魔法少女ユエ~異世界探険記~   作:遁甲法

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クオリティーを落とさず、週一で投稿すると言う目標。
達成するのは難しいですね。

今回ちゃんとした内容になったかは分からないけど、どうにか投稿です。

でわ、第九話れっつごー


ゼロの旅9

 

 

 今日でここに来て四日ですね。

そろそろ予定日になっても来ない私の事を怒っているであろう委員長(エミリィ)達に、飛行鯨の事故の事が伝わる頃合いでしょう。

 あの魔力渦がなんだったのか分かりませんが、アリアドネーが調査に入ればその正体も掴めるのではないでしょうか。まぁ、分かった所で私一人のために軍が動くとは思えませんが。

 あぁ、そもそもアリアドネーの活動域じゃなかったです。

 

 システムの違うここ、ハルケギニアの魔法はまだ使えませんし、恐らく今後も使えないでしょう。自身が持つ魔力容量のみで行使されるここの魔法は、私の少ない魔力容量では発動しません。これからの方針は、ここの魔法の術式を理解して、私達の魔法、精霊魔法の術式に応用し、魔法のレベルアップを図ることです。

 錬金の魔法のように、私達の所にはない魔法もかなりあるようですし、参考になる物は多いはず。

 自力の低い私が先生達の場所まで行くのに、一発の威力を追求するのは愚の骨頂です。すぐ壁に突き当たるのが目に見えてます。ならば、威力の高さより、魔力消費を限りなく抑え、攻撃を止める事なく長期間の戦闘が行える様になる方がまだ可能性があるでしょう。

 その為に魔力の効率化を図る修行方法を中心にやって来たのですから。

 今の私では、[雷の暴風](ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)を二、三回連続で撃ったら、それだけで息切れしてしまいますので、目標は10分間[魔法の射手](サギタ・マギカ)を絶やさず撃ち続けられるようになる事です。それくらい出来るようになって、初めて彼らの足元に立てるのではないでしょうか。

 

 まぁ、そんな事を考えてすぐ出来るなら苦労はないですが。あくまで目標です。

 

 「おぉ〜、これ英語か?こんなスラスラ書けるなんて、夕映頭いいんだな」

 

 ルイズの隣の床に座らされた才人さんが、私の手元を覗き込んでそう呟きます。

何でも、椅子に座れるのは貴族のみで、使い魔は座ってはいけないのだそうです。それで度々床に座っていたんですね。好きで座ってるんだと思ってたです。

 

 「これはラテン語です。英語も使ってますが」

 

 「ラテン語……?なんだっけ、それ」

 

 「英語の出来る前の言葉だと思って下さい。ラテン語から英語が出来たです」

 

 かなりはしょりましたが、概ね間違ってないですし、問題ないでしょう。これがテストに出るわけでもないですし。

 

 「へぇ〜。俺は学校の勉強苦手だったから、尊敬するよ」

 

 「私も学校ではバカレンジャーと呼ばれる程の成績でしたよ」

 

 魔法を知るまでは、勉強なんてと一切やらなかったですしね。まぁ、そのせいで魔法を覚える時、魔道書を読む時などとても苦労したです。今は、勉強と言うのはやりたい事が出来た時の為の保険なのだと思うようになったです。

 あの頃の私なら笑うでしょうが。

 

 「なんでバカレンジャー?」

 

 「学年で断トツの最下位五人組、その一人が私でした。通称バカブラック、赤点の常連ですよ」

 

 「バカの五人組でバカレンジャーか、酷い言われようだな。こんなスラスラ英語を書いてて、それなのか。夕映の学校って、もしかして物凄い進学校か?」

 

 「普通とは言い難いですが、進学校ではなかったですよ。バカレンジャーと呼ばれていた時は勉強を一切しなかったですから」

 

 しかし、この翻訳魔法は凄いですね。

教師の話を聞きながら教科書を見ていると、少しずつですが文字が読めるようになって行くです。文字を追うとそのまま翻訳してくれます。なんて言うか、語学を勉強する気にならなくなる魔法ですね。

 読めるだけで、字を知らなければ書けないのでテストには向かないですが、図書館探検部としては、読めるだけで充分です。古文から何から興味があるものを片っ端から読んでいける訳ですから、こんな便利な事はありません。問題は、その文字を読める人に最初は読んで貰わないといけないことでしょうか?しかし、それでも十分便利です。

 いつかけられたのか分からないのが不気味ですが、今は有難く恩恵を受けておきましょう。解こうとしても解けませんでしたし。

 

 「それなのに、今はこれか。実は天才だったんだな」

 

 「そうではないです。好きこそ物の上手なれ、という奴です。

魔法を勉強する為に必死に勉強したですよ。魔道書の類いは全て英語かラテン語で、たまにギリシャ語とかがありますが、日本語はほぼ無いですからね」

 

 「ふぅーん…」

 

 「ちょっと、サイト。ユエの邪魔してんじゃないわよ」

 

 小声で話していたら、ルイズが邪魔してると思ったようで、才人さんに注意しました。日本の学校では、これくらいどうって事ないですが、貴族と呼ばれる人達が通うこの学校では、褒められた事じゃなかったのでしょう。

 いえ、日本でもそうですけど、まぁ、気にしませんし。

 

 「邪魔してねぇよ。いろいろ聞いてるだけだ」

 

 「それが邪魔してるって言うのよ。あんたが聞いても仕方ないでしょ、使い魔なのに」

 

 「使い魔言うな。俺は夕映の事を聞いてたんだ。同じ国出身だし、仲良くなろうとして何が悪い」

 

 「何もかもよ!あんたとユエじゃ身分が違うのよ、分をわきまえなさい!」

 

 ヒートアップしてる所悪いですが、教壇で[偏在]と言う魔法の事を説明していたギトー先生が睨んでますよ、二人とも。

 

 「なんだその言い方!俺の所は身分なんてないって言ったろーが!俺と夕映が仲良くしちゃいけない道理はないんだよ!」

 

 「道理ならあるわよ!ユエは貴族でメイジなの!平民で使い魔のあんたとじゃ釣り合わないのよ!平民で使い魔なんて、下の下の下なのに!」

 

 「誰が下の下の下だ!お前は何でも貴族貴族って、だいたいだな……」

 「貴様ら、黙らんかーーーっ!!」

 

 とうとうギトー先生の堪忍袋の緒が切れたです。

授業中に激しくケンカしてれば、そりゃあ、怒られるですよ。私達も、よくそれで新田先生に怒られたものです。ちょっとした事で明日菜さんといいんちょさんがケンカをして、それを皆が煽ったり賭けをしたりと騒いでいると、新田先生が飛んで来て全員怒られる。まだそんなに立ってないのに、懐かしいですね。

 

 ギトー先生がルイズの所まで来て、ガミガミ怒ってます。才人さんの方には見向きもしません。彼は、皆にルイズの使い魔として扱われているので、何かして怒られるのは全て主人のルイズなのです。

 流石に可哀想なので、助け舟を出しましょう。

 

 「ミスタ・ギトー」

 

 「使い魔の躾ぐらい………なんだ?ミス…」

 

 「ユエ・ファランドールです、ミスタ・ギトー」

 

 「あぁ、オールド・オスマンが養女にしたという東方の娘か。なんの用か知らんが後にしろ」

 

 なかなか傲慢な態度ですね。まぁ、身分の高い人のイメージそのまんまですが。

 

 「ミスタ・ギトー、先程のスクウェアスペル、[偏在]の魔法について聞きたいのです」

 

 「む?一体何を聞こうというのだ?」

 

 「偏在は各々意識を持っているそうですが、それはどう統括されているのか?また、本体、自分自身には、その意識などがどう伝わってくるのか?周りに[偏在]が使える風のスクウェアが先生しか居ませんので、ぜひ教わりたいです」

 

 助け舟と言いましたが、どうせなら実のある話がほしいです。聞けば[偏在]と言う魔法は、呪文で分身を作るものだとか。[精霊召喚](サモン・エレメンタル)と言う魔法もありますが、あれはそこまで自由度は高くありません。この魔法を使えば、楓さんが使うような分身を作り出す事が出来るようです。しかも、分身でも魔法が使用出来るとか。

 どういう仕組みか分かりませんが、とても興味深い事には違いないです。

 私がそのまま[偏在]を使う事は出来ませんが、仕組みを理解すれば、[精霊召喚](サモン・エレメンタル)に応用出来るかも知れないです。

 

 「ふむ、いいだろう。

[偏在]を使う時、その意識を全て自身で把握している訳ではない。いいかね……」

 

 ギトー先生が[偏在]について講義を始めます。[偏在]で作られる分身は限りなく本人と同じ思考を持つらしく、わざわざ意識を伝える必要はなく、統括するのも簡単な念話で伝えるだけで出来るみたいです。楓さんの分身もわざわざ会話してる所を見た事ないですし、そういうものなのでしょう。まぁ、してたらちょっと間抜けに見えるですね。

 

 「[偏在]が本体から離れられる距離は、術者の精神力の強さに比例して長く遠くなる。なので……」

 

 聞けば聞くほど便利な魔法ですね、[偏在]というものは。ぜひ解析したい所ですが、ギトー先生に使ってもらっても、彼の前で精霊魔法を使う訳にもいかないですし、どうした物ですか。

 

 カラーン  カラーン

 

 「む、もう時間か。では、これで講義を終了する。解散」

 

 むむ、いいところで終わってしまいました。

だいぶ字も読めるようになったですし、あとで図書館にでも行って[偏在]について書かれている本を探すとしましょう。

 

 

 「ふぅ……。サイトのせいで酷い目にあったわ」

 

 「なんで俺のせいなんだよ。俺はただ質問してただけだぜ?」

 

 「あんたは黙って座ってればいいの!質問なんてする必要なし!」

 

 「なんでだよ!いいじゃないか、せっかく友達になったんだし、いろいろ知ろうとするのは当然だろ。なぁ、夕映?」

 

 才人さん的には普通の事でしょうが、ルイズにとっては我慢ならない事のようです。彼女は貴族ですから基本育ちが良いので、普通の学生である私達とは許容量が違うのでしょう。私は、授業中に話したりするのも慣れてますからそんなに気にしませんですが、

 

 「まぁ、そうですが。授業中にすることじゃないですね」

 

 「うっ……。ま、まぁそうだけど」

 

 「授業中じゃなくても聞かなくていいのよ」

 

 「それに、才人さんは今ルイズの使い魔なので、才人さんが何かすれば全ての責任をルイズが負わなくてはならないのです。先程の様に、騒げば怒られるのはルイズです。なので口うるさく言うのですよ。そこら辺も分かって上げて下さい」

 

 言い方は悪いですが、ペットのした事は飼い主が責任を取るのと一緒ですね。

ここの使い魔は、ペットにしては大きかったり、特殊な能力を持ってたりしますが。

 

 「あぁ、分かったよ」

 

 「なんでユエの言う事は素直に聞くのよ」

 

 「少なくてもルイズよりは筋が通ってるからな」

 

 「私も同じ事言ってるでしょうがっ!」

 

 「どこがだっ!」

 

 この二人はケンカしないと会話が出来ないのでしょうか?

明日菜さんといいんちょさんもよくケンカしてたですが、基本仲が良かったです。

 ケンカするほど仲が良いの見本のような二人でしたが、この二人はどうですかね。才人さんとしては、日本から無理やり連れて来られ、ルイズはその実行犯。ルイズにとっては、幻獣の使い魔を呼び出すはずが、何故か来た平民の男性。しかも、言う事をぜんぜん聞かない。どっちも言い分があり、そのどちらも言われて仕方が無い事な訳です。

 その内仲良くなるんでしょうか?

 

 「二人とも、急がないと食べる時間が無くなるですよ?」

 

 昼食の時間は決まってますからね。遅れて行くと、もう下げられた後なんて事になりかねません。ケンカは後回しにしてもらいます。

 

 「そうね。サイト、あんたはご飯抜きよ。ご主人様に恥をかかせる悪い使い魔に始祖と姫様が授けて下さる糧を与える訳にはいかないわ」

 

 「な、なんでだよ!俺にも食わせてくれよ!」

 

 「だめよ!そこで反省してなさい!ユエ、行くわよっ」

 

 私の手を取り、引っ張って行くルイズ。流石にご飯抜きは可哀想ですよ?

 

 「いいのですか、ルイズ?流石に可哀想だと思うですが」

 

 「いいのよ。悪い事をすれば罰を与えるのは当然よ。

いい、ユエ?余りサイトを甘やかしちゃダメよ?調子に乗って、またこの間のような騒ぎを起こされたら困るんだから」

 

 ルイズなりにいろいろ考えた上での言動だったのですね。

そう何度も決闘騒ぎを起こされたら確かに困ります、そのうち死にかねませんし。

 

 「分かったです、口出ししませんよ。

でも、彼も自分の意識で来た訳ではないのですから、素直になれないのでしょう。そこも覚えておいて上げて下さい」

 

 「むぅ、分かってるわよ。……でも、イヤに肩を持つわね?」

 

 「まぁ、同じ国出身のよしみですよ。私も来た当初は混乱したものです。彼は魔法も知らなかったようですし、錯乱しないだけマシでしょう」

 

 「魔法を知らないなんて、あり得ないわ。サイトはよっぽど田舎者って事?メイジもいない程の」

 

 「私達の所は、メイジが余り居ないのですよ。少なくともここハルケギニア程は。だから、話には聞いていても実際に見たことはなかったのでしょう」

 

 本当は魔法を秘匿してるせいで、一般人が知りようもないと言うだけなのですが、そんなことを説明しても分からないでしょう。魔法が一般的な物であるというのが普通のハルケギニア人達の感覚なのですから混乱するだけです。

 

 私達の世界の常識を無理やり持ち込んでも意味が無いです。聞かれたら答える程度で構わないでしょう。

 

 「数少ないメイジが、あのエヴァンジェリンやユエみたいな凄腕ばかりな訳ね」

 

 「いえ、私を彼女達と同等みたいに言うのはやめてほしいですが」

 

 「私としては、どっちも変わらないわよ」

 

 ひよっこの私としては恐れ多いです。

いえ、ルイズは最高峰のエヴァンジェリンさんと私しか知らないので、そう思うのでしょう。私レベルなど、それこそ掃いて捨てるほどいるのですから。

 

 「私も凄いメイジになれるよう頑張らなくちゃ。

昨日、ユエのおかげで少しコントロールが上手くなったみたいだし、そのうちちゃんと使える様になるかも」

 

 ニコニコしながら私の手を引き、食堂に向かうルイズ。

ほんの少し測ってアドバイスしただけなのに、もう手応えを覚えるとは、才能はあるのですね。魔力容量はこのか並にあるですし、コツさえ分かればすぐ強くなるでしょう。

 一つ気になっている事はあるですが、それはその内に、ですね。

 

 「昼食が終わったら、ユエはどうする?」

 

 「とりあえず一息吐いてから、図書館で調べ物です。

ちょっと[偏在]について詳しく調べたいので」

 

 「[偏在]を?風のスクウェアスペルじゃない。そんなの調べてどうする……まさか、ユエ使えるの?」

 

 「使えないですよ。だから調べるです。似た魔法はあるですが、作り出した分身が魔法を使えないと言う違いがありまして、解析すれば使えるものが作れるかもと思いまして」

 

 自分一人でも時差で魔法攻撃が出来たり、分身が戦っている間に自身が罠の準備をしたり、いろいろ活用法はあるです。夢が広がるです。

 

 

 

 「ミス・ファランドール、話がある。少し良いかね?」

 

 昼食を食べ終え図書館へと向かう途中、ギトー先生に呼ばれました。

 

 「なんでしょう?ミスタ・ギトー」

 

 「うむ。君は[偏在]に興味があるようなのでな、この本を読んでしっかり勉強するといいだろう」

 

 そう言って持っていた古びた本を渡されます。

かなりの年代物のようですが、どこも傷んでいないです。図書館島にある本も、水に触れていても傷まないように魔法がかけられていたようですし、これもその類の魔法がかかっているのでしょう。

 

 「これは?」

 

 「[偏在]について書かれたものだ。今、巷で出回っている物、そして図書館にある物では省かれた記述も載っている。最初に読むなら、この本にした方がいいだろう」

 

 添削されたがとても重要な記述なんてものはよくあるです。そして、この本は図書館にあるものより詳しく書かれていると言う事ですか。

 

 「それは、貴重な物なのでは?」

 

 「ふん、構わん。私は既に隅々まで頭に入っているし、他の生徒達は、ここを社交の場としてしか見ていない。勉学は二の次だ。そんな者達に渡すよりずっと有意義だろう」

 

 「ありがとうございます!これから図書館へ行って、[偏在]について調べようと思っていた所なので、助かるです」

 

 「ふむ。では、渡したぞ?固定化の魔法がかけてあるが、使い潰すつもりで勉強しろ。ではな」

 

 「はい!ありがとうございます」

 

 思わぬ収穫。本の方からやって来たです。

これで探す手間が省けたですね。さっそく読み込むです。部屋に帰ったら[世界図絵](オルビス・センスアリウム・ビクトウス)にも、入力しましょう。手作業でしなければならないですが、本をいちいち開く手間も無くなるですし、検索も出来るようになるです。

 

 「入力作業は後回しにして、さっそく中庭でお茶を飲みながら読むとするです」

 

 新しい本を開く時のわくわくは、いつでもどこでも気持ちいいですね。それがたとえ異世界だとしても。

 

 中庭にカフェのようにテーブルが並べられている場所があります。ここは何と呼ばれているか分かりませんが、まぁ便宜上カフェとでも呼びましょう。そんなカフェの一角に陣取って、先程ギトー先生から戴いた[偏在]について書かれているらしい本を開きます。まだ聞いてない単語も多く、半分くらいしか読めないのが悔やまれるです。

 

 「よっ、夕映。読書か?」

 

 「む、才人さんですか。何をしてるです?」

 

 何やらお盆を持って現れた才人さん。この間も食堂で給仕を手伝ってたですが、

 

 「ルイズに飯抜かれて腹空かせてたらシエスタに厨房で飯を貰ってな。お礼にってこうして給仕を手伝ってるのさ」

 

 なるほど、食事代がわりと言う訳ですか。食事を抜かれても何にも気にしてないですね。

 

 「ルイズには内緒な?知ったら絶対シエスタに貰うのも禁止するだろうから」

 

 「でしょうね。彼女は、貴方がまた無茶をしない様に手綱を握りたいみたいですが、どうもその様子では無理そうですね」

 

 「手綱って……俺は暴れ馬じゃねーぞ?」

 

 「また決闘騒ぎを起こされたら困るのですよ、ルイズは。治療薬で所持金のほとんどを飛ばしたそうですし」

 

 「うっ、それは悪かったって思ってるよ。俺も平民平民って馬鹿にしてくるここの貴族とか言う連中にイラついてて、ついケンカ売っちまったんだし」

 

 何も分からず馬鹿にされれば怒りはするですね。

 

 「まぁ、次からはメイジ、魔法使いにケンカを売らないようにするですね。どうしてもって時は、ちゃんと作戦立てて上手く立ち回るようにして下さい。じゃなければ次は死ぬですよ?」

 

 今回は運良く大事に至りませんでしたが、折れた骨が内臓を傷つけて取り返しがつかなくなってたかもしれないです。

 

 「せめて、杖を奪う努力をすれば良い物を、魔法で作られた人形に向かって行くなんて、無意味な事をしてたですし」

 

 「しょ、しょうがないだろ、魔法使いとケンカなんてした事無かったし、ギーシュの奴見た目はナヨナヨして弱そうだったし」

 

 見た目で判断出来るなら苦労しないです。10歳児に見える人が、山を吹き飛ばしたり、辺り一帯を氷の世界に変えたりする世界ですからね、魔法使いの世界は。

 

 「見た目だけで判断出来る世界ではないので、これからは気を付けるですよ」

 

 「なんか詳しいな、夕映」

 

 「私も魔法使いですからね。貴方よりは詳しいですよ」

 

 「ほ、本当に魔法使いなのか?」

 

 「まぁ、この通りです」

 

 杖を取り出し、その先に火を灯します。

簡単なこの魔法なら人目があるこんな場所でも使えるです。なんとでも誤魔化せるでしょう。

 

 「うわぁ、それライターじゃないよな?ほんとに魔法使いなんだな。ルイズの戯言じゃなかったんだ」

 

 「戯言とは言い過ぎですよ、この魔法使いの居る世界で」

 

 信じられないのは分かるですが言い過ぎです。

まぁ、普通は何か仕掛けがあるのではと思うですよね。

 

 「じ、じゃあ、箒で空飛んだり出来るのか!?」

 

 「えぇ、車の法定速度くらいは楽に出ますよ?」

 

 「おぉぉぉ、自動車いらず……」

 

 そこですか?

 

 「なぁ、魔法使いならここから帰る方法も知ってるのか?」

 

 「いいえ、知りません」

 

 「魔法でパパッと、テレポート出来ないのか?」

 

 「転移の魔法は高等呪文なんですよ?私も使えなくはないですが、最長100m程しか飛べません。分かりやすく言うなら……」

 

 一般人に分かりやすい魔法使いの説明と言うと、ゲーム的にするのがいいですかね。

 

 「私は魔法使いになったばかりのレベル1。貴方が言う世界を越えるほどのテレポートが使えるのはレベル99の最強魔法使いです。逆立ちしたって使えないですよ」

 

 「そ、そうか。はぁ、しばらくルイズの使い魔してるしかないか」

 

 可哀想ですが、私ではどうしようもないですからね。

いつかそんな魔法を使えるようになったら、帰るのに協力するですよ。

 

 「しかし、夕映もここから帰れないのに余裕だな。帰りたくないのか?」

 

 「私は自分の意識でここに居るのです。異世界で魔法が学べる機会など、早々ないですからね」

 

 「いや、まぁ、そうなんだろうけど………。

まぁ、魔法が使えるならどうとでも出来るし、落ち着いてて当然か」

 

 「それはあるですね。並大抵の事ではどうともならない自信はあるですよ。それだけの訓練をして来たですから。むしろ、異世界に来てしまった程度でどうにかなったら、私の師匠とも言うべき人にお仕置きされるです」

 

 そんな柔に鍛えた覚えはないぞと言って、厳しい修行を課せられるでしょう。吹き飛ばされるか、凍らされるか、はたまたどこかの苛酷な環境の地に放り込まれるか。何にしてもタダでは済まないです。自分が鍛えるからには、超一流になって貰うと、訓練をお願いした時に言われたですしね。

 時間の都合で超一流にまでは届きませんでしたが、それでも、異世界とはいえ普通の環境下にあるこの場所でどうにかなる訳がないです。油断したら手足が凍る訳でもなく、毒虫に刺される訳でもないのですから。

 

 「魔法使いって、結構スパルタだったんだな」

 

 私も最初は呪文を覚えるだけで魔法が使えるようになると思ってたです。そこがゲームとは違う所ですね。

 

 「人間にヒットポイントはないですからね。当たりどころが悪ければ、小さな石でも人は一撃で死んでしまうです。なので、そうならない様に訓練するんですよ。才人さんも充分注意して下さいね」

 

 「あぁ、肝に命じておくよ」

 

 「では、そろそろ仕事に戻ってもらうですよ、バイトさん。

お茶のおかわりをお願いします」

 

 話してる間に紅茶が無くなってしまいました。この青空の下で、読書しながらお茶を飲むとは、なんとも優雅な気分ですね。気候も丁度いいですし、ビーチチェアとパラソルでもあれば、昼寝でもしたい所です。しかし、本も読みたい。悩ましいですね。

 

 「そうだな、ちょっとサボりすぎた。では、お嬢様。少々お待ちください」

 

 そう才人さんがかしこまった調子で一礼して厨房に向かって行きます。

シエスタ達とは違い、完全にバイトレベルですが。

 

 「来るまでもう少し読み進めるとしますか」

 

 ついでに、亜空間倉庫にビーチチェアがないか見てみましょう。どこか、人の居ない場所でなら、使ってても見咎められる事もないでしょうし、せっかくいい天気ですから読みながら昼寝を楽しむです。

 

 

 

 「お待たせしました」

 

 集中して読んでたら聞き覚えのない声が聞こえました。

その声に目線をあげると、お盆に紅茶を乗せたメイドさんが立ってたです。

 

 「あぁ、ありがとうです。

しかし、才人さんが持ってくると思ったですが、彼はどこに?」

 

 「あの人なら、ミス・ヴァリエールに追いかけられて行きました。これをユエ様に持って行ってくれと頼んで……」

 

 なるほど、昼食が終わっても戻ってこない才人さんを探してて、呑気に給仕のバイトをしてるのを見つけたと言う事でしょう。そして、怒られると思って才人さんは逃げ出したと。

 

 「なるほど、ご苦労様です」

 

 紅茶を置くメイドさんに声をかけたら、ビクッとして驚いてます。

そういえば、ここの生徒は余りお礼を言わないのでしたね。日本人はお店の店員にさえお礼を言うので、外国人には驚かれるそうです。礼儀正しい国民だと。

 それも全ての人ではないのですが、そう言われると誇らしく、そして自分もそうなろうと思うのですよね。

 

 「あぅ、えっと、失礼します」

 

 慌てながらも、完璧なお辞儀をして素早く戻って行く、いえ、感覚的には逃げて行くメイドさん。そこまで慌てる事ないというのに。

 

 「お茶に詳しい訳ではないので銘柄まではわかりませんが、美味しいですね。いつぞや、クウネルさんに入れてもらった物にも負けてません」

 

 美味しいお茶に興味深い本、そして知らない魔法。この世界、最高です。いつかは帰らなければいけませんが、それまではこののんびりとした世界を満喫しましょう。

 

 ドォーーーン……

 

 遠くで爆発音がしましたが、今の魔力の感じはルイズですね。

さっそく練習でもしてるのでしょうか。

 

 「お茶を飲み終わったら見に行くとしましょうか」

 

 遠くで響く魔法らしい爆発音を聞きながら、私はのんびりカップを傾けるのです。

 

 ふぅ、平和ですね。

 

 

 

 

 <ルイズ>

 

 このバカ犬わっ!

ご主人様を無視して他の女ばかりに尻尾振りまくって!なんでこう言う事を聞かないのかしら!

 

 「俺はただ、手伝いをしてただけなのに……」

 

 「ご主人様をほったらかしてやる事じゃないわよ!」

 

 「何がご主人様だ!ただ暴力振ってるだけじゃないかっ!

ご主人様だって言うなら、それらしくしやがれ!」

 

 こぉぉんぬぉぉぉおバカ犬がぁぁぁっ!

なんて、なんて生意気なのかしら!初日から思ってた事だけど、なんでこんなのが来ちゃったのかしら。そりゃあ、剣の腕は凄かったわよ?ギーシュのゴーレムをやすやす倒しちゃったし。でも、他は全然ダメじゃない。言う事聞かないし、馬鹿だし、生意気だし!

 

 「どうせだったら夕映に召喚されたかったな。きっと理不尽に殴ったりしないし」

 

 「む!私だって、どうせ人間が来るならユエが良かったわよ。少なくともあんたみたいに言う事聞かないで勝手する事はないだろうし」

 

 「魔法が使えないゼロのルイズが、夕映を従える?無理だろ」

 

 「なぁ!? くぅっ、……分かってるわよそんな事!ユエは私どころか、この学院にいる生徒達全員合わせたって敵わないほどの優秀なメイジなんだから。もし、ユエを使い魔として呼んでいたら、きっと私、何も出来なくなってたわ」

 

 「…へ? どういうことだ?」

 

 「全部任せて、ただユエにくっついてるしか出来なくなるって事よ。それだけ優秀なんだからユエは。治療魔法も攻撃魔法も出来るし、私の魔法が失敗する原因みたいなのもすぐ見つけちゃうし。私はただ後ろで彼女がやることを見てればいい。そんな感じになったと思うわ」

 

 ダメ元と言うつもりで頼んだら、簡単に原因を突き止めたユエの凄さは一番分かってるつもり。精神力の強さの事とか、属性に相性が出るのは何故かとか、アカデミーでしっかり研究しないと分からないような事をちゃちゃっと分かっちゃうなんて凄すぎる。力を入れすぎてグラスを割っているって言うのは分かり易かったわ。今まで誰もそんな事言わなかったけど、凄くしっくり来たもの。

 そんな彼女を使い魔になんて、私の実力じゃ無理よ。まかり間違って出来たとしたら、一生私はユエ無しじゃ生きられなくなってたわ。今でさえ、ただの友達だと言うのに頼りたくなるもの。

 

 「全部ユエに任せて、私はおんぶに抱っこ。服着るのも、食事をするのも、寝るのも全部一緒。………あれ?とても魅力的ね?」

 

 私はただユエの手を握って過ごすの。いいかも……うふふふふ。

 

 「ルイズ、戻れ!それ以上はいけない!!」

 

 はっ!?

危なかったわ。魅力的な想像すぎて他の事が考えられなくなってたわ。さすがユエ。優秀すぎる友達も考えものね!

 

 「…サイト、お礼を言うわ。危うくやばい物に目覚める所だった」

 

 「いいけど、目がヤバかったぞ?もう手遅れか?」

 

 「うるさいわね。

だけど、先住の魔法が使えて、剣も凄い。他にもいろいろ出来るあの子と友達になれたのは嬉しいけど、釣り合ってる気がしないわ。このままじゃタダの取り巻きよ」

 

 それは私のプライドが許さないわ。上は無理だけど、せめて少し下くらいまでは近づきたい。タダ横でピーピー喚いてるだけの取り巻きに成り下がるのは断固拒否よ。

 

 「別にお互いに友達だと思ってればそれでいいじゃないか。釣り合う、合わないでなるものじゃねーだろ、友達ってのは」

 

 「ふんっ!知った様な口聞かないでよ。それだと私が我慢ならないのよ。タダの取り巻きなんかで満足出来ますかっての。ちゃんと対等にならないと胸張って友達だと言えないじゃない」

 

 「何でだよ?別にいいだろ?」

 

 「良くないわ。今のままじゃ、魔法の使えるユエに、使えない私が擦り寄ってるだけにしか見えないわ。むしろバカにする材料にしかならないわよ」

 

 魔法が使えないと、家名にさえ傷が付くかもしれないし。

 

 「……だったらよぉ。練習するしかないんじゃねーか?」

 

 「なんですって?」

 

 「だから、練習して、練習して、練習しまくって、お前が納得出来るくらい強い魔法使いなればいいじゃねーか。そして、胸張って夕映の友達だって言えばいいんだよ」

 

 私がこの10年近く練習してきて、一度も成功してないと分かってて言ってるのかしら?

 でも、そうよね。

今はユエのおかげで原因みたいなのも分かってるし、それを意識して重点的にやって行けばもしかしたら出来るようになるかも?

 

 ユエに原因を教えて貰った今、これまでみたいに自分だけでやるよりよっぽど上手く行くかもしれないわ。

 

 「うん、そうね。やって見るしかないわね!」

 

 「おう、その通りだ!何事も練習が大事だ。出来るようになるまで、繰り返し練習するのが、成功への近道だって、誰かが言ってた」

 

 「誰かって、誰よ……。

肝心な所が曖昧で信用出来なくなってるじゃない。でも、あんたもそうやって訓練してたから、あんなに剣が使えたのね?」

 

 「いや、俺練習した事なんて一度もないぞ?」

 

 だぁあああっ!って、

 「言ってる事が違うじゃない!!」

 

 「俺だって知らねーよ!あの時剣を持ったらこの左手のが光って力が湧いてきたんだよなぁ。もしかしたらこれが原因かも」

 

 サイトの左手にあるルーン。

これが光ったら強くなったって言うけど、どういう事かしらね?

 

 「使い魔になった者は、時々特別な能力を手に入れるらしいから、それかしらね?」

 

 「そうなのか?まぁ、よく分からねぇけど、便利って事だな」

 

 なんか適当すぎるわよ。

まぁ、ユエが言うには魔法は聞いた事しかないって言ってたし、仕方ないのかしら?

 

 とりあえず練習しましょっ。ユエに頼ってばっかりじゃダメだものね。

頼るにしても、いつまでも無償でってのもいけないわ。何かお礼を考えなくちゃ。

 

 「ふぅ、ユエが男の子だったら、結婚相手に選ぶとこなんだけどなぁ」

 

 「へ!?ルイズ、そういう趣味が!?

いや、俺は否定しないぞ?可愛い女の子同士なら見てても苦しくないからな!」

 

 「何言ってるのよ!男の子だったらって、言ったでしょ!?女の子同士なんて………っばっかじゃないの!?」

 

 「今一瞬考えただろ?」

 

 「考えてないわよ!!」

 

 キュルケじゃあるまいし、そんなハレンチな事考えないわよ!

まったく、この使い魔は馬鹿な事しか考えないんだから!

 ほんとに、ほんとにもう!!

 

 「変な事言ってないで練習するわよ!」

 

 「え?俺も何かやるのか?」

 

 「あんたは的になりなさい!」

 「無茶言うな!!」

 

 仕方ない、昨日の演習場に行こう。あそこならどれだけ魔法を撃っても困らないでしょ。

 

 「サイト、ついて来なさい。魔法の練習をしに演習場に行くわよ」

 

 「へいへい。了解しましたお嬢様」

 

 「あんたがそういうとイラっとするのはなんでかしらね?」

 「悪かったなっ」

 

 まぁ、いいや。

さぁ、ユエの友達に相応しいメイジになるわよ!

 

 

 







第九話でしたぁ。
全然話が進みません。次は少し時間を進めるべきか。

デルフとフーケはいつ出れるんだろう。

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