過去と現在と魔法少女と   作:アイリスさん

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第74話

***第74話***

 

《ニャア?》

 

構えたアリシアの胸からヒョコと顔を覗かせ、心配そうに鳴くライゼ。その問い掛けにアリシアはフルフルと顔を横に振る。

 

「大丈夫。バリアジャケットは必要ありません。あの子と話すのが目的ですから」

 

ファビアと話し合い、出来る限り争わずに終わらせたい。その為にも必要以上の武装は控えたい。ジャケットを展開するのは、本当にどうしてもという時。それに、いざとなればアリシアには『聖王の鎧』もある。これ以上相手を刺激するのは得策ではない。‥‥‥『和平の使者は槍は持たない』とはよく言ったものだ。

 

「ですから、今回はサポートに専念して下さい‥‥‥来ます」

 

《ニャッ!》

 

アリシアに向かい、魔力弾が一斉に飛んで来る。両腕に魔力を纏わせ、それを流れるような動きで一発一発迎撃。直後に召喚された小悪魔数体も一撃で床に沈める。

 

「お願いします!話を‥‥‥話を聞いて下さい、クロ!」

 

構えを一度解いてファビアに叫ぶ。『クロ』と呼ばれた事が気に入らなかったファビアが、ギロリ、と苛立った様子でアリシアを睨む。

 

「知ったような口を利くな!『クロ』の事なんて知らない癖に!」

 

怒りに任せ叫んだファビアに、倒れた小悪魔が吸い寄せられていく。「『悪魔合身(デビルユナイト)』」という声と共にその身体に吸われ、ファビアと融合する。

 

「お前なんて‥‥‥お前なんて!!」

 

ファビアが周りに先程の数倍の数の魔力の弾幕を張る。その全てが一斉に、アリシアの両目に向けて放たれる。

 

《ニャ、ニャ!》

 

「あっ‥‥‥ライゼ、だっ、駄目!」

 

焦り痺れを切らせたのか、ライゼが勝手に武装を展開。アリシアが止めようとするも一歩遅く、大人モードとバリアジャケットが構成される。

 

「直ぐに解除を!あの子をこれ以上刺激しては‥‥‥」

 

ライゼがアリシアのその言葉を理解するよりも早く、ファビアの声が響く。

 

「『這え、穢れの地に(グラビティプレス)』!」

 

構え直したアリシアだが、過重力に耐えられず膝を突く。更に身体は重く圧され、そのまま床に左手を突く。

 

「‥‥‥重い‥‥‥ライゼ‥‥‥」

 

虹色のエンシェントベルカの魔法陣を展開。降り注ぐ魔力の弾幕をラウンドシールドで防ぎながら、アリシアは思いを巡らせる。

 

(何とかファビアに近付かないと‥‥‥先ずはこの重力を‥‥‥)

 

視線が一瞬下に向き、ハッとして気付いた。グラビティプレスとは別のファビアの魔法陣がアリシアの足元に展開されている。

 

(これは‥‥‥!)

 

不味い、と踏んで「ライゼ!」と声をあげる。慌てて解呪に取り掛かるも、アリシアの判断は一歩遅かった。

 

「まっ‥‥‥不味い!ライゼ、急いで補助を!」

 

大人モードがキャンセルされ、元のアリシアの身体に戻される。と同時にその身体が少しずつ退行し始めた。

 

「いっ、急がないと‥‥‥」

 

幼くなっていく身体に焦りながらも、アリシアは別に魔法陣を展開。急ぎ魔法を構築していくが、退行の速度の方が早い。

 

(不味い‥‥‥間に合わ‥‥‥)

 

アリシアの意識が有るうちに聞こえてきたのは、「うっ‥‥‥嘘なんてつくからだ!その罰だ!」というファビアの声。だが、その声は震えている。本人も本当はここまでするつもりは無かったのだろう。怒りに任せ暴走していた事に気付いたらしくその表情は青ざめ、唇が震えているのが微かに分かる。

 

***

 

虹色の光に包まれながら悪戦苦闘しているアリシアの後方。ルーテシア達にもその姿は見えていた。先程やっと起きたヴィヴィオが今にも飛び出しそうなのを、ルーテシアが後ろからホールドして必死に止めている。

 

「離してっ!ルールー、お願い!このままじゃお姉ちゃんが‥‥‥お姉ちゃんが消えちゃう!!」

 

今にも泣きそうなヴィヴィオ。その思いは分かるが、今ここで離す訳にはいかない。

 

「気持ちは分かる‥‥‥でも今は駄目よ!今ヴィヴィオが行ってもファビアの怒りが増すだけよ‥‥‥イクス陛下」

 

ルーテシアがイクスに視線を向ける。イクスは真剣な眼差しで頷く。

 

「はい。あの位なら、どうにか解呪できます。オリヴィエは、私が。ルーテシアはヴィヴィを頼みます」

 

時間は無い。虹色の光の中のアリシアの影は既にもう4歳児程の大きさ。急がないと手遅れになるかも知れない。

ルーテシアがイクスの足元に転移魔法陣を展開。ヴィヴィオを抑えたまま「お願いします」と告げてイクスを転移させる。そうしているうちにも、アリシアの身体は幼くなっていき、その魔力も小さくなっていっている。

 

「やだぁ‥‥‥やだぁ!お姉ちゃん!」

 

泣きながらも、ヴィヴィオはルーテシアから必死に逃れようと藻掻くが、振りほどけない。

イクスが着いてもみるみる小さくなっていく、アリシアの身体と魔力。ヴィヴィオ達の位置からは見えなくなって感じられる魔力も消え入りそうな位に小さくなり、「嫌ぁぁぁあ!」というヴィヴィオの悲痛な叫びが虚しく響く。

 

***

 

(‥‥‥意識が、ある?)

 

完全に消滅させられたと思っていたアリシアだったが、どうやら免れたらしい。ゆっくりと瞳を開くと、目の前にはイクスの姿。

 

(イクスが‥‥‥助けてくれたのですね)

 

‥‥‥が、イクスはひどく驚いた表情でアリシアを見つめ座り込んでいる。理由が分からず前方に視線を向けると、ファビアも驚き固まっている。

 

(‥‥‥一体、何が)

 

「イクス?」と声を出したアリシアは、その強烈な違和感に気付く。自然に発した声は、自身の‥‥‥アリシアのもとは違う、とても懐かしい音。(あれ?)と思いながらもイクスに左手を伸ばそうとして、ある事に気が付いた。

 

(‥‥‥左腕が、無い‥‥‥)

 

「イクス、あの」と声を掛けると、漸くイクスが起動。イクスに「オリヴィエ、その姿は‥‥‥?」と言われ、バッグから取り出した手鏡を向けられた。

 

「‥‥‥え?」

 

そこに映っていたのはアリシアの姿ではなく、亡くなる直前の、生前のオリヴィエそのもの。変身魔法は使用していないし、大人モードも既に展開されてはいない。突然の事にアリシアは思考停止しキョトンとして止まっている。

 

「成る程。その姿がオリヴィエ・ゼーゲブレヒトですか。確かにヴィヴィと似ていますね。恐らく‥‥‥アリシアの身体が退行によって消滅した為にその前の肉体まで時間が戻ったのでしょうね」

 

そのイクスの言葉で漸く合点が行き、アリシアは静かに立ち上がり、動揺しまだ動けないファビアの方を見据える。

 

「‥‥‥ライゼ、無事ですか?」

 

《ニャア》

 

現れたライゼを肩に乗せ、ファビアの方へとゆっくりと進む。その目の前まで来ると、切なそうな表情に変わる。

 

「ごめんなさい。アインハルトばかりか、貴女まで苦しめてしまって‥‥‥全部、私が悪いんです」

 

抱き締めようとしたが、両腕が無い為に出来ず止まる。少し考え、「ライゼ、私の武装を」と、バリアジャケットを纏う。

展開された両鉄腕の具合いを確め改めてファビアに向き合う。

 

「ファビア・クロゼルグ‥‥‥『気持ちが分かる』等と傲った事は言いません。ですが‥‥‥これだけは分かって下さい。ヴィヴィやアインハルトには関係の無い事です‥‥‥末裔達には何の罪もありません。クロを独りにしてしまったのは、私の責任です。私さえ犠牲になれば他のみんなは平和に暮らせる、と思い上がった考えだった私の」

 

ファビアが顔をあげた。その身体は小さく震えている。

 

「ですから‥‥‥みんなとはどうか仲良くしてあげて欲しいんです。恨むなら、私の事だけでいい‥‥‥本当に‥‥‥ごめんなさい」

 

アリシア‥‥‥もといオリヴィエはファビアをそっと抱き寄せる。シェイプシフトを解いたファビアは「あ‥‥‥あ‥‥‥」と言葉に為らない声を発し、オリヴィエに強く抱き着いて泣き出した。

 

***

 

「‥‥‥遅すぎですよ」

 

「いやぁ‥‥‥まさかこんな事になっとるとは‥‥‥ごめんな」

 

はやてにジト目を向けるルーテシア。異変に気付いて書庫内へと強硬突入してきたはやてだが、合流した時は全て解決していた。

 

「で、八神司令?ファビアの処遇はどうしますか?」

 

「そうやね‥‥‥」

 

ルーテシアの催促にはやてがオリヴィエへと視線を送る。抱き着いたまま離れようとしないファビアの頭を優しく撫でながら、オリヴィエは答える。

 

「本人も反省しています。みなさんもいいと言ってくれている訳ですし‥‥‥今回は私に免じて不問にしてもらえませんか?」

 

「‥‥‥ま、エエよ。分かった。にしても‥‥‥その姿やとヴィヴィオと姉妹ってシックリくるわ。しっかし凄い魔力圧やね?聖王っていうんは化け物やな」

 

クスッと笑うはやてと「化け物‥‥‥ですか?」と苦笑いのオリヴィエ。それと、抱き着いた手を離そうとしないファビア。そんな三人の様子をアインハルトが複雑な視線で伺っているのに気付いたオリヴィエは「アインハルト?」と首を傾げる。

 

「どうかしましたか?」

 

「なっ、なんでもありませんっ‥‥‥アリシアさん」

 

ファビアはアインハルトの視線に嫉妬が混じっている事に気が付いたようで、オリヴィエに更に強く抱き着いて、念話でアインハルトを挑発。

 

《‥‥‥オリヴィエは、お前には渡さない》

 

思わず「なっ!?」と声をあげたアインハルトは「ん?」と再度首を傾げたオリヴィエに、思わず紅い顔を背ける。

 

(アリシアさんが、ファビアに‥‥‥何とかしなくては)

 

そんなやり取りをしていると、やっとファビアの魔法の効果の切れたオリヴィエの身体は、元のアリシアの姿に戻る。それでやっと手を離したファビアが、少し恥ずかしそうに「オリヴィエ‥‥‥あの‥‥‥」と声を出す。

 

「はい。仲良くしてくださいね、ファビア」

 

ニコリと笑い、アリシアは今度は生身の左手で頭を撫でる。ファビアはプイ、と顔を背けるが、その頬は紅い。

「さあて、みんな。捜索再開しよか?」というはやての声で、一同は再び散開した。




雨降ってファビアが落ちました。真っ直ぐなアインハルトさんに対してあざといファビアの、アリシアを巡る熾烈な争い勃発の予感です。

前回のヒントの通りの展開となりました。一瞬危険でしたが、一定時間オリヴィエの姿に回帰したアリシアの回でした。次回はちょっと寄り道の予定です。具体的には、●ニ●さんの出番、ですかねぇ‥‥‥

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