過去と現在と魔法少女と   作:アイリスさん

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第56話

***第56話***

 

「ティア~!久し振り!」

 

「ちょっと!こんな場所で引っ付かないでよ!」

 

初等科の社会科見学の仕事を終えたスバルが、ティアナに抱き付く。港湾警備隊隊舎前で、である。

 

「いいじゃな~い、ティアに直接会うの久々なんだしさ」

 

「良くないわよ!目立ってるじゃないの!」

 

引き剥がそうと奮闘するティアナだが、身体能力はスバルのほうが格段に上な訳で、離れる様子はない。それをポカン、と見ているだけのルネッサと、微笑ましいものを見る視線を向けているギンガ。それと、笑っているだけのヴォルツ司令。3人に共通して言えるのは、ティアナを助ける気は無い、という事か。

 

「ところで捜査官、話が有るんじゃなかったのか?」

 

少々手荒な再会をしている二人は置いておき、話を進めるヴォルツ。ギンガとルネッサの表情が、引き締まったものに変わる。

 

「はい、司令。詳しい事はルネッサ補佐官とティアナから。‥‥‥一先ず場所を変えましょう」

 

そうして漸くティアナを助けに行き、スバルをたしなめるギンガ。一行はやっとその場から移動し隊舎の一室へと入り、ティアナが捜査状況を話し始めた。

 

「被害者は、古代ベルカ専門の考古学者、コーレルマクバード。これ迄と同じで凶器は鋭利な刃物。手口も同じ。被害者の喉を刺して殺害したあと、爆破してる」

 

「犯人は、目撃証言によると身長170㎝前後の女性で顔には深いバイザーをしていて人相までは分からない。3か月前にフォルスの遺跡地帯で6名殺害。その後、バイゼンで同様に4名。それから、今回のミッドでの殺人。共通点は、被害者がいずれも古代ベルカ専門の考古学者って事くらいかしら」

 

分かっている事は少ない。目的も、動機も、何故考古学者を狙うのかも。

 

「ティア、この事アリシアちゃんには?」

 

スバルの言葉に少しだけ表情を歪め、

「一応教会には伝えたわ」とだけ返すティアナ。当然ながら事情を理解していないルネッサが質問してくる。

 

「執務官?」

 

「ああ、アリシアはね‥‥‥聖王教会付きの古代ベルカ専門家よ」

 

あくまでも余り詳しい事には触れないティアナ。その様子を察してだろうか、黙って聞いていたヴォルツが話題を変える為に口を挟む。

 

「成る程な、つまりは今の所は殆んど分かって無い、って事だな。それで、ナカジマ三佐とオレの所に協力を仰ぎに来たって訳か」

 

表情は変えず、「すみません、協力をお願いします」と話すティアナ。「フム‥‥‥」と何やら思案したヴォルツが、暫しの間を置いて話し出す。

 

「分かった。此方も出来る限り協力しよう。これ以上死人が出るのを黙って見てる訳にもいかないしな」

 

「ありがとうございます、ヴォルツ司令」

 

***

 

《そっちはどう?変わった事とか無かった?》

 

「いつも通りだよ。ありがとう、ティアナ」

 

再び、聖王教会。資料を整理しているアリシアを心配して、ティアナが通信を入れてきていた。

 

《まだ詳しい犯人像も動機も掴めてないのよ。貴女に何かあったら困るしね。‥‥‥もうあんな思いはしたくないもの》

 

「うん。気を付けるね」

 

通信を終え、一人想いに耽る。確かに、もう『ゆりかご』は無いし、あの時のように命を賭けるような事態は無いのかも知れない。今回の事件だって、こんな言い方はおかしいかも知れないが、『只の』連続殺人かも知れない。

 

窓の方を向き、外の、澄み渡った空を眺める。

 

(平和なこの時代でも、殺人は起こる‥‥‥か)

 

自身の右肩に乗っているライゼに視線を移し、アリシアは問い掛ける。無論、ライゼに向かってではない。

 

「身勝手な殺人と、戦争という大義名分で人を殺す事と、一体何が違うのでしょうね」

 

遠い、遠い昔を思い出しながら、悲しそうな表情を見せるアリシア。奇しくも自身を崇める為の教会で、アリシアは左手を前に伸ばしその掌を見つめる。嘗て、まだオリヴィエ・ゼーゲブレヒトだった頃。『武勲』という都合の良い名の、当時の戦争での数々の行為を思い出して瞳を閉じる。

 

(果たして‥‥‥私は此れで良いのでしょうか‥‥‥聖王‥‥‥聖なる王などと呼ばれて‥‥‥良いのでしょうか‥‥‥)

 

***

 

その、翌日の事。ティアナはとある展示会会場に居た。keep outのテープが周りにぐるりと張られている。

 

「お疲れ様です、執務官」という現場の捜査官に軽く返事をして、事件現場へと足を踏み入れた。

 

「これは‥‥‥何かの引用かしら?」

 

壁には、血で書かれた古代ベルカ文字。暫しの思案の後、それをクロスミラージュで撮影し始める。

 

「『詩篇の六。

かくして王の帰還は成される事無く、大いなる王とその僕(しもべ)達は闇の狭間で眠りについた。

逃げ延びた僕は王とその軍勢を探し彷徨い歩く』」

 

無意識に声に出し、書かれている文字を読む。何かの引用だろうか?それとも暗示か‥‥‥。

 

(『王』と『大いなる王』?『逃げ延びた僕』?どういう意味かしら。ミスリードか、それとも‥‥‥嫌な予感がするわね)

 

一度は躊躇しながらも、ティアナは通信を繋ぐ。相手は‥‥‥アリシア。

 

《どうしたの?何かあった?》

 

「ごめんね、アリシア。ちょっと聞きたい事があって。これなんだけど」

 

アリシアに、モニター越しに血文字をみせる。おぞましい文字に一瞬で険しい表情に変わったアリシア。ゆっくりと文字を読み始める。

 

《‥‥‥ティアナ、これは?》

 

「現場に残された遺留品の一つよ。今殺人現場に居るのよ。それと、新たな情報があってね。目撃者の証言から、犯人が『マリアージュ』って名乗ってた事が分かったわ。心当たり、無いかしら?」

 

《マリアージュ‥‥‥待って、聞いたことある気がする‥‥‥‥‥‥あ、確かキャロが、『アルザスでは婚姻とか祝福って意味』だって言ってた気が‥‥‥》

 

尤も事件からかけ離れた答えに、ティアナは「あ、そう‥‥‥」と落胆を隠せない。だが、アリシアはまだ思案している。

 

「他に何か意味が?」

 

《‥‥‥‥‥‥ガレア。ガレアの兵器》

 

漸く思い出したアリシアの答えに、ティアナの表情が変わる。「まさか、古代ベルカの?」という言葉に、アリシアが頷く。

 

《ガレアの危険な兵器、としか聞いたことがない。実際見た訳じゃないから、詳しい事は‥‥‥》

 

アリシアの専門は、言うまでもなく『聖王連合について』と、『シュトゥラの歴史』。それと、『聖王戦争末期のシュトゥラ・イングヴァルト家について』。

敵であった国、ましてやその国が秘密裏に保有している兵器までは、知り得る筈は無い。暫し悩んだアリシアだが、《そうだ!》と思い付く。

 

《ガレア辺りの資料なら、今ルーテシアが持ってた筈だよ。繋いでみるね》

 

少しの間を起き、モニターが開く。そのモニターの向こう側、カルナージのアルピーノ家で姿を見せたのは、アギト。

 

《あれっ?アギト、何でそっちに居るの?》

 

《ああ。シグナムが隊長研修でさ、終わるまで休みなんだ。アリシアもティアナも、どうかした?》

 

「聞きたい事があってね。ルーテシアは?」

 

アギトが《ルールー!》と声を張り、奥から《な~に~?》とルーテシアの声が聞こえてきた。

 

《はいはーい、って、何?ティアナもアリシアも真剣な顔して、どうしたの?》

 

久々に顔を覗かせたルーテシア。アリシアが事情を話し、難しい表情で答えるルーテシア。

 

《古代ベルカのガレアかぁ‥‥‥ちょっと待ってて》

 

奥から資料を探しだしてきて、該当する部分を探す、ルーテシアとアギト。ガレアの行を読み終えると、その表情は更に険しいものになる。

 

《ルールー、これ、ちょっと物騒じゃないか?》

 

《二人とも、良い?マリアージュってのはさ‥‥‥》

 

ルーテシアの説明に依ると、マリアージュは屍兵器。死んだ者にコアを埋め込み、増殖していく危険な兵器である。その両腕の武装で殺戮を行い、液化(燃焼液)によって周りを巻き込んで爆発、炎上し、無限に増殖していく。そのコアを体内で無限に生み出す王、通称『冥府の炎王』イクスヴェリアの下で。

 

《このイクスヴェリア、残虐非道、とんでもない極悪な暴君って書かれてるわよ?その犯人の狙いって冥府の炎王を復活させる事なんじゃない?》

 

ルーテシアの言葉に息を飲む三人。冥王イクスヴェリアの墓を探し出し、クローンを作り出す為か、それとも。

 

「それが真実だとしたら‥‥‥不味いわよ」




ルールーは敢えてサウンドステージイクスの原典から変更。だって、だって、原典通りだとstrikersと同じ性格ですよ?あの言葉少なで表情の少ないルールーですよ?
原典通りだとその1年後にはvividの性格に‥‥‥何があった、ルールー!?

次回、事態が大きく動きます。

***
セイン「セインと!」
イリヤ「イリヤの!」
セイン・イリヤ「「突撃インタビュー!」」
セイン「はぁ‥‥‥」
イリヤ「どうしたの?」
セイン「だってさ、これイクス編だよね?イクス陛下出てこないじゃん」
イリヤ「え?前回出たでしょ?」
セイン「え?何処で?」
イリヤ「‥‥‥思念だけ」
セイン「やっぱり出てないしー!」
イリヤ「はぁ‥‥‥じゃ、ゲスト紹介!」
アリシア「こんばんわ、オリヴィエアリシアです」
セイン「聖王陛下、久し振り」
アリシア「アハハ、久し振りだね。ところで、私の活躍はまだなの?」
イリヤ「あ、作者によると次回合流だって」
アリシア「あ、やっとかぁ。前の章は私よりコロナのほうが目立ってたし、この章はなんだかティアナ主役っぽいし」
セイン「それは‥‥‥サウンドステージイクスはティアナ主役だしね」アハハ


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