過去と現在と魔法少女と   作:アイリスさん

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第44話

***第44話***

 

「‥‥‥アリシアさん」

 

「うん、どうしたの?」

 

対U-Dプログラムの調整を終えたアリシアの元へと、アインハルトが歩み来る。ある事を確認する為に。

 

「夢を、見たんです。クラウスの新たな記憶の夢を。アリシアさんが‥‥‥オリヴィエが『ゆりかご』起動後に一度降りた、という事は有りませんでしたか?」

 

アリシアは一瞬キョトンとして首を傾げる。一度『ゆりかご』の鍵となってしまえば、自分の意思では降りられない。「えっ?」と質問の意図を計りかねていると、アインハルトはその夢の内容を改めて説明してくれた。

 

「‥‥‥‥‥‥そっか。クラウスが『ゆりかご』起動後に私と‥‥‥オリヴィエと会う夢‥‥‥」

 

「はい。もう二度と会う事の出来ない、最後の別れを告げに来た記憶です。‥‥‥覚え、無いんでしょうか?」

 

瞳を閉じ、アリシアは記憶を辿る。しかし当然と言うべきなのだが、そんな記憶は無い。

 

「やっぱり、そんな記憶無い。それって、本当にクラウスが?」

 

他でもないアリシアに否定され俯くアインハルト。そんな彼女を見ているうちに、アリシアはある事が頭に浮かぶ。アミタ達が居れば、それも‥‥‥‥‥‥。

 

「ねえ、アインハルト。クラウスには、私と会った記憶が有るんだよね?」

 

「はい。確かに有ります。何か、思い出したんですか?」

 

アリシアの表情に、微かに笑みが浮かぶ。アインハルトの頭を左手で優しく撫でつつ微笑みかける。

 

「ううん。記憶には無いよ。でも‥‥‥クラウスにはきっと会えるよ。‥‥‥これから」

 

今の今迄考えもしなかったが、時間を移動できるならアインハルトの話も理解出来る。「最後の、別れ‥‥‥」と小さく呟き、アインハルトを抱き締める。アリシアの、その柔らかな笑顔の瞳から流れる、一筋の涙。

 

「ありがとう、アインハルト。ちゃんと、伝えて来るよ。私の想い、それと、『ありがとう』って。だから、今はU-Dを止めよう、ね?」

 

「はい」と答えた頬の紅いアインハルトに、抱き締め返される。「アリシアさん‥‥‥」とアインハルトが何か言葉を口にしようとした所で、後ろから声を掛けられる。

 

「えっと‥‥‥アリシアちゃん、アインハルトちゃん、そろそろエエかな?」

 

車椅子のはやてがニヤニヤしながら二人を見ている。

 

「ごめんな、お邪魔してしまって」

 

アリシアは特に何かある訳でもない(アインハルトの事は娘のような存在だと思っている)ので、「大丈夫だよ」といつものように答えてアインハルトから手を離す。一方のアインハルトはといえば、全身を真っ赤にさせて「やっ、八神司令、これは、その‥‥‥」と分かりやすくしどろもどろしている。はやてにはそれで充分に合点がいったようだ。

 

「ハハ~ン、成る程な。アリシアちゃん、察してあげんとアインハルトちゃんが可哀想やで?」

 

「え?何?どういう意味?」

 

全く理解出来ず、はやてに聞き返すアリシア。「ん~、それはな?」とはやてが話し始めた事に慌てたアインハルトが二人の間に割って入る。

 

「なっ、何でもありませんから。気にしないでください、アリシアさん」

 

「そうなの?でもアインハルト、顔真っ赤だよ?大丈夫?」

 

アインハルトが恥ずかしさで固まってしまった理由が全く理解出来ないアリシアだったが、U-Dとの決戦前の最後の会議に向かう為、動かなくなったそのアインハルトの手を握って歩き出す。

 

俯いたまま引っ張られているアインハルトはさておき。会議室迄の道程の間、戦闘モードのアリシアの気を解そうと、はやてが不意に話し出す。

 

「所でアリシアちゃん。あのおっきくなる変身魔法の事なんやけど、あれって、やっぱりアリシアちゃんの大人の姿なんかな?」

 

「うん。未来のフェイトと同じ姿だから、多分そうだよ」

 

アリシアに車椅子を押されているはやては、後ろを向いてそのアリシアの胸に視線を向ける。アリシアは視線に気付いて、思わず車椅子とアインハルトから手を離して胸を両手で覆い隠す。

 

「‥‥‥駄目だよ?」

 

「なんや、まだ何も言うてへんやんか」

 

「はやての事だもん。どうせ『胸揉ませてくれへんやろか?』って言うんでしょ?」

 

どうやら図星だったらしい。はやては「テヘッ」と舌を出して、反省の色など全く見せない様子で語り出す。

 

「ええやんか、減るもんやないし。健全なバストの育成には必要不可欠な事なんよ?みんなの役に立とう、ちゅう私の心意気を理解してくれんと‥‥‥。何なら、アインハルトちゃんのでもええし、な?」

 

「『な?』じゃないよ、駄目、駄目だから。私のも、アインハルトのも。‥‥‥あ、フェイトのも駄目だよ?」

 

アインハルトを後ろに隠しながら、アリシアも少しだけ後ずさる。「ええよ。あんなに大きくなるんやし、アリシアちゃんが帰った後にたっぷりフェイトちゃんの揉んだるから」とふて腐れているはやてが、プイッと会議室の方に向きを変えて車椅子を漕ぎ出す。

 

「全くはやては昔から‥‥‥ハァ」

 

溜め息をついてその後を追うアリシアと、はやての手癖の悪さに驚き再び固まっているアインハルト。そんな際どい(?)やり取りをしながら、3人は会議室へと入る。

 

***

 

U-Dの持つ永遠結晶、エグザミアの生み出す魔力は半端なものではない。その魔力に守られたU-Dの防御は、ナハトヴァールの外郭を全て吹き飛ばしコアを露出させたなのは達のトリプルブレイカーでもびくともせず、軽く痛みを感じるくらい。シュテル達のウィルスプログラムと、デバイスに走らせる専用のプログラムがなければ話にもならない。

 

「それでもU-Dの防御は桁外れだ。戦力を、防御を削る班と、本命の攻撃班、サポート班の三つに分けて攻める」

 

アースラの、会議室。話を進めているクロノが、アリシアとトーマに視線を向ける。

 

「アリシア、トーマ。済まないが、君達にはU-Dの防御を削れるだけ削って欲しい。君らのレアスキルはその役にうってつけだから。即席だが、コンビネーションで動いて貰いたい」

 

トーマの『魔導殺し』としての魔力分断の力と、アリシアの『聖王』としての聖王の鎧。差し詰め剣と盾、と言った所だろう。真剣な表情で「はい」と首を縦に振るアリシアと、少し緊張気味に頷くトーマとリリィ。クロノは更に続ける。

 

「なのはとフェイトには、本命の攻撃を担当して貰いたい。此方もコンビネーションで、だ。特にフェイト、君は防御が薄いんだ。くれぐれも無理はするな」

 

フェイトは「分かった」と返事をして、なのはと目を合わせて頷く。他のメンバーも各々、シグナムとヴィータが防御を削る班、アミタとキリエが攻撃班。シャマル、ザフィーラ、ユーノ、アルフ、アインハルトはサポート班。

 

「マテリアルの3人は先に出ている。僕とはやては攻撃と防御のフォローだ。みんな、頼むぞ」

 

***

 

対U-Dの必勝法がある訳でも無く、ナハトヴァールのような単純な思考の相手でもない。役割はある程度は決められるものの、結局は各々の判断で攻めるしかないのが現状。

 

一人遅れて最後に転送ポートへと入ったアリシアは、その瞳を一度閉じる。

 

転送された先には、既に全員が集まっていた。遠くには、マテリアルの三人の魔力と、U-Dの桁違いの魔力を感じる。

 

「アリシアさん‥‥‥」

 

既に大人モードの武装形態へと変わっていたアインハルトが、不安そうな瞳で近付いてくる。アリシアは静かに深呼吸をして、瞳を開く。

 

「大丈夫。誰も、犠牲にはさせませんから。‥‥‥行きますよ、ライゼ」

 

虹色の魔力に包まれて、アリシアの姿が大人モードに変わる。その姿に驚き、悲しそうな表情に変わったアインハルトが抱き付いてくる。

 

「アリシアさん‥‥‥止めて‥‥‥止めてください!もう二度と、貴女を失いたくない!」

 

アリシアの武装はこれ迄と同じ。唯一、しかし決定的に違うのは、アリシアのその顔。今迄の、大人のフェイトと瓜二つのそれでは無く、ヴィヴィオとそっくりの‥‥‥嘗てのオリヴィエ・ゼーゲブレヒトその人の顔。当に、アインハルトの中のクラウスの記憶にあるオリヴィエそのもの。

 

アインハルトを落ち着かせるように頭を撫でて優しく引き離して、笑顔を向けるアリシア。

 

「大丈夫ですよ。犠牲になんて為る気はありませんから。決着を着けたいんです。自分に‥‥‥オリヴィエとしての過去に」

 

シュテル達が激突しているであろう、巨大な魔力を感じる方角を見据え、アインハルトの手を引きアリシアは飛び立つ。

 

(これで‥‥‥最後です。‥‥‥クラウス‥‥‥貴方の事は、忘れません。決して‥‥‥)

 

 




U-Dとの第2ラウンド、もとい最終決戦。聖王は想いをその胸に秘めて、砕け得ぬ闇に対峙します。

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