過去と現在と魔法少女と   作:アイリスさん

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第2話

***第2話***

 

 

竹刀とはいえ高町士郎の左刀を右手で流し、距離を詰める。そうさせまいと放った士郎の右刀を体を捻って避け、そのまま懐に入りこみ、左手で腹部に強打を入れる。しかし士郎は咄嗟に体を右に倒しそれを避けた。ドカッと音がした次の瞬間、士郎は自分が投げられことに気づく。だが気づいた時には左腕に十字固めが決まっていた。

 

「イタタタ。参ったよアリシア。しかしいつも思うんだけど、その年でその強さ。どんな経験をしてきたんだい?」

 

「内緒です。今日もお手合わせありがとうございました♪」

 

笑顔で返したアリシアは、そのまま海鳴公園のベンチに座る。隣に座った士郎に紅茶と翠屋特製のシュークリームを貰い、それを美味しそうに頬張りながら、「いつもありがとうございます♪」 と笑顔で答える。

 

「いやいや。僕のほうこそ、いい運動と鍛練になってるよ。そうそう、今度娘の美由希が君に会いたいって言ってたから連れて来てもいいかい?といってももう立派な大人だけどね」

 

「士郎さんの娘さんですか?会ってみたいです」

 

これが最近のアリシアの日常。週に2回ほど、こうして士郎と手合わせをしている。

あれから冬が明け、春になったある日、公園を散歩し、エレミアに教わった武術の鍛練をしているところに、高町士郎と偶然出くわした。お互いただ者ではない事に感付き、アリシアから声をかけたのだ。で、現在の鍛練仲間に至る。因みに、いつも士郎が持って来てくれる翠屋のケーキは密かな楽しみだったりする。

 

この頃には自分が何者であったか、魔力運用、ベルカ式の魔法など理解していた。

オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。まさか歴史上の偉人、『最後のゆりかごの聖王』が自分の前世だったなんて。

大晦日の日、母から杖を渡されていた事を思いだし、展開してみると中にジュエルシードが1つ収納されていた。それに触れてみた瞬間、全ての記憶が走馬灯のように駆け巡り、理解した。自分がオリヴィエだった事。ゆりかごの鍵として短い生涯を終えたこと。死ぬ間際に、ジュエルシードに願いを託した事。そして、クラウスのこと。

クラウス・G・S・イングヴァルト。 友であり、切磋琢磨した仲間であり、最後に対峙した人であり、・・・愛した人。もし生まれ変われるなら、もう一度、もう一度会いたい。ジュエルシードにそう願った。力の足りなかった願望器は、生まれ変わる事だけを叶えたのか。

 

(クラウス。私は‥‥‥‥‥‥貴方に、もう一度会いたい)

 

神社に帰ってきたアリシアはシャワーを浴びながら、目に涙を浮かべて二度と会えない人の事を思う。こんなに辛いなら思い出さなければ良かった。せめてあのとき、最後の別れのときに彼の胸に飛び込む事が出来ていたら。思いを伝えていたら。あのとき笑顔を張り付け、本当の思いを隠し、ゆりかごに向かった自分が恨めしかった。

この世界のこともこの数ヶ月で理解出来てきた。一番重要な点を挙げると、魔法文化がない。魔法も知らない。何故母プレシアはこんな所に転移させたのか。

魔法なんて言えば頭のおかしい子と思われるかも知れないし、魔法を見せようものならどこかの研究機関に連れて行かれてしまうかも知れない。魔法を使う時には細心の注意を払い、結界を作り、注意深く使用していた。

そんな事情から情報集めは進まず、そろそろ諦めかけてきた。もういっそこの神社の巫女に就職しようかと考えてしまうほど、状況は好転しない。まさかフェイトにたどり着く王手の所まで来ているなんてこの時は考えることもできなかった。

 

 

***

いつものように公園に散歩に出かける。行きの道中でご近所さんに「アリシアちゃん、こんにちは」なんて声をかけられることもしばしば。

 

「おばあちゃん、こんにちは!」

 

と、6歳児の見た目相応に返事を返したアリシアは、止めた足を再び動かし、鍛練場所の海鳴公園に向かう。今日は翠屋は忙しいらしく、士郎が来ないので、注意深く人払いの結界を張り、魔力鍛練を始める。

虹色の魔力光に、紅と翠の虹彩異色の瞳。聖王核をも感じる事ができる。プレシアによって次元断層から転移する前までは無かった、オリヴィエだった頃の、力と瞳。あの頃と違うのは、アリシアとしての容姿と記憶、健在な両手くらいか。

 

深呼吸をして瞳を閉じ、「武装形態」と彼女が呟いた瞬間、バリアジャケット、もといオリヴィエの頃の騎士服に身を包んだ。アリシアは、いつも通りの鍛練を開始した。その時海鳴市の湖畔に大きな転移反応があったのだが、結界を張ってしまっていたため気づく事が出来なかった。




次回はサウンドステージ回。フェイトさん登場回になる予定です。作者は Mではありませんが、批評を頂けたら幸いです。駄文は皆様に批評をいだきながら、頑張って改善していきます。

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