***第37話***
アースラの一室、フェイトの部屋。中には、3人の姿。
「嘘‥‥‥だよね?お願い、嘘って言ってよ!」
涙を堪え、フェイトは叫ぶ。シャマルもアルフも居た堪れずに、視線を反らす。
「フェイト、それがさ‥‥‥本当なんだよ。だから、リニスは‥‥‥」
アルフの言葉を最後まで聞くこと無く、フェイトは走り出す。「フェイトちゃん、待って!」というシャマルの制止も振り切り、アースラから飛び出した。
(そんな‥‥‥嘘だよ‥‥‥リニスが闇の欠片だなんて‥‥‥アリシアだって、姉さんだって生き返ったんだ。リニスだって同じように生き返ったに決まってるんだ‥‥‥会えば、分かる。リニスに会えば、本物だって!)
両の瞳から涙を流しながら、フェイトは月村邸へと向かう。
《リニス、姉さん、今何処?》
念話で呼び掛けながら、辺りを見回す。
《リニス?姉さん?》
月村邸の側迄来たにも関わらず、返答は無い。そういえば問題を抱えていると言っていたのを思いだし、少し範囲を拡げて探す。
探しているうちに、海の方に覚えのある魔力を感じ、フェイトは身構えた。
「‥‥‥‥‥‥母さん」
「‥‥‥違うと言った筈よ」
プレシアの言葉にフェイトは顔を強張らせ、掌を握り締める。1度瞳を閉じて深呼吸し、再び目を開けて「母さん、私は‥‥‥」と言いかけた時に、両手足をバインドで縛られた。
「!!‥‥‥‥‥‥母、さん‥‥‥」
フェイトは動揺し、悲しげな表情を浮かべる。相手は闇の欠片とは言え、姿や思考はプレシア。昔の記憶がフェイトの頭を巡り、その表情は落ち込んでいき、瞳に涙が滲む。
「邪魔よ‥‥‥」
プレシアは杖を振り上げ、魔法陣を展開。先端に魔力を集束させて、それを躊躇する事無くフェイトに向けて放った。
(どうして、母さん‥‥‥どうして‥‥‥‥‥‥)
ポロポロと涙を溢しながら、その場で微動だにしないフェイト。勿論バインドのせいでシールドも張ることは出来ないが、それ以前に放心していて動けない。
雷を纏った魔力の塊は、フェイトの目の前迄来て、収縮して、弾ける。
(なのは、ごめんね‥‥‥私‥‥‥‥‥‥)
瞳を閉じて、覚悟を決める。あの錬度で、あの大きさ。シールドも張れない現状で、只でさえ薄いフェイトのバリアジャケットでは耐える事は出来ない上、命すら危うい。
(最後に、もう一度会いたかったよ‥‥‥なのは‥‥‥アリシア‥‥‥リニス‥‥‥)
爆発の轟音が聞こえる。幸いという巾か、痛みを全く感じない。感じる隙も無く死ぬんだ、と瞳を閉じたまま動かないフェイト。
(いくら何でも‥‥‥‥‥‥?)
いくら待っても、意識は無くならないし、痛みはない。それどころか、縛られているバインドの感覚もある。恐る恐る瞳を開いたフェイトは、目の前の光景を見て再び涙が溢れ、思わず声を洩らした。
「姉さん‥‥‥!」
左手を前に出し、虹色のエンシェントベルカのシールドを張りながら、その言葉に振り向くアリシア。「フェイト、大丈夫?」と優しい笑顔で語った後、彼女は再びプレシアと向き合う。
「ママ、止めて。間違ってるよ」
「アリシア‥‥‥アリシアなのね」
プレシアはふらふらとアリシアに近付き、抱き締める。アリシアも身を任せ、瞳を閉じた。
「アリシア、貴女腕が‥‥‥」
「大丈夫だよ、ママ。会いたかった」
そうして二人が穏やかな表情で抱き合っている後ろで、リニスがフェイトの拘束を解く。
「大丈夫ですか?フェイト」
「うん。ありがとう、リニス」
リニスにお礼を言いながら、フェイトは寂しさの滲む複雑な表情で目の前の親子を見ている。
「フェイト、ほら、貴女も」
その様子に気付き、アリシアは手を拡げてフェイトを呼ぶ。「でも‥‥‥」と言い淀み躊躇うフェイトを見て、プレシアも戸惑う。
「アリシア、あの子は‥‥‥」
「妹だもん、私の。約束、守ってくれたんだよね?」
その言葉に、プレシアは記憶を辿る。ヒュードラ事故の前、いつかアリシアと交わした会話。『妹が欲しい』と言ったアリシアに、戸惑いながらも『分かった』と確かに約束していた。
「妹‥‥‥けれど、今更そんな‥‥‥私は、今迄あの子に」
「これからでも遅くないよ。ほら、フェイトも」
尚も戸惑うプレシアとフェイトを向き合わせる。フェイトは恐る恐るプレシアに触る。
「母‥‥‥さん?」
「今更、そんな資格は無いのは分かってるわ。けれど」
声には出さずに、プレシアの口だけが動く。フェイトにはそれが「ごめんね」と言っているように見えた。
「母さん‥‥‥母さん!」
確りとプレシアに抱き付いて、声をあげて泣くフェイト。プレシアもフェイトの背中に手を伸ばし、恐る恐る抱き寄せた。
「貴女もよ」
「私も、ですか?」
自分が呼ばれた事が予想外だったリニスは、静かにプレシアに近付く。
「貴女には、迷惑ばかり掛けたわね」
プレシアはそう言ってリニスの頭を撫でた。「私は、貴女の使い魔ですから」と笑顔で答えたリニスの輪郭がぼやけ、光を発しながら少しずつ消えていく。
「やだ‥‥‥やだよ!行かないで、リニス!」
泣き顔のまま、手を伸ばすフェイトに、笑顔で「ありがとう」と残して消えたリニス。その後を追うように、今度はプレシアの輪郭が消えていく。
「嫌だ!行かないでよ!やっと、やっと‥‥‥‥‥‥」
それ以上言葉に出来ないフェイトの頭を撫で、プレシアはアリシアを抱きながら答えた。
「フェイト。アリシアを、頼んだわよ」
言い終わり、プレシアも跡形もなく消える。涙を流したまま立ち尽くしているフェイトを、アリシアは柔らかな笑みで抱き締めた。
「姉‥‥‥さん」
「うん。フェイト。今は、何も言わなくていいよ」
その様子を、少し遠くから眺めていたアインハルト。いつか見た、クラウスとの最期の別れの時の、『ゆりかご』へと向かうオリヴィエの表情と、今のアリシアの表情が重なって見えた。
(オリヴィエ、やはり、貴女はあのとき、深い悲しみを‥‥‥)
3人は暫くそのまま動かず。アースラからの通信があるまで動かなかった。
***
《フェイト、大丈夫か?》
「クロノ‥‥‥ありがとう。大丈夫」
空気を読んだのか、暫くしてからモニターを開いたクロノ。アインハルトとアリシアがフェイトのすぐ側にいるのを確認し、言葉を続ける。
《アリシア、それに君もだ。アースラまで同行願いたい。君達を巻き込んだであろう人物を保護した。帰る方法も、何とかなるかも知れない。フェイト、案内を頼む》
通信が終わり、アインハルトが心配そうに二人を見つめる。
「行こう、アインハルト。戻れるかも知れないし」
「はい、アリシアさん」
アースラへと帰還する途中、フェイトは戸惑いながらアリシアに問う。
「ねえ、姉さん。姉さんは、闇の欠片じゃ無いんだよね?母さん達みたいに居なくなったり、しないよね?」
アリシアは直ぐには答えず、少し間を置いてそれに答えた。
「消えないよ。大丈夫。‥‥‥‥‥‥何時でも、会えるよ。だから、そんな顔しないで。ね?フェイト」
プレシア・リニス編でした。次回遂にあの娘達が登場。
***
セイン「セインと!」
ウェンディ「ウェンディの!」
セイン・ウェンディ「「突撃インタビュー!」」
ウェンディ「ただいまっス!
セイン「今まで何処いってたのさ?」
ウェンディ「ちょっと別の話の方ッス」
セイン「?」
ウェンディ「気にしたら 負けっスよ!今回のゲストは‥‥‥」
プレシア「」ジロリ
セイン(あ、もうオチが見えた)
ウェンディ「どうしたんスか?」
プレシア「アリシアを無下に扱ったのは貴女達ね?」
セイン「」ガクブル
ウェンディ「ああ、あのときッスね?あれは時間が無くて何もできな」
プレシア「問答無用よ!食らいなさい!」
セイン「何でアタシまでぇ~」