***第50話***
《はい。これが実戦だったら10回は死んでいます》
「そうなんですか」
高町家のバスルーム。浴槽に浸かり、モニターに映る包帯だらけのアインハルトと話すヴィヴィオ。所謂、実力者相手の『武者修行』に出されているアインハルトの、ミカヤ・シェベルとの練習の話を聞かされている。
《はい。自分の未熟さを思い知らされまし‥‥‥‥‥‥アッ、アッ、アリシアさんっ!?》
話の途中でバスルームの扉が開き、「ヴィヴィ、入るよ~?」という声と共にアリシアが現れる。風呂に入るのだからアリシアは当然裸な訳で、余り恥じらいを見せず適当にタオルを持っている(一緒にいるのがヴィヴィオとアインハルトなのだから別に当然だが)。
《ぶっ!》
モニターの向こうのアインハルトにはどうも刺激が強すぎたらしい。思わず吹き出して鼻血の流れてきた鼻を押さえている。
「アインハルト、大丈夫!?はっ、鼻血が出てるよ!?」
《だっ、だっ、大丈夫ですっ》
全く理由が分からずオロオロしているアリシアと、顔を真っ赤にして視線を逸らし、必死に鼻を押さえるアインハルト。ヴィヴィオは原因を知っているようで、「アインハルトさん‥‥‥頑張って下さい!」と両手拳をグッと握りエールを送る。
《ヴィヴィオさん!?》
「え?何‥‥‥?ヴィヴィ、どういう事?」
焦り恥ずかしそうにしているモニター越しのアインハルトとヴィヴィオとを交互に見ながら、一人全く理解出来ないアリシア。「何でもないよ~」と言って笑いながらお湯を掛けてくるヴィヴィオに「あー、やったね!?もーっ!」と掛け返す。
そんな二人(主にアリシア)を、向こう側からチラチラと、しかしながら確りとアインハルトは眺めていた。
そうしてアインハルトとの通信を終えた二人。仲良く浴槽に肩を並べて浸かる。
「ねえ、お姉ちゃん。コロナは、頑張ってる?」
「‥‥‥知ってたの?」
アリシアはこれでも他のメンバーには秘密にしていたつもりだった。ノーヴェにも、チームナカジマの面々が個別特訓に別れる際にアリシアの名前は伏せるように頼んでいた位だ。少し驚きを見せるアリシアに、ヴィヴィオは天井を見上げながら話を続ける。
「うん、割と最初から。初めはね?コロナに勉強教えてるだけかと思ってたんだけど、人形使って操作系の練習してるの見ちゃって‥‥‥ノーヴェが言ってた特別コーチってお姉ちゃんでしょ?どうして内緒にしてるの?」
少しの間を置き、アリシアも天井を見上げながらそれに答える。表情は、湯気もあって見えない。
「‥‥‥今は、まだ秘密にしておきたいんだ。知ったら‥‥‥きっと無理しちゃうから」
名前は出さなかったアリシアだが、ヴィヴィオにも誰の事を言っているのか分かり、「アインハルトさんの事?」と静かに呟くように口にする。
「うん。アインハルトには無理はして欲しくない。コロナの力にもなってあげたい。だから、今はまだ秘密」
ヴィヴィオの方を向いて、ニコリと笑顔を見せるアリシア。「‥‥‥分かった」と答えたヴィヴィオが、新たに決意の籠った表情を向ける。
「私も負けない。コロナにも、アインハルトさんにも、リオにも‥‥‥お姉ちゃんにも!」
「うん、ヴィヴィ。期待してるから」
***
そんな事をしながらも時間は過ぎていき、DSAAの予選会当日。チームナカジマの面々が各々順当な闘いを見せている中、コロナは出番を待っていた。
「緊張するよ‥‥‥」
「大丈夫だよ、コロナ。今までしてきた事が出せれば、負けたりしないから」
アリシアはニコリと笑い、コロナの肩をポンッと叩く。「そろそろ出番だよ、頑張って」と背中を押して、コロナをリングへと歩かせる。
「良い?まだ予選会だし、あんまり『目立たない』ようにね?」
「うん。分かってる。それじゃアリシア、頑張ってくる!」
既に準備していた予選会の相手選手に一礼。試合開始の合図と共に、足元に魔法陣を展開する。
「『クリエイション!』」
地面が膨れ上がり、ゴーレムが形成されていく。相手選手が呆気にとられている間に、ゴライアスは完成。その間、15秒。
「叩いて砕け、ゴライアス!」
そのコロナの予選会の様子を、先に終えていたヴィヴィオ、リオ、アインハルトの3人が見ていた。
「うっわぁ。コロナってばまたゴライアスの創成早くなってるよ。ゴライアスおっきいし、目立ってるねぇ」
「そうですね、リオさん。私達も負けていられません!」
リオとアインハルトが話しているその隣で、ヴィヴィオは一人難しい顔をしている。それに気付いたアインハルト。
「‥‥‥ヴィヴィオさん、どうしました?」
「アインハルトさん‥‥‥大した事じゃないですけど、何か引っ掛かるっていうか‥‥‥全力全開って言えばそれまでなんですけど、別にゴライアス作らなくてもコロナなら予選会くらい大丈夫な気がするんです」
ヴィヴィオには腑に落ちない点。本選に進めば情報収集だって重要になってくる。手の内が分かれば分かる程対策は立てやすくなる訳で、今後を考えればコロナの最大の武器であろうゴーレムクリエイトをこの時点から公開するのは不利になる筈である。
(色々考えてそうなお姉ちゃんがこんな簡単にコロナに手の内出させたりするのかな?それとも‥‥‥もっと凄い『何か』があるって事かな?‥‥‥‥‥‥凄い!)
悩んでいたヴィヴィオの表情が、不敵な笑みに変わる。「ヴィヴィオさん?」と疑問を浮かべるアインハルトに、闘志をみなぎらせ答える。
「本選‥‥‥楽しみですね!私達も頑張りましょう、アインハルトさん!」
***
そして。
「良かったね。一回勝てばエリートクラスだよ」
「うん、ありがとう。アリシアのお陰だよ」
コロナ達チームナカジマの面々は、揃ってスーパーノービスクラスからのスタート。だが、コロナの組だと順当に勝ち上がれば3回戦でアインハルトと、4回戦でジークとの対戦となる。
「アインハルトさんとかぁ‥‥‥出来ればもっと勝ちたかったけど‥‥‥」
遠くを見るような表情を見せるコロナ。「チャンピオンとも対戦してみたかったなぁ」と落胆し溜め息をついている。
アリシアはそんな弱気なコロナの背中を、バンッ、と左手で勢い良く叩く。驚きつつ「ひゃうっ」と声をあげたコロナに、不敵な表情で語るアリシア。
「何、言ってるの?‥‥‥勝てるよ?アインハルトになら」
「へっ!?だって、アインハルトさんだよ?」
驚いたままのコロナ。無論、アインハルトに勝てる等とは思ってもいない。精々、善戦して良い試合が出来れば、位に考えていた。
「勿論試合だし、その時にならなきゃ分からないかも知れないけど。少なくとも、アインハルトに負けない程度には鍛えてきたつもりだよ?だから、勝てない訳じゃない」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥うん。頑張る!」
暫し停止していたコロナだが、力強く頷く。他でもない、あの『聖王』が勝てる、と言っているのだ。力が、みなぎってくる。
(勝つんだ。アインハルトさんに。そして証明するんだ。私はここに、みんなと一緒に居ても良いんだって)
DSAA開始の短め回。1本のフラグの行方と、他のメンバーの動きは次回以降に。