***第70話***
「‥‥‥つまり、真実なのですね?」
ヴィクターの言葉に、コクリと頷くアインハルト。瞳の色や魔力光も勿論そうだが、アリシアがその動きの中に見せる独特の癖は、アインハルトの中のクラウスの記憶にあるオリヴィエそのもの。魔力の波長も、クラウスの記憶のオリヴィエと同じ。知っての通り、魔力の波長は指紋のそれと同じように、一人一人違う。勿論、同じ虹色の魔力光を持つ、オリヴィエのクローンであるヴィヴィオですら、アリシアのそれとは微妙に違う。
実際『ゆりかご』の鍵となった『実績』もあるし、聖王核も聖王の鎧も健在、となれば、もう疑う余地は無い。
ヴィクターは改めてアリシアの方へと向き直し、その場に跪いて頭を下げた。
「聖王陛下、知らなかったとは言え、数々の御無礼‥‥‥申し訳ございませんでした」
「ヴィクトーリア‥‥‥顔をあげてください。それに、自分で『オリヴィエ』だと言っておいておかしいかも知れませんが、今の私は『アリシア』ですから。『聖王陛下』などと敬う必要はありませんよ」
アリシアはヴィクターの目の前に立ち、その場でしゃがみ微笑む。‥‥‥が、ヴィクターはアリシアの予想外の反応をみせる。
「そう‥‥‥その事なのですが。陛下、聞いても宜しくて?」
その発言の意図を察したアリシアの表情が固まる。間を置いて、ヴィクターが改めて問う。
「聖王陛下の生れ変わり、という事は納得しますが‥‥‥陛下、いえ、アリシアさん。貴女もしかして‥‥‥ハラオウン執務官のクローン、なのではなくて?」
アリシアは反応に困り、キョトン、として動かない。簡単な引き算。普通に調べれば、プレシアが亡くなったのは14年前だと言うこと位分かる。今のアリシアは10歳な訳なので、必然的に導かれる選択肢は2つ。アリシアが養子であるか、フェイトのクローンであるかだ。アリシアが幼少期のフェイトと瓜二つとなれば、フェイトのクローンという可能性のみが残る。‥‥‥普通ならば。
「ええっと‥‥‥」
個人だけで下して良い事案ではない。アリシアがはやてにチラリと視線を送ると、何処かに通信を繋いでいる最中のようだ。案の定、はやてが話に割って入ってきた。
「あー、エエやろか?それについてなんやけど、やっぱり当事者抜きに、っていうのは
良くないと思うんよ。せやから、本人から聞くべきやと思う」
はやてが話し終えると同時に、ヴィクターとアリシアの間にモニターが開く。当然ながら、相手はフェイト。
《はやてから聞いたよ。アリシアさえ良ければ、私は構わないから》
「うん。ありがとうフェイト」
アリシアはモニターのフェイトに微笑み、改めて決意の表情をみせる。ヴィクターの方に向き直して、重い口を開く。
「ヴィクトーリア、良く聞いてください。私は‥‥‥オリジナルなんです。プレシア・テスタロッサの娘の、アリシア・テスタロッサ」
アリシアの言葉を補足するように、《クローンは私なんだ。アリシアの‥‥‥姉さんのクローン》と、フェイトが続ける。ヴィクターは驚き声も出せず固まっていたが、突如我に返って声を張る。
「嘘を言わないで下さい!調べはついているのですよ!アリシア・テスタロッサのオリジナルはヒュードラ事件で既に亡くなっている、と!」
《私が、説明するね?》
落ち着かせるように、フェイトが静かに話を始めた。ヒュードラ事件の真実、そのせいでプレシアが暴走した事、そしてフェイトを生み出した事や、PT事件。
「歴史の流れは分かりました。けれど、それでは聖王陛下は‥‥‥アリシアさんは1度亡くなって生き返った、としか解釈出来ませんわ。死んだ人間が蘇るなど‥‥‥」
戸惑うヴィクター。無理もない。今の魔法科学で絶対に不可能とされている事は、時間遡行と死者の蘇生。その一つを信じろ、というのだから。
「けれど、それが真実なんです。私は‥‥‥『アリシア・テスタロッサ』は1度死んだ。全ては‥‥‥ロストロギア『ジュエルシード』の起こした奇跡。それが果たして良かったのかどうかは分かりませんけれど」
DNA鑑定の結果だってある。神様の悪戯とでも言う巾なのだろう。唯々驚くヴィクター、表情を変えないアリシアと、優しい笑顔を見せたままのフェイト。その3人を、少し離れ立っているアインハルトが、悲痛な表情で眺めていた。
***
「‥‥‥アリシアさん」
「うん、大丈夫だよ、アインハルト」
一通り自己紹介を終え、仲良く並んで座って紅茶を飲む二人。悲しそうに俯いているアインハルトに、アリシアは出来る限り微笑みかけている。
「でも、アリシアさん」
「だから、大丈夫。私は、平気だから」
アリシアの左手を握ったままのアインハルト。アリシアは紅茶を置いて、その頭を義手である右手で優しく撫でる。
「明日は、無限書庫に行くんだよ?ユーノ司書長と会うの、久し振りだよね?」
「‥‥‥はい」
アインハルトの表情は辛そうなまま変わらない。アリシアは周りを見回す。其々話し込んでいて、二人を見ている者は一人として居ない。
「はぁ」と小さく溜め息をついたアリシア。周りの全員が見ていないのをもう1度確認し、アインハルトの頬に‥‥‥軽く唇でチュッ、と触れる。
「‥‥‥へっ?アッ、アリシアさん、今のって‥‥‥」
「ほら、元気出して。ねっ?」
アリシアはニッコリと笑い掛ける。嬉しさと恥ずかしさの余り耳まで紅くなったアインハルトが、不意に立ち上がる。
「すっ、すっ、少し風に当たってきます!」
「うん。程々にね、アインハルト?」
走り出ていくアインハルトを見送ったアリシアの元に、先程までヴィヴィオと話していたイクスが寄ってくる。もうイクスが何を言いたいのか分かったアリシアは苦笑い。
「オリヴィエ、どうなっても知りませんからね?」
「そう言われても‥‥‥どうすれば良いか他に思い浮かばなかったんです」
***
一方の、アインハルト。ロビーを抜けてラウンジまで来て、ソファに座り、アリシアにキスされた右の頬を嬉しそうに撫でる。
(アリシアさん‥‥‥アリシアさん‥‥‥)
と、突然後ろからポン、と肩を叩かれて、驚き慌てる。アインハルトが後ろを振り向くと、満面の笑みのヴィヴィオが立っていた。
「良かったですね、アインハルトさん!」
どうやらヴィヴィオに見られていた事に赤面してしまったアインハルトだが、恥ずかしそうにしながらも「‥‥‥はい」と笑顔を見せた。
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一方のはやて。紅茶片手にルーテシアと通信中。
《八神司令、ごめんなさい。逃げられちゃいました》
「エエよ。アリシアちゃんの肝心な部分は聞かれなかった訳やしな。それに、相手は何となく見当ついとるんやろ?」
アリシアの自己紹介が始まる直前まで、何者かが盗聴していた。ルーテシアがつい先程まで追跡してはいたが、まんまと逃げられたようだ。
《まあ‥‥‥多分ですけど、あのファビアって子だと思いますよ。オリヴィエの関係者みたいですから》
「そうか‥‥‥それなら無限書庫まで来るかも知れへんね。明日アインハルトちゃんがクラウスの昔話しとる間に、少し探してみるわ」
《あ、私も明日そっちに行きますね》
はい、70話です。アインハルトさんが嬉しさの余り悶える回です。イクスとヴィヴィオにはバッチリ目撃されてました。
***
ルビー「今のうちですよ、ウェンディさん!」
ウェンディ「ウェッヒェッヒェッ!勝手に始めるっスよ!祝!70話!」
ルビー「それにお気に入りが1000越えてますね~。これはもう、イリヤさんのサービスショットを大放出するしか有りませんね!あんな姿やこんな姿も!」
ウェンディ「あ、それなら、フェイトさんのサービスショットも一緒に放出するっス!」
イリヤ・アリシア「「‥‥‥二人とも?」」ニタァ
ルビー・ウェンディ「「あっ‥‥‥」」
アリシア「させるかぁぁぁあ!!」
ルビー・ウェンディ「「ギャアアア!」」
イリヤ「‥‥‥お見苦しい所をお見せしましたが、今後ともよろしくお願いします!」