過去と現在と魔法少女と   作:アイリスさん

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第54話

***第54話***

 

控室。コロナは先程からベッドの上でボーッと天井を見つめたまま。

 

「あの‥‥‥コロナ?」

 

タイミングを探していたアリシアが、漸く声を掛ける。力無く「うん?」とだけ答えたコロナの肩にポン、と左手を置いて、静かに話す。

 

「勝負は、時の運だよ。‥‥‥来年に向けて、また頑張ろう、ね?」

 

「うん‥‥‥」

 

返事は返ってきたものの、コロナは変わらず呆けたまま。コロナの気持ちも分からなくは無い。アインハルトに勝つ寸前だった。目前だった勝利は、まるで砂のようにコロナの手から滑り落ち、アインハルトへ。勝負というものは、分からない。

 

どう続けていいものか分からずに、アリシアは次の言葉に詰まる。暫しの、沈黙。

その沈黙を破ったのは、「コンコン」、というノック音。静かに扉が開き、姿を見せたのはアインハルト。

 

「アインハルトさん‥‥‥」

 

「コロナさん。私は‥‥‥」

 

言い掛け、アインハルトの視線がチラリとアリシアに向く。何となく察して、アリシアは扉の外へと出る。

 

「私は‥‥‥自分の未熟さを思い知らされました。あの時あのタイミングで私の膝が折れなければ、間違いなく負けていた。悔しいですが、実力は今はコロナさんの方が上です」

 

「そんな事‥‥‥勝ったのはアインハルトさんですよ」

 

やっと呆けていた焦点を合わせ、切なそうな笑みを浮かべるコロナ。アインハルトは決意の籠った表情でコロナを見つめ、言葉を続ける。

 

「‥‥‥ですが。次は、そうは行きません。次も私が勝ちます。今度は、実力でも」

 

コロナの表情は一瞬固まるが、今度は漸く笑顔になる。「はい」と答えて、コロナはベッドから降りる。

 

「アインハルトさん、次の試合、私の分も頑張って下さいね!」

 

「ありがとうございます。勿論です。コロナさんの分も。きっと、チャンピオンに勝ってみせます!」

 

決意も新たに、アインハルトは部屋から出ていく。

 

アリシアはその後も部屋には入らず、扉に寄りかかったまま。

やがて中からは、微かにではあるがコロナの嗚咽が聞こえてくる。瞳を閉じてそれを聞きながら、アリシアは心の中でコロナを労う。

 

(短期間で良く頑張りましたね、コロナ。その悔しさをバネに、次は‥‥‥必ず勝ちましょう‥‥‥ね?)

 

***

 

同時進行していたヴィヴィオとリオの試合は、善戦したものの結局二人とも負け。ノーヴェから数日の休養を言い渡され、なのはとフェイトに送られて帰ったヴィヴィオ、コロナ、リオと別れたアリシア。アインハルトとはチャンピオン対策の特訓を約束し別れ、イクスと二人、何となく残りの試合を観戦していた(無論、少し離れてはいるがチンクが二人の護衛に着いている)。

 

「コロナ‥‥‥惜しかったですね」

 

「今回は、勝利の女神が微笑まなかっただけですよ、イクス。次は、きっと勝てます」

 

浮かない顔のイクスに、アリシアが少し首を傾げながら話す。「そうですね」と答えて、試合を見つめているイクス。

 

「オリヴィエ‥‥‥ちゃんと見ててあげないと、またルーテシアが拗ねてしまいますよ?」

 

「大丈夫です。ルールーは心配しなくても勝ちますから」

 

クスッ、と笑い、アリシアは目の前のルーテシアの試合に視線を戻す。危なげ無い試合を見せているルーテシアを眺めていると、ふと後ろから声を掛けられた。

 

「あの、すみません。ハラオウン執務官の妹さん、ですわよね?」

 

声に振り返ってみると、育ちの良さげな女性。心当たりの無いアリシアが記憶を探していると、隣のイクスが声を漏らす。

 

「『雷帝』ダールグリュン、ですね?」

 

「はい。申し遅れました。私、ヴィクトーリア・ダールグリュンと申します。‥‥‥ゴーレムマイスターの子は、どちらに?」

 

イクスはこの大会の為に、教会で態々予習してきたらしい。実力者は一通り知っているようで、『雷帝』のヴィクトーリアも覚えていた。

そのヴィクトーリアの言葉に、アリシアは掛けている眼鏡型デバイスの位置を直し、ほんの少しだけ表情を顰める。それに気付いたイクスは、注意を払いながら話す。

 

「あの子なら、今日は帰りました。何かご用でしたか?」

 

「帰ったのですか。それなら、伝えて頂けませんか?『ヴィクトーリア・ダールグリュンが会いたいと言っていた』と」

 

言い終え、「では、失礼致します」と丁寧に挨拶して去っていくヴィクトーリア。表情を崩さなかったアリシアに、イクスが問う。

 

「‥‥‥オリヴィエ、そこまで警戒しなくても。雷帝も、エレミアと同じ技にに興味が有るだけかも知れませんし」

 

「だと良いのですが。エレミアの技は‥‥‥やはり、もっと慎重に使わせる巾だったのでしょうか‥‥‥」

 

アリシアは、去って小さくなっていくヴィクトーリアの背中を見つめている。一見悪意は無さそうだが、どう転ぶかは分からない。

 

(もし、何か良からぬ事を考えているとしたら‥‥‥けど、イクスの言う通りの可能性も‥‥‥)

 

真剣な表情で、暫し悩むアリシアの後ろから、今度は「ヤッホー」と軽い感じで背中を叩かれる。今度は振り向く迄もなくアリシアには分かった。

 

「ルールー?どうしたの?」

 

「どうしたの?じゃないわよ。試合、見ててくれたんでしょ?」

 

振り向いたは良かったが、後半は雷帝と話していて全く見ていなかったアリシア。「あっ‥‥‥」とついつい口に出してしまった。

 

「ちょっと、見てなかったの!?まさか二人とも!?」

 

「ルールー、ごめん‥‥‥」

 

ルーテシアは涙を拭うような仕草を見せる。「酷いっ!愛しのアリシアに良いところ見せようと思って頑張ったのに」と完全に悪乗りしている。

 

「オリヴィエ‥‥‥ルーテシアとはそんな関係だったのですか!?」

 

真に受けて驚いているイクスに、「違いますよ!?」と慌てて否定。「もうっ、ルールー!」と、アリシアは逃げるルーテシアを追いかけ回す。

 

「アハハ~、だってアリシア見てくれて無いんだもん!」

 

「悪かった、悪かったけど、お願いだからさっきの言葉イクスに否定して!勘違いされちゃうから!」

 

今度は「私の事は遊びだったのね!」と捨て台詞で逃げるルーテシア。その顔を真っ赤に染めてしまったイクスと、別の意味で真っ赤になっているアリシア。

 

「だ~か~ら~、誤解されてるからそれ止めて~!ルールー!」

 

***

 

アインハルトは、ノーヴェと共に帰り道を歩いていた。その表情は俯き、何かを悩んでいる表情。

 

「どうした?次の試合、不安か?アリシアが見てくれるんだろ?心配すんな」

 

ノーヴェに声を掛けられ、顔をあげるアインハルト。

 

「いえ‥‥‥それも有りますが‥‥‥」

 

何とも歯切れが悪い。今度は「さっきの試合か?」と問われ、表情は一層曇る。

 

「それも、有ります。私が‥‥‥コロナさんに勝てたのは偶然です。そんな私が、チャンピオンに‥‥‥エレミアに、勝てるのでしょうか‥‥‥」

 

「悩んだって仕方ねえだろ。お前はお前の出来る事をするしかない。後悔は、やれるだけやってからにしろ」

 

頭をワシワシと撫でられて、「はい‥‥‥」と答える。心なしか、頬は紅い。

 

「よし。そいじゃ、明日から特訓だ。チャンピオンに一泡吹かせてやろうぜ」

 

「‥‥‥はい!」

 

漸く何時ものアインハルトの表情に戻る。ノーヴェも少し安心し、前を向いて歩く。

 

「あの、ノーヴェさん」

 

「お?今度は何だ?」

 

先程とは違い、アインハルトは少し恥ずかしそうに、言い難そうにしている。

 

「はっきりしろよ、何だよ」

 

「えっと‥‥‥アリシアさんとイクスさん、仲良いですよね‥‥‥」

 

「プッ」と吹き出すノーヴェ。真っ赤になってしまったアインハルトの感情は、恐らくは嫉妬。

 

「何だお前、妬いてるのか?」

 

ニヤニヤしながら肩に手を回してくるノーヴェに、必死に「ちっ、違います!」と声を張る。ただ、その反応がもう嫉妬していますと言っているようなもの。紅い頬を誤魔化す言い訳を探し、アインハルトはやっと話し出す。

 

「あの‥‥‥アリシアさんとイクスは、どうやって巡り会ったのでしょうか?」

 

「やっぱり妬いてんじゃねーか。『巡り会った』なんて」

 

「でっ、ですから、違います!」

 

ノーヴェの表情が、からかい半分の顔から一転、真剣なものに変わる。「本来は本人から聞くのが筋、なんだけどな」と前置きし、ノーヴェは語りだした。

 

「分かったよ。話してやるさ。気になって仕方ないんだろ?」

 

「はい」

 

もう全身真っ赤のアインハルトの頭にポンポン、と手を置いて、ノーヴェは話し始めた。

 

「あれは、1年前。暑い夏だったな‥‥‥」

 

 

 




少しずつ、古代ベルカの関係者達は近付きつつあります。それと、アインハルトがイクスに激しく嫉妬してます。

次回から章が変わります。お待ちかね、冥府の炎王(回想)編です。

***
セイン「セインと!」
イリヤ「イリヤの!」
セイン・イリヤ「「突撃インタビュー!」」
セイン「はぁ‥‥‥やっと落ち着いてできるな」
イリヤ「あの、ルビーは?」
セイン「ああ、アレならあそこ、ホラ」
ルビー「」←麻袋に入れられて、バインドでグルグルにされてる
イリヤ「アハハ‥‥‥」
セイン「気を取り直して。今日はこの人」
イクス「ええと、宜しくお願いします」
イリヤ(あれ?なんか嫌な予感が)
セイン「イクス陛下、お疲れ様です
イクス「いえ、私は何をすれば良いのでしょう?」
セイン「それはですね‥‥‥」
ウェンディ「そこに座ってニコニコしてればオッケイっス!」
セイン・イリヤ「「ゲッ!」」
イクス「?」
ウェンディ「『ゲッ』って、二人もと酷いっス!」
イリヤ「だって、嫌な予感しかしないっていうか」
セイン「そうそう。お前暴走しかしないだろ」
ウェンディ「そんなこと無いっスよ!アタシはただ、アニメ版でなんの説明も無いままイクス陛下が登場して、『誰?』ってなってる視聴Sy‥‥‥ゲフンッ!」
イクス「あの‥‥‥ウェンディが飛んでいったのですが、大丈夫なのでしょうか?」
セイン「大丈夫大丈夫。このSSを守る為です。必要な犠牲でした」←ウェンディを釘バットで吹っ飛ばした
イリヤ(アハハ‥‥‥やっぱり‥‥‥)

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