オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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ラブ回です。キャラ崩壊につき閲覧注意。


第54話 恋

高層ビルが建ち並び、人が所狭しと歩き回り、車が道路を埋め尽くし、夜だというのに昼のように明るく、路地にまで光が射し込む活気溢れるクラナガン市街。例え人混みの中で見知った顔とすれ違おうとも、気のせいで済ませられるほど人口密度が高いこの街では、多種多様の店が、数えられないほどの店舗を作り毎日客を奪い合っている。そして人気の店には客が殺到し、そうでない店は次々と潰れてそこに新しい店が建つという光景が日々当たり前のように見られる。

まあ、それはあくまで大衆向けの店に限り、金持ちの行く高級店にはあまり縁のない話だ。

 

「着いたぜお客さん」

「ご苦労。また帰りも頼む」

「へいよー」

 

管理局から認定を受けていない、所謂裏タクシーの、態度の悪い運転手に割高の代金とチップを渡して、車のドアを開いて先に降りる。正規のタクシーと違い、管理局から睨まれると困る奴らは移動の足として使うには最適なのだ。

一人先に降りてからトーレの手を取り、軽く引いて車から降りてもらう。

 

「足元に注意して。転けるなよ」

「わかってる!」

 

髪の色と同じく薄紫色。裾は足首が隠れる程度の長さで、太ももまで覗かせる大きなスリットが入っていて、肩も露出したシンプルなドレス。ドレスの下から覗くのは、スリットから少し見える真っ白な脚と真逆の、光沢のある黒いハイヒール。そのおかげで元々高かった身長がさらに高くなり、彼女が正面に立つと少し目線を上げなければならないほどになっている。ドレスの上には寒さを防ぐためにファーのついたコートを羽織る。

顔にはクアットロから借りたメガネをかけ、元の顔を引き立たせる程度の薄い化粧をしている。普段縁のない格好をしているせいか恥ずかしそうな表情もあいまって、とてもトーレとは思えない雰囲気を放っている。

 

なぜこんな服や化粧品がアジトにあるのか全くわからなかったが、買う手間と金が省けたと思って納得しておく。考える必要のないことだし。

「こ、この格好は変じゃないか?」

 

片手でドレスの裾を握りしめる様は、まさに慣れてないという感じがする。

 

「どこもおかしいところはないから堂々としていればいい。店側はプロだし、様子がおかしいとすぐ見抜かれるからな」

 

変装としての点数は満点と言っていいのだが、服装に慣れていないのか少し挙動不審になっている。怪しまれては変装の意味がない。

私も普段縁のないスーツ(しかもブランド)姿だが、この格好に合った立ち振る舞いをするつもりでいる。

 

「それはわかってるが……」

「いつまでも店の前で立ち尽くしていては迷惑です。行きましょう」

 

笑顔を作り、声と口調も変え。優しく片手を持ったまま横に並び、もう一方の手を腰に回して、トーレを押して店の入り口へ進む。

 

「ま、待ってくれ、私はこういう店に入った事がないんだ」

 

こういう店。というといかがわしい感じがするが、ただの上流階級向けのレストランだ。入った事が無いと言っても、極端に言えばただ利用する層が違うだけで、そこらの居酒屋と変わらない。食事をするところなのだから、ただ食事をすればいい。商談をしたりすることもあるが、今日の目的はトーレへの礼。特に込み入った話をするわけでもない。

 

「緊張せず、気を抜いて。楽にしていればいい」

 

耳元で一言囁いてそのまま進む。ドアの前に来ると自動でドアが開き、中から店員が出迎えてくれる。

 

「いらっしゃいませ。ご予約はされていますか?」

「二時間前に電話したジャック・オブライエンです」

 

適当に考えた偽名。どこにも存在しない人間の名前だが、だからといって問題はない。

 

「席へご案内します。こちらへどうぞ」

「行くよ」

 

トーレの手を引いて店員の後ろをついていく。

 

「わ、引いてくれなくても一人で歩ける」

「そうですか」

 

手を離して、二人並んで無言で歩く。

「こちらの席になります」

 

案内されたのは、パーティ会場ほどではないがそれなりに広いホールの、窓際のテーブル。椅子を音を立てないようにゆっくりと引き、同じく音を立てないように座る。トーレも私を見よう見まねで座る。

 

「ご注文がお決まりになりましたら、ベルを鳴らしてお呼びください。では、ごゆっくりどうぞ」

「ああ。ありがとうございます」

 

ウェイターが去って行ったところで、トーレに向き直る。

 

「好きなものを頼んでください。お金は気にしなくていいですから」

 

なぜかスカリエッティが妹の口座に振り替えしたはずの金をいつの間にか全て引き下ろしていて、私に渡してきたから食事するくらいなら問題ない。

 

「それより、なにか見られているような気がするんだが……」

「……」

 

目を変えて、周りを一度見回してみる。警戒心、あるいは敵意を持った人間はこの場には居ない。窓の外にも、視界に入るところには居ない。

ただ、トーレのことを性的な目で見る奴が何人かいるだけ。

 

「あなたが魅力的だから、皆見惚れているんですよ」

 

『敵意を持った人間は居ない』と暗に伝えてやる。デバイスなしで念話が使えればこんな回りくどい言い方しなくてもいいのだが。デバイスの補助なしでの念話の仕方なんて誰にも教わったことがない。

 

「そ、そんな恥ずかしいことをよく言えるなお前は……」

「そういう風に演技してるだけですよ」

 

周りに聞こえない程度の声で呟く。ごく小さい声だが、戦闘機人なら聴覚も強化されているだろうし聞こえるだろう。

 

「お前に敬語を使われると違和感がひどい。いつも通りの口調でいいぞ」

「今日はあなたにお礼をするためにこの店に来たんです。恩人には敬語を使わなければ失礼でしょう」

 

一呼吸してから、また小声で付け加える。

 

「格好だけ変装して、中身に気付かれては意味がありませんから」

「……あぁ。なるほど」

 

ざっと見た感じでは、この中に私の知る人間は一人もいない。だが、こちらが相手のことを知らないだけで、この中に私の事を知っている人間が居る可能性も否定できない以上、あまり素の自分でいるべきではない。今の所誰もこちらに気付いている素振りは見せはないし、静かに食事をしていれば見つかることもないだろう。

 

「何を注文するか。決めましょう」

「……そうか。そうだな。しかし、何を頼めばいいんだ?」

「何でも。好きなものを」

「じゃあお前と同じのものを。どれがいいかなんて、わからないからな」

「酒はどうします?」

「お前は?」

「酒についてはよくわかりませんから。適当に、料理に合うものと頼もうと思います」

 

酒の味が分かるほど飲んではいないから、どれがいいと言われてもわからないが。ベルを鳴らして、ウェイターを呼ぶ。

 

「ご注文をお聞きします」

 

鳴らしてすぐにやってきたウェイターに、魚料理のコースとそれに合う酒をと注文した。

 

「畏まりました。しばらくお待ち下さい」

 

さて。

 

「退屈ですか?」

 

ずっと変わらず無愛想な顔を崩さず。正面に座っているのに未だに一度も目を合わせていないトーレに話しかける。

 

「いや、そんなことはない。そうみえたか?」

「ええ。そういう顔をしていました」

 

つまらないのでなければ、一体どうしたというのか。

 

「こういう場面は始めてで……恥ずかしい」

 

誘わせておいて、恥ずかしいとは。一体どういうことなのか。

 

「さっきも言いましたが、堂々としていればいいんです。私達は客なんですから」

「そうじゃない……」

「じゃあ何が」

「お前と、二人きりなのが」

 

そう言うと途端に顔を赤くして俯いてしまった。私は特に何かした覚えは無いのだが。

 

「ドクター以外の男性というと、あの騎士しか居なかったからな……ドクターは親のような存在だし。奴とはほぼ関わらないし……異性として意識するほどの関わりを持つ奴は、お前以外に居ないから、恥ずかしいんだ」

 

突然の独白に驚き、数秒間思考が停止する。そして、平静を取り戻してからトーレに質問する。

 

「一つ聞かせてください……それは、好意としての意識ですか」

 

トーレの反応がおかしいのも。食事に誘わせておいて恥ずかしがるのも。それが原因か。できれば、それが好意としての意識でない方がいいのだが。きっと、そうではないと思うのだが……万が一そうだとしたら。

 

「わからない。だが、お前の事は嫌いじゃない……仲間としてかお前個人としてかはわからないが、前みたいな危ない事はしてほしくない。これが好きという感情なのか?」

「これ以上は話すべきじゃない」

 

誰に聞かれるかわかったものじゃないこの場で、あまり自分の身元を明かすような事を言うべきじゃない。

それ以上にトーレの気持ちが好意かどうかを聞きたくないから、止めさせた。私が好きだと言われても、私は誰かを好きにはなれないのだし。自分の妹一人すら救えていないのに、誰かを好きになる資格なんてないのだから。

だから、もし好意を抱かれていても、それに応えることはできない。だから、その好意がもし本物だとしたら……私は拒絶するしかない。そうなれば彼女は傷つくだろう。だが私はきっと受け入れられない。でも傷つかせたくない。

 

「お前は確か、人の感情が見れた筈だな。私の感情を見てくれ。そしてそれが好意なのかどうか教えてくれ」

 

らしくない。いつものトーレは、もっと偉そうに、自分に絶対の自信を持ってような態度をしているはずなのに、今の彼女は全くトーレらしさが欠片も存在しない。いっそ偽物と言われた方が納得できるほどだ。

 

「……私は、六年前から誰かに好意を抱いたことは一度もありません。だから、見てもきっとわからないと思います」

 

これは嘘。自分のためではなく、相手のための嘘。相手を傷つけさせないための嘘だ。私は感情を見れば相手がどういう思いを持っているのかが大体わかる。靄を通して、本人の持つ思いが伝わってくるからだ。だから、トーレの持つ思いが好意か否かは見ればハッキリわかる。

故に、見てしまえばその思いを理解してしまう。今の私はとても冷静とは言い難い。これ以上嘘をつけばたちまち見抜かれて、面倒なことになる。

だから、それを拒否して勝手な考えを述べる。そうであって欲しいというただの願望とも言えるが。

 

「でも、その気持ちは多分好意とは違うと思います。付き合いもまだ浅いんですから、好意を抱くには早すぎます」

「そうだろうか……そう言われると、そう、だな。」

 

なんとか納得してもらえたようだ。私自身、家族以外の誰かに好意またはそれに近しいものを向けられたことがなく、また他人に好意を向けたこともない。こういう状況は始めてだった。おかげで、こんなにも動揺して、醜態を晒してしまった。

 

「この話題はこれで終わりにしましょう」

「その前に一つだけ聞かせてくれ。お前は、私の事をどう思っている」

 

……それは、決まっている。いくらこんな話を聞かされようが、私の他者への認識に変化はない。

 

「優秀な戦力です」

 

それ以外に何があるというのか。彼女は戦闘機人。戦うために生み出された機械の兵器と何ら変わりない。見た目や思考こそ人間と同じだが、中身は違うのだ。

それを戦力と言い切って、一体何が悪いというのか。

 

だが、兵器と認識しているなら傷付けたくないというような思考は生まれないはず。兵器は他者を傷付け、自分も傷つけられるものだ。ということは、私は彼女を一人の人間として認識し、尊重しているという事になる。これは明らかに矛盾した考えだ。

 

いや、考え方を変えればそうでもない。兵器として見ているからこそ、性能を落とさないために傷付けさせないという考えはおかしくはないはず。だがそれは物に対する捉え方であって、彼女に向ける気持ちは妹へのそれに近い気がする……ダメだ。わけが分からなくなってきた。

 

「……そうだな。お前はそういう奴だった」

 

少し悲しそうな表情を見せるトーレ……そうだ。兵器には感情がない。兵器は意思を持たず、ただ所有者に使われるだけの存在のはずだ。感情があるということは、兵器でないということ。

 

「もうひとつ。あなたを傷付けたくないとも思っています」

 

私らしくないセリフだが、兵器に対してこんな感情を抱くはずがないの。これは間違いなく、私が彼女を一人の人間として見ている証拠だ。

 

「……?」

 

私が復讐のための道具、妹を助けるための道具になり切れていれば、こんな事にはならなかっただろうに。こんな考えは抱かなかっただろうに。

 

「あなたが私に向ける気持ちと同じく、傷付けたくない。傷ついて欲しくないと思ってます」

 

これが好意なのかどうかはわからない。だが、こんな気持ちを他人に抱くのは始めてだ。命を救ってもらった恩はあるが、きっとそれだけではない。

 

「は……? それは、つまり」

「あなたが大事ということです」

 

他人から見れば、まさに恋の告白そのものだろう。トーレもそう受け取ったのか、顔をさっきよりもずっと赤くして固まってしまった。

 

「す、少しお手洗いに行ってくる」

 

そう言って立ち上がり、一人歩き出した。少し歩くとつまづいてよろめき、転けかけていたので、余程動揺しているのだろう。

 

「……はぁ」

 

トーレが居なくなったので、ため息を一つ。胸に手を当てると随分と早いリズムで拍動しているので、私自身もかなり動揺していたようだ。なぜあんな言葉が出てきたのか理解できないが、これが恋というものなのだろうか。

 

よくわからないが……しかし、優先順位を間違えてはいけない。恋などに現を抜かすよりは、エリーを治させることを最も優先しなければならない。

だが、もしエリーが治ったら……その後は普通に人を好きになれるかもしれない。そうすれば今の気持ちがどういうものなのか、ハッキリするはずだ。




読み直したら口から砂糖が出そうになった。我ながらよくこんなのを書けたなと。
あとハンクは押されると弱い。


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