***第26話***
「う……う…ん」
アインハルトは目を覚ました。そこは知らない家の知らない部屋のベッドの上。綺麗に整頓された部屋だった。寝起きで状況がよく掴めなかった彼女は、昨日からの出来事を整理することから始めた。
(昨日は確か、ノーヴェ・ナカジマさんと手合わせして、勝ったけどその時受けたノーヴェさんの攻撃が後になって効いてきて……そのまま倒れて…………!?)
ハッとしてアインハルトは目をハッキリと覚ました。顔から血の気が引き、青ざめる。
(どっ、どうして私は下着姿に!?まっ、まさか……)
まさか倒れているところを変質者に誘拐されて……最悪のシナリオが頭に浮かぶ。もう12歳だし、そういう知識なら少しはある。でも、もし今の想像が事実だったら。そういえば心なしか下腹部が痛いかも……今にも泣きそうになりながらも、アインハルトは現状を確認するためベッドから起きようとした。丁度その時、部屋の扉が開く。彼女は反射的に身構える。
「よう、やっと起きたか。『自称覇王』、本名アインハルト・ストラトス。St.ヒルデ魔法学院中等科1年生」
入って来たのは昨日打ち倒した相手、ノーヴェ・ナカジマ。よくよく確認してみれば、ダメージを受けた自身の腹部には包帯が巻かれている。アインハルトはホッとしたやら申し訳ないやらで、反応出来ない。
「ロッカーの中身はちゃんと全部持ってきたからな。安心しろ。しっかし制服と学生証持ち歩いて通り魔ねぇ」
「学校の帰りだったんです」
恥ずかしさと、泣きそうだった事もあり、アインハルトにはそれが精一杯の返事だった。
そんな彼女の元に、訪問者がもう一人。コンコン、というノックの後に「ノーヴェ、入るよ?」という声。
アインハルトはその声に狼狽した。決して忘れられない、あの人の声。思わずドアの方を振り向くと、そこには。
「おはよう。目、覚めたんだね。良かった」
在りし日のアリシアの『大人モード』にソックリな、否、そんなレベルではない、瓜二つ、生き写しの女性。声までなんて。思わず「アリ……」まで言いかけたアインハルトだったが、その言葉を飲み込んだ。女性の瞳。デバイスなどの補助もなく、両目とも紅色。
別人。僅かな望みを持ちたかったが、やはりアリシア本人の筈がない。アリシアと瓜二つな女性を見て茫然としていたアインハルト。やがて、4年前のとある日の事が思い出された。
『末の義妹』。あの時、クロノ・ハラオウンは確かにそう言った。つまり、アリシアに姉がいても何も不思議はない。恐る恐るではあったが、彼女に質問をぶつけた。
「あっ、あの!お名前は何と?」
「私の?ごめんね、自己紹介がまだだったね。私はフェイト・テスタロッサ・ハラオウン。管理局本局執務官で貴女を保ご……」
フェイトがそこまで言いかけた所で、アインハルトは遂に泣き出してしまった。テスタロッサ・ハラオウン。間違いなくアリシアの姉だ。
もう会えないアリシアと彼女の姿が重なる。涙腺が決壊して、盛大に泣くアインハルト。「えっ?えっ?」と事態を掴めなかったフェイトだったが、落ち着き、優しく抱き締めると、次第にアインハルトも落ち着いていく。
その様子を見て、いつの間にか入って来ていたスバルは、ノーヴェの方を見た。
「もう、駄目だよ、ノーヴェ。こんな小さな子に怪我させた挙げ句泣かせるなんて」
「アタシだって思いっきりやられてまだ全身痛いんだぞ!それに、泣かせてねーよ!」
「だって、フェイトさんが泣かせる訳ないでしょ!」
「アタシだって泣かせないっつーの!」
ノーヴェに似ている女性とノーヴェが言い合いを始めたのを見て、アインハルトはそれを止めに入る。自分のせいの勘違いで喧嘩させる訳にはいかない。
「ちっ、違うんです。私が勝手に一人で泣いただけですから」
「じゃあ何かあったの?良かったらお話聞かせてくれないかな」
「なっ、何でもないんです。ちょっと昔の事を思い出してしまって」
フェイトの気使いには答えられなかった。きっとこの人だって、アリシアを亡くして辛いに決まっている。ここまで来ておいて今更何を、と思われるかも知れないが、自分と同じ痛みを持った人の過去の傷を抉るなんて出来ない。
「それからね、貴女の探してるオリヴィエのクローンの事なんだけど……」
フェイトの言葉に、アインハルトはドキリとした。探していたオリヴィエのクローン。それが義理の、とは言えフェイトの「親友の一人娘」だという。なんという事だろう。
「聖王のクローンをぶっ飛ばしたい、だっけ?」
ノーヴェの言葉がグサリとアインハルトの胸に刺さる。
「それはちょっと違うんです。本当に確めたいだけなんです。今更かも知れませんが、価値とかじゃなくて、本当に会ってみたかったただけ、なんです」
そうは言ったが、心の底ではどうだろう。最後までアリシアに愛情を注がれたクローンに対する嫉妬だったのではないだろうか。アインハルトには分からなかった。その感情が本心なのか。
「そっか。なのはとヴィヴィオには私から伝えとくから。いいよね、ノーヴェ?」
「はい、フェイトさん。お願いします。それから、アインハルト?」
「はい」
「約束してくれ。今後喧嘩屋モドキみたいな事は辞めろ。それから、オリヴィエのクローン……ヴィヴィオと手合わせしてやってくれないか?」
「分かりました。ありがとう、ございます」
あんな事までしたのに、何て優しい人達なのか。自身のしたことを後悔しつつ、アインハルトは礼を言った。
「んーとさ」
スバルが不意に口を開いた。
「アインハルトちゃんが聖王や冥王に拘るのって、どうしてなのかな?その……大事な友達なんだ、私の」
迷った挙げ句、アインハルトは話す事にした。只の興味本位だけでここまで来たとは思われたくない。
「私には、先祖の記憶があるんです。『覇王』と呼ばれた、クラウス・イングヴァルトの記憶。彼と聖王女オリヴィエとの日々の記憶が。覇王の力がベルカのどの王よりも強い事を証明する、クラウスの意志を汲みたかった」
「そっか。先祖の記憶か。アリシアと似てるね、貴女は。後でアリシアにも会ってあげてくれないかな。きっと喜ぶと思うんだ」
アインハルトはフェイトのその言葉に、鈍器で殴られたような衝撃を受けた。分かってはいた。今まで認めたくなかった現実。アリシアの墓前に、どんな顔をして立てばいいのか。今のアインハルトに、それに耐えられる自信はない。きっと、それを前にしてメソメソとすすり泣くくらいしか出来ないと思う。
「取り合えず、朝ごはんにしよっか。遅くなったけど、私はスバル・ナカジマ。ノーヴェのお姉ちゃんだよ」
「アインハルト・ストラトスです」
アインハルトの盛大な勘違いは、アリシアに会うその瞬間まで続く。
***
「待って、フェイト。今何て言ったの?」
自宅で本を読んでいたアリシアは、フェイトの発したその名前を聞き返した。今、アインハルトと聞こえたような……
「だから、保護したのはアインハルト・ストラトスって子なんだけど」
やっぱり聞き間違いではなかった。フェイトは確かにアインハルトと言った。
「アインハルト!!ど、どこにいるのっ?」
「その子がどうかしたの?」
「えっ……あ、いや、ちょっと知ってる子なんだ。ヴィヴィとの手合わせに私も立ち会ってもいい?」
アリシアは感情を抑えられなかった。やっとアインハルトに会える。会って、あんな別れ方になってしまったことを謝りたい。そして、再会を分かち合いたい。そして。
やりたい事が沢山ある。話したい事だって。
運命は三度、聖王と覇王を引き合わせる。
微妙なやり取りのせいで、アインハルトさんが勘違いに気がつきません。
先走り、勘違い、表現下手のアインハルトさんに愛の手を。
セイン「セインと!」
イリヤ「イリヤの!」
セイン・イリヤ「突撃インタビュー!」
セイン「今回は前回ゲストのイリヤスフィールさんとお送りします」
イリヤ「よっ、ヨロシクお願いします」キョロキョロ
セイン「イリヤ、どしたの?」
イリヤ「ルビーが乱入するかもと思って」
セイン「ウェンディと一緒にふん縛ってロッカーブチ込んどいたから大丈夫!」
イリヤ「………こっ、今回のゲストはシュテルさんです!」
シュテル「お久しぶりです」
セイン「あれ?これもう出ない人でも何でも有りなの?」
シュテル「いいえ、セイン。私はちゃんと後で出ます。レヴィも、ディアーチェも、ユーリも、アミt…」
セイン「はいストップ!今後のネタバレ発言禁止!」
シュテル「仕方ありません。自重します。砕け得ぬy……」
イリヤ「わーー!わーー!わーー!」
セイン「イリヤ、ナイスフォロー」
シュテル「チッ」
イリヤ「舌打ち!?今舌打ちしたよね!?」