できるだけ待たせないように頑張ります!
では、どうぞ!
目を開けると、そこは見たことのない世界だった。
単調な色でできていて、もやもやした世界。
そんな世界に『私』はいた。世界と同じでふわふわしている。
………体が軽い、もう何も……やめておこう。これはこの世界にふさわしくない。
そんなことを考えていると向こうから、誰かこちらに向かってくるのが見えた。
そいつの周りは真っ赤に染まり、まるで灼熱に燃える太陽みたいだった。
あぁ……私はあの『人』を知っている。
いつも太陽のように暖かくて、優しかった人。だけど小さい頃にいなくなっちゃった人。その人が近づいてくる。
でもなんだろうこの感じ、つい最近出会ったような感覚。だけどこの感覚は決してプラスのものではない。
あの人から発せられる雰囲気が昔と違う。
………そっか、そうだったのか、貴方が――
――久しぶり、
幼い頃、華蓮には親がいなかった。その代わりに育ててくれたのが、両親の古い友人と言っていたレイラだった。
そのおかげで華蓮は寂しいとも悲しいとも思わずに過ごし、時が経つに連れて両親がいないことも疑問に思わなくなって行った。
その彼女が目の前にいる。だが本来は嬉しい再開のはずなのに、華蓮の顔は険しかった。
「………久しぶり、か。華蓮、もう分かっているのだろう?」
「………うん、もう分かったよ。朱雀」
朱雀――レイラはどこか悲しそうに目を伏せた。まるで、幸せな時間が終わった時の子供のように。
「おねぇちゃん、どうしてあんなことをしたの?大勢の人を巻き込んで一体なんの得があったっていうの⁈」
怒っているのに、どこか悲しそうな華蓮を見ながら、レイラは何かを思い出すかのように言った。
「そうだな。実を言うと目的はなかったんだ。ただ、惰性で永遠に続くかのようなゲームを繰り返していただけさ」
「そんな……このゲームでどれだけの被害が出たと思っているの⁉︎それを惰性だって?ふざけないでよ!」
ほとんど悲鳴に近いその叫びは、レイラの心を深く深く抉って行った。かつて愛した人が涙を流し悲しむ様子は、レイラにはとても耐え難い苦痛だった。
「ごめん」
「………っ!」
レイラから謝罪が入り、それを聞き華蓮が身を震わせる。それが幾度となく繰り返された時、不意にレイラの方から声がかかった。
「私があなた達にしたことはとても許されることではないわ。償っても償いきれない罪を私は背負っているのよ。
……だから、ここでさよならね。華蓮」
「……………えっ?」
華蓮は最初、レイラが何を言っているのかわからなかった。だがすぐに理解した……レイラは華蓮の元を去るつもりだ、自分の罪を華蓮に着せないために。
「やめてよ、おねぇちゃん。そんなこと誰も望んでない。………おねぇちゃんがいなくなるなんて嫌だよ」
「………」
予想できることだったのかレイラは何も言わない。ただ、たとえ止められても揺るがないものがそこにはあった。
「ごめんね。でも私の罪は華蓮が思っているよりずっと重いのよ。数百年前から魔王として活動し、箱庭で暴れてきたこの罪は簡単には消えないわ。一緒にいたらきっと華蓮を不幸にしちゃう。だから華蓮がなんと言おうとも、私はここを去る。これはもう決めたことだし、絶対に譲れないことなの。………分かったわね?」
「…………………」
華蓮はうなだれたまま動かない。レイラはそれを見て、もうここを去ることにした。踵を返し歩き始めようとする。
「ふざけんな!」
「えっ?」
歩き出そうとした瞬間、後ろから聞こえた言葉を誰が言ったのか、レイラは本気で分からなかった。振り向き確認しようとした時には、レイラの体は宙をまっていた。殴られた、そう気づくまでにこれほど時間がかかるとは思わなかった。
「華蓮?」
思わず疑問形で話してしまう、それほどまでに予想外の出来事だった。レイラの知る華蓮は大人しくて、素直な少女だったはずだが。
「なに素っ頓狂な声あげてんだよ。おねぇちゃんがいなくなってから何年経ったと思ってるんだ!」
「………なるほどね。でも分かっているの?私と一緒にいるとあなたが」
「関係ないよ‼︎」
レイラの言葉を遮るように叫ぶ華蓮。呆気にとられるレイラを無視して叫び続ける。
「さっきから聞いていれば不幸不幸って勝手なこと言って、ふざけんな!人の幸せや不幸を勝手に決めるんじゃねぇ!私のことは私が決める、それを横から指図するな!
それに…………おねぇちゃんが罪を償うって言うんなら、私も着いて行く」
「な、何を言っているの⁈そんな事させないわ絶対に!分かってるの?私についてくる……いえ、私と一緒にいることがどれだけ大変なことか……」
レイラは、まだ箱庭にいた時のことを思い出す。
「私についてくれば、白夜叉と敵対するかもしれないのよ、それでも?」
「構わないよ。
………私なりにリスクは考えて見たよ。正直、大変な道だと思う。それでも、だからこそ私は一緒に行く。
――それが
家族……まだ自分をそう呼んでくれるのか、レイラは熱い何かが頬を伝うのを感じた。いつまでも流れ続けるそれは、レイラの気持ちを映す鏡のようだった。
「後悔しないね?」
「もちろん!覚悟はできてる。それに………」
首を傾げたレイラを華蓮はニヤリと見つめると。
「
「っ!………本当に成長したね華蓮。………色々と」
ニッコリと笑いあい、そう言い合う二人。それは本当の姉妹のようであった。
「………じゃあ華蓮、準備はいいね。もうすぐあなたは目を覚ますわ。それから色々と聞かれるでしょうけど、あなたなら大丈夫。自信を持ってね!私はいつでも、あなたのそばにいるから」
「うん、分かったよおねぇちゃん。………じゃあ行ってくるね」
言い終わると華蓮の体がフワッと浮き上がった。
華蓮はもう一度、レイラを見て手を振ると前を向き光の中へと飛び込んで行った。
「がんばってね、華蓮」
華蓮と