***第29話***
「あ゛ーもう!どうして依頼日が今日なのに締切明後日なの!?私も合宿行きたいのに!温泉~!おんせん~!!お・ん・せ・ん~!!」
自室で喚くアリシア。明日から4日間カルナージで旅行兼合宿‥‥の予定なのだが、聖王教会からの急な翻訳依頼。しかも早急に、ということで、期限は3日。アリシアはマルチタスクをフル回転させて全力でこなしている訳だが、半日で集中力を切らし、盛大に愚痴を溢している。
「お姉ちゃん頑張って!」と言うヴィヴィオも、内心で(これ、3日で終わるの?)と呆れるしかない量。
先日ルーテシアと海鳴に行った時に『温泉が湧いた』という事を聞いてから、密かに楽しみにしていたアリシア。コロナやアインハルトの成長ぶりとか、他のものも楽しみにしていない訳ではないが、今のアリシアの頭の中は、温泉一色。
「ホラ、アリシア。頑張って終わらせちゃおう、ね?」というフェイトの声も今のアリシアには嫌がらせにしか聞こえない。
「ホラ、アリシアちゃん。やらないと終わらないよ?ケーキ持ってきたから食べたら頑張ってね」
「ありがとう。うぅ、みんな何もなくて良いなぁ‥‥」
「私もなのはも合宿に合わせて仕事終わらせて来たんだから。アリシアも頑張ろう?3日目くらいには合流できるように、ね?」
一人でも平気だとは言ったのだが、仕事が終わるまでははやての家に泊まる事になっている。最近リインとアギトが御菓子作りにハマっているようだし、まぁ悪くもないか‥‥‥と一瞬考えたが、ブンブンと頭を振る。
結局アリシアが翻訳に追われる事に何ら変わりはない。
アリシアは「ハァ~」と盛大に溜め息をつき、再び作業を開始した。
***
《合宿‥‥‥ですか?》
《そうだ、アインハルト。カルナージで4日間の旅行兼訓練合宿。AAからオーバーS迄の練習も見られるし、お前も来いよ》
ノーヴェからの、旅行の誘い。遊びだったら断ろうかとも思っていたアインハルト。合宿なら、参加してもいいとは思うが、一つ気になる点が。
《あの‥‥‥アリシアさんも参加されるんでしょうか?》
《あー、アリシアは急な仕事が入っちゃって。3日目からなら参加出来るぞ?ヴィヴィオやフェイトさんも来るし》
《それなら、参加してみようかと‥‥‥》とアインハルトの話途中で、《じゃあ決まりだな!》とノーヴェは話を強引に打ち切る。
「ノーヴェの強引なところってスバルとソックリっすね」
「ん?ウェンディ何か言ったか?」
「何でもないっすよ♪」
と惚けながら、ウェンディはノーヴェ宛に届いた水着と川遊びセットを恨めしそうに見る。
「合宿と言いつつ‥‥‥遊びっすよね?」
「合宿だっつうの!」
***
首都クラナガンから臨行次元船で約4時間、時差七時間の無人世界カルナージへと合宿メンバーが出発したあとの高町家。なのはからの餞別、翠屋のシュークリームを頬張りながら、アリシアはモニターを見ていた。仕事して!と言わんばかりに、隣でライゼが《ニャア、ニャア!》と喚いているが、この際今は気にしない。
(インターミドルかぁ)
アリシアが見ていたのは、D.S.A.Aの映像。毎年この時期になると始まるのだが、今までは興味が無かったし、ちゃん見たことはなかった。しかしながら、今年は恐らくヴィヴィオが出るだろう。リオもコロナも、多分アインハルトも。
そう思ったら知っておくのも悪くないと思い、映像があった昨年のを見始めていた。
『さぁ、会場の皆さんお待ちかね!いよいよチャンピオンの登場!ジークリンデ・エレミアァ!!』
その実況を聞きながら、アリシアは、おや?と思った。エレミアと言ったか、このチャンピオン。名前が同じなんて偶然もあるんだな、と。
しかし。
その試合が始まると、アリシアはモニターを見たまま固まっていた。持っていた食べ掛けのシュークリームがその手から溢れ落ち、ライゼにかかって大惨事となっているが、それにはまるで気付かない。
(エレミアだ‥‥‥‥‥‥リッド)
その構え。鉄腕を振るうその格闘スタイル。そして、相手選手の腕を砕いているその所謂『エレミアの神髄』。間違いようがない。かつてオリヴィエに鉄腕を授け、その格闘技を教えた師であり友でもある、ヴィルフリッド・エレミア。モニターの中のチャンピオンは、間違いなくその格闘技を使っていた。
(エレミアの子孫‥‥‥?アインハルトと同じ、か)
アリシアは、俯く。ジークリンデも、アインハルトも、ヴィヴィオも。かつて戦友として、仲間として、友として。
今のなのは、フェイト、はやてのそれのように、確かに『絆』で結ばれていた3人、クラウス、ヴィルフリッド、オリヴィエ。今はその子孫達の時代。その時代に自分だけが取り残されてしまった。あの時。『ゆりかご』でオリヴィエとしての生涯を終える直前の、あの時。一人静かに消えて行けば良かったのだろうか。こんな寂しさや、孤独感に苛まれるくらいなら、先の世を願わずに‥‥‥。
と、その時、通信が入った。相手は、ヴィータ。
《おう、アリシア。もうすぐはやてがそっちに迎えに行くから準備し‥‥‥アリシア、泣いてたのか?》
《泣いて‥‥‥ないよ、もう!分かった。準備しとくね》
《晩飯は期待していいぞ。はやてのご飯はギガウマだからな》と締めたヴィータに、《楽しみにしとくね》と返し、自室に荷物を取りに行こうとしたアリシアは、そこでようやく気が付いた。シュークリームまみれのライゼ。
「うわーー!!ライゼ、なにやってるの!!」
《ニャア!!ニャァァア!!》
***
臨行次元船の客室内。みんなが寝てしまっている中、コロナは一人起きていた。手荷物の中の自身のデバイス、『ブランゼル』を握りしめる。
「不安なの?コロナちゃん」
いつの間に起きていたのか、隣で寝ていた筈のなのはがコロナの心情を察し、話しかける。
「はい。私一人でも上手くできるかどうか不安で」
今までやって来た事に、全く自信が無いわけではない。落ち着いて今までの事を出しきれるか。今までなら、常にアリシアが隣にいた。隣にいたからこそ、ここまでやってこれた。それが、今日から少なくとも2日間はいない。
「あんなに頑張ってたんだから。コロナちゃんなら大丈夫、ね?」
なのはは優しい笑みを浮かべる。コロナは今までの苦労を思い返す。
(そうだ、あんなに頑張ったんだもん。一人でもきっとできる。そうだよね?アリシア)
コロナは決意も新たにして‥‥‥仮眠をとる事にした。
「ありがとうございます。お休みなさい、なのはさん」
「うん。おやすみ、コロナちゃん」
***
はやて宅に移動中の車の中。運転しながらアリシアと話すはやて。
「こうやって二人だけで話すのも久しぶりやね」
「そうだね。初めて会ったとき以来くらい?そう言えば、はやてに頼みがあるんだけど」
言われたはやての表情が真剣なそれに変わる。普段とは違う、局で見せるような表情。
「ん?なんや?」
「インターミドルのチャンピオンに会えないかな?ジークリンデ・エレミアに」
「何かの事件なん?」
「オリヴィエ関連。ちょっと先祖がらみっていうか」
思うところがあったのか、はやてはウンウンと頷き、口を開く。
「成る程な。でもアリシアちゃんの周りには古代ベルカの関係者がよく集まるなぁ。ええよ。ちょっと考えもあるし。当たってみるよ。代わりに‥‥‥ちょっとアリシアちゃんの胸揉んでもええ?」
はやてのお決まり、とは言え、胸を揉まれるのはこの歳でも抵抗がある。大人になっても御免だが。
「だっ!ダメダメ!なのはのにしといて!」
「なのはちゃんならええんかい!それはそれでヴィヴィオが怒るし‥‥‥いや、いっそヴィヴィオのも」
「ヴィヴィオもだめ!フェイトも!」
「フェイトちゃんはええやんかぁ。局でもたまに揉んでるし」
本気なのか只の悪ノリなのか。それともアリシアを気付かい場の空気を変えようとしただけなのか。相変わらず読めないはやての意図に、アリシアは「はぁ~」と溜め息をついた。
次の瞬間、ビクッと身震いをするアリシア。
「ん?どないしたん?」
「合宿でフェイトに危機が迫ってる気がする。はやて的な意味で」
「ちょっ!どういう意味や!」
‥‥‥‥‥‥後にエリオは語る。「アリシアのあれはまるで地獄のようだった」と。
更新にひと月かかりました。だって仕方ないでしょう。INNOCENTの体操服すずかが可愛いんだもん。
フェイトさんに合宿での例の脱衣フラグが立ちました。
遅れて合宿に合流、という行動が、後にアリシアとアインハルトの運命を変える事に‥‥‥。
***
セイン「セインと!」
ウェンディ「ウェンディの!」
セイン・ウェンディ「「突撃インタビュー!」」
ウェンディ「久しぶりっす!」
セイン「なぁウェンディ。本編出始めたし、もうお前このコーナーにいらなくね?」
ウェンディ「なっ!嫌ッス!」
セイン「チッ」
ウェンディ「‥‥‥さて、今日のゲストは、なっ!なのはさんっす」ガクブル
セイン「え゛っ」ガクブル
なのは(小3)「えっと、こんにちは!」
セイン・ウェンディ(そっちか!良かった)
なのは(小3)「えっと、なんかですね?エイミィさんが『アッチに出てきなさい』って」
セイン・ウェンディ「「あー、あっちのなのはさんか」」
ウェンディ「影薄いのは大変ッスよね、お互い」
なのは(小3)「そうなんです!私頑張ってるのに!ユーノ君は何だかヤラシイし、フェイトちゃんはすずかちゃんと仲いいし」グスン