オリ主が逝くリリカルなのはsts   作:からすにこふ2世

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第19話

 午後零時。今日は午前七時に起床し、血で固まってパリパリになった包帯を、鬱陶しいからと自分ではがしてゴミ箱に捨てた。そして朝食を持ってきたナースに怒られた。血のついたものは感染性廃棄物として決められたゴミ箱に廃棄することになっているのに、普通のゴミと一緒にするなとのことだった。

 朝食の後は体をタオルで拭いて。輸血の管を抜いてもらって。前入院した時に世話になった医者に傷の状態を見てもらって、「退院しても問題ない」と言われて。折れた左腕も治っていたのでついでにギブスも外してもらった。

 

 医者には退院しても問題ないとは言われたが、まだ退院したくないのが現実。八神二佐を撃ってからまだ一週間と経っていない上に、六課のメンツの前で謝罪していないせいで、六課のメンバー。特に八神二佐の家族である三人からの印象は最悪といってもいい。今戻れば視線の槍が体中に突き刺さることだろう。退院したらきちんと謝罪しておかねば。

 

 まあ、その前に謝罪されることになるようだが。

 

「……あの」

 

 謝罪の言葉が出てくるよりも速く割って入る。

 

「謝罪は不要です。高町一尉」

 

 本日の見舞い客二人目。高町一尉が謝罪する必要はどこにも無い……わけでもないが、私が殺されかけたのは自業自得だ。一尉の親友である八神二佐を撃ったら彼女が怒るのは当たり前。それを全く考慮せず、自分の持つロストロギアの特性を忘れて起動した結果、怒りの感情が増幅されてそれに飲まれた。おとなしく非殺傷設定のまま殴られるか、負けを認めるかしていればこんな事にはならなかったのだし。

 

「でも、私が君を……殺そうとしたのは、間違いない事だから」

「貴女が怒り、私を殺そうとした理由は至極まともなものです。大事なものを傷つけられた、それだけで害意が湧くのは当然のことです」

 

 私自身、そういう経験を過去にしてきた。そして殺意を持ち、実行に移そうとしていた。だから批難するつもりは欠片もない。批難する資格もない。

 

「あなたは悪くありません」

 

 やったことは責められて然るべき事だが、責めて何が得られるわけでもない。それよりかはここであっさり許して懐の広さを示しておく方が、後のためには良い判断だろうと思った。自分の命は羽のように軽く、裁判が終わったら別にいつ捨てても問題ない物だと思っている。だから自分を殺しかけた相手をこうも簡単に許せる。

 

「私は、そうは思わないよ……抑えられなかったのは私だし」

 

 許す、と言っているのにグチグチと。どうしても何か償わないと気がすまないのか。それとも自分が人を殺そうとしたことがよほどショックなのだろうか。そんな馬鹿な、一尉にまでなっておいて処女というわけもないだろう。

 

「それはどうでもいい事です。それよりも、腕と肋を折ってしまい申し訳ありません」

「いや……ハンク君があやまる事はないよ。自分を守るためだったんだし」

 

 所謂正当防衛であるから、彼女の言うとおり私は悪いことはしていない。文字通り正当な理由があって攻撃を加えたのだから。だが、彼女に怪我を負わしてしまったという事実は、機動六課にとってとても大きな戦力減となる。私が寝ている間に出撃があったそうだが、その際は高町一尉は出撃できずに治療を受けていたとか。そのせいで少し苦戦したとも聞く。

 

「私のような有象無象が死んでも戦力の損失は無いに等しく、補填も容易です。しかし高町一尉が怪我をしたり、精神的に不安定となり出撃できないとなれば、補填は容易ではありません」

「自分が戦力にならない? 君だって十分戦力になってるし、皆の役にも立ってる。だから死んでもいいってわけじゃないよ」

「お褒めに預かり光栄ですが、それは過大評価です。質量兵器は運用法さえ覚えれば誰にでも使用可能で、一定の戦力となります。私が死んでも短期間の訓練で同等の戦力が補充可能です」

 

 私のように痛みを知らず、恐怖を知らずに突っ込む兵士を作るのも、薬を使えば簡単だ。ただしその場合、本来の能力をフルに発揮するのは難しい。むしろ無理か。

 それにしても、わからない。なんで私のような有象無象を殺しかけた程度でここまで自分を追い詰めるのか。

 

「高町一尉はなぜ私のような有象無象に気を使われるのですか。今まで手を下してきた犯罪者と同じように、殺そうとしただけでしょう」

 

そういえば今まで人を殺した事がある風にしては、やけに落ち込んでいるが。

 

「まさか、人を殺したことが無いと」

「無いよ! ……そういう君はあるの?」

 

 そんな馬鹿な。いくら実力があるとはいえ、一人の人間も殺さずにその歳で一尉の階級まで上り詰めるなんて無茶苦茶だ。出鱈目だ。そんなことが人間にできるのか……できるのだろう、それを実行した奴が目の前に居る。

 もはや人の形をしたロストロギアと言われたほうが納得がいく。

 

「はい」

「……」

 

 途端に眉を顰める高町一尉。人殺しにそれほど嫌悪感があるのだろうか。私は最初から嫌悪感など無く、必要だから殺してきたが。私がおかしいのか……おかしいのだろう。まあそうだ、家族を殺されて、妹もあんなになったんだ。正気でいられるはずもないか。

 

「どうして、殺したの?」

「家族の仇を取るために、出来る限り短期間で出世する必要がありました。そのためには、とても表沙汰にはできないような仕事を進んでこなす以外になかったのです」

 

 淡々と、レポートを読み上げるように説明する。事実を言っただけだが、嫌われただろうか。そのほうが好都合だが。死にに行く時に助けられても困る。

 

「仕事だからって、人を殺していいのかな」

「わかりません。ですが、私のしたことは管理局の利になっていると思います」

 

 私が今まで殺してきた人間を野放しにしていれば、さらに多くの人間が死んでいただろう。そう考えれば任務にも正当性がある。正当性が必要かどうかはわからないが。

 わからない。だが、私がやってきたことが復讐の前段階へ至る手段とはいえ、正しかったのかどうか。議論する価値はある。

 

「犯罪者を魔法ではなく銃や爆弾で。捕らえるのではなく殺害して。そうやって世界の安定に貢献してきましたが……これは間違っているのでしょうか。率直な意見を求めます」

 

 今までに何度か、自分は自分と同じ境遇の人間を作り出してきただけではないのだろうかと時々思うことはあったが。ひょっとするとあの糞野郎共も任務で私の家族を殺したのかもしれない。そうなると私のやってきたことと、奴らのやったことは同じ。私を肯定されれば、奴らのことも肯定されることになる。

 屈辱だが、事実だ。だが仇を討とうとしていたのは私のエゴだ。奴らのしたことが正しかろうが間違っていようが、それは変わりない。

 

「……どうなんだろう。君を殺そうとした私が言うのもなんだけど、どんな理由があっても人を殺すのは良くないことだと思う」

「間違ってはいないと」

「わからない……けど、管理局には人が足りない。特に陸は」

「ええ」

「本来ならやっちゃいけないことでも、やる必要がある。なら、仕方ないことじゃないのかな……私がやったことは、する必要もなかったことだけど」

「それが答えですか」

 

 認めはしないが、否定もしないと。どっちつかずの答えだが、それが正解なのかもしれない。

 

「うん。君はどうなの?」

「概ね同意見です」

「そう……ところで、昨日持ってきたお菓子は食べてもらえたかな」

「あれは高町一尉が持ってきてくれたんですか。夜中に起きて腹が減っていたので、ありがたくいただきました。美味しかったですよ」

 

 実は食っていないが、見舞いに来た戦闘機人にやったと言うわけにもいかないので自分が食ったと報告しておく。まさか、私が嘘をつくとは思っていないだろう。

 

「そう。良かった……じゃあ、今日はこれで。また来るから」

「もう退院するので、次会うのは隊舎でです」

「え、もう退院? あんなに大きな怪我してたのに?」

「医者の腕がいいんですよ」

「そ、そうなんだ……じゃあ、また今度は隊舎で」

 

 改めて別れの挨拶を告げられる。よくわからない反応を返されたが、不気味と思われただろうか。私も彼女とは別種の化物になりつつあるということの自覚はある。自分でも気持ち悪いと思うくらいだ、他人がそう思わないはずもない。

 その内、首を切り落としたくらいでは死ねなくなるかもしれない。体を木っ端微塵に吹き飛ばさないと死ねなくなるとか、嫌だな。

 

 

 


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