オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

44 / 89
今回ははやて視点です。登場人物の黒化注意。
仲間を傷つけられればこうなるだろうという感じです。

※改行について、修正しておきました


第42話 腹黒

 昨日の会話で、疑念が確信に変わった。けれど、現状では何も手が出せないことが何よりも悔しい。しかも彼はそれがわかった上で、死にたくないなら引きこもって震えてろ、と挑発をかけてきた……正直、これほどまでに他人を殺したいと思ったことは無い。

 証拠さえあればすぐに捕まえて、裁判にかけて、裏工作で死刑にしてやることもできたのに。いや、証拠がなくても作ればいい……だけど、彼の肩書が其れを許さない。

 

『地上本部のエリート』

 

 確かに魔導師ランク『は』高くない。だが、それがどうしたと言わんばかりの戦果を上げているだけあり、高ランク魔導師の少ない地上本部における彼の評判は高い。さらに戦闘機人撃退の一件で民間にもその名は広く知れ渡り、その後は犯罪者の追撃中に部下を失い、責任をとって辞職したという悲運のヒーローとして同情を集めた……その後保護されたものの、直後に行方をくらました。そして昨日のヴィータ負傷……それからあの挑発。偶然にしてはあまりにできすぎている。彼が犯人なのは間違いない。だけど証拠が何一つ存在しない。狙撃の現場には硝煙反応以外には、薬莢はおろか髪の毛一本すら残っていなかった。射撃魔法による攻撃ならば、魔力残滓で検証できたものを……おかげで彼を犯人とする物理的証拠は何一つ存在しない。

 まあ何にせよ。彼はなのはとは違うが紛れも無く一種の英雄として見られている。それを捏造した証拠で死刑になどできるはずがないし、できたとしてもその後が怖い。だがそれよりも怖いのは、被害の拡大。今回は狙撃という比較的大人しい手段を用いてきたが、それはおそらく証拠を掴ませないため。証拠を掴み、指名手配すれば証拠を隠す必要もなくなるから、もっと派手な手段を取るようになってもおかしくない。それこそ、強力な爆弾で民間人ごと私達を爆殺したり。

 

 証拠を掴まなければ手出しできないし、証拠を掴んでも地獄が待っている。どちらに転んでも待つのは最悪な結末というのが、さらに不安と悔しさを増大させる……それを回避するには、被害が拡大する前に彼を何とかして無力化するか、レリックから手を引くか。前者は簡単ではないし、後者はこの部隊が設立された理由を全否定することになるから認めるわけにはいかない。よって、選ぶのは前者しか無い。

 

「はやてちゃん、気持ちはわかるけど、落ち着いて」

「ん!? ああ、なのはか……大丈夫。私は大丈夫や」

 

 自分が思うよりも深く考えていたせいか、なのはが近寄っていることにすら気づかなかった……どうしてだろうか、最初は本当に、自分と似た境遇の相手に同情する形で好意を抱いていたはずなのに。どうしてこうなってしまったのか。一体どこで間違えてこんな事になってしまったのか。

 

「……あ、そうか」

 

 最初の間違いは、彼のことを勝手に調べたこと。決め手となったのは、おそらくホテル・アグスタ。あそこで私が彼を止めていなければ、彼は独力で復讐を果たしていただろう。それができなかったから、犯罪者に借りを作り、その借りを返すために私達に敵対している。でなければ、私達を攻撃する理由がない。殺されかけたことは実際恨んでいないようだったし。

 なんだ、結局は私のせいなのか。

 

「どうしたの?」

「ヴィータをやった犯人の予想がついたわ」

「……誰」

 

 能面みたいな、感情の消えた表情でなのはが詰め寄る。今にも暴発しそうな核

爆弾を見ているようで、冷や汗が止まらない。

 でもヴィータと一番仲がいいなのはが怒るのは、まあ当たり前だろう。それはなのはとの友情を再確認でき、嬉しくもある。だがそれとこれとは話が別。公私は分ける。なのはは彼を一度殺しかけたことがあり、引け目がある……教えてしまったら、どうしていいか迷ってしまって、現場で事故を起こす可能性もある。

あるいは暴走して証拠もないのに彼に襲い掛かられても困る。なのはならやりかねないというか、むしろ確実にやる。そうなったら最悪部隊は解体……考えると恐ろしい。でも伝えずに彼と遭遇して、最大の戦力が殺されてしまっても困る。

 

「ハンク・オズワルド」

 

 どちらがいいか考えた結果、結局教えることにした。黙っててもどうせしつこく言い寄られて、最後には教えることになるだろうし。

 

「ハンク君が? でも証拠が無いよね……でも、うん。はやてちゃんがそう言うなら、そうなんだろうね」

「証拠はあらへんけど、昨日話をして、確信した。でも街で偶然会っても絶対に手を出したらあかんで」

 

 釘を刺さなければ絶対に殺る。釘を刺しても殺る可能性がある。どっちにしても怖い。ならば刺して置いたほうが、なのはの独断として六課全体が批難される前に切り捨てる事もできるからいいだろう……切り捨てた所で、非難の嵐はさけられないだろうが。

 

「なんで? ヴィータちゃんを傷つけたってことは、犯罪者なんだよね? どうして撃っちゃダメなのかな?」

「言ったやろ。証拠がないて。証拠もないのに陸の英雄を攻撃したらどうなるか位わからんか? うちはただでさえ地上本部から疎まれとって、海と空からの支援があってこそ成り立っとる。問題を起こして支援を断たれたら六課なんて即解体や」

 

 どれだけ念入りに釘を打ち込んでも全く安心できない。なのはは一度そうと

めたら一直線に突っ走る癖がある。道中に障害があっても全部知ったことかと叩き壊して直進する。それがなのはの最大の長所であり、同時に最大の短所だ。戦力としては期待できるが、組織の歯車としては不適合。

 

「証拠はフェイトちゃんに捜査させる。証拠が掴めるまではハンク君の事は誰にも言わずに、質量兵器への対処の仕方だけ訓練しといて」

「納得できないよ! わかってるならどうして捕まえられないの!? このままじゃどんどん被害が増えていくんだよ!?」

「黙れ!」

 

 うっかり怒鳴り返してしまった……デスクを強く叩いたせいで書類が舞い上がって床に散らばった。後で掃除しないといけない……

 

「それは私もわかっとる……わかっとるんや」

 

 でもどうしようもない。自分が管理局員でなければ。隊長という役割を持っていなければ、感情に任せて彼を殺しに行っていただろう。けど、自分の立場が、管理局員である首輪と鎖がそうさせない。

 

「ならどうして!」

「……六課のリーダーとして、無茶なことは許可できません。どうしてもと言うのなら、辞表を提出してから行きなさい。高町一等空尉」

 

 やってしまえという自分を、機動六課のリーダーとしての仮面を被せて黙らせる。私が考えなしに動けば色々な人に迷惑がかかるから。だから、自分を殺してなのはに『命令』する。

 

「はやてちゃん……わかった。そうまで言うなら街で会っても手出しはしない。でも、現場で出会ったら」

「その時は、好きにすればええ。偶然巻き込まれて死人が出ても、私は何も言わん」

 

 悪意を持って家族を傷つけられれば、人としての良識が消える。それを身をもって体感した私は、彼と同類に堕ちてしまったらしい。このままなのはに向かわせれば、私は世間になんと言われるだろう。英雄をろくに取り調べもせず殺害することを許可した屑? 偶然現場に出くわしただけの人間を巻き添えにすることを許可した外道?

 けど、それでもいい。家族を傷つけられて黙っているよりは、ずっと。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。