オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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気がつけば一週間くらい間が空きました、申し訳ない。
理由としては、仕事が忙しいのに某サイトの無料TPSにハマったりして全然書いてなかったからです。
スカさんの頭脳の有効利用。あと開幕下ネタ注意。


第58話 説得

 午前七時。太陽が西から上り、空から大地を照らし、夜の冷たさから少しずつ世界が温かさを取り戻し始める時間。そんな時間に、認証されていない裏タクシーでアジトまで戻ってきた。本当はホテルにも泊まらずそのまま帰る予定だったのだが、トーレが夜も遅いから泊まろうと言ってきたので、仕方なくホテルで一夜明かしてからアジトに帰ってきた。私としては、あまり他者との接触を持つことは好ましくなかったのだが……特別視するのなら要望にはできるかぎり応えるべきだろうと思った結果、そうなった。

 

「戻ったぞ、スカリエッティ」

「ああ、おかえり。避妊はきちんとしたかい?」

 

 いきなりキツい冗談を言ってくれるスカリエッティを無視し、横を通りぬけてカモフラージュされたアジトの入り口に触れ、暗証番号を入力して扉を開く。二人は入らないのかと振り返れば、スカリエッティが顔を真赤にしたトーレに首を締め上げられていた。

 一緒の部屋に泊まったと言っても、彼女はベッドで寝て。私はソファで寝て。そういうことは何も無かったのだから、そうと否定すればいいだけの話なのに、ああいう風にムキになって否定するから妙な誤解をされるのだ。

 

「ハンク! お前も何か言ってくれ!」

 

 スカリエッティの首を絞めるトーレと目が合ったと思うと、今度は私を怒鳴ってきた。とばっちり、でもない。一応当事者だ。しかし、私が否定した所で説得力に欠けるような気がしないでもない。とはいえ、言えと命令されればそうした方がいいだろう。

 

「スカリエッティ。私はそういう事をする機能はあるが……行為への拒否感。いや嫌悪がある。だからお前の言ってたようなことはしてない」

 

 スカリエッティの頭越しに見えるトーレの顔が少し残念そうに見えたのは、きっと気のせいだろう。そのせいでスカリエッティの締め上げが強くなったように見えたのはきっと気のせいじゃない。見るからに顔が青くなっている……が、同情はしない。奴の自業自得だ。

 

「わかってる。そんなことはしてないって知ってるから離してくれないかな、トーレ」

「……冗談なら、もう少し笑えるものにしてください」

 

 「わかっている」ではなく「知っている」とは、引っかかる言い方だ。ひょっとしてずっと監視されていたのだろうか……あり得る。こいつのことだし、むしろ監視していないはずがない。何かあったらそれをネタにからかって、楽しもうという魂胆だったのだろう。トーレの反応とソレを見ているスカリエッティの笑顔からして、それは確実。そしてその目的は果たされているようだ。相変わらず趣味が悪い。最悪と言ってもいいくらいだ。

 まあ、そんなことは付き合いを始めた時。いや、それよりも前。こいつの存在を知った時からわかりきっていたことだ。今思うことでもないだろう。

 そして、趣味。というよりも性格が悪いのは私も同じだろう。これから一つ、やらなければならないことがある。以前話をしたときからそれなりに時間は経っている。意思決定は既に終わっていて、今は心の整理というか用意をしている段階だろう。終わっていなければ、当然スカリエッティのオモチャに。バルディッシュは……プログラムを修正して私が有効活用させてもらうとしよう。腕一本失ってまで回収したものをゴミにするのはもったいない。

 

「スカリエッティ。ちょっと来てくれ」

 

 トーレからようやく解放されたスカリエッティに声をかけてから、アジトの中へと履いていく。いくらトーレでも。いやむしろトーレだからこそ、怒って暴行を加えても気絶しない程度に抑えているはずだ。

 その証拠に、すぐ立ち上がって、なんともない顔をしながら私の後ろをついてきた。

 

「ああ、何かな」

「ガジェットは今いくら出せる」

「んーむ、出撃可能、という意味ならいくらでも。しかし今後のことを考えて、消耗しても構わない数はⅠ型、Ⅱ型それぞれ二十くらいかな。Ⅳ型は無理だね。あれはできるだけ温存しておきたい。彼ら。あるいは彼女らか。に喧嘩を売りたいのは構わないけれど、できればもう少し待ってもらいたいね」

「フェイト・ハラオウンの回答次第だ。アレが協力すると言うのなら、元味方に全力で攻撃できるように慣らしておく必要がある。最低でも一度。欲を言えば三度は出撃させたい」

 

 彼女は私と違って六課のメンバーとの精神的なつながりが非常に深い。だからいきなり全力で攻撃しろ。あるいは殺せと言われても、おそらくできないだろう。だから今回は慣らし運転の意味で出撃する。私が使っているシミュレータが使えればいいのだが、あれは脳への負荷が強すぎる。色々とぶっ壊れている私でもキツイのに、マトモな彼女には……まあムリだろう。元々脳の処理機能も強化されている戦闘機人用にと用意されたものなのだから、普通の人間が使うべきものじゃない。

 

「記憶を消して洗脳するのが一番手っ取り早いと思うんだけどね。そうすれば実験の後でも戦力として運用できる」

「判断能力が低下する。そういうのはできれば最後の手段にしたい」

「躊躇って、足を引っ張られるよりは余程いいと思うよ? 私はね」

「付き合いが深ければ相手のこともよくわかる。そのアドバンテージを失うのはもったいない……というのは建前だ」

「ほう?」

 

 こいつを理屈で説得できるとは思っていない。戦い以外での頭の回転は、私と次元が違う。でなければ戦闘機人やその武装。あるいはガジェットのような機械の量産などできるはずがない。説得しようとしても逆に丸め込まれるのがオチだ。だから理屈での説得は諦めて私らしくない非合理的な発言で丸め込む。こいつは基本的に合理主義とは対極のところの、あえて言葉にするのなら娯楽主義者であるから、こいつが面白いと思うであろう発言をする。

 

「本音を言えば、彼女には一度命を助けられた。あまりひどい扱いをするのは主義に反する」

「君らしくないね。ところで、その主義に関して詳しく聞いても?」

「簡単だ。恩には報いる」

 

 返すことのできない恩に関しては諦めているが。例えば、あの糞共から助けてくれた魔導師。クロノ・ハラオウン提督の指揮下の魔導師だったらしい。らしいというのは、本人に確認できていないから。私が猟犬になってから、あれこれとコネを使ってそのクロノ・ハラオウン提督に謁見したところ、私を助けだした数週間後の任務で死んだとのことで。まあソレに関しては諦めている。ちなみにその上司へ恩は感じていないので、管理局を害することに別段罪悪感はない。レジアス中将にはスカリエッティの計画のことは話していないが、生きてさえ居れば簡単に……とは言わないが、事後の混乱もすぐに治めて復興させて、さらに権力を握ることも可能だろう。だから一度はあえて恩を仇で返す。

 そして、フェイト・ハラオウンについてだが。彼女への恩はバルディッシュの回収と、選択肢の用意という形で返してある。つまり、これで貸し借りはなし。

 

「単純だけれど、なかなかいい主義だ。感動した」

「時と場合によっては簡単に覆すがな……さて」

 

 話をしながら歩いていたら、ある部屋の前に辿り着いた。目的地だ。ドアをノックして入室の確認をする。

 

「……どうぞ」

 

 許可を得たので、ドアの横にある機械にカードを通してロックを解除。ついでに蛇の擬態も解いて、右手は無い状態に。

 

「この部屋は。アレかい」

「確認する。そろそろ意志も固まったことだろうしな。拒否したら、その時は好きにしろ。協力もする」

「もちろん。そうさせてもらうよ」

 

 センサーに手を当てると、ドアが横にスライドして開く。その中には、待機状態のデバイスを手に持って、神妙な面持ちでソファに座りこちらを見るフェイト・ハラオウンが其処に居た。やはり戸惑いや不安があるのか、戦いを生業とする人間とは思えないほど白かった手は固く握られてさらに白くなり、さらに少し震えている。それに加えて、腕の無い私の姿を見て、少しだけ引きつった顔になった。すぐに戻ったが。

 私とスカリエッティはガラスの天板のテーブルを挟んで正面に座る。スカリエッティはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら。私は膝を組んで、相手を見下ろしながら。この方が威圧感が出て、反抗心も薄れるだろう。

 そして、彼女の目を見て口を開く。

 

「さて。時間は十分に与えたはずだ。答えを聞こう」

 

 丸二日という時間は、心を整理するのには十分過ぎるだろう。これで決まっていなければ、実験材料となる未来しか残っていないが。

 

「自らの意志で元仲間と戦うか。大事な人が死に、さらにはこの変態のオモチャにされるか……お前はどちらを選ぶ」

「変態とはまた随分な言い様だね。せめて天才と言ってくれたまえ」

「お前は黙れ。さあ、答えろ」

「……」

 

 彼女は喋らない。いや、口を開いて声を出そうとはしているのだが、言葉が喉で止まってしまい音として出てこないのだろう。意志は決まっていても、やはり認めたくないという気持ちがあるらしい。

 

「……しは、私は……」

「さあ、どちらだ」

「決められない……。どっちも、私は嫌、嫌だよ……!」

 

 ようやくまともな言葉を出したと思ったら、ここに来て決められないときた。思ったよりもずっと意志が弱いらしい。しかもいきなり顔を両手で覆って泣き出すとは、始末におえない。しかし道は二つしかないわけで、なんとしてもここで決めてもらわなければならない。時間は有限だ。その有限の時間を無駄にして過ごすよりかは、策を練っている方がずっといい。

 

「どうする? ハンク君」

「お前の方が頭がいいんだから、どうにかして決めさせろ。さすがに想定外だ」

 

 私は強制はさせたくない。自分の意志で決めてもらわなければ。自分の意志で戦うかどうかを決めてもらわなければ、確実にそれは迷いとなって隙を生む。その隙に付け込まれれば、戦略が崩れる。

 

「……ふむ、いいだろう。任された。さて、フェイト・テスタロッサ。君は少し勘違いしてるようだけれども、君が戦うのは仲間を傷つけるためじゃない。仲間を守るためだ」

「守る、ため?」

「そうだ。君が戦力に加われば、我々にも少しだけ余裕ができる。余裕があれば殺さないよう手加減することもできなくはない」

 

 何を温いことを言っているのか、と怒りたくなるが、ここは抑えておく。スカリエッティに任せたのならこいつのやりたいようにやらせるべきだ。頭の悪い私が余計な事をして、こいつの考えを台無しにしては任せた意味が無い。

 それに、私にとってこいつの言っていることが馬鹿馬鹿しくても、彼女にとってはそうでもないようで、泣き止んで、不安そうな表情はそのままでジッとスカリエッティの顔を見ている。効果はあったようだ。

 

「本当は彼を使う予定だったが、彼は君のデバイスを回収するために右腕を失ってしまった。おかげで元からギリギリで足りていた戦力が、完全に不足してしまっているんだ。しかし君のように非常に優秀な魔導師が居てくれれば、空いた穴を埋めて余りある……君にしかできないことだ。そして、これは君にも益のあることだ。さっきも言ったが、君が居てくれれば無駄な死人を出す事もなく計画を遂行できるだろう……そして、君もひどい目に合わなくて済む。私たちには君が必要なんだ。フェイト・T・ハラオウン」

 

 別に腕は蛇で代用できるからいいが。まあそれは置いておこう。確かに、彼女が居れば事は少しだけ楽に進むだろう。それでも数百メートル続く地雷原を探知機なしで踏破するほどの難易度には変わりないが。

 しかし、スカリエッティは随分と女の扱いにも長けているようだ。いや、正確には人の扱いか。私だったら『お前のために色々と苦労したんだから、対価に見合うだけの成果を出せ。拒否したら死ぬよりひどい目に合わせる』としか言えないだろう。そして、スカリエッティの甘い言葉は彼女の心のどこかに触れたのか、涙を止め。迷いや不安はまだ残っているが、それでも何かを決めたような顔になった。

 

「……わかりました……」

「だとさ。ここからは君の役目だ」

 

 スカリエッティが得意顔でこちらを向き、あとは任せたと言ってくる。とりあえず眼を一度変えて、感情を覗いてみる。特に怪しいところは見られないが、元仲間と会ったら揺らぐ可能性は非常に高い。それだけは頭に置いておこうと決めてから、眼を閉じて元に戻す。しかし、この能力は本当に便利だ。嘘を見抜くには丁度いい。

 

「ひとまずはおめでとう。と言わせてもらう。この瞬間から、お前は私たちの仲間となったわけだ……」

「うん……じゃあ、改めて。よろしく」

 

 差し出された左手を握ることはしない。てっきり私が手をにぎるものだと思っていたのか、彼女はやや戸惑った表情を浮かべる。しかし私は彼女を仲間と認めたわけではない。まだ仲間と認識するには、判断材料が不足している。だからこれから判断材料を手に入れる。

 

「私はまだお前のことを信用していない。元仲間を相手に本当に戦えるかどうかを確かめなければな。昼食を摂った後出撃して、それを確かめさせてもらう。準備をしておけ」

「……わかった」

「じゃあ、私はこれから朝食を作るから失礼する。作ったら持ってくる」

「え、でも片腕で……」

 

 片腕で作れるのか、と聞こうとしたのだろうが。二の腕から蛇を出して、互いに絡み合わせて腕のようにし、元の腕をイメージすれば、ちゃんとしたヒトの腕が。これで料理もできる。それだけ見せて、入ったドアから出て行く。

 

「あ……」

「それじゃあ、私もこれで失礼させてもらうよ。活躍を期待している。頑張ってくれたまえ」

 

 スカリエッティも私の後をついて出て行く。そして廊下に出て、ドアが閉まったところで、歩きながら会話を始める。

 

「見事な説得だったな」

「君があらかじめ追い込んでいてくれたのと、デバイスのAIに少し細工をしておいたからね。一晩自分の半身とも言えるデバイスと会話して、そういう方向に意志が傾きやすくなてたのさ。あとは少し彼女の望む言葉を推測してかけてやれば、簡単に落ちる。ところで今日の朝食は何かな?」

「スクランブルエッグとパン。それと作り置きのポテトサラダ」

「楽しみにしているよ。では、私は皆を呼んでこよう」

 

 スカリエッティと廊下で別れ、あいつは居住区に。私はキッチンに向かう。できれば家事以外何もすることがないくらい暇なのが理想的なのだが、残念ながらそうはいかない。今日は面倒だが、昼までに爆弾首輪を作って。さらに出撃時のサポートに誰を連れて行くべきかを考えなければならない。今日は忙しい一日になる。




一話一万字とか書いてみたい。
絶対書いてて疲れるから、分割投稿になるだろうけど。

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