※はやての行動は正当な理由があってのことです
時計の針が12で重なり、太陽が頭の真上に来る時間。つまり昼。正午を告げるブザーが鳴り響き、訓練予定時間の終了を知らせる。使用していた銃に安全装置をかけて、さらにトリガーガ
ドの部分に南京錠をかけて発砲が不可能な状態にしておく。
「午前の射撃訓練を終了する。使用した弾種と弾数を記録して休憩に入れ」
「へーい」
それぞれが使用していた的の画像を手元の端末で確認する。一番的の中心に弾痕が集中しているのはやはり二号。次点で四号。四号は魔導師なので、身体強化でもして反動を押さえ込んだのだろう、訓練を始めて間もない素人にしてはなかなか成績がいい。二号は時間外にも自主的に射撃訓練をしていたので成績がいいのはまあ当たり前だ。
一号と三号はどうもコメントしづらい。上達はしているのだが、まあ普通だ。普通。二号のように時間外にも練習をしていなければこんなものだろうという程度。特に言うこともない。
ちなみに私のはバースト射撃なのでそれほど良い成績は出せていない。
「さて……」
地面に転がる薬莢を箒とちりとりで回収して、演習場に鍵をかけて休憩に入る。トイレへ行って手を洗って硝煙を落とし、ロッカーから弁当を回収して食堂へ。食堂は相変わらず、機動六課のメンバーが揃っていて非常に賑やかだ。
今日の昼食は昨日釣った魚のフライをパンで挟んだもの。つまりはサンドイッチ。それほど量はない。置いてある共用レンジで温めてからゆっくり一人で頂く。
「やあ准尉、隣ええかな?」
「硝煙の臭いで食事が不味くなりますよ。空いている席があるのでそちらへどうぞ、八神二佐」
「いやいや、ちょっと話がしたいんや。今朝の大量の空メール、あんたやろ」
多分、今朝送った空メールのことだろう。とりあえずしらばっくれておくか。確たる証拠はないが、言ってきたということは何かしら心あたりがあるということ。そういうことをされるようなことをした、という自覚はあるらしい。
「何の事でしょうか。それよりも八神二佐。人の家庭情報を勝手に調べるなど越権が過ぎますよ」
「あのなぁ……仕返しは覚悟しとったけど、せめて職務の邪魔にならん範囲にしようや。間違えて必要なメールまで消したで」
「知りませんよ。ところで私のことをどれくらい調べました?」
「話を変えるなぁ。家族の事と入局の理由までしか調べとらんで」
反撃のために起訴するには十分すぎる理由となる。しかし、だ。相手は二佐。おまけにバックには数多くの権力者。勝負をする以前に、戦うリングにすら上がらせてもらえないだろう。無駄なことはせず、このネタを中将へ報告しておくに止めよう。
「……」
「そんなに怒らんといて、あんたを信用するために調べたんや」
「正当な理由あってのことなんですね」
「興味本位で人のことを根掘り葉掘り調べたりせんて」
「本当ですね?」
「とらすとみー」
拳を彼女の鼻の1ミリ前に突き出して、止める。何が起きたのかさっぱりわからないって顔をしているが、腹がたったので寸止めした。
「蚊が飛んでいました」
「え、ああ……そうなん」
「そうですよ」
残っているサンドイッチを頬張り、少し噛んでコーヒーで流し込む。
「それ私のコーヒー」
「これは失礼。わざわざ持ってきてくれたものと思ってました」
空になったコーヒーカップをゴミ箱へ投げ込み、弁当箱を風呂敷に包んで席を立つ。
「今回は嫌がらせのレベルで済ませましたが、これ以上踏み込むのなら相応の覚悟をしておいて
ください」
捨て台詞を吐いて食堂から出て行く。ああは言ったものの、具体的に何をするかはまだ考えていなかったりする。端末にウイルスをぶち込んだりとか、は軽すぎる。もっと盛大に迷惑になることを。
……施設の爆破は、無理ではないが盛大すぎる。
端末にウイルスを仕込むのは今回のとあまり変わらない。
任務中に誤射を装って味方を一人撃ち殺す。状況が難しいな。
砲撃支援で敵ごと爆殺。エリートが揃っているこの部隊でこちらに支援を要請されることもな
いだろう。
となると、やはり本人を撃ち殺す……のはやりすぎとして、逮捕状を出すのはできるだろう。
彼女のやったことは十分に犯罪だし、やれないことはない。バックを考えれば起訴、逮捕は不可能でも、逮捕状なら出せる。それが出たという事実だけで彼女の経歴に大きな一点物の傷が付く。中将も機動六課をあまりよく思っていないし、妨害をする手伝いはしてもらえるだろう。
そうと決まれば、今晩辺りから用意だけでもしておくか。