オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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第64話 交渉

 

「本日の廃棄都市区画での戦闘で、行方不明であったフェイト・T・ハラオウン執務官と高町なのは一尉が交戦し、高町一尉が鼓膜を破損する軽傷。機動六課所有のヘリは墜落。乗員にはけが人なし。質量兵器運用小隊の武装ヘリが中破。そして、陸に降りアンノウンと交戦したスバル・ナカジマ二士が内臓損傷。動脈損傷。脊髄破損で現在意識不明。デバイスの戦闘記録と相方のティアナ・ランスター二士の証言によると、下手人はハンク・オズワルド……か。随分と奇抜な報告書だな。この報告は既に私に届いているが、それでも持ってきたということは、処分の減免を求めている、ということか?」

 

 難しい顔をして報告書に目を通す中将を正面に、自分は自分で色々と考える。フェイトちゃんが敵になった、という話には非常に驚いたが、想定の範囲内。報告によると彼女は洗脳などをされている様子はないようで殺傷設定で攻撃してくる事はないだろうし、危険度はそれほどでもない。問題はもう一人。

 ハンク・オズワルド。死んでいるはずの人間の名前を聞いたが、なぜかあまり驚かなかった。隣で聞いていたシグナムは驚いた顔をしていたけれど、私はなぜかその報告を聞いて『ああ、やっぱり生きていたか』とむしろ納得してしまった。なぜ、と考えてみると簡単に答えは出た。機動六課に居た時、何度も死にかけて、殺されかけて。その度に何事もなかったかのように死の淵から舞い戻ってきた。それがそう簡単に死ぬわけがない、と頭の隅で考えていたのだろう。死体だって見つからなかったし。

 

「……そうです」

「ハンク・オズワルドは事実犯罪者であって、貴様の騎士のやったことは間違いない、と」

「いえ、そこまで言うつもりはありません。彼女のしたことは大きな間違い……それは疑いようのない事実です」

「では、奴が死んでいなかったから処分を軽くしろと」

 

 黙って頷く。そのために、謹慎中にわざわざ面倒な手続きをいくつもしてここに来たのだし。

 

「はぁ……貴様は何が悪かったのか理解しているのか? 殺したか殺してないかが問題だと思っているのなら間違いにも程があるぞ」

 

 ため息と、両手の平を上に向けるジェスチャーで、どれだけ呆れられているのかがよくわかる。こんな屈辱を味わうのも、すべてあの男のせい。あの男さえ居なければ、私たちが処分を受けることもなかったのに。

 その感情を言葉と一緒に出さないように気をつけながら、会話を続ける。

 

「わかっているつもりです」

「ではなぜ来た。それがわかっているのなら、処分の軽減など求めるはずがないだろう」

「……機動六課は戦力の損耗が激しく、このままでは犯罪者に対処できません。せめて、処分の先送りを」

「いっその事解散すればいいだろう。役立たずなのだからな」

 

 ……ダメだ。中将は、完全に私たちに。いや、私に味方するつもりは一切ないらしい。それどころか、敵と言ってもいい。排除できないという意味ではハンク・オズワルドよりも厄介な敵。前々から嫌いだったけれど、今日でさらに嫌いになった。

 いつまでもこうしていても仕方がないので、カードを切る事にする。

 

「中将」

「なんだ」

「話は少々変わりますが。ハンク・オズワルドがたったの六年間で准尉にまで昇格することができたのは、何故でしょうか」

「……」

 

 さっきまでの呆れていた表情が一気に引き締まり、今度は鋭く研ぎ澄まされた敵意をこちらに向けてくる。やはり、彼の出世速度には何かあるようだ。その何か、がわからないままカードを切るのにはリスクが大きいが、現状を変えるためのカードはこれ一枚しかない。身を滅ぼす可能性もある危険なカード。しかし、成功さえすればその利益は大きい。

 ひどいギャンブルだ。

 

「実力だ」

「確かに彼の実力は、彼自身の功績で証明されています。しかし、この管理局で、質量兵器を主に使う彼が、アレほどのスピードで出世したのはやはり何かがありますよね」

 

 もしも、私がカードの中身を知らないとバレたら。今度こそ叩き潰される。今のところバレている様子はない。内心は冷や汗が滝のように流れているのを悟らせないように、作り物の笑みを顔に貼り付けて、言葉を紡ぐ。

 

「管理局という組織が質量兵器を嫌い、その使用のほとんどを禁止しているのはあなたが一番よく知っているはず。通常ならそれが大きな障害となるのは間違いありませんよね」

「私が奴の昇進を推薦したのだ。多少の障害は苦にならん」

「果たしてそれだけでしょうか。何か他に理由がありますよね? 公にはできない何かが」

 

 適当に予想をつけて、もう一枚カードを切る。これが間違いであれば、賭けは私の負け。機嫌を損ねるだけ損ねて、その分だけ処罰は重くなる。さて、この選択が吉と出るか凶と出るか。

 

「……」

 

 中将は目を閉じ、机に肘をついて手を組み、沈黙を保つ。自分に敵意を持つ相手と、二人きりで無言の時間を過ごすのは、とてつもなくも居心地が悪い。座ったことはないが、針の筵に座らせられる方がまだマシかもしれない。速く口を開いてくれと思いながら、次の言葉を待つ。

 

「……どこまで知っている」

 

 十秒ほど経ってから、ようやく口を開いた。食いついてくれたのと、最悪の居心地から開放されて少しだけ安心。

 

「誰かが聞いているかもしれない場所で言うのはマズイんじゃないでしょうか」

「……いい度胸をしているな」

「ありがとうございます」

 

 ハッタリに見事引っかかってくれたので、それも含めて素直に礼を言っておく。相手が誰であれ、自分が認められるのはありがたいものだから。

 

「よかろう。不本意だが、貴様の要求を認めてやる。ただし、こちらからも一つ条件をつけさせてもらう。当然のことだが、殺傷設定の使用は禁止する。必ず生け捕りにしろ。自殺、事故死なども認めない」

「……彼は痛みを感じません。非殺傷設定では、効果が薄いのですが。それに、私たちのリスクも高くなります」

「最低限のコストで最高の成果を上げる犯罪者と、コストばかり嵩む癖に録に成果を上げられない味方……貴様の貧弱な頭でも、どちらを手元に置きたいかはわかるな」

「……」

 

 犯罪者に容赦する必要があるのか、という言葉は口が裂けても言えない。自分の騎士たちも私のためにとはいえ、彼の比にならないほど多くの人に危害を加えてきた。管理局に恨みはないのに。そして更生の機会を与えられ、今は管理局で働いている。

 そして彼は、管理局に家族を殺されたというどうやっても挽回できない恨みが有り、さらに自分の家族のためという確固とした理由の下で私たちに敵対している。昔の私達と彼、果たしてどれほどの差異があるというのだろう。個人的な感情だけで見るならそんなのは関係ない、と切って捨てられるが。他人の視点から。客観的に見れば、私たちに更生の機会が与えられたのだから、悪意のみで行動しているわけではない彼にもそれがあって然るべき。

 もしも私たちが、一時は英雄視されていた彼を殺せば、どうなるか。世論は私たちを激しく糾弾し、ただの殺人犯として処罰される。それだけでは済まない過去の闇の書の被害者たちに管理局で世のために働くと誓い、納得出来ない事をなんとか納得してもらっているのに、また人を殺したとなれば負の感情を抑えきれず凶行に走る者も現れる。

 私だけで済めばまだいいが、今まで私を支援してきてくれた人にまで迷惑がかかるのは……絶対にダメだ。

 

「それを守るのなら、貴様の処分の先送りと任務への復帰を認めよう。今後の働きによっては処分の軽減も考えてやる」

 

 処分を決定するのはこいつではなく、他の者だとしても。陸の管轄内で管理局員が問題を起こしたら、処分を決定する会議で主導権を握るのはやはり陸の頭になる。これ以上逆らうことはできない。

 

「寛大な処置に……感謝、します」

 

 歯を食いしばる。思っていた中でも最良に近い結果だというのに、満足できない。理想は私たちが処分されず、かつあの男を……これ以上は、いけない。思考の中に、その単語を上げては。私がその単語を脳裏に浮かべてしまえば、次彼を見た瞬間に行動に移るだろう。その瞬間に、私はこの世で最も憎いあの男と同類に成り下がる。復讐のために誰かを『  』ス、薄汚い殺人者に。

 それだけは絶対に認められないのだから、中将の出した条件は別段障害にも何にもならないはず。だというのにあえてその条件を出した理由は、私の考えを読んでいたからだろうか。最高に性格が悪い。

 唾だけでなく思いつく限りの罵倒を吐き出してからこの部屋を出たくなったが、そえrをすべて飲み込んで部屋から出て行く。

 

 ああ、今日はなんて最悪な日なんだろう。




さっさと終わらせてオリジナルの作品を書きたいのに、いつまで経っても終わらない。締め方は既に決まっているのにそこまで行くのが大変という。
個人的にはあと10話以内に終わらせたいところ。

あと、第二章のあらすじを変更しました。どうか、目を通しておいてください。

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