担い手も異世界から来るそうですよ?   作:吉井

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この話もいよいよ十話、よければこれからも見て行ってください。

投稿ペースを安定させたい。


第十話 A LIVING CORPSE (後編)

  四人は目の前で起きたことを、一瞬理解できなかった。

  飛び散る血液と狼男の肉片。非日常的なその惨状に女性三人は思わず目を背けた。十六夜も、目を背けなかったが険しい表情をしていた。

 

「……悪趣味だな。殺さずに永遠に死と生を繰り返すなんてよ」

「……ねぇ、黒ウサギ。これが、魔王のゲーム……なの?」

「はい……ですが、このゲームは明らか異質です。この様なゲームは箱庭でもそうそうありません」

 

  その話の間も、再生は繰り返される。いきなり空から炎が降ってきたかと思うと、狼男の肉片が集まりそれを炎が包んだ。ジュッという音と共に、肉の焼ける嫌な臭いが立ち込める。そして次の瞬間には再生した狼男がそこに立っていた。

  呆気にとられる四人に気づいたのか、狼男が近寄ってすがりついてきた。

 

「なぁ、助けてくれ!俺はもうあれをくらいたくねぇ‼︎……生きたいけど、もしそれが無理ならいっそ俺…を……」

 

  言葉は最後まで発せられなかった。すがりつく狼男の血管が浮き上がり始めたのだ。再び、あの絶叫が響き渡る。狼男は一層強く頼みこんだ。

 

「は…早く……」

「い…いや……」

「お…れ…を……」

「やめて……やめてよ……」

「殺してくれ……」

「い…いや……いやあああぁぁぁぁああああああぁぁあああぁ‼︎‼︎………離れて!わ…私に……『私に、近寄らないで‼︎』」

 

  飛鳥の声が響いた途端、狼男はすがりつくのをやめ五人から一気に距離をとった。パニックに陥った飛鳥は叫び声を上げながら走って行ってしまった。

 

「飛鳥さん!」

「飛鳥!」

「飛鳥様!」

 

  三人は飛鳥を追った。不意をつかれて距離が空いてしまったが、飛鳥の足ならすぐに追いつけるだろう。それにたとえ見失っても黒ウサギのうさ耳があれば場所などすぐにわかる。

  そんな三人の後ろからまたしても、何かが破裂する音が響いた。距離の空いた三人に聞こえなかったのは幸か不幸か……

 

 ◇◇◇

 

「飛鳥さん!」

 

  思った通りそれほど離れていない場所で、うずくまっている飛鳥を発見した。落ち着いているようだが、すすり泣く声が聞こえるため、黒ウサギをかける言葉に迷っている。黒ウサギが迷っていると飛鳥の方から話し始めた。

 

「黒ウサギ……私、最低だわ……」

「………」

 

  そんなことありません!とは言えなかった。震える飛鳥の声を聞くと、そんな慰めをかけることができなくなってしまった。飛鳥の言葉は続く、ポツリポツリと放たれるその言葉はまるで飛鳥自身を責めているように、黒ウサギは感じた。

 

「私ね……最初この力が嫌だった。……いいえ今も嫌いよ。でもこの嫌な力でも、みんなを守ることができるのなら、ちょっとだけ好きになれた。……でも守ることも救うこともできなかった!あまつさえ私は、目の前で助けを求める人を拒否してしまった!………最低よね、私」

 

「そんなことありません‼︎」

 

  思わず黒ウサギは叫んでいた。飛鳥の話をこのまま黙って聞くことなど黒ウサギにはできなかった。

 

「そんなことないです。飛鳥さんは最低じゃありません!………飛鳥さんが御自身の力でどれほど苦労なさり苦悩したかは、黒ウサギにはわかりません。ですが、出会ったばかりの黒ウサギでさえ分かったことがあります」

「………」

 

  後ろで誰かが動く気配がした。だが今の黒ウサギにとって、そんなことよりも飛鳥のことが重要だった。

 

「それは飛鳥さんの優しさです。ガルドに子供達がさらわれた時、飛鳥さんは一緒に助けに来てくださいました。他の人から見れば我儘かもしれませんが、私にとってあれはとても嬉しいことでした」

「……ありがとう黒ウサギ。でも……」

 

  黒ウサギは自分の気持ちを包み隠さず話していく。それは根本的な解決にはなっていない、飛鳥が狼男を見捨てた事実は消えはしない。それでも黒ウサギには飛鳥にもう一度立ち上がって欲しかった。

 

「確かに、見捨てたことはなかったことにはなりません。でもそれで諦めるのはもっとダメです!このゲームのルール上、あの人はまだ死んではいません。飛鳥さん、今からでも救うことはできるんです。飛鳥さんが本気で助けたいと思うのなら、後悔より先にやることがあると思います!」

 

 自分の気持ちを全て吐露した黒ウサギは、そこで飛鳥の様子を伺った。言い過ぎて傷つけていないかと、だがそんな心配は杞憂に終わった。

 飛鳥もここまで言われて、黙っているわけにはいかなかった。

 

「……そうね。今悩んだって、何かが変わるわけでもない。そんなことより、このゲームをクリアする方が何倍も大事よね!ありがとう黒ウサギ、もう大丈夫よ」

 

 このゲームを絶対クリアする、決意を新たに飛鳥は再び立ち上がる。

 それを満面の笑みで見ていた黒ウサギは不覚にも、後ろから迫る人影に反応できなかった。

 

「おりゃ!」

「ぅひゃあぁ‼︎」

 

  まぁ十六夜だから安心?なのだが、十六夜は気配を殺して忍び寄るとどこから調達したのか、キンキンに冷えた水を黒ウサギの背中に浴びせかけた。

 

「冷た‼︎もう、十六夜さん!いきなり何をするのですか!それにその水!どこから調達してきたのですか‼︎」

 

  ウガー!と一息に喋る黒ウサギ。それをみて十六夜は全く悪びれることなく言った。

 

「いや、森に入ったら春日部が湧き出ている水を見つけたんだよ。冷たくて美味かったから、黒ウサギ達にも飲ませようと思いやりました悪気はない!」

「なら、なぜ黒ウサギにかけたのですか⁈」

「手が滑った」

「言い訳が雑すぎです!この問題児様ぁぁあ‼︎」

 

  どこから取り出したのか、ハリセンで引っ叩く。スパーンと森に小気味のいい音が鳴り響いた。

 

 〜閑話休題(そんなことより)

 

「このゲームをクリアする方法がわかったぞ」

 

  一発もらった後、十六夜は顔を引き締め真剣な表情で四人に言った。

 

「クリア方法がわかったって本当?」

「あぁ、それもうまくいけば三つの条件全てをクリアする

 ウルトラCだ。……だがこれはお嬢様と柊次第のギリギリの綱渡りだ。お嬢様、覚悟はできてるか?」

 

「もちろんよ!」

 

  即答だった。下手をすればクリアどころかプレイヤー全員の命が失われるかもしれない、その可能性を考えた上での即決だった。

 

「よし!頑張れよお嬢様。……今から作戦を発表するぞ」

 

  今この瞬間、このゲームはクリアに向かって動き始めた。

 

 ◆◆◆

 

「……ペナルティ……ペナルティ……ペナルティ……あーあ、プレイヤー総数約二百人、ペナルティを受けたプレイヤー、187人……今回もクリアされないのかなぁ」

 

「心配すんなよ魔王様、今からクリアしてやるからよ」

 

  ため息をついた朱雀の呟きに応えるように、十六夜が言葉を発した。

 

「なんだ……この子のお仲間さんか。でもクリアするってことはこの子を殺すってこと?……フフ、酷いよねぇ。それが仲間にする所業かよ」

 

  朱雀はジロリと十六夜を一瞥すると、おかしそうに笑った。

 

「殺さねぇよ、いや俺一人だったらそうしてたかもな。だがこっちに必要な力はあった。つまりお前は運がなかったってことだ」

 

  馬鹿にするような十六夜の言葉を聞き流し、朱雀は問いかけた。

 

「その前にペナルティのことを聞いておこうかな。ここまでたどり着く奴はたくさんいたからねぇ、答え合わせだ」

「いいぜ、なら最初はペナルティのことからだな」

 

  そう言うと十六夜は自身の考えを話し始めた。

 

「まずペナルティがどのタイミングで発生するのか、これはルールにも書いてあるとおり『テリトリー外に出たとき』と『回復を拒んだとき』だ。前者はまずない、ペナルティを食らうとわかって行く馬鹿はいないだろうしな。となるとほとんどが後者となる」

「回復を拒むだなんてあり得ないわ。それは自ら死へと向かうのと同じじゃないの」

 

  十六夜と回答に問いを投げかける朱雀。しかしそれに対する十六夜の回答はとても簡単だった。

 

「その通りだ。拒んだ奴らは死にたかったんだよ」

「………」

 

  ここで始めて朱雀が沈黙した。その様子に自信を持った十六夜は話し続ける。

 

「もちろん最初から死にたい奴はいない。ならどうして拒むのか?それは回復に問題があるからだと考えるのが普通だ」

「私が回復し損なっていると?」

「いやそれはない。ルールやお前の魔王の名から、回復に自信があることはわかっているからな。……つまり回復は完壁に行われている」

「それはどうも。……ならどうして拒まれるのかしら?」

 

  その問いに十六夜は答える。黒ウサギ達に話したところ、盛大に驚かれたことを話す。

 

「少し考えれば分かったことなんだがな………なぜ俺たちは回復が痛みなしでできると思っていた?俺がもといた世界ですら強烈な痛みを伴う治療はあった。それにギフトが加わればどこまで痛くなるかなんて分かんねぇ。極めつけにこのルールだ。これには回復すると書いてあるだけで、詳しいことが何も書かれていない。つまり治すことができれば過程なんてどうでもいいって事。ここまで分かれば何が起きたかもわかるな」

 

  つまり何が起こったか。

  まずプレイヤーが何かしらの怪我をする。これはどのようなものでもいい。すり傷、切り傷、やけどetc……そしてルール通り回復が行われる、激痛を伴う治療が。そしてその途中で暴れたり『やめろ』などの声をあげれば(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)拒絶と認識され、ペナルティを課せられる。そこからは半無限ループだ。

  ループから抜けるためにはあらゆるベクトルで襲いかかる激痛を、身じろぎ一つすることなく耐えなければならない。

 

「耐え切れなければアウト。そしてこれを繰り返していれば勝手に心折れるよな。お前は何もしなくても勝ちって事だ」

「正解。その通りだよ……でも本番はここから、お前は怪我一つすることなくクリアしないといけないんだよ。それはまず不可能だね」

 

  朱雀の言うとおりこれは限りなく不可能に近い。このゲームをクリアする条件は三つ。それを怪我をすることなく達成しないといけないからだ。

 

「……確かに一人だと難しかったかもな。柊を殺していたかもしれねぇ」

「でも結局殺すんでしょ?変わらないよ」

「変わるさ。言っただろ、必要な力は揃っているってな!」

 

  それを合図に飛鳥が黒ウサギ達と共に現れた。

  絶対にクリアすると、覚悟を決めた飛鳥はそのまま威光を発動させる。

 

「『目覚めなさい‼︎‼︎』」

 

  シンと静まり返る空間。その静寂を破ったのは朱雀の嘲笑だった。

 

「まさかこれが切り札?彼女のギフトは知ってるよ。命令を下し支配する力だよね。でもそれが効くのは、格下の相手だけだよ」

 

  朱雀は勝利を確信した。こいつらにゲームをクリアすることはできない。朱雀はこのゲームを終わらせるため、テリトリー全体を燃やそうとする。しかしこの問題児達がこれで終わるはずがなかった。

  炎を放つその瞬間、朱雀の体が……いや、柊の体(・・・)が不自然に止まった。

 

「なんだ⁈体が……ねぇ?(・・・)

「⁈‼︎……なんだ⁈勝手に言葉が……朱雀だっけ?人の体でずいぶん勝手したみたいだねぇ」

 

  驚愕の表情を浮かべる朱雀に笑みを見せつつ、十六夜は告げた。

 

最初(ハナ)からお前に効くなんて考えてねぇよ。だがお嬢様の威光も、柊には効くんじゃねぇのか?(・・・・・・・・・・・・・)

 

  なまじ体を共有しているからこそ起きた逆転。飛鳥の威光は、奥底に眠る華蓮の意識を目覚めさせたのだ。そして一度意識が戻れば、持ち主の柊が朱雀を追い出すことも可能だ。

 

「くそ!だが契約では……契約だっけ?古い古い、前の人はそうだったかもしれないけど、私はそんなの使ってないよ……ならばどうやっ……教えるわけないじゃん。それじゃあさっさと出て行って、ね!」

 

  華蓮の言葉が響いた瞬間。華蓮の体から赤い煙が立ち上った。それは一点に集まって行き、だんだんと朱雀本来の姿を形作って行った。

 

「何⁉︎こんな簡単に追い出されるなんて……」

「よぉ魔王様、気分はどうだ?」

「最悪ですよ……まさか私を倒しちゃうなんてね。まぁ実態を保てなくなるだけだから死んだわけじゃないですけどね!でもまぁ、今は彼女の中で大人しとくよ……今はですけど!」

「ヤッハッハ!盛大な負け惜しみにしか聞こえねぇよ!」

「うるさい!」

 

  そしてその言葉を最後に、朱雀はその体を霧散させた。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「よぉ柊、気分はどうだ?」

「体に異常は無し。……ただ黒ウサギ達が泣きそうな顔をしてるのが辛いね」

「仕方ねぇさ。……柊、早速だがクリアのためにお前の力を貸してくれ。ちなみに状況とかわかるか?」

「残念なことにバッチリ理解してる。なぜか意識だけ、はっきりしてたしね。……だから私がすることも分かるよ。死なずに死ねばいいんだね」

「その通りだ。出来るか?」

「わかんない。でもアイデアはあるんだ」

 

  そう言うと柊は目を閉じた。次の瞬間、華蓮の周りに灼熱のオーラが漂い始めた。この状態でも凄まじい熱さだ、水分が飛んで行き地面にひびがはいる。しかしそれも数秒で収まり華蓮も目を開けた。

 

「うん、力も十分に使えるね。これならいける!」

「おい柊、さっきから気になってんだが朱雀が消えたのに髪赤くねぇか?どうなってんだ?」

「知らないよ。いいじゃん、なんか今強いし私!……さて、遊びは終わりだよ」

 

  その言葉に全員が華蓮を注目する。

  注目の中、華蓮はギフトを発動させた。それと同時に一同は知る。華蓮がなぜあの時、「考えがある」ではなく「アイデアがある」と言ったのか、その理由を。

 

創造(クリエイト)――炎系(フレイム)ギフト《生ける屍(Living Corpse)》」

 

  その言葉を告げると同時に華蓮の手に炎が灯った。これまでのものとは違うドロドロとした色を放つ灰色の炎。それを自身の口元に近づけると、華蓮は躊躇うことなくそれを飲み込んだ。

 

「ちょっと!大丈夫なの⁈」

「平気平気、今のギフトの効果は、対象者の魂の炎を消し去るといったものだから……そんな顔しなくても、大丈夫だよ。ギフトを解除すれば戻るし、最低でも十日は生きれるからさ」

 

  つまりこれで、”柊 華蓮の殺害”と”世界の理から外れる”の両方をクリアしたことになる。よって全てのクリア条件達成だ。

 

「クリア……したの?」

「みたいだな。お疲れさん」

「まさかクリア出来るなんて……凄いですよ皆さん!」

「やったわね柊さん!……あっ髪の色が元に戻って行くわ」

 

  その言葉通り髪から色が消えて行き、今では元の黒髪となっている。

 

「………」

「柊さん?」

 

  返事が来ることはなかった。

  まるで糸の切れた操り人形のように、華蓮はその場に崩れ落ちた。

 




どうでしたでしょうか。
魔王のゲームも終わって、あと一話と番外編で一章を終わらせようと思います。
もうわかると思いますが、ペルセウス……オールカットで!

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