***第60話***
「管理局執務官、ティアナ・ランスターです。捜査協力をお願いします」
マリンガーデン。入口で身分証を見せて、任意で中へと入る3人。まだオープン前の時間だけあって、職員があちこちで忙しそうに動いている。
「ねえティア、ルネッサさんは?」
そういえば補佐のルネッサは同行していない。108部隊にでも居るのかと思って何気無く聞いたスバルに、鋭い目つきで答えるティアナ。
「此方に向かってるらしい、わ。‥‥‥監視はしてる」
「へっ?それって‥‥‥」
言葉の意味する所に驚くスバル。アリシアも表情を険しいものに変える。
「‥‥‥そういう事、か」
「そうよ、アリシア。全く‥‥‥私の責任問題になりそうだわ」
小さく「チッ」と舌打ちするティアナ。そうは言っても、起きてしまった事は仕方無い。今は最悪の事態を避けるため、イクスヴェリアを先に見付け出すのが先決。
「きっとマリアージュも向かってる筈。急ぐわよ、二人とも‥‥‥‥‥‥!」
ティアナの言葉のすぐ後に、後ろで爆発音が聞こえた。慌てて、来た道を音の方へと戻る3人。
「ちょっと‥‥‥冗談じゃないわよ‥‥‥」
爆破があったのは、入口の方。ただ、3人が辿り着く前に、今度はマリンガーデンの奥の方から数回の爆発音。
「スバルっ!」
ティアナの声と共に、マッハキャリバーで走り出すスバル。避難指示を出しながら音のあった奥へと向かっていく。
「アリシア、周りを警戒して‥‥‥って、アリシア!?」
ティアナが気付いた時には、アリシアの姿は無かった。急ぎ念話に切り替え、叫ぶ。
《アリシア!?何処よ!?》
《遺跡に向かうから!ティアナは周辺警戒と避難誘導、それに犯人逮捕を!》
《ちょっと!アリシア‥‥‥アリシアってば!》
『何時も通り』と言えば何時も通り。恐らく後天的要因だろうが、突っ走る所は如何にもアリシアらしい。「ったく、もうっ!」と漏らして、ティアナは仕方無く入口の方へと走る。怪我人の保護、現場確認、避難誘導、それと‥‥‥犯人の捜索に。
(二人とも、無事戻ってきなさいよ‥‥‥何かあったら‥‥‥只じゃおかないんだから!)
***
ティアナ達が居たせいもあり、通報は早かった。現場にはもう特救が到着している。逃げ遅れた職員を助けながら、スバルは最深部‥‥‥アリシアの向かった海底遺跡へと走る。
「司令、こちらソードフィッシュ01!アクアラインを進行中、これから海底遺跡方面へ向かいます!」
《お前の姉妹達にも手伝ってもらってはいるが‥‥‥コンディション7だ!炎の廻りが速い!くれぐれも無理はするなよ》
「ソードフィッシュ01、了解!」
ヴォルツの話からして、ウェンディやノーヴェ達も消火活動に参加しているらしいが、状況は良くないようだ。「よしっ」と気合いを入れ直して急ぐスバルの視線の先に、数人の人影が写る。
「要救助者じゃないみたいだね。行くよ、相棒‥‥‥ギア・エクセリオン!」
《O.K,Buddy!》
バシュン、とカートリッジが炸裂。拳のスクリューが回転し始める。足元に魔法陣を展開し、拳の先端に魔力を集中させながら、スバルは現れたマリアージュ達に突っ込む。
「うおおおおっ!『ディバインバスタァァ!!』」
***
「ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥間に合った‥‥‥?」
クリスタル貼りの壁は、まだ崩壊はしていない。周りにもマリアージュや、犯人らしき人影は無い。アリシアは呼吸を整えながら、万が一に備え大人モードへと変わる。
「ライゼ、絶対出てきちゃ駄目だよ?燃えちゃうからね」
《ニャア!》
少しずつ炎に囲まれ始めていたが、まだ目的の冥王の墓らしき物は見付からない。仕方無く拳に虹色の魔力を纏わせて、クリスタルの壁に勢いよくぶつける。
「はあぁぁあ!」
けたたましい音を立てて崩壊する壁と、流れ込む水。お陰で周りの炎の勢いが一時的に治まる。
(これで、少しは時間が稼げます‥‥‥え?人間?)
確かに、先程までは誰も居なかった。にも関わらず、ゆっくりと少女が歩いてくる。しかも、遺跡の中から。
「マリアージュでは‥‥‥ないですようですね。貴女は?」
訊ねられた方の少女は、アリシアを見て驚いている。そのあと少女の放った「そんな‥‥‥まさか‥‥‥ゆりかごの聖王‥‥‥?」という一言で、アリシアは漸く現状を理解した。
「まさか‥‥‥貴女がイクスヴェリア陛下?」
書物に書かれているような姿とは余りにもかけ離れている。年の頃は恐らく、アリシアと同じくらい。少し怯えてはいるが、暴君にはとても見えないような優しい瞳、可憐な姿。それに‥‥‥殆んど感じないくらいの、弱々しい魔力量。
「はい。イクスヴェリアと申します。あの‥‥‥貴女は一体‥‥‥?」
少しだけ迷ったが、「‥‥‥オリヴィエ。オリヴィエ・ゼーゲブレヒトです」と答えたアリシア。一目見て分かる。目の前の少女は暴君などでも、冥王と呼ばれるだけの恐ろしい王でもない。運命に翻弄され、仕方無く従うしかなかった、只のか弱い少女なのだと。その少女に、嘘偽りを答える理由は無い。
「ここから早く逃げてください、オリヴィエ陛下。危険はすぐそこ迄迫っています。私に構わず、早く!」
この期に及んでも、自身を犠牲にしようとするイクス。アリシアはその手を掴み抱き上げ、笑みを向ける。
「‥‥‥出来ません。共に、地上へ!」
「貴女にまで御迷惑は掛けられません。私は‥‥‥」と俯いたイクス。アリシアはそのイクスを抱えたまま前方を見据えて、現れたマリアージュ達を睨み、話す。
「迷惑だなんて、誰が言いましたか?少なくとも、私は思わない。必ず‥‥‥貴女と共にここを出ます」
アリシアは、「ですが‥‥‥」と尚も食い下がるイクスを強く抱き締める。驚き紅くなったイクスに、「舌、噛んじゃいますから話さないでくださいね?」とニコリと笑いかけて、足元に古代ベルカの魔法陣を展開する。
「ちょっと手荒になりますけど‥‥‥行きますよ、イクス陛下?」
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「そっ、それで、そのあとはどうなったんですか!?」
「何だよ、分かりやすい奴だな。嫉妬か?アインハルト」
話は戻り、現代。アインハルトはその顔を真っ赤に染め、不服の表情をしている。イクスがアリシアに抱き締められ、お姫様だっこされていたのに嫉妬しているらしい。
「まあまあ。ちゃんと順番に話してやっから、焦るなよ」
もうノーヴェもニヤニヤしている。「ううっ‥‥‥」と俯いてしまったアインハルトの肩に手を起き、続きを話し始めた。
「そん時にさ、ティアナがな?」
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後方にルネッサの姿を見付けたティアナ。悟られないよう自身の幻影を作り出し、その場からルネッサの後方へと移動。ルネッサの方はフェイクシルエットを本物と思っているらしく、移動したティアナに気付いていないようだ。
(ルネ‥‥‥)
慎重に近付く。ルネッサは何かを確認しているようで、独り言を口にしていた。
「稼働しているマリアージュは約50‥‥‥ガーデン周辺で動いている局員が約200人程‥‥‥これだけ居れば‥‥‥マリアージュもかなり確保できる。そうすれば‥‥‥。待っていてください、トレディア。貴方の意思は、私が、必ず」
やはり、ルネッサが糸を引いていた。悲しそうな表情を見せるティアナは、ルネッサに後ろからスタンバレットを見舞う。不意を突かれて全く反応出来ず、ルネッサがその場に倒れ込む。
「ティアナ執務官‥‥‥確かにあそこに‥‥‥いつの間に後ろから‥‥‥」
痺れて動けないながらも驚いているルネッサ。悲しそうな表情のまま、ティアナは手錠で拘束する。
「フェイク・シルエットよ。独り言を言うの、ホントに癖だったのね?」
「‥‥‥お見事です、執務官」
クロスミラージュは展開したまま、「やっぱり貴女が犯人‥‥‥動機は?私達への復讐かしら?」とティアナは続ける。ルネッサはティアナの方は向かずに、それに答える。
「私の育ての親は‥‥‥トレディアだった。彼は‥‥‥私に生きる意味をくれた。彼の意思を継ぎ、この生温い平和でだらけきった世界に戦争をもたらし、その価値を再確認させる。それが‥‥‥目的」
やり切れない思いから、「馬鹿な子ね‥‥‥」と呟いたティアナ。表情を変える事無く「これが、私ですから」とそれに答えたルネッサを立たせて、無言で連行していく。
イクスに辿り着いたアリシア。話はクライマックスへ。
***
セイン「セインと!」
イリヤ「イリヤの!」
ウェンディ「だ~か~ら~、アタシも居るって言ってるッス!」
セイン「何だよウェンディ、邪魔すんなって」
ウェンディ「アタシもレギュラーッスよ!酷いッス」
イリヤ「あ、あの‥‥‥ゲストさん待たせたら悪いから」
セイン「チッ‥‥‥そうだね。んじゃ、今回のゲスト!」
チンク「何だ?このコーナーは?」
セイン「チンク姉、久し振り!」
チンク「ああ。それよりだな、最近姉上の様子が変なんだ」
セイン「へえ‥‥‥ギンガさんが?どんな風に?」
チンク「それがな?何かを思い出してテーブルに突っ伏したり、頬を真っ赤にして恥ずかしそうにして停止したり‥‥‥何かあったのだろうか?」
イリヤ(‥‥‥それって)チラッ
ウェンディ(あれっ‥‥‥バレる前に逃げるッス)ソロリ
セイン「おい、ウェンディ。お前何か知って‥‥‥」
ウェンディ「ヒイッ!?知らないっス!アタシの、アタシのせいじゃないッス!」
イリヤ「実は、あの‥‥‥カクカクシカジカ」
チンク「ほーう、そうかそうか。ウェンディのせいなのだな?ウェンディ、ちょっと姉と遊ばないか?なに、簡単な的当てゲームだ。姉がナイフを投げて、一度も当たらなければお前の勝ちだ」
ウェンディ「イヤイヤイヤ、当たっても当たらなくても大ダメージっス!ナイフなんて当たらなくても問答無用で爆発するじゃないっスか!」
チンク「良いから、行くぞ?」
ウェンディ「嫌っス!助けて!」
セイン「チンク姉、ギンガさんの事になると見境無くなるからなぁ」
イリヤ「えっと、ご愁傷さまです」