ。

 

「………お主達は何をしておるんじゃ?」

 

 その重々しい空気をぶち壊してくれたのは白夜叉だった。白夜叉は開いていた扇子をパチンと閉じ、ため息を尽きながらそう言った。

 その言葉にハッとした黒ウサギは一瞬で華蓮へ詰め寄り、どもりながらも口を開いた。

 

「華蓮さん!お、お久しぶりです!体調に変化はありませんでしたか?」

「う、うん大丈夫だよ黒ウサギ。白夜叉が時々視てくれてるし、最近は結構安定してるんだから!」

 

 何気ない近況報告だが、たった一回のやりとりですら感じてしまう違和感があった。

 華蓮は相談もしないで勝手にサウザンドアイズへ入ったことへの罪悪感から。黒ウサギはその気持ちを理解している。しかし、華蓮の抱える問題は知らないため、どうしても硬さが抜けないのだ。それを隠そうと、お互い無駄にテンションを高くしているのだが、それがかえって違和感を浮き彫りにしていた。

 ちなみに、黒ウサギ達に伝えてある理由には多くの嘘が混じっている。黒ウサギ達には、霊的な魔王に取り憑かれたため白夜叉のいるサウザンドアイズで生活することになったと説明してあるが、どこまで信じているのか。

 特に、あの場にいた十六夜をはじめとする問題児達と黒ウサギ、そして年長組のリリは疑問に思うだろう。なにせ、華蓮がギフトを使うと、分かりやすいことに華蓮の身体に変化が現れるからだ。これでは華蓮の変化=ギフトの使用という仮説が容易に立ってしまう。

 

(案外、もうばれてたりして)

 

「ま、まぁ積もる話はたくさんありますが、黒ウサギはあの問題児様方を捕まえねばなりませんので、これにて失礼します。幸いにも耀さんは捕まえましたので、後は十六夜さんと飛鳥さんだけです!」

「その事なんだけどさ。黒ウサギ、耀はとっくに脱出して逃げたよ?」

 

「………はい?」

 

 黒ウサギが一瞬で固まる。そして、ゆっくりと顔を後ろに向けるがそこに耀の姿はない。

 

「……どうして教えてくれなかったのですか……?」

 

 失意に肩を落とした黒ウサギが、沈んだ声で問いかけてくる。

 それに多少のデジャヴを感じながらも華蓮は答えた。

 

「だって耀がすごい睨んできたんだもん。あれは『黒ウサギには教えるな!』っていう意味だったんだよ。……多分」

 

 最後の部分がしりすぼみになったのは、耀からずっと敵意を向けられていたからだ。そう、メイド(あの)姿を見られてから。ちなみに、耀の視線は華蓮のある一部分を向いていたのだが華蓮は気づかなかった。

 

「……はぁ。またあの問題児様方を捕まえるのですか…気が重いです」

「ねぇ黒ウサギ?なんであいつらを追いかけてんの?」

 

 華蓮はずっと気になっていた事を聞いた。黒ウサギは一瞬悩んだが教えてくれた。

 

「あの問題児様方が、勝手に北側へ向かったからです。大方、秘密にしていた火龍誕生祭への招待状でも見たのでしょう」

「ああ〜、あいつらならやりそう。でも、事情は分かるけどさ、秘密は良くないね(私が言えることじゃないけど)。ばれた時、どんな行動に出るか分からないんだから、あの問題児達は」

「それはそうなのですが……」

 

 黒ウサギは何か言いたそうだったが、華蓮は気にせず黒ウサギに続きを話すよう促した。

 

「それで?なんで黒ウサギはそんなに怒ってんの?」

「それは、あの方々が置いていった置き手紙が……」

「内容は?」

「御三人方とジン坊ちゃんで火龍誕生祭へ行くという内容でした。……そして、もし捕まえることができなければ

 ーーーーーコミュニティを脱退する(・・・・・・・・・・・)と、最後に書かれていました」

 

「……はあ?脱退だって?」

 

 その言葉を聞いた時、華蓮は自身の中に渦巻く怒りを感じた。

 

(脱退?なんだそれ。あの時あいつらに伝えたはずだ、黒ウサギを、ノーネームを任せるって。それなのに、あいつらは!)

 

「か、華蓮さん?」

 

 黒ウサギが心配そうに声をかける。だが、その言葉も怒りで冷静さを欠いた今の華蓮には届かない。

 華蓮にとって『脱退』は、それほど聞きたくない言葉だった。

 

「……黒ウサギ、私も捕まえるの手伝うよ」

「い、いえ、華蓮さんにまで迷惑をかけるわけには……」

いいよね(・・・・)?」

「は、はい」

 

 有無を言わさぬ華蓮の言葉に、黒ウサギはただうなづくことしかできなかった。

 

「手分けしよう。黒ウサギは耀を捕まえて。私は十六夜達を捕まえる」

「で、ですが、十六夜さんの速さについていけるのですか?私が十六夜さんを追った方が……」

 

 黒ウサギの言い分は最もだろう。十六夜は黒ウサギと同等かそれ以上の足を持っている。華蓮では追いつけないというのが黒ウサギの考えだった。

 

「大丈夫。私がこの一ヶ月、何もしてないと思ってるの?」

「それは、どういう……?」

 

 黒ウサギの問いかけに華蓮は答えなかった。

 代わりに華蓮は素早く何かをつぶやいた。その途端、華蓮の体から膨大な量の力が湧き上がる。それを華蓮は全力で抑え込み、安定させ自らの体に纏った。

 黒ウサギはその光景に唖然とするも、この現象について問いただそうとする。しかし、華蓮の顔を見た瞬間、再び言葉を失い黙り込んだ。

 黒ウサギが見たのは、口元に浮かべる壮絶な笑みと、伸びた犬歯と爪。そしてーーーーーー白銀に変化した双眼(・・・・・・・・・)だった。

 

「さぁて、覚悟はできてんだろうなァ!速攻で捕まえて、一人ずつ説教だぁぁぁァァァ!!!!」

 

 怒りに満ちた叫びは大気を震わせ北の街に響き渡った。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「今の声って、柊さん…よね?」

「十中八九そうだろうな。しかも声の調子からして相当切れてるぞ、アイツ」

 

 突然聞こえた叫び声に身をすくめる飛鳥。対する十六夜は特に驚く様子もなく、むしろこの状況を楽しんでいた。

 

「大方、脱退するって黒ウサギから聞いたんだろうな。アイツ、俺たちに頼むって言ってたからな。そりゃ切れるわ」

「た、大変じゃない!早く移動した方が……」

 

 その瞬間。

 どこからともなく飛来したナニカが大地を砕いた。

 立ち上る粉塵。その中で、ナニカ……華蓮はユラリと立ち上がり、

 

「ミィ〜ツケタ」

 

 恐ろしいほどの無表情でそう言った。

 それは十六夜すら怖気を感じるほどの迫力で、気がつかないうちに冷や汗が伝うほどだった。

 

「お嬢様!こっからは別行動だ!固まってたらすぐにやられるぞ!」

「ええ!分かったわ!」

「死ぬなよ」

「十六夜くんこそ」

 

 十六夜と飛鳥がそう言い合いバラバラに逃げる。

 それを華蓮は変わらず無表情で見つめていた。余計怖い。

 華蓮は、十六夜と飛鳥のどちらを追うか悩んだ。思案は一瞬、華蓮は十六夜を追うことにした。

 現在の華蓮の五感は人間離れして鋭くなっている。華蓮は、飛鳥を追うレティシアの姿を捉えていた。

 

「まず最初はお前だ、十六夜!タップリ、説教してやるから覚悟しておけ!」

「ハッ、黒ウサギの説教+お前の説教かよ!絶対受けたくないな!そんなに説教したいんなら俺を捕まえてみな!」

 

 そう言って十六夜はスピードを上げる。だがそれは華蓮の許容範囲内。こちらもスピードを上げ、迫る。

 初めは歩道を走っていたのだが、上下に激しく飛び回っていたおかげで、気づけば屋根の上を走っていた。

 その時、突然十六夜がスピードを落とし止まった。華蓮も同じくスピードを落とし、止まる。

 

「観念したのかな?」

「んなわけあるかよ。ただギャラリーが増えてきてやがるし、このまま走り続けるってのも面白くないだろ?」

「それで?十六夜はなにがお望みで?」

 

 その問いに十六夜はニッと笑い、言った。

 

「俺とお前でギフトゲームをしようぜ。小規模ながら、それなりに楽しめるルールでな」

「ふ〜ん、別にいいよ。じゃあ、勝者には敗者への命令権一回分ってのはどう?」

 

 それを聞いた十六夜が笑う。華蓮が簡単に勝負に乗ったこともあるが、提示した賞品が可笑しかった。

 

「ハッ、いいのかよそんな賞品で?お前にそういうこと(・・・・・・)を命令するかもしれねぇんだぞ?」

 

 十六夜は華蓮の胸元を見ながらそういった。それが何を意味するかは明白である。

 だが、

 

「ふ〜ん?十六夜はそういうこと(・・・・・・)をして欲しいの?」

 

 華蓮はむしろ誘うような声音で、十六夜を挑発する。両腕で胸を強調するように抱え上げるというオプション付きだ。

 

「それもよかったんだけどな、今回は違うことを命令するとするぜ。ちなみに柊は何を命令するつもりだ?」

「そうだね……じゃあ、私が勝ったら名前で呼びなさい(・・・・・・・・)

「ああ、いいぜ!俺に勝てたら名前で読んでやるよ、柊」

 

 その瞬間、それぞれ目の前に一枚の契約書類(ギアスロール)が現れた。

 

【《ギフトゲーム》

『月下の銀虎』

 

 《プレイヤー》

 ・逆廻 十六夜

 ・柊 華蓮

 

 《勝利条件》

 ・相手に手のひらで触れる

 

 《ルール》

 ・コイントスでゲームが開始する

 ・ギフトの使用は制限なく有り

 ・プレイヤー以外の生物は殺傷不可

 

 以上の事を守り、『逆廻 十六夜』『柊 華蓮』は正々堂々ギフトゲームをすることを誓います。】

 

 内容に目を通し終わった時、華蓮の手に一枚のコインが現れた。

 

「トスは私がするよ」

「オーケー、いつでもいいぜ」

 

 十六夜からの了解も得たことだし、早速始めようとコインを構える。

 その時、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。

 

「ねぇ、十六夜は結局何を命令するつもりなの?」

「………」

 

 十六夜は何も答えない。

 それを見て、華蓮は時間の無駄だとコインを打ち上げた。

 コインはゆっくりと落ちてくる。時間にして数秒。そんな中、十六夜は華蓮の問いに答えた。

 

「……俺の命令はたった一つ、お前が俺たちに隠していることを話せ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。これだけだ」

 

 見開かれる華蓮の双眼。

 次の瞬間、コインから澄んだ音が鳴り響き、

 

 ーーーーー負けられない戦い(ギフトゲーム)が始まった。

 




次回、『月下の銀虎』
また次回!ではでは〜

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