オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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今回試験的に視点変更を導入。やはりずっと主人公視点だけで書くのは無理があった。


第36話

 シグナムとの模擬戦から三日目の真昼。ドゥーエと話しながらベルカの街を歩いていると、本当に唐突に、何の前触れもなく事務処理専用のデバイスが起動し、スクリーンが展開した。それには驚いたが、さらに驚いたのは……

 

『やあ、元気にしているかい?』

 

 そのスクリーンにスカリエッティがでかでかと顔を映し出していること。慌ててスクリーン非表示化のスイッチを押し、周りに見ていた人間が居ないかを確認し、ドゥーエ以外誰も居ないことを確認してから監視カメラの方を見る。丁度、スクリーンは私の体で隠れて、カメラからは死角となっていた。全く心臓に悪い。

 きっとスカリエッティはわざとやっているに違いない。一つため息を吐いてから、小声で通信を再開する。

 

『平和な時間を楽しんでいるようだね。だが、それももうお終いだ。そろそろ戻ってもらうよ』

 

 私への配慮など微塵もなく、ただ自分の言いたいことだけを言っている。そういえば、スカリエッティはそういう奴だった。他人のことを全く考えず、自分の好きなように行動する。迷惑この上ない人種だ。

 私も似たところはあるが、奴はさらにその上を行く。

 

「楽しかったが、少し長すぎたな。体が鈍るところだった」

『ああ、それはすまないね。とりあえず偽装のために、ドゥーエを殴るなり絞め落とすなりして気絶させたまえ』

「やる必要はあるのか?」

 

 敵でもない相手に暴力を振るうのはあまり気が進まない。必要でないなら避けたい事だ。しかし、必要なら。やらなければならない理由があるなら、やるしかない。

 

『ドゥーエにはこれからも聖王教会に潜伏してもらわなければならない。怪しまれずに続けさせるためには必要なことだ。大丈夫、彼女はMだから恨まれはしないよ。やったら向かって右側にある路地に飛び込み給え、セインが待っている』

 

 なるほど、それは確かに尤もな理由だ。

 

「ドクター、あまりいい加減なことを言わないで下さい……ですが、ハンクさん。これは必要なことですから恨みはしません。どうぞ、一思いにやってください。中途半端だと苦しいだけなので、思い切り」

 

 笑顔で言われると、本当にそういう趣味があるのかと疑ってしまう。あったとしても、性格と同じように性癖も人それぞれ。一応そういうのには理解があるつもりだ。

 

「了解」

 

 肩を掴んで、鳩尾に一発膝蹴りを入れる。体がくの字に曲がった所で、頚髄に肘を落とす。人間ならこれで落ちるはずだが……確認する暇はない。監視に尾行していた騎士が数人、こちらに走ってきているのが見えたからだ。心の中で彼女に謝罪しつつ、指示された通り路地に飛び込む。

 

「や、久しぶり」

 

 ビルの外壁にもたれかかっていたセインがこちらを見て、片手を上げて挨拶をしてきた。

 

「そうだな」

 

 一ヶ月と経っていないはずだが、それでも久しいと感じる。やはり平和な時間はとても長く感じるものだ。シグナムと模擬戦をする前はすっかり勘が鈍っていたが、アレのおかげで取り戻せた。感謝しなければなならないだろう。

 

「動くな!」

 

 再開の余韻に浸る暇もなく、教会の騎士が追いついてきた。始末できないことはないが、教会とまで敵対するのはあまり好ましくない。ただでさえ敵が多いのに、わざわざこれ以上増やす必要もないと思い、放っておく。

 

「IS、ディープダイバー」

 

 足の裏から伝わる地面に立つ感触が消え、体が地面に沈む。例えるなら、湖面に張っていた氷に乗っていたところで、足元の氷が割れて水中に落ちる。そんな感覚だった。

 ずっとこういう能力があればなぁ、と思っていたのだが。本当に羨ましい限りだ。

 

 

・・・・・・

 

彼、ハンク・オズワルドが聖王教会から脱走し、行方を眩ませたという報告を受けたのは、六課に戻ってしばらく経ってからだった。

 

「そんなアホな」

『私もそう思いますが、残念ながら事実です』

 

報告を聞いた直後、まず真っ先にその言葉が出た。聖王教会は管理局と並ぶほど巨大な組織で、管理局のように人手不足ではない。だというのに逃げられた。

そして確信した。間違いなく内部に協力者がいる、と。しかし一体誰が。どうやって脱出させたというのか。見失ったのが敷地外だったとはいえ、それでも教会のお膝元で監視を完全に振り切るなど困難を極める。

 

「彼と接触した人物は」

『今洗い出してる最中ですが、数が多くて時間がかかりそうですね』

脱走した方法については私が考えることではないが……気にはなる。しかし、何故安全地帯から脱走したのか、そちらの方も気になる。理由もなく逃げるわけがない。人が動くには必ず理由が付きまとうからだ。

なので、考えられる可能性をあげてみる。

 

一つ。妹を助けに単独で動く。そこからさらに先を予想するならば、拉致した犯人に殺害される。あるいは妹を人質にして、何かしらの悪事に加担する。大穴で犯人を皆殺しにしてミッドチルダへ戻ってくる。彼の妹を治療できる病院は、クラナガン精神病院しかない。それほどまでに心の傷は深い。

10歳で家族を目の前で殺されて、初潮も迎えてない幼い体に汚い欲望をぶちまけられて。それを数ヶ月も続けられたのだから、心が再生不可能なまでに砕かれるのは当然だ。

だが、彼もまた酷い目にあっている。家族の死を見て、理不尽な暴力を受け続け、痛覚を失った。妹を凌辱される様を見せられ続け……と、思考が逸れてしまった。

 

二つ。これは彼の言っていたことが嘘である前提だが、彼の妹は拉致されたのではなく、管理局に人質を取られることを警戒して誰かに保護させた。その見返りとして、何かに協力する。

 

そうなれば、次に考えるべきは彼の妹を拉致あるいは保護したのは誰か。管理局という線は薄い。自慢だが、私のコネは表にも裏にもとても広い。何処かでそんな動きをすれば、確実に耳に入る。

テロリスト、犯罪者はどうだろう。否、だ。彼の関わった任務で、彼が自分に繋がる証拠は何一つ残していない。ピンポイントで彼を恨む人間は居ない。

となれば、一番可能性が高いのはジェイル・スカリエッティ。あの犯罪者は何を考えているのかはわからないが、彼に接触しようとして戦闘機人を送り込んできた。私の知らない間にどこかで接触を持っていた可能性は高い。スカリエッティは生命操作技術に優れている……彼の妹を治療することも可能かもしれない。それを対価に取引を持ちかけた可能性は、高い。

 

考えれば考えるほど最悪な可能性ばかりが頭に浮かんでくる。

 

「嫌やなあ」

 

彼は魔法を身体強化しか使えない、魔導師とも呼べないような魔導師。だが彼は質量兵器と身体強化だけで戦果を上げ続け、たった五年で准尉まで上り詰めた。その過程で殺害した人間は百をゆうに超えている。

短い期間だが一緒に仕事をしていた陸士曰く、「目をつけられたら死ぬ」「狙われた目標は一週間以内に死ぬ。ストライカー級でも多分殺られる」「あくまで噂だが、上からの命令で管理局員も始末しているらしい」

最初に聞いた時には評価に尾鰭がついただけで、そこまで凄くはないだろうと思っていた。

 

甘かった、と言わざるを得ない。

 

彼が隊を去ってから改めて任務経歴書を見れば、陸戦Eの範疇に収まり切らないデタラメなものであることを知る。

単独で完全武装したテロリストの拠点に侵入し、爆薬を設置して帰還後に爆破したり。1kmを越える遠距離からの狙撃でAAランクの魔導師を、戦闘状態に入らせずに殺害したり。ある時は道端に爆弾をしかけ、無関係な人間を巻き込んで凶悪な指名手配犯を殺害したり。最も最近の事件で、次元世界に広く知られている事だが……戦闘機人を独力で足止め。負傷させ、部下の狙撃で完全に無力化した。

本来ならエースと呼ばれてもおかしくない功績の数々。なのはのように表に出ず、陸以外の人間がその存在を知らなかったのは、その任務のほとんどを目標の殺害により完遂しているから。故に質量兵器の存在を認めない空や海が必死になって広報を妨害していた。広報しない代償として、彼は異例の速度で出世できたのだろう。

 

「……怖いなぁ」

 

私たちは確かに強力な戦力だ。しかし、戦わなければただの人間。彼はそれを知っている。戦っては絶対に勝てないことを知っている。だから、正面からの戦いことは避けるはず。

彼がやるとすれば、無防備な所で……例えば買い物の最中に心臓に大口径の鉛玉を撃ち込むとか。街を歩いている最中に、真横に停まっていた車を爆発させたりとか。マトモな人間ならやらないことだが、彼ならやりかねない。いや、間違いなくやる。なぜなら、彼はマトモじゃないか。

 

「狂っとる」

 

そう判断する証拠が私にはある。かぜなら私は彼に撃たれたことがあるから。マトモな人間ならまず銃を下げるであろう状況で、彼はトリガーを引き、私を撃った。そしてシグナムに首を切られ、死にかけた。その後態度を一切変えることなく和解した。その時にも、彼は正気ではないことを感覚で理解していた。

 

だが、その理解が少しばかり浅かったことも今わかった。その時には少しずれている程度の感覚だったが、それすらもフェイク。本質はもっと違う。彼が殺した家族の仇……その中で一人として体の原型をとどめて居るものはいなかった。仇とはいえ、あんな事を平気でできる残虐性。一応は佐官クラスまで上り詰めた実力者をあっさりと皆殺しにした実力。あれが彼の本当の人格と実力なのだろう。

それを知った私は、彼を身内に引き入れる理由を変えた。同情から、危険因子の管理へと。だがそれ以前にした事がまずかったのか、失敗した。彼が隊を離れてからも色仕掛けというやや強引な手段を用いて引き込もうとしたが、それも失敗。

最後の手段として聖王教会に封じ込めることで、彼の動きを拘束しようとした。

しかし、それも失敗。もう打つ手はない。後は彼が誰かに……凶悪な犯罪者に協力しないこと。それだけを祈るしかできない。

 

「はやて、何一人でブツブツ言ってんだ? なんか悩みでもあんのか?」

「大丈夫、心配せんといて」

 

まだ不安の域を出ないが、それが確信に変わるのは手遅れになった時。

つまりは、誰かが死んだ時。

 

確信に至ってからでは全てが遅い。今からでも彼を指名手配して広域捜索すれば……いや、無理だ。彼はこれといって犯罪を犯していない。一般人なら罪状を捏造することができても、彼は元陸のエリート。陸士の認識はエースのそれ。レジアス中将の求める理想の部隊の創設者。罪状を捏造して指名手配するのは陸の顔に泥を塗るどころか、ガソリンをかけて火をつけるようなものだ。

ただでさえ悪い陸との関係がさらに悪化し、完全に敵に回るだろう。

 

それだけはやってはならない。絶対に。だから、彼が良心に従うか、猟犬に食い殺されるかのどちらかを祈る以外にない。

 


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