第一話 華蓮弄り
あれから一ヶ月、サウザンドアイズは沢山の
「カレンちゃんこっち向いてー!」
「なっ、で、でかい!」
「まだ16歳らしいぞ!まだまだ成長する!」
「「「な、何だって――!!!」」」
あいもかわらず客がすごかった。これは特別手当の他にボーナスもらってもいいと思う。いや、メイド服を着させた白夜叉の手柄なのか、残念。
ちなみにその白夜叉は……
「で、伝説の白夜叉様だ!」
「おお!神よ!」
「フフフ、もっと我を崇めよ!信仰せよ!!」
「「「YES!!白夜叉様万歳!!!」」」
信仰の対象となっている。しかも櫓を設置するという徹底ぶり。ダメだ、もうどうすることも出来ない。私がうなだれていると、
「ああそうじゃ、華蓮!」
「ナンデゴザイマショウ、白夜叉様?」
「果てし無く棒読みに聞こえたのじゃが?」
「気のせいよ。で、何?」
白夜叉は、櫓の上からとんでもないことを言いはなった。
「もうそろそろあの
「はっ?き、聞いてないよ!」
私は今日一番の叫びをあげた。
あれから何度か十六夜たちが訪れたのだが、タイミングの悪いことに私は他の店に出張していた。ちなみにその地域でも客はすごかった。最近ではファンクラブらしきものまでできているらしい。正直実感わかないけど。
そんな中、一度だけ会うことができたんだけど、それはオフの時。
「はっ、早く着替えないと!この姿は絶対に見られる訳にはいかない!!」
見られなかったからこそ、平和?に仕事ができていたんだ!あいつらに見られたが最後、恥ずかしさでどうにかなってしまいそう。少なくとも仕事はできないな、うん。
というわけで、現在進行形で押し寄せる客をあしらい進み、店に戻る。
よし、オッケー、そのまま奥の部屋へ向かい、ギフトカードからもとの服を実体化……したところで、
「なんだこの騒ぎは?」
「何かあったのかしら?」
「……何かあったの?」
「うん?あんたら知らないのか?!この店の新入りのロリメイドのことを!」
「「「ロリメイド?あっ、そういうこと」」」
(そういうことじゃないよ!何把握してんの?!くんな!こっちこないで!)
サウザンドアイズの店は部屋がある程度あるから、すぐは見つからない!と思っていた時期が私にもありました。
(あ〜、あっちには耀がいたんだっけ……)
私が遠い目をして諦めた瞬間、襖がガラリと開かれた。
そこには、ニヤニヤと笑う十六夜と、顔を真っ赤にさせた飛鳥&ジンと、なぜか敵意を向ける耀がいた。
◆◆◆◆◆
「あの……もう許してもらえませんか?」
「何のことかなロリメイド様?」
「ゴフッ」
「よくあんな恥ずかしい格好が……」
「ガハッ」
「……負けない」
「そして耀はなぜ敵意を向ける?!」
あれからずっといじられていた。
そのなかで耀が敵意を向ける理由はわからなかったよ。やっぱり勝手にサウザンドアイズに入ったのが悪かったのかな?
「あの……着替えたいんですが」
「それはダメ、隠していた罰よ」
何この羞恥プレイ。恥ずかしさで顔が真っ赤だよ、絶対。しばらくそうしていると十六夜が話を切り上げ、話し始めた。
「まぁこんくらいにしとくか。で、本題だ白夜叉、北側まで連れていけやコラ」
「「連れてけコラー」」
もしかして火龍誕生祭のことかな?私もサウザンドアイズにいる以上、かなり情報は耳にする。今ではかなりの情報通だと自負しています。
「まぁ落ち着け。もちろん北側までは連れて行こう。ただし条件がある」
「条件ってのは?」
「うむ。じゃが本題の前に一つ問う。『フォレス・ガロ』の一件以降、おんしらが魔王に関するトラブルを引き受けるとの噂があるそうだが……真か?」
「はい、本当の話です」
(……マジで?)
知らないうちに目標大きくなってない?
(魔王のトラブルを引き受けるってことは、レイラたちが次問題を起こしたら……ヤバイじゃん)
「リスクは承知の上なのだな?そのような噂は、同時に魔王を引きつけることにもなるぞ」
「覚悟の上です。それに、仇の魔王からシンボルを取り戻そうにも、今の組織力では上層に行くことは不可能です。決闘に出向くことができないなら、誘き出してそこを迎え撃つしかありません」
ここにいますけどね、魔王。
「無関係な魔王と敵対するやもしれんのだぞ。それでもか?」
「倒した魔王は隷属させ、さらに強力な魔王を倒す打倒魔王を掲げるコミュニティ…………どうだ?流石の箱庭でもこんなにカッコいいコミュニティ、他には無いだろ?」
(れ、隷属だと……それは困る、身内として!)
どんどん追い詰められるんだけど!……って、
(あれ?そういえばレイラ倒したから、隷属関係にあるのかな?)
そう思いギフトカードを見てみると、
・《朱雀》――隷属
の文字が。ってことは出せるんじゃね?
「あの……白夜叉様?」
「ん?なんじゃ?」
「
聞き覚えのない名前に首を傾げる十六夜たち。
白夜叉は少し考えるような仕草をした後言った。
「まぁ条件付きで許そうかの」
「やった!で条件ってのはなに?」
「いやたいしたことではない。ただ、例のギフトを代わりに封印すればいいだけじゃ。元魔王を出すのは立場的にまずいのでな」
わかりました。そう言おうとした瞬間、頭に声が響いた。
『ストップストップ!ちょっと待って!』
(何?おねぇちゃん)
『いやそのギフトが無いと、本来の3割も力が出せないんだよ!それ意外でお願いって説得して!』
(ダメだよそんなの。ただでさえ、私たちをサウザンドアイズに入れて匿ってくれた恩があるのにこれ以上迷惑をかける訳にはいかないよ)
『そんなぁ……まぁ、仕方ないか』
(大丈夫、いざとなったら私が守るから)
『それは頼もしいことで』
(どういたしまして)
レイラとの話も終わり、周囲に注意を向けると、白夜叉が何か話していた。重要な話なのか知らないけど、ジン君の顔が険しい。
「どうしたの?」
「聞いてなかったのか?どうやらおチビの幼馴染が北側の
「へぇ、それであんなに焦ってるのか……もしかして気があったりするのかな?」
「知らね」
興味な下げに言う十六夜にそうだねと同意した時、耀が慌てた様子で白夜叉に言った。
「ちょっと待って、その話長くなる?」
その途端ハッと何かに気づく十六夜たち。ジン君が慌てて何か言おうとするが、飛鳥に強制口止めされた。
「また何かやらかしたな……?」
「黒ウサギ達に内緒で来た。置き手紙したから心配はしないだろうけどな。……白夜叉、理由は後で話す。何より――その方が面白い!」
黒ウサギ……。ってか面白いってなんだよ十六夜。そんなこと言ったらうちの幹部様が黙ってないってのに。
「そうか。
白夜叉はそう言うと柏手を2回打った。その瞬間、空気がガラリと変わるのを私は感じた。
サウザンドアイズにいる時に幾度か訪れた北側の匂いだ。
でも、
「よし、北側へ着いたぞ」
「「「え?!」」」
「早くない?」
こんなに早かったっけ?
十六夜たちも私の隣で同じように疑問に思っていたようだが、次の瞬間には顔を輝かせると一瞬で店の外へ出て行ってしまった。
一人取り残されポカーンとしていると、
「そんなとこで突っ立っているでないぞ、華蓮。今日は久しぶりにあやつらと祭りを楽しんでくるといい。じゃがくれぐれもハメをはずさんようにな」
「えっ?!ありがとう白夜叉、超大好き!」
白夜叉から休みをもらった。
思いがけない白夜叉のご好意に、私は自分でもわかる位顔を綻ばせると、一瞬で着替えを済ませ、光溢れる北の街へと繰り出して行った。