***第66話***
(不味い‥‥‥呼吸が‥‥‥)
リング中央。アインハルトはジークに捕まり、チョークスリーパーでホールドされていた。呼吸出来ず、視界が霞む。
(抜け出さないと‥‥‥)
首を絞めているジークの手を掴んでいた両手を離して魔力を込める。どうにか足を踏ん張って、ジークの両脇を力の限り拳で突く。
一瞬ジークの手が緩み、その隙に何とか脱出。苦しかった首を擦り、足りない酸素を補うように大きく呼吸を繰り返す。
「ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥」
頭では分かっている。だが、攻めに行けば上手くかわされ、勢いを利用されて投げられるか絞められる。先程からその繰り返し。ジークには殆んどクリーンヒットを当てられず、一方のアインハルトのライフは減るばかり。オリヴィエ‥‥‥アリシアに散々『警戒して』と言われていた通りになってしまっている。
(何とか‥‥‥何とか突破口を見つけなくては‥‥‥アリシアさんと練習したのに)
勿論、その練習だって散々している。ただ、やはり練習は練習。アリシアだってアインハルトがやり易いように、対応しやすいように態と手を抜いていたのは明白で、いざジークとこうして対峙してみれば如何にそれが難しいかがよく分かる。
(それでも‥‥‥約束した)
奥歯を噛みしめ、アインハルトはゆっくりと構える。約束した。既に敗退してしまったチームメイト達と。今の自分よりも上だったにも関わらず些細な不運のせいで負けてしまったコロナと。
(今度こそ‥‥‥)
アインハルトは走り出す。動せずにそれを待っているジークに右拳を突き出す。ジークはアインハルトの右側に身を翻し避けると同時に、アインハルトの右の二の腕辺りに手を伸ばす。
(見えたっ!)
今度は何とか反応。上体を下げてそのジークの手を掻い潜って、左頬に向かって祈るような想いで魔力を込めた拳を振り上げる。
「ハァァァッ!」
ジークの腕を掻い潜り、拳は左頬にクリーンヒット。顔を仰け反らせたジークの姿に、当てたアインハルト本人が一番驚く。
(あっ‥‥‥当たった‥‥‥はっ!?)
瞬間。アインハルトは大きく殴り飛ばされる。何とか態勢を立て直したアインハルトの顔面に向かって、何かが高速で飛んでくる。
「くっ‥‥‥ッ」
どうにか避けたものの、放たれたそれが左肩を掠める。激痛が襲い、思わず左肩を押さえる。
(掠っただけでこの威力‥‥‥)
聞いてはいたし、実際何度も映像で確認もしている。予想以上のジークのイレイサーの威力に、顔を歪める。
(信じなくては‥‥‥アリシアさんと‥‥‥クラウスを)
両足を踏ん張り、力を練り上げていく。その全てを右の拳に集中させて、ジークを見据える。
(覇王‥‥‥断空拳)
拳の先に力を押し留めたまま、「行けッ!」というノーヴェの声と同時にアインハルトは走り出す。ジークのイレイサーが再び、アインハルトに向かい真っ直ぐに飛んでくる。
観客席で観戦しているヴィクターが、その様子に焦り声を荒らげる。
「イレイサーに突っ込むなど自殺行為です!早く止めさせなくては!」
動こうとしたヴィクターの肩をミカヤが掴み止める。
「何故止めるのですか!?」
「見てれば分かる」
自身もイレイサーで腕をやられた過去があるにも関わらず、妙に落ち着いている様子のミカヤ。納得いかないが仕方無く大人しく座り直したヴィクターが、アインハルトのとった戦法に驚きの声をあげる。
「なっ‥‥‥!何て無茶苦茶な」
「私達では真似出来ないだろうね。流石は覇王流、かな」
そう言ったミカヤはニヤリ、という表情ながらも額から汗を流している。そんな、他の観客も呆気に取られている観客席に、漸く二人の少女が到着。丁度ミカヤとコロナ達の間に座ったアリシアとイクス。「良かった。二人とも仕事間に合ったようだね」というミカヤに、アリシアが笑顔で答える。
「うん。アインハルトは?」
「ほら、あの通り。アリシアちゃんの作戦通りに動いてるよ」
*********
ジーク戦の少し前の時間。丁度ミカヤの道場でアリシアとアインハルトが対ジークの練習をしていた時の事。
「いい?アインハルト。エレミアはきっと序盤は鉄腕は使ってこない。だから、前半のうちにダメージを与えておきたいの」
「はい、アリシアさん」
説明を始めたアリシアに、真剣な眼差しで聞き入るアインハルト。周りのメンツも興味津々で聞いている。
「何とかクリーンヒットでダメージを与えられれば、きっとエレミアはバーサク状態‥‥‥エレミアの神髄状態に入る。そこが最大のチャンスだよ」
‥‥‥と、アリシアがそこまで話したところで、隣で聞いていたミカヤの表情が変わり話に割り込んでくる。当然と言えば当然だろう。何せミカヤは前回のジークとの一戦でその神髄状態に腕をやられている。完治にもかなりかかった。
「アリシアちゃん、幾らなんでも危険過ぎないかい?ジークのイレイサーをまともに食らったらアインハルトだって只では済まないよ」
ところが当のアリシアは言っている意味が分からないとばかりに「え?」と首を傾げている。ミカヤには当然そのアリシアの態度が全く理解出来ない。
「アリシアちゃんだって映像を見たんだろう?だったら‥‥‥」
「‥‥‥だって、当たらなきゃ良いんでしょう?」
何とも単純な答えではある。だが、イレイサーの全てを避けきるのは至難の業だ。しかも、そこから近付いて攻撃しようとなれば、尚更。尚も理解不能のミカヤ。
「けど、どうやって当たらずに近付くんだい?」
「だって、覇王流‥‥‥って、そっか。ごめんなさい」
どうやら説明無しに一人だけで納得していた事に気付いたアリシア。ペコリと軽く頭を下げて話し出す。
「ええっと、そう‥‥‥断空拳。それと、旋衝破。使うのはこの2つ。正確には断空拳を旋衝破として使うの」
「ですがっ!私はまだ拳での直打と打ち下ろしでしか放てません‥‥‥どうやって‥‥‥」
自身の、クラウスから受け継いだ流派だがまだ理解出来ないアインハルト。どうやら『その時』のクラウスの記憶は無いようだ。アリシアはその当時の事を思い出しながら話を続ける。
「えっとね、断空拳でイレイサーの軌道を逸らすの。きっと受け切るのは難しいと思うから。だから、拳で放てれば充分」
「私に出来るでしょうか‥‥‥」
不安を隠せないアインハルトに「大丈夫」と笑顔を見せるアリシアはアインハルトに近付いて、左手で頭を撫でる。
「同じ覇王流だもん。クラウスに出来たんだから、アインハルトにだって出来るよ」
「はい‥‥‥」と小さく答えたアインハルトの頬は紅い。アリシアに撫でられて嬉しかったようで、微かに口元が緩んでいる。
‥‥‥が、一人話に着いていけないのはミカヤ。
「‥‥‥アリシアちゃん、ちょっと待ってくれないか?クラウスって言うと、あの覇王、クラウス・イングヴァルトかい?一体何処でそんな情報を‥‥‥」
「え?うん。そのクラウスだよ。‥‥‥私、オリヴィエの生まれ変わりだから。前世の事も覚えてるし」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」とだけ発してポカン、と今まで見せた事の無い間抜けな表情で呆けているミカヤ。実にアッサリと衝撃の真実を話したアリシアの周りの反応はと言えば、ヴィヴィオ達チームナカジマの面々は苦笑い。ノーヴェは頭に手を乗せて天を仰ぎアリシアに視線を向ける。
「お前なぁ、そんなにアッサリと‥‥‥散々焦らせたアタシが馬鹿みたいじゃねーか」
「だって‥‥‥ノーヴェの親友なんでしょ?じゃあ言っても大丈夫だよね?」
アリシアは笑顔で首を傾げて見せる。「ちゃんと説明してやれよ」と最早呆れ気味のノーヴェの一言に答え、停止しているミカヤに淡々と話す。
「私はね、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの生まれ変わりなの。オリヴィエだった頃の記憶も、力も、資質も、魔力も継承してる。だから魔力光はヴィヴィと同じ。瞳の色も」
ミカヤは漸く停止から解けて「なっ、なっ‥‥‥なぁぁぁぁあ!?」という絶叫が木霊した。
*********
「ハァァァッ!」
アインハルトの声が響く。迫り来るイレイサーを悉くその拳で逸らせながら、徐々にジークに近付いていく。
(もう少し‥‥‥もう少し粘れば‥‥‥!)
アインハルトは自身の射程まで近付いて、その時を待つ。ジークがバーサク状態から解けて我に返る、その瞬間を。アリシアの狙いは、当にその瞬間。『きっと、ジークはまだエレミアの力をコントロール出来てない。だから、我に返った瞬間は無防備になる筈だよ』というアリシアの言葉を信じ、只管耐える。普通なら、その瞬間にジークに近付く事は先ず出来ない。それこそ、リッド‥‥‥エレミアと互角を張ったクラウスの覇王流を継ぐアインハルトだから出来る事。
(‥‥‥今だ!)
その瞬間が訪れ、アインハルトは高速でジークに突撃。狙いは、ジークの顎。
「『断空拳ッ!!』」
突然の事に見えたジークが一瞬驚き、その顎ごと上体が大きく後方へと仰け反り、両膝が地面に着いた。
アリシアの記憶を頼りに、奇襲に成功したアインハルト。ただ、そうそう思い通りには行かないのが世の常‥‥‥
***
セイン「セインと!」
イリヤ「イリヤの!」
セイン・イリヤ「「突撃インタビュー!」」
セイン「で、なんでまたアンタらが居るわけ?」
アリス・マーガトロイド「だって!次回作って結局魔理沙は主役じゃない訳でしょう?」
御坂妹「そうですよ!ミサカも選考に漏れるとはどういう了見ですか!とミサカは溢れる怒りを抑えきれません!それと百合金髪人形遣い、その言い回しは不愉快ですよ!ミサカから主役を掠め盗った泥棒猫を彷彿させます!」
イリヤ「‥‥‥あー‥‥‥次回作はあの人になったのね」
セイン「それってさ、今此処で言う事じゃないよね‥‥‥ヤレヤレ」