過去と現在と魔法少女と   作:アイリスさん

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別離を乗り越え、歩んできたつもりだった。心の奥底の寂しさと幻想は、目の前で現実になって。未だ問い続ける、自分の存在意義。
ーーフェイト・T・ハラオウンーー

魔法少女リリカルなのはstrikers、始まります。



第1章 姉妹
第3話 妹


***第3話***

 

 

***

雨の中、木の下で雨宿りする2人。

 

 

『優しい人だったんだよ。優しかったから、壊れたんだ。死んじゃった私を、生き返らせるために』

 

淡々と語るアリシア。その隣に並んで立つフェイトは、ただ一言『うん』と返すだけ。

 

『ねえ、フェイト。夢でもいいじゃない。ここに居よう‥‥‥ずっと一緒に。私、ここでなら生きていられる。フェイトのお姉さんでいられる。フェイトが欲しかった幸せ、みんなあげられる』

 

『ごめんね、アリシア。だけど‥‥‥私は、行かなくちゃ』

 

決意を秘めた表情で答えたフェイトに、憂いを帯びた笑みを湛えながら、アリシアは静かに答える。

 

『いいよ。私はフェイトのお姉さんだもん。行ってらっしゃい、フェイト』

 

 

 

***

「……トちゃん、フェイトちゃん?」

 

「ん…おはよう、なのは」

 

「大丈夫?うなされてたよ?悪い夢でも見てたの?」

 

機動六課に来てなのはと同室になってからというもの、特別寝起きが悪い方では無い筈のフェイトは、最近こうして起こされる日が少なくない。

またあの夢だ。最近良く見る、闇の書内で見ていた夢。優しいプレシアがいて、アルフがいて、リニスがいて…アリシアがいる生活。

 

「ううん。またあのときの夢を‥‥‥見てたんだ」

 

そのフェイトの答えで夢の内容を察したなのはは、「そっか」 とだけ言葉を発し、フェイトを軽く抱きしめた。「大丈夫だよ」と優しく囁く親友。

未だに過去を引きずり、なのはに心配をかけている自分を情けなく思う。

 

「迷惑だなんて思ってないからね、フェイトちゃん。あんまり卑屈になっちゃ駄目だよ」

 

なんてまるで此方の考えを読んでいるかのような台詞を言う親友に、これ以上心配はかけられないなと思い直し、「うん。ありがとう、なのは。早く着替えちゃおうか」 と返事を返す。

 

それにしても最近、同じ夢ばかり見る。プレシアやリニスのことを割り切るなんてとても出来ない。とは言っても、ここの所毎日。親友との時間が増えた事が影響して昔の事を思い出し易くなっているのか。日々の仕事に忙殺されて隠れている奥底にある寂しさが、夢となって現れているのか。それとも自分では気づいていない何かの暗示なのか。

考えても結論が出そうにない問題をひとまず後回しにして、先に着替え始めたなのはに続いてフェイトも着替えを始めた。

 

「朝ご飯食べに行こっか♪」

 

軽快な足取りで進むなのはをよそに、フェイトは未だ重い足取りでその後を歩く。食欲は正直あまり無かったが、今日はエリオとキャロの教導もあるし少しは口にしておかないとな、なんて考えているうちに食堂に着いた。

 

「「おはようございます」」

 

「おはよう。2人とも早いね」

 

先に朝食をとっていたスバルとティナアから挨拶を受ける。スバルの皿の上のパスタのあまりの量にゲンナリしつつも、フェイトは食事を取りに向かうのだった。

 

***

 

先日あったリニアレール事件が刺激になったのか、やる気に満ちたフォワード陣。フェイトはライトニングの2人に反応と回避の基礎を教えていた。

 

「まずは動き回って狙わせない。攻撃が当たる位置に、長居しない。ね?」

 

「「ハイ!」」

 

そうして2人に基礎アクションを教えながらも、マルチタスクで今朝見た夢を思い返していた。

 

「あの、フェイトさん?あんまり調子が良くなさそうですけど、大丈夫ですか?」

 

不意に言われたキャロの言葉に、思わずドキッとしてしまった。

 

「ありがとう。別に何でもないから大丈夫だよ」

 

と体裁は繕ってみたが、今の狼狽は気付かれただろうか。これではいけない、と気持ちを入れ直し、その日の教導を続けた。

 

 

***

 

また夢。いわゆる明晰夢というやつだ。虚数空間の底、だろうか。あの日沈んで行ったプレシアとアリシア。側を漂っていたジュエルシードがアリシアに触れた瞬間、青白く強い光を放つ。そして開く筈のないアリシアの瞳がゆっくり開いて。

 

 

 

 

「……ちゃん、フェイトちゃん?起きて?」

 

「ん…おはよう、なのは」

 

もはや恒例のやり取りになりつつある寝起き。だがいつもとは少しだけ違った。‥‥‥夢の内容が。

 

「おはようフェイトちゃん。どうしたの?ボーッとして」

 

「夢を見たんだ。いつもとは違う夢」

 

そう、今日は違う夢。やけにリアルだった夢。どうしてあんな夢を?といつも以上に頭から離れないそれは、アリシアが生き返るという非現実的な内容であったにも関わらず、何故か現実味があった。

 

「緊急出動だって。海鳴市に」

 

なのはの言葉に思わず「えっ?」と聞き返したフェイトに、何時からいたのかはやてが答える。

 

「せや。海鳴市。聖王教会の依頼でな、ロストロギアが出現したそうや。にしても最近フェイトちゃんが寝起き悪いんは夢のせいなんか?なんや心配事とかあるんかな?」

 

「ごめんね、はやて‥‥‥大丈夫」

 

親友2人に心配され、少し気まずいフェイトは、心配をかけまいと話題を緊急出動の話に反らした。

 

 

 

 

***

鍛練から戻り、シャワーを浴びて、久遠とアニメを見る。いつもの風景。アニメを見ながら、アリシアは疑問をぶつける。

 

「ねえ久遠、このアニメに出てくる、クローンって何?」

 

「同じ遺伝子から作った、コピーみたいのもの」

 

その答えにイマイチ納得がいかなかったのか、アリシアは更に質問をする。

 

「遺伝子って何?」

 

遺伝子を知らなかったか、と思わずため息をついた久遠は、「生き物の設計図。」と端的に補足をし、目の前のアニメに再び集中する。何となくだが理解できたアリシアは、「ありがとう!」とお礼言ってこれまたアニメに集中する。

そんないつもの日常を過ごしていたアリシアだったが、夕食を取ったあと、ある魔力を遠くで感じた。人のというよりはジュエルシードのそれに近かったそれは、僅かだが移動しているようだった。

 

(この世界に魔力、ですか。被害が出る前に対処すべきでしょうか‥‥‥‥‥‥やはり私が行くべきでしょうね)

 

この世界には魔法に対する手段がない。自分が対処に行くしかないのだが。アリシアには夕食後の外出は許可されていなかった。6歳児なのだから当然と言えば当然。

 

(見つかったらお説教でしょうが、ここは仕方ありませんよね)

 

この際帰ってからの説教されるのも仕方無い、と覚悟したアリシアは、海鳴の平和の為に走り出すのだった。




アリシアさんの出番がほとんど無かった回。もしくはサウンドステージはちょっとしかカスってない回。もしくはスバルの食欲凄かった回。

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