***第65話***
「‥‥‥そうですか。お仕事では仕方有りませんよね」
残念そうに俯くアインハルトが居る場所は、控室。ギリギリまで待ってはみたものの、アリシアはどうやら間に合わないようだ。
「仕方ないさ。その代わり、お前は教わったモノを全て出してベストを尽くせ。それが教えてくれたアリシアに対する礼儀だろ」
ノーヴェの言葉に「‥‥‥はい」と静かに頷いて、アインハルトは表情を引き締める。タイミング悪く聖王教会からの依頼が入ってしまって来られないアリシアの為にも、エレミアには負けられない。
(アリシアさん‥‥‥きっとエレミアに一矢報いて‥‥‥いえ、勝ってみせます!)
決意も新たに立ち上がり、扉を開く。迎えたエレミアとの決戦の舞台へと、セコンドに着いたノーヴェと共に歩いていく。
「おしっ、アインハルト、いくぞ」
「はいっ、ノーヴェさん!」
アインハルトとノーヴェが向かうリングの上には、既に人影があった。無論、居るのはエレミア。前回の不戦敗(空腹の為)を除けば、無敗のチャンピオン。
「待っとったよ」
不敵な笑みで語りかけてくるジークに「‥‥‥お待たせしました」と答え真剣な眼差しを向けるアインハルト。両者は構えて睨み合い、試合開始のゴングが鳴り響いた。
***
その観客席。応援に来ているヴィヴィオ、コロナ、リオの3人。間にミカヤを挟んでヴィクター、それからハリーが最前列で並んで観戦している。端から見るには豪華な布陣。実にTV映えする面子である。
「‥‥‥ん?今日はアリシアちゃんはセコンドには入らないのかい?」
セコンドにノーヴェしか居ない事に気付いたミカヤ。他の面子(ヴィクター達)には聞こえない程度の声で、コロナと話す。
「あ、はい。アリシアは今日は聖王教会のお仕事が有って来られないんです。凄く残念がってました」
「そうか‥‥‥なら尚更アインハルトちゃんは頑張らないといけないね」
ポンポン、とミカヤが微笑を浮かべながらコロナの肩を軽く叩く。その仲良さげな二人の様子を隣で見ていたヴィクターが、不思議そうに聞いてくる。
「お二人とも、随分と仲が宜しいようですわね。所でコロナさん‥‥‥でしたわよね?覇王のセコンドに付かなくても宜しいのですか?」
(ああ、成る程)と即座に理解したミカヤと、ヴィクターの言葉の意味が分からずにポカン、としているコロナ。暫しの間を置いてやっと理解し、コロナは苦笑いを見せる。
「あ‥‥‥えっと‥‥‥私、まだ弟子入りしたばっかりなので、アドバイスとか送れる程じゃないんです」
「弟子入りしたばかり‥‥‥?どういう事か説明して頂けませんか?やはりエレミアの技を継いでいる人物がジーク以外に居る、という事ですの?」
そう話しながら怪訝そうな表情に変わったヴィクター。ミカヤが、それを目にして強張ってしまったコロナの緊張を解すかのように頭を撫でて代わりに答える。
「そんな顔をしたらコロナちゃんが怖がってしまうよ。ここでは言い難い事だし、何より本人の許可無しに話して良い事ではないんだ」
「そう‥‥‥ですか。驚かせてしまったようですわね。ごめんなさい、コロナさん。これはあの子‥‥‥ジークの為でもありますので」
「いっ、いえ、大丈夫です」と焦って答えているコロナに改めて優しい表情を向けるヴィクターは、始まった試合を注視しつつも、コロナ達の陣営に二人足りない事に気付く。
「そういえば‥‥‥ハラオウン執務官の妹さんと、もう一人の子の姿が見えませんが?」
「あ、アリシアとイクスなら、今日は聖王教会でお仕事なんです」
反射的に、極何気無しに答えたコロナ。ヴィクターも「そうですか。確か、あの歳で聖王教会付きの歴史学者でしたわね。大したものですわ」と流しはした。だが‥‥‥。
(‥‥‥イクス?イクス‥‥‥イクスですか‥‥‥『冥王イクスヴェリア』と同じ名‥‥‥まさか、そんな筈はありませんわよね?)
浮かんだ疑問に暫し悩むヴィクターは、難しい表情を見せてしまっている。(どうしよう)と、コロナがイクスの名を出してしまった事に焦っている。
‥‥‥と。
「アインハルトさん!頑張って!」
突然隣から響く、ヴィヴィオの声援。その声でヴィクターは我に返り、視線の先の試合に集中し直す。
「覇王も案外やりますわね。此処までは良い動きですわ」
「そうだね。コーチが良かったんじゃないかな」
隣でそう言って頷くミカヤをジロリ、と睨み、ヴィクターは嫌味混じりに話す。
「貴女は知っているのでしょう?いつになったら教えて貰えるのですか?」
「八神司令が機会を設けてくれるそうだよ?その時に話して貰えるんじゃないかな」
口元を緩ませ話すミカヤの様子に、ヴィクターは当然不満顔。無論、そのミカヤの顔が『全部聞いてるから知っています』と雄弁に語っているからである。
「まぁ‥‥‥仕方有りませんわね」
ハァ、と溜め息をつき、ヴィクターは視線を試合に戻す。やはりと言うべきか、アインハルトは思っていた以上にジークの攻めに付いて行けている。暫しその様子を眺めながら、思慮に耽る。
(やはり‥‥‥覇王の動きを見る限り、エレミアの技に精通している者のアドバイスがあったのは明白ですわね。一体どのような人物が‥‥‥)
***
同時刻、聖王教会。
「申し訳ありません、アリシア」
「いいえ、シスター・シャッハ。大丈夫ですよ」
廊下を並び歩くアリシアとシャッハの姿。それから、そのすぐ後ろにイクス。3人とも資料らしき大荷物を抱えている。
「此方の我が儘で仕事を押し付けてしまいまして。今頃は試合も始まっている頃でしょう?」
「ですから、気に為さらずに。どのみち私が行っても、試合中に出来る事は殆ど有りませんから」
先程から申し訳無さそうに謝って来るシャッハに、アリシアは困った様子で答えている。別にシャッハが悪い訳でもないし、かと言って教会だけのせいでもない。依頼がある以上は、アリシアが仕事をするのは仕方の無い事だ。
アリシアとシャッハ二人の間にひょこん、と顔を出したイクスが「ですが、アインハルトは大丈夫でしょうか?」と心配そうに話す。アリシアは少しだけ固まったあと、苦笑いを見せる。
「まあ‥‥‥エレミアには勝てないでしょうね。アインハルトには大切な経験になると思います」
「えっ?」と驚いた様子のイクスに、アリシアは今度は不敵に口元を緩め話す。
「それに‥‥‥今私が教えているのはコロナです。ですから、アインハルトに付きっきり、という訳にもいかないでしょう?」
「そうですね」と答えたイクスと共に、アリシアはクスクスと笑う。罪悪感からそれまで黙っていたシャッハも二人の様子に少し胸を撫で下ろす。
「お二人にそう言って貰えると助かります。私も手伝いますので、急いで終わらせてしまいましょうか」
「シスター・シャッハの言う通りですね。頑張りましょう、イクス」
「はい、オリヴィエ」
そうして3人は書庫に入っていく。アリシアがその笑顔の奥に複雑な思いを抱えている事に、イクスだけが気付いていた。
対ジーク戦。まあアリシアの言う通り、勝つのは非常に厳しい訳ですが。
ヴィクターとミカヤは説明無しでも口調で分かるので書いてて楽(!?)ですね
***
セイン「セインと!」
イリヤ「イリヤの!」
セイン・イリヤ「「突撃インタビュー!」」
イリヤ「あの‥‥‥聞いても良い?」
セイン「ん?何さ?」
イリヤ「このコーナー、インタビュー要素って無いよね?」
セイン「それは言っちゃ駄目だ、イリヤ。‥‥‥消される」
イリヤ「え?‥‥‥‥‥‥えっ?」
セイン「という訳で、ゲストさんどうぞ」
美由紀「あ、もう出ても大丈夫なの?」
イリヤ「」
セイン「大丈夫ですよ、美由紀さん。それと、イリヤの事で是非聞いておきたい事が」ニヤニヤ
イリヤ「」
美由紀「え?イリヤちゃんの事で?いいけど‥‥‥」
セイン「ほら、イリヤって義理のお兄さん居ますよね?その人とイリヤの事について少し」
美由紀「え?言って良いのかな?」
イリヤ「‥‥‥うわっ、うわぁぁぁあ!!」