***第64話***
夜。髪を洗い流し、一度大きく伸びをしたあと、ユッタリと浴槽に浸かるアリシア。
左を上にして足を交差し、天井を見上げた。
(‥‥‥クロ、ですか)
瞳を閉じ、遠い昔の記憶を辿る。‥‥‥嘗て、アリシアがまだ『シュトゥラの姫騎士』と呼ばれていた頃の記憶を。
(もしも、ファビアがクロの子孫だとしたら、私‥‥‥オリヴィエやクラウスの事を知っている可能性はある。けれど、どうして遠くから見るだけなのでしょうか‥‥‥?アインハルトやヴィヴィともっと打ち解けても‥‥‥)
記憶の中のクロは小さかったとは言っても、そこは魔女。アインハルトのように記憶を受け継いでいる可能性は充分。だとしたら、嘗ての自分達の時のように懐いて来ないのか。
(まあでも、性格は人各々ですし。でも‥‥‥もしも)
可能性は有る。アインハルトの話では、エレミアは行方知れずとなり、クラウスは志半ばで亡くなり、当のオリヴィエに至っては別れも言えずに『ゆりかご』に乗った。クロが『三人に捨てられた』と思っていたとしてもそれは不思議ではない。
(やはり‥‥‥私のせいですね。もっと周りの人達を気遣えたら良かったのでしょうが‥‥‥)
悲しそうな表情でブクブクブク、と息を吐きながら口までお湯に浸かる。考え事をしていた為に背後からの接近には気が付かなかったアリシアは、勢い良く抱き上げられた。
「姉さん、悩み事?」
「ううん、ちょっと考え事してただけだよ?」
アリシアを抱き上げたまま、少し心配そうな表情で見ているフェイト。「だって姉さん、辛そうな顔してるよ?」というフェイトの言葉にハッとして、慌てて笑みを作る。
「そんな事無いよ。フェイトこそどうしたの?」
「たまには姉さんとお風呂入りたいなぁ、って思って。ホラ、外じゃ『姉さん』って呼び方すら出来ないし」
アリシアを抱いたまま浴槽に入るフェイト。アリシアも「もうっ」と頬を膨らませてはいるものの、その瞳は穏やかだ。
「仕方無いよ。本当は私は居ない人間なんだし。フェイトに『姉さん』って呼ばれたら大事になっちゃうし」
今度はフェイトが頬を膨らませ、「その割にはイクスとは外でも『オリヴィエ』『イクス』って呼びあってるよね?」と拗ねて見せる。
「それは、ほら。イクスとだし、私もイクスもこんなだし、まさか本物だって思ってる人なんて居ないだろうし」
「そっかぁ。姉さんは私よりもイクスのほうが大切なんだね‥‥‥」
フェイトはそう言って淋しそうに俯く。「えっ?えっ?あれ?」とアリシアが焦る様子を見ていたフェイトだが、耐えきれずに「プククッ」と思わず吹き出す。
「もーうっ!フェイト!」
「ごめんごめん。姉さん、ごめんなさいって」
バシャッバシャッと互いにお湯を掛け合いじゃれ合う二人。やがて満足して手を止めたフェイトが、再度アリシアを後ろから抱き締める。
「本当は何があったの?またオリヴィエ関連?」
その言葉に一瞬固まり、アリシアはフェイトを見上げる。「やっぱり、分かっちゃう?」と苦笑いを見せて、改めてフェイトに向き直す。
「うん、何となくだけど。私は姉さんの妹だから」
ニコリ、として話すフェイトに「‥‥‥そっか」と呟くように答えたアリシア。だが、フゥ、と息を吐いて話そうとした調度その時、浴室の扉が開く。
「フェイトママ、お姉ちゃん!」
「二人とも、お邪魔します♪」
タイミングが良いというべきか、悪いというべきか。ヴィヴィオとなのはが一緒に入ろうと現れた。《また、後でね》とフェイトに念話を送った後、自身は浴槽からあがる。
「おいで、ヴィヴィ。洗ってあげる」
「は~い!‥‥‥えへへ~」
仲良さげにヴィヴィオの背中を流しながら、アリシアはクロの事を想う。
(いずれにしても‥‥‥やはり会わない事には分かりませんね)
******
それは‥‥‥夢。何もない、炎で焼かれ荒れ果てた森の跡に茫然と立ち尽くしている。
『『――――』、『―――――』、『――――』!』
信頼していた、心から友達だと思っていた人達の名を叫ぶ。が、当然返事が有る筈もない。
遂にその場に座り込んで、ポロポロと涙を流し始める。少女はそれでも尚、『きっと助けに来てくれる』と涙を拭い立ち上がる。
歩けど歩けど、一面の焼け野原。空は真っ黒な煙で覆われている。涙も枯れて、少女は漸く森だった場所から抜ける。
『『――――』!、『―――――』!ついでに『――――』!』
叫んだところで、やはり返事は無い。枯れたと思っていた涙が再び溢れてきて、視界がグニャリと揺らぐ。
『どうして‥‥‥どうして‥‥‥どうして助けに来てくれないの?』
自室のベッド。夢から覚めた小さな魔女は、溢れる涙も拭ってから上体を起こした。最悪の目覚め。先祖から受け継いだ、悲しい記憶の夢。
(また‥‥‥あの夢。許さない‥‥‥クラウスも、オリヴィエも、エレミアも‥‥‥許さない‥‥‥!)
寝間着のまま起きて、水晶に映像を写し出す。ジーク、アインハルト、ヴィヴィオ各々の試合の様子の映像を。
(許さない‥‥‥みんな、許さない)
ファビア・クロゼルグは再び溢れてきた涙を拭い、唇を噛む。クロを助けなかったクラウス達も、その子孫も。何も贖罪の無いままに、あんなに楽しそうに生きているなんて‥‥‥許さない。
******
アインハルトとの練習を終えたアリシアは聖王教会に居た。目的は新たな書物の翻訳なのだが、明らかに不満顔(泣きそうな表情)のアインハルトに後ろ髪を引かれる思いで別れを告げて、今に至る。
「どうしました、オリヴィエ?」
「いえ‥‥‥なんでもありませんよ」
何時もと違う様子のアリシアを不思議そうに見ているイクス。「私も手伝いますから」と笑顔ながらアリシアの腕を掴み、半ば強引に付き添ってきた。
「オリヴィエはいつも無理し過ぎなんです。たまには力を抜いてゆっくりしてください。その義手だって常に魔力を使っている訳ですし、ね?」
ニコリ、と愛らしく首を傾げながら話すイクス。アリシアも折れて「じゃあ、少しだけ」と書物の幾つかを手渡す。
「けれど、お礼はさせてくださいね?今度何処かに遊びに行きましょうか」
「はい、オリヴィエ。そういう事なら頑張っちゃいます」
そうして二人は仲良く並んで仕事に取り掛かる。
時折会話で手を止めながらも、順調に進めていく。半分程まで進んだ頃に、アリシア宛に通信が入る。相手はアインハルト。
《アリシアさん、あの‥‥‥あっ‥‥‥》
モニター越しのアインハルトは、二人を見るなり寂しそうな表情へと変わる。アリシアも流石に気付いて、笑顔を向ける。
「うん、アインハルト。ジーク戦が終わったら遊びに行こうね?だから、試合頑張ろう?」
《えっ?‥‥‥はっ、はい!》
結局、アインハルトとは他愛ない会話で終了。見兼ねたイクスが問い掛けてくる。
「オリヴィエ、良いんですか?覇王はきっとオリヴィエの事を」
「良くは、ありませんよ。困った悩みです」
苦笑いで返し、アリシアは作業を再開させる。(みんなが幸せに、というのは思ったより大変なのかも知れませんよ、クラウス)と密かに心に思いながら。
ファビアが漸く登場。オリヴィエ本人に会ったとき、果たして彼女はどんな反応を見せるのか。
以上、アインハルトさん嫉妬する、の回でした。
***
イリヤ「‥‥‥うん、よしっ」コソコソ
イリヤ「今日は私一人でお送りします!」
イリヤ「え?だって、作者は私のSS書いてくれる気配は無いし、私最近目立ってない気がするんです」
イリヤ「プリズマ⭐イリヤのアニメですか?それはそれですよ、ほら、vividだってこの前までやってたし」
イリヤ「それからえっと、ここだけの、ここだけの話ですよ?その‥‥‥おっ、お兄ちゃんとどうしたら仲良くなれるかなって教えて欲しいって言うか‥‥‥」
高町美由希「それで、どうして私なの?」
イリヤ「えっ?違うんですか?」
美由希「いや、違うっていうか、それは、その‥‥‥」