***第71話***
「ふーっ‥‥‥」
大きく息を吐き、左手と両足を目一杯伸ばす。お湯に浸かり浴槽の水面に目をやりながら、アリシアは想いに耽る。
(‥‥‥あの時は‥‥‥でも)
遠い過去。自身の‥‥‥オリヴィエの大切な友の一人だった小さな魔女、クロゼルグを置き去りにしてしまった事は変わらない。アインハルトの話が信実ならば、クロゼルグは『ゆりかご』起動後、オリヴィエも、クラウスも、エレミアも居なくなってしまって寂しい思いをしたに違いない。
(だとしたら‥‥‥恨まれたかも知れませんね)
ちゃぷん、と左手を水面に這わせる。掬い上げ、指の先から零れるお湯を眺める。
「ふぅ」と再び息を吐いた所で扉が開き、ヴィヴィオが「お姉ちゃん、一緒に入ろ~」とにこやかにバスルームに入ってきた。ヴィヴィオが身体を洗っている間に、自嘲気味の笑みを浮かべていたアリシアは表情を変え、出来る限り自然な笑みを作る。
「洗い終わったらおいで、ヴィヴィ」
「うん!」
バシャン、と勢いよく浴槽に入ってくるヴィヴィオ。アリシアは「もーうっ。ヴィヴィ?」と頬を膨らませてはみるものの、笑顔は崩れない。
「えへへ~。だって、お姉ちゃんとお風呂久し振りだったから」
「だからって、お湯に飛び込んじゃ駄目だよ。分かった?」
ヴィヴィオは分かっているのかいないのか「はーい」と笑顔を見せながらの返事。何やら隠しているような表情である。
「ヴィヴィ、何を‥‥‥」
アリシアの言葉を遮るように、通信が入る。相手を確認してみると、アインハルト。アリシアは眉をピクリと動かして、ヴィヴィオに視線を向ける。
「ヴィヴィ‥‥‥はぁ」
溜め息をつき、通信を繋ぐ。モニターに写ったアインハルトは、アリシアを見た瞬間顔を紅くして狼狽している。
《アッ、アッ、アリシアさんっ!?ごっ、ごめんなさい、ごめんなさい!》
「うん、大丈夫だよ。分かってるから」
大方、アリシアに用事のあったアインハルトにヴィヴィオが『今なら大丈夫』などと言って通信を急かしたのだろう。嘘がつけない性格のアインハルトがこれだけ狼狽しているのだから、まさかアリシアがお風呂中だったとは夢にも思っていなかったに違いない。
今日もう何度目かの溜め息ついた後、アリシアはアインハルトと向かい合う。
「えっと、どうしたの?」
《あ、いえ、その‥‥‥明日は何処まで話していいものかと。アリシアさんに許可を貰っておかないと、と思いまして》
話は至って普通。というか、昼間に聞いてくれれば良かった事だ。察しはつく。アインハルトは只、アリシアと話す理由が欲しかったのだろう。クスッと小さく噴き出し、アリシアは小首を傾げながら微笑みを向ける。
「構わないよ。全部話しても」
《えっと‥‥‥はっ、はい》
まだアタフタしているアインハルトの頬はどうやら紅い。彼女の自分に対する想いはどうしたものか、と悩みながら、アリシアは「うん。それじゃ、また明日ね?」と通信を終える。クルリ、と向き直し、ヴィヴィオに不敵な笑みを送る。
「さーてと、お仕置きの時間だよ。くすぐりの刑でいいよね、ヴィヴィ?」
「え‥‥‥?えぇえぇ!?」
***
そうして翌日、無限書庫。
リオ、コロナ、イクスと向かうヴィヴィオよりも一足早く、アリシアは一人‥‥‥ではなく、アインハルトと共に書庫に着く。一番乗り‥‥‥という訳ではなく、既にルーテシアとはやてが待機していた。
「ルールー、はやて、おはよう」
「お二人とも、おはようございます」
「アリシア、アインハルト、おっはよう」
「ん?二人だけなんか?」
はやてに、ヴィヴィオ達は後から来る旨を告げ、アリシアとアインハルトは二人と共に歩く。目指すは‥‥‥。
「あれ?四人だけかい?」
徹夜なのか、眠そうに目を擦りながら現れたのは勿論ユーノ。「他の皆さんはもう少ししてから来るそうです」と答えたアインハルトの隣に座る。
「やあ、アインハルト。久し振りだね」
「あ‥‥‥はっ、はい、ユーノ司書長、お久し振りです」
ユーノとアインハルト、二人が最後に会ったのはJS事件の時。実に4年振りである。
「そうそう、初めて会った時も思ってたんだけど、君とは何処かで会った事ないかい?」
突然そんな事を言われて、アインハルトがウーン、と悩む。
「あの時が初めてだったと思います。それより前に会った事があるのかも知れませんが、あの時よりも前だと8歳以下ですし‥‥‥」
勿論、ユーノの記憶に引っ掛かっているのは、あの『砕け得ぬ闇事件』でアインハルトがタイムスリップしてきた時の事だろう。ただ、アミタによって施された記憶封鎖のせいで思い出せてはいないようだが。
「そうだよね。アインハルト、変な事聞いてごめん‥‥‥って、みんな、何?」
ユーノが気付いたのは、必死に笑いを堪えているらしいはやて、それとドン引きしているルーテシア、更にその二人を見て苦笑いしているアリシアの姿。最初にユーノに答えたのはルーテシア。
「司書長ってそういう趣味なんですか‥‥‥何て言うか‥‥‥ちょっと離れてもらっていいですか?」
言うなりルーテシアは明らかに距離を取る。イマイチ理解出来ないユーノに、今にも笑いだしそうなはやてが答える。
「ユーノ君、ルーテシアはドン引きしとるんよ。無限書庫の司書長様がアインハルトみたいな中等科に上がったばっかりの子を口説いとるんやからね。アレか?なのはちゃんはもう大人だから口説かないんか?」
「えっ!?違うよ!?僕は只、本当に会った事があったような気が‥‥‥って、どうしてなのはが出てくるのさ!?」
分かりやすく焦るユーノがふと向きを変えると、真っ赤になってしまっているアインハルトの姿が映る。
「あっ、あの‥‥‥気持ちは大変嬉しいのですが‥‥‥私には心に決めた方が居ますので」
はやての冗談に気付かず、恥ずかしそうにしながらも律儀に断るアインハルトの姿。「ちょっと!?信じないで!」と狼狽しているユーノを見ているアリシアは、遂に笑いだしたはやてに念話を送る。
《悪戯もいいけど誤解は解いてね?ルールーが勘違いしてるから》
《アハハハハ。分かっとるよ》
そんな事があった30分後。誤解を解いて貰ったユーノが、場に揃った全員を見渡す。
「禁止区域以外なら書庫内は自由に見てもらって構わないよ。僕も同行出来ればいいんだけど、都合が合わなくてね」
「ま、いざとなっても私もルーテシアも居るし大丈夫やろ。さて、それじゃあ」
ユーノがその場から退散。はやての目配せし、アインハルトがアリシアに視線を送る。
「アリシアさん‥‥‥」
「うん。私は平気だから。みんなに話してあげて」
アリシアにポン、と肩を叩かれて、アインハルトは深呼吸。(よしっ)と心の中で決意して一本前に踏み出す。
「では、何処から話しましょうか。そうですね‥‥‥」
チラリとアリシアを見て、微かに頬を染めながら、アインハルトは話を始めた。自身の記憶にある、クラウス・イングヴァルト達の事を。
今年最後の更新です。ユーノ司書長アインハルトをナンパする?の回です。ユーノ、ロリコン疑惑が!
ファビアは来年ですかね。
***
セイン「セインと!」
イリヤ「イリヤの!」
ルビー「あ、今年最後ですね!」
セイン「なあイリヤ、コイツ何とかして欲しいんだけど」
イリヤ「あー‥‥‥」
ルビー「私の事は気にしないでくださいよ!目立たない所でイリヤさんのあんな姿やこんな姿の映像を流しておきますから。最初は何にしましょうかね?そうですね‥‥‥先ずは定番、新生カレイドルビー・プリズマ☆イリヤ爆誕のシーンからですかね!映像スタート!」
イリヤ「ぎゃあああ!?絶対だめぇぇぇえ!!」
セイン「‥‥‥ええっと、よいお年を。あ、今年最後がお風呂回だった事に関して、作者から『異論は認める。だが、後悔はしていない』だそうです」