オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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今回は戦闘も何もなし。単なる状況説明回となっております。


第71話 帰還

「やあ、おかえり。ご苦労様だったね」

 

 と、アジトに帰ってから、入り口で待ち構え満面の笑みを浮かべたスカリエッティにそう言われた。戻って一番に見るのがこいつの顔とは、あまり嬉しくはない。他の奴なら嬉しいという訳ではないが……いや。もし出迎えてくれたのがエリーだったなら嬉しかったに違いない。

 それはまだあり得ないとわかっているので、ため息を一つ吐いて返事をする。

 

「今戻った」

「帰っていきなり悪いけど、迎撃の用意を頼めるかな。もうすぐ管理局の空挺部隊が到着するからね」

 

 ……どうも休んでいる暇はないらしい。まあ、いくらレジアス中将でもこれほど手酷く裏切りを宣言されれば、頭に血が上ってなりふり構わず戦力を投入して叩き潰しに来るだろう。人員不足と言われていても、それはあくまでも本局に比べての話。おそらくは猟犬も投入されているはずだし、その戦力はかなりのものになる。ガジェットだけではとても抑えきれない。だから、ゴミカスのような戦力にしかならない私でも、居ないよりかはマシなので前線に出なければならない。全くいつも通りだ。

 しかし戦うにしてもまずは準備をしなければならない。今着ている服は誰かさんのおかげでボロ布になり。銃は下水道に埋まっている。戦うのなら、一度着替えて武器を持たなければ。

 

「それはいいが。絶対に撃ち漏らしが出るぞ」

「少しの撃ち漏らしなら、入ってきたところでガジェットの物量で圧殺するよ」

「なら迎撃はいらないんじゃ」

「とんでもない。あくまでも少しに限るよ。数を揃えたところで、機銃掃射でも受けたらあっという間に数が減って突破されてしまう」

「……それもそうか」

「まあ、ゆりかごが空に上がれば勝利が確定する。すでにクアットロが起動準備を始めているから、それまでの我慢だ」

「具体的には、どの位」

「さあ……ね。君の言っていた通りゆりかごは長年土に埋まっていたものだ。しかし中を何度か見た程度だが、故障箇所は見当たらなかったから劣化は気にしなくていい。玉座に器を座らせれば、戦船と呼ばれたその性能を遺憾なく発揮できるはずだよ」

「どの位かかる、と聞いてるんだ」

 

 私が詰め寄りながら尋ねると、スカリエッティは目を逸らしながら小さく言った。

 

「……最悪、一晩」 

「……」

 

 一旦目を閉じて思考を巡らせてみる。本気で潰す気のレジアス中将が送ってくる部隊……主力は戦車、輸送車両、ヘリの機甲部隊となるだろう。両方共アジトの中へは入ってこれないが、そこから投入される戦力は大きい。並みの魔導師でも質量兵器をもたせればガジェットの優位性も薄れる。

 スカリエッティの言っていた通り、ガジェットは銃を持った人間を相手にするには少し相性が悪い……そうなると私の役割は銃を持って、地上から進攻してくる連中の排除になる。空はトーレ一人居れば撃ち漏らしが出るとしても少しだけだろうから問題ない。だがトーレほどの機動力のない私では撃ち漏らしがより多くなるだろう。なら、量より質を優先しよう。どうせ全ては捌き切れないのだし。

 

「今、ここに居る戦力は」

「ウーノ、トーレ、クアットロ、セインの四人以外は出払ってるね。あと予備に13番……名無しのことだよ。で、ドゥーエ以外のナンバーズは全員こちらに集まってきてる。到着するまでもう少し時間がかかるけど、到着さえすれば迎撃は容易い。それまで持ちこたえられるかい?」

「……まあ、できるだけのことはやっておこう。ウーノにも出るように頼んでおいてくれるか」

 

 持ちこたえるのが一晩から数時間に変わったのなら、まだなんとかできる……だろうか。否、なんとかする。戦力は少ないが、全力で動けばなんとかできるだろう。そして、少ない戦力ではあるが名無しを前線に出す訳にはいかない。大事な私の妹の器だ。鹵獲されでもしたら困る。

 

「わかった。それと、より確実性を増したいのなら、地上本部へ潜っているドゥーエにレジアス・ゲイズを殺させてしまえば済むのだが……どうしたものか。君はどうするべきだと思う」

「それは私が決めることじゃないだろう」

「参考までに、だよ」

「わかった……事が終わった後のことを考えれば殺すべきじゃないだろう。秩序の破壊が目的ならそれもいいが」

 

 事が成功しても、失敗しても。どちらにせよ治安は一時的か、恒久的か、どちらにせよ悪化する。成功すれば私は妹と共にどこか管理外世界で隠居する事ができるが、失敗すれば重犯罪者として投獄もしくは処刑される。そして残った妹は、事件を起こした人間に関わる者の家族として恨みを向けられる可能性もある。ただ恨みを向けられるだけならいいが、治安が悪化した状態での恨みは簡単に暴力として具現化する。私が守れなかったせいで今の状態になっているのに、さらに私が原因で殺されるとなれば死んでも死にきれない。

 そういうわけで、中将には事が失敗した時いち早く混乱を治め、治安の回復を成し遂げてもらわなければならない。よって生きていてもらわなくては困る。

 

「おや、他人の事を考えるとは君らしくもない」

「私にも情はある」

 

 何か勘違いしているようだが、まあいい。勘違いしてくれているのなら、それでも構わない。説明するのも面倒だし、失敗した場合の事を考えているとわかれば、今まで積み上げてきた信頼関係が崩れてしまう。こんな瀬戸際になってからそんな事態は避けたいので、適当に返事をしておいた。

と、話している内に銃火器や戦闘に使う物品が並ぶ武器庫へと到着した。ボロボロになってもはや服としての機能をほとんど果たしていない管理局の制服を脱ぎ、迷彩服に着替える。ベルトを閉め、ホルスターを腰に下げ。上から防弾プレートを仕込んだチョッキを着て、ショットガンとリボルバー式の拳銃を手に取る。視界の確保できない森林内での戦闘ならば、大口径の対物狙撃銃は取り回しが悪いだけで意味を成さない。それならば軽量の武器を持って、至近距離から散弾を浴びせてすぐに離脱する。それがいい。ブービートラップも仕掛けておきたかったが、生憎と時間がない。

 

「ガジェットを出せ。迎撃に出る」

 

 敵を壊滅させるのはまず不可能。しかし足止め……時間を稼ぐ位ならやってみせよう。妨害戦は得意な方だ。

 

「その前に、渡しておくものがある」

「なんだ……デバイスか?」

 

 唐突にスカリエッティから渡されたものは、黄色の宝石……いや、待機状態のデバイス。少し外見が変化しているが、これは見覚えがある。なにせ片腕を食いちぎられてまで、海底から取ってきたものだ。忘れるはずがない。

 

「バルディッシュ?」

「見た目が同じなだけで、全くの別物だよ。AIも入ってない、市販品よりちょっと性能の良いアームドデバイスさ」

「宝の持ち腐れだ」

 

 スカリエッティの言う「ちょっと」はおそらく私の「ちょっと」とはかなり差があるはず。一体どれほどの性能なのやら。まあ、使うつもりはない。こいつとはもうすぐ手を切ることになるのだから、これ以上の借りは作りたくない。後々借りを口実に呼び出されたり、干渉されたりするのはゴメンだ。

 

「いやいや。その魔力を身体強化だけにしか使わないのはもったいない。偶には派手な砲撃でも使ってみたらどうだい、君用の魔法もインストールしてあるから是非使ってみてくれ」

「私はこれだけで十分だ」

 

 蛇を出して弾薬箱を咥えさせる。相手の数が数故に長期戦は避けられない。自分だけで持ち歩ける量には限りがあるし、かといって一々補給に戻るのも効率が悪い。よってその問題を補給係を自分のすぐ傍に置くことで解決する。それにヒトガタが動くよりも長細い蛇がうねりながら動いている方が目立たなくていい。

 

「残念だよ。まあ、渡しておくから気が向いたら使ってみてくれ。今の君ならかなり優秀な魔導師として戦えるはずだ。それじゃあ私はガジェットを出して、テスタロッサの術後経過を見てくる。他にすることもないのでね」

「使えるようなら前線に出してくれ。少人数で戦線を支えるのには限度がある」

「チェックが済んで問題が無いようなら出そう」

「戦わないなら殺す、と脅してやれ」

 

 彼女の心が壊れていなければ、二度目の死を迎えるのは怖いだろう。普通の人間にとって、死とは他の何よりも恐ろしいものだ。そうでなくては困るというのもあるが。

 

「時間がない。今度こそ、出るぞ」

 

 ゴーグルを掛けて、ショットガンを抱えて通路を走る。私は私にできることをする。できることしかしない。身の丈にあった行動が生き残るために最も重要な事だ。まあ、生き残る必要もないし、生き残りたいともあまり思っていないのだが。それほど命に執着していないのに、こうも醜く。そしてしぶとく生き残っているのはまったく人生わからないものだ。


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