再会は、私の心は昔のままだって、弱いままだって思い知らせる。
また失うのは、怖い。例えそれが、偽りの姿だったとしても。
ーーーフェイト・テスタロッサーーー
魔法少女リリカルなのはG・O・D、始まります。
第36話
***第36話***
ともあれ、ある程度の口裏は合わせなくてはならない。
アリシア達は口外すべきでない内容を話し合っていた。
「取り合えず、私とアインハルトが未来から来た、っていうのは伏せるとして」
「それから、アリシアが聖王女オリヴィエの生まれ変わりで、その力も継承している点と、アインハルトが覇王の末裔、という点もですね」
サクサクと話を進めるアリシアとリニス。
「あっ、あの。私はどうすれば‥‥‥」
二人の話に入るタイミングを失い、アインハルトがしどろもどろになりながら口を挟む。アリシアとリニスはまるで打ち合わせしていたかのように同時にアインハルトの方を向いて、同時に口を開いた。
「「なるべく喋らないように」」
「え!?はっ、はい」
無自覚天然、嘘をつくのが下手なアインハルトが話したら、誤って本当の事を言いかねない。喋るな、と言われて少し落ち込んでいるアインハルトを見て罪悪感を覚えつつも、自らと可愛い妹、ヴィヴィオの存亡の危機に気を引き締めるアリシア。
ある程度の筋道を纏めた3人は、部屋を出て移動。すずかと共にテラスにある椅子に座り、紅茶に口をつけつつ、ケーキを摘まむ。
「ごめんなさい。私、余計な事をしちゃって」
申し訳なさそうな表情で、アリシア達の事を洩らした事を謝るすずか。
「大丈夫ですよ。いずれ管理局には協力してもらうつもりでしたから。きっと私達だけでは問題の解決は難しいと思いますので。それに、フェイトにアリシアを会わせてあげたいのは私も同じですから」
「リニスさん‥‥‥」
そのリニスの言葉を聞いて少し気が楽になったようで、すずかは硬かった表情を崩した。
***
それから少し経った、その日の昼前。
「ん~~」
フェイトは浴槽で肩までお湯に浸かりながら伸びをする。
その日の午前の出来事を、フェイトは思い出していた。
リニスと話したい事は沢山あった筈だったのに、いざ対面したら、『会いたかったよ』しか言えなかった。涙で視界が曇り、リニスの顔もまともに見れなかった。リニスの言うことに、『うん、うん‥‥‥』と頷くのが精一杯。
(アリシア‥‥‥姉さん)
すずかの家に着いて、フェイトが恐る恐る扉を開けて、部屋に入った時、優しい笑顔のアリシアがいた。前回シグナムと共に対峙した時とは、別人のような笑顔。そのアリシアを思い出し、入浴中のフェイトも笑顔が溢れる。
実はフェイトは悩んでいる事があった。それは他でもない、ハラオウン家の養子に、というリンディ提督の提案。
アルフは居るにしても、家族が、頼れる大人が誰もいないフェイトにとって、それはとても嬉しい、しかし悩ましい提案だった。ともすれば犯罪者かも知れなかった自分が、果たしてリンディの好意に甘えていいのか否か。
しかし、今のフェイトにとっては、その悩みも最早無いに等しかった。
(リニスと、アリシア姉さんと、一緒に暮らせる‥‥‥!)
フェイトにとって、二人の存在は大きかった。リニスと、アリシアと。アルフも入れてこれからは家族4人で暮らして行けば‥‥‥。
(リンディ提督には申し訳ないけど‥‥‥ちゃんと言わなきゃ)
この時点では、フェイトはリンディの申し出を断るつもりでいた。リニスの『必ず戻りますから、今抱えている問題が解決するまで待っていてください』という言葉を信じて。
***
フェイトがご機嫌で入浴中。部屋に座るアルフは、バルディッシュと向かい合っていた。その表情は重苦しく、暗く、うっすらと涙を滲ませて思い悩んでいた。
「なぁ、バルディッシュ。本当なのかい?リニスが‥‥‥‥‥‥闇の欠片だって事」
《‥‥‥‥‥‥‥‥‥Yes》
少しの間を置いて、アルフに答えたバルディッシュ。主であるフェイトを気遣い、今の今迄黙っていた。
「やっぱり、フェイトに言った方がいいのかな?‥‥‥でもさ、言えないよ。あんなに嬉しそうなのに‥‥‥」
見ただけでも今のフェイトが嬉しそうなのは分かる。ましてやアルフは多少だとしても感情もリンクしている。フェイトがどれだけ喜んでいるのかは、手に取るように分かる。
そんな今のフェイトに本当の事を言うのは、果たして良いことなのか否か。アルフは迷い、その心は沈んでいた。
***
一先ず月村邸を出て、転移してきた場所へと向かうアリシア、アインハルト、リニスの3人。地上から観測し、人気が無いようだったら空へと上がり調査する予定。
「ねえ、リニス。フェイトはちょっと純粋過ぎるって言うかさ」
「それを利用して誤魔化したのは私達ですよ、アリシア。あの子を騙す事になるなんて‥‥‥」
アリシアもリニスも、心が苦しい。結果として、フェイトを騙してしまっている。純粋過ぎるフェイトが些か心配ではあるが。
「あっ、リニスさん。ここです」
アインハルトの指摘に、3人は歩みを止めて空を見上げる。今の3人の心境とは真逆の、真っ青な、雲1つ無い空。
「困りました。特に痕跡も無いようです。アインハルト、アリシア。他に手掛かりになるような物は無いんですか?」
時間を越えるくらいだから、大掛かりな仕掛けや痕跡があると思っていたのだが、どうやら特にそういった物は見当たらない。
振り出しに戻ってしまい、3人は腕を組んで悩む。
「アリシア、ちゃん?」
突然後ろから声を掛けられ、ビックリして振り向く3人。運悪く遭遇してしまったのは、シャマルだった。
「やっぱりアリシアちゃんね?それから‥‥‥そちらは何方かしら?」
シャマルの問いにフリーズする3人。不味い人物と会った。クラールヴィントの追跡から逃れるのは、至難の業だ。
《不味いよ、リニス》
《ここは私が抑えますから、アリシアとアインハルトは離脱してください》
アインハルトとアリシアは兎も角、リニスが捕まったとしても真実さえ言わなければどうにかなる。ここで全員捕まれば、フェイトに黙っていてもらうよう頼んだ意味が無い。
リニスが囮になり、気付かれないようシャマルの視界から消える二人。リニスはシャマルと対峙した。
「二人の元へ行かせる訳には参りません。私がお相手致します」
「えっと、貴女は?‥‥‥‥‥‥えっ?」
リニスに名を聞こうとしたシャマルは、クラールヴィントを確認して驚く。
「貴女も闇の欠片、ですね?」
シャマルの言葉の意味が理解出来ず、リニスは「闇の、欠片‥‥‥?」と質問を質問で返す。
***
「そうだったんですか。納得出来ました」
闇の欠片についての、ある程度の説明を受けたリニス。取り乱す訳でもなく、ウンウンと納得し相槌を打つ。
「申し遅れました。私はリニス。フェイトの家庭教師をしていました。私が現れた理由は理解出来ましたが、アリシア達が現れた事の説明にはなりませんね。それに、私が闇の欠片なら、私の心残りは‥‥‥。アリシアやフェイト達には会えましたし」
極めて冷静で思考も確かなリニスに、シャマルは些か驚いた。他の闇の欠片はもっとフワフワしていたと言うか、ボンヤリとしていた。
「って、フェイトちゃんに会ったんですか!?」
危うく流す所だったが、それに気づいたシャマル。
「と言うことは、フェイトちゃんはみんなには黙ってたって事ですか?」
「フェイトのせいではありません。私がそう頼みました。あの子を、責めないであげて貰えませんでしょうか?」
***
前日にアリシアとリニスが出会ったビルの最上階。
「私の可愛いアリシア。確かにここに居たのね。それに‥‥‥これは、リニス‥‥‥?」
プレシアはアリシアが座って居た場所を見つめていた。アリシアは確かに近くに居る。そう確信しながら。
リニスは自分が闇の欠片だと理解。プレシアも少しずつアリシア達に近づきます。