過去と現在と魔法少女と   作:アイリスさん

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第22話 なのはの想いとアリシアの決意(後編)

***第22話***

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

息も絶え絶え、満身創痍のなのはは、残り少ない魔力とレイジングハートを支えになんとか立っていた。激痛が襲い、今にも倒れそうな身体を引き摺りながら、ヴィヴィオの元に歩み寄る。

 

「ヴィヴィオ‥‥‥!」

 

自らの放ったブレイカーの作ったクレーターの真ん中にヴィヴィオはいた。うつ伏せに倒れているヴィヴィオは、今まさに立ち上がろうとしている。身体も元の大きさに戻っている。良かった。上手く行ったようだ。(今なのはママが行くから)と、駆け寄ろうと1歩を踏み出したその時。

 

「来ないで!一人で‥‥‥立てるよ。強くなるって、約束したから!」

 

そう言ってなのはを制止して、ヴィヴィオは足元も覚束無い動きながらも何とか立ち上がる。

 

「ヴィヴィオ!」

 

両目に涙を浮かべ、感極まったなのはは、痛みも忘れ駆け寄ると、そのままヴィヴィオを強く抱き締めた。

 

***

「なのはちゃん!無事か?」

 

「はやてちゃん!大丈夫、だよ」

 

気絶したクアットロを背負ったまま玉座の間にたどり着いたはやては、なのはとヴィヴィオの無事を確認して安堵した。だが、まだ。今すぐここから脱出しなくては。

 

「なのはちゃん、脱出するよ!」

 

そう言った次の瞬間アラートが鳴り響く。

 

『警告。警告。聖王の喪失を確認。本船は非常モードに切り替わります。本船復旧を開始』

 

途端に、はやてとリインのユニゾンは強制解除され、なのはの桜色のフライヤーフィンが消失する。なのははバランスを崩し地面に両膝をつく。

 

「なのはちゃん!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥‥‥‥大丈夫‥‥‥大丈夫だから」

 

そう言ったなのはの顔は苦痛に歪み、額には冷や汗が流れる。限界なのは誰が見ても明らか。「ママ」と言って不安そうな表情を浮かべるヴィヴィオの頭を震える手で撫でる。

 

「魔力が全然結合しないです!」

 

警告するリインを見ながら、はやては出来る限り冷静に考える。

ヴィヴィオを救い出した代わりに、聖王の反応を失ったゆりかごは自己防衛機能を働かせ、AMFを最大限に発生させていた。魔力が使えない以上、自分の足で脱出するしかない。が、今のなのはが砲撃時間までに脱出出来るとは思えない。今もレイジングハートを支えに、震える足でなんとか立っている状態。

 

「大丈‥‥‥夫。歩ける‥‥‥から」

 

息も絶え絶えのなのはが思う通り動いてくれない重い足で1歩を踏み出そうとしたその時だった。

 

***

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

ここが最後の、最深部の扉。これを破れば、なのは達の元へと辿り着ける。スバルは先程から自身のIS、震動破砕で破壊を試みていたが、破壊しても直ぐに修復されてしまい、キリが無い。

 

「このっ!このっ!破れろっ‥‥‥破れろぉぉぉ!」

 

1度扉と距離を取る。目の前まで来て、ここで引き下がる訳には行かない。腕が動かなくなっても、必ず助ける。その一心で、再び扉へと向かう。

 

「待ってください、スバル」

 

当に殴り掛からんとしていたスバルを、アリシアが遮る。徐に前へと出たアリシアが手を翳すと、固く閉ざされていた扉が音も無く開く。

 

***

 

『聖王のコードを確認。此れより通常モードに戻ります』

 

鳴り止む警報と戻る魔力の感覚。「‥‥‥どうして来たんや」と呟いたはやての視線の先には、魔力を纏ったアリシア。

 

「‥‥‥どういう事なの、アリシアちゃん?」

 

聞いてない。アリシアに聖王の力があるなんて、聞いてない。ヴィヴィオと同じ虹彩異色の瞳。虹色の魔力光。せっかくヴィヴィオを助けて、あとは脱出するだけだというのに。 なのはの涙腺は決壊し、ポロポロと涙が溢れる。

 

「どうしてっ!もう時間がないんだよ!アリシアちゃんだけ犠牲になんて出来ないよ!私は絶対諦めない!」

 

なのはの言葉に、アリシアは優しく微笑みかける。ゆっくり近寄ると、「ごめんね」となのはの耳元で囁き延髄に手刀を浴びせる。「えっ」と言って崩れ落ちるなのはを、一緒に来たスバルに預ける。

 

「スバル、なのはとヴィヴィオのこと、お願いします」

 

「‥‥‥うん。任せて」

 

少し俯いて答えたスバルは、意識を手放したなのはを背負い、ヴィヴィオを抱き上げ、はやてのほうを見る。

 

「アリシアちゃん。自分が何をしてるか分かってるんやね?策は‥‥‥あるんよね?」

 

「はい。あるにはあります。成功するかは五分五分ですけど」

 

本当は、とてもではないが五分五分なんて言えない。可能性がある、という程度でしかない。

 

「そうか。信じても、ええんやね?」

 

黙って頷くアリシアを見て、はやては入口を見据えると、スバルと共に来た道を戻り始めた。後ろは振り向かない。振り向いたら決意が鈍ってしまう。

 

 

 

 

そうしてはやて、スバル、ヴィヴィオ、なのはの4人はヘリに戻った。そのベッドの上で、目を覚ましたなのはは上体を起こしてはやてに掴みかかる。

 

「行かせて!はやてちゃん!アリシアちゃんを助けなきゃ!お願い!」

 

「あかんよ」

 

なのはの両肩を押さえ、行かせんとするはやて。それを振りほどこうとするなのはに、はやては続ける。

 

「みんな辛いんよ。ティアナも、ヴァイス君も、どんな思いでアリシアちゃんを送り出したと思ってんねん。信じて待つしか、ないんよ」

 

「だけど!」

 

「待つしか、ないんや!」

 

少し声を荒げ、なのはを黙らせる。今は信じて待つしかない。例え恨まれようとも、親友を死地に送り出すわけには行かない。そう。例え親友2人に一生恨まれる事になっても。

 

***

ゆりかごでは、再び警報が鳴り響く。クロノの艦隊による砲撃照準のロックオン。

限られた時間の中、ゆりかごからどうにか通信系を奪ったアリシアは、クロノに通信を入れる。

 

「クロノ提督?聞こえてますか?アリシアです」

 

《アリシアか!何をしている?速く脱出するんだ!‥‥‥まさか!》

 

クロノからは焦りが感じられた。もう時間に余裕がない。あと15分もしたらあそこに一斉砲撃を浴びせねばならないのだ。

 

「察しの通りです、クロノ提督」

 

世界はいつだって、こんな筈じゃなかった事ばかりだ。最悪の場合、『ゆりかご』をアリシアごと撃たなくてはならない。

 

《アリシア、脱出方法はあるのか?》

 

一握りの希望を期待したモニターの先のクロノに向かって、アリシアが呟くように話す。

 

「あるには、有ります。‥‥‥確率は低い、ですけど」

 

《そうか‥‥‥。そちらに砲撃までのカウントダウンを表示するぞ。0までに何とかするんだ》

 

と言って腕を組むクロノ。額には汗が流れ、腕は微かに震える。

 

「はい。何とか、やってみます」

 

アリシアはそう答えると、モニターを見た。あと10分ちょっと。出来れば『あの』方法は最後の手段にとっておきたい。何せリスクが大きい。恐らく1度しか使えない。正確には、アリシアが1度しか耐えられそうにない。何とか他の方法があれば、と少しの間考え始めた。

 

***

警報は鳴り響いたまま。モニターに表示されたリミットは既に5分を切った。

 

《まだなのか?急いでくれ、アリシア!もうあまり時間がないぞ!!》

 

モニター越しにクロノ提督の焦る声が聞こえるが、未だ他に打開策は浮かばない。

 

「‥‥‥もしも、もしもです。このまま脱出出来なかった時は‥‥‥フェイトに謝っておいてもらえますか?『最後まで一緒にいれなくてごめんなさい』と」

 

アリシアは小さく「ごめんなさい」とクロノに謝り強制的に通信を切る。今自分のいるこの『ゆりかご』を落とすべく砲撃が始まるまでもう時間は少ない。フェイトの事を思うと気が重いが、最早他の方法を考えている余裕はない。

 

(『オリヴィエだった』頃に比べたら、まだマシ‥‥‥ですね、きっと)

 

自らにそう言い聞かせる。せっかくティアナに教わった幻術も、ここで使わなければ意味がない。両手をじっと見てから一つ大きく深呼吸をする。アリシアはようやく意を決し両腕を外部操作に切り替える。

右手に意識を集中させ、魔力を集め、固め、そこに聖王核の力を注ぎ込む。次に幻術を発生させ、自分に重ねる。こうして聖王核の力を持った疑似リンカーコアと自分の姿を作り上げた。ここまでは、予定通り、練習通り。あとは‥‥‥。

 

海鳴でいつか見たドキュメント番組の事を思い出す。成る程、知識というものは入れておいて損はしないものだ。

摘出された人体の細胞というものは例え身体を離れても少しの間は『生きて』いる、と。

 

ある程度の大きさがあれば、ゆりかごは生体反応を認知してくれる。これで最後の条件もクリア、できる筈。左腕に目一杯の魔力を纏わせる。武装の布部分を破き、舌を噛まないよう自らの口に押し込む。アリシアは意を決して、その左腕を右手に降り下ろす。

 

「~~~~!!」

 

声にならない悲鳴を挙げる。血は思った程は出ていない。切り口は魔力で焼けただれ、思わず目を叛ける。自分の『腕だったそれ』を掴み、幻術に重ねる。頭痛が、する。吐き気もする。そして何よりも、痛い、痛い、痛い、痛い。直ぐにでも意識を持っていかれそうな程の激痛。もう少しだけ、もう少しだけ我慢。そうしたら、手放してもいい。今にも飛びそうな意識を何とか繋ぎ止め、隠蔽魔法を展開、自分の存在を隠す。

 

(お願い‥‥‥上手くいって!)

 

アリシアは祈る。そうしている間も血は流れ、意識は少しずつ薄くなっていく。もうこれ以上は‥‥‥。

 

(クラウス‥‥‥‥‥‥)

 

と。自分からロックが外れるのが分かった。即座に転移魔法陣を展開する。朦朧とし始めた意識の中、ふとモニターを見る。あと、5秒。

 

***

 

《カウント0‥‥‥発射!!》

 

断腸の思いで指示を出したクロノは、黙ってモニターを見たまま動かない。アリシアの転移は確認出来ない。モニターに映るのは、先程消滅した『ゆりかご』の残骸のみ。

 

「クロノ提督、八神二佐から通信です」

 

「ああ、繋いでくれ」

 

一言だけ発し、モニターに目をやるクロノ。はやては開口一番。

 

《クロノ君、アリシアは?》

 

「今のところ行方不明だ。脱出できた、と信じたい」

 

《そうか‥‥‥フェイトちゃんになんて報告しよか?》

 

クロノには答えを見つけられない。フェイトの事を考えると、胸が締め付けられる思いだ。

 

「フェイトには僕から伝えておく。一応回収部隊と捜索隊は出すが‥‥‥期待はしないでくれ」

 

《最悪の事態は覚悟しとる。私もクロノ君も‥‥‥なのはちゃんやフェイトちゃんに一生恨まれるかもしれへんな》

 

「すまんな、はやてまで」

 

《ええよ。こんな事があるかもっちゅうのは分かってたことや。親友相手ってのが辛いけどな》

 

2人の間の、重い空気。クロノはフェイトに、はやてはなのはに。何と説明しようか悩んでいた。

 

***

(ここは、どこ?)

 

『ヴィヴィ様、本当にここで宜しいんですか?』

 

『そうですよ!ここで待ち合わせようって!』

 

『ヴィヴィ様、飾り腕を付けられませんと』

 

『あれ?エレミアの腕は?』

 

『あれは武具ですから』

 

『え~』

 

(ああ、夢‥‥‥昔の夢)

 

『はじめまして。シュトゥラ第一王子、クラウス・イングヴァルトです』

 

『はじめまして、クラウス殿下!』

 

(あの時の、初めてクラウスに会った時の)

 

***

あれから3時間。クロノは会見を迫られていた。後に『JS事件』と呼ばれるこのテロ事件は、只の1事件では収まらない。ミッドチルダ全体の危機、管理局地上本部の壊滅的ダメージと、上層部の汚職。未曾有の危機を乗り越えたとは言え、まだ不安の広がるミッド全域を安心させねばならない。それに、何処から情報が洩れたのか、マスコミからは『事件解決に貢献したクロノ提督』と『事件を解決した立役者、機動六課の部隊長』の出席のご指名まである。

 

「まだ落ち着いてもいないのに会見とはな。もう少し待ってはくれないものだろうかね」

 

「有名になると今後動き難くなるんやけどな。事件が事件やし、しゃあないよ。時間も押してるし早よう資料まとめとこうか」

 

クロノの愚痴に、やれやれと言ったところのはやて。はやてとて、本当ならこんな所で会見などに出るのは乗り気ではない。今すぐにでも飛び出して探しに行きたいのだ。未だ行方の知れないアリシアを。

事実を知ったフェイトが悲痛な表情で、しかし一握りの希望を信じて探しに飛び出したまま既に2時間。

 

「お前らはまだいいだろうよ。どうして俺なんかも会見に出るんだかな」

 

腕を組んではやての隣に立っていたゲンヤ・ナカジマ三佐は、目の前の椅子にドカッと座り、愚痴を溢す。

 

「まあまあ、地上の代表と言うことですから」

 

「そうですよ。私の師匠な訳ですから」

 

「何かお前らに上手く言いくるめられてる気がするんだけどよ。まあ、いいか」

 

2人に無理矢理説得されたナカジマ三佐はそう言って用意された資料を読み始めた。

 

***

会見を力無く眺めていたアインハルト。モニターに映っているのは、事件を解決したという部隊の部隊長。その隣に座っている人物を知っている。確かあの時会ったアリシアの『義兄』、クロノ・ハラオウン。アリシアはやはり『ゆりかご』に‥‥‥。様々な感情が交錯したまま、それをぼーっと眺めていたアインハルト。

やがて、記者の質問が始まった。そのうちの1つに、アインハルトは狼狽し、目を見開く。

 

『提督の末の妹さんが例の戦艦の爆発に巻き込まれたという情報があるのですが、真実でしょうか?』

 

『その質問にはお答えしかねます』

 

そのやり取りの中、アインハルトは見てしまった。隣でナカジマ三佐が舌打ちしているのを。はやてが「なんで知ってるんや」と小さく口を動かしたのを。

 

嘘だ、嘘だ、嘘だ、うそだ、ウソダ、ウソダ。

 

ゆりかごの爆発ならこの目で確かに見た。あれほどの爆発に巻き込まれ、無事である筈がない。あの時自分が止めていれば。無理矢理にでも、しがみついてでも止めていれば。両目から流れ、頬を伝い落ちる、涙。

まただ。またしても守れなかった。力になれなかった。救えなかった。‥‥‥大切な人を。自分の無力を思い知らされる。

アインハルトはその場で両膝をついて、両手で顔を覆い、暫くの間泣き続けた。

 

***

「もうすぐお屋敷でございます、アリサお嬢様」

 

「鮫島ももういい歳だしさ、アタシだって運転出来るんだからたまには長めの休暇でも取ったら?」

 

「そうは行きません。お嬢様を乗せて運転する事は私の生き甲斐でございます」

 

アリサ・バニングスはやれやれと呆れた表情を浮かべる。父親の会社に用がある日などはたまにこうしてお抱え運転手の鮫島に送ってもらっていた。

 

「ハイハイ、分かってるわよ。だからこうして‥‥‥キャア!」

 

鮫島は思い切り急ブレーキを踏んだ。その勢いでアリサは前のめりになる。

 

「鮫島、何?どうしたの?」

 

「申し訳ございません、お嬢様。前が急に光ったと思ったら何か人のようなものが前方に落ちて来まして。何とか避けましたが‥‥‥」

 

ちょっと待て。これには覚えがある。たしか小学3年生の時。その時降ってきたのはアルフだったが。また魔法関連か。どうやら自分には巻き込まれ体質でも‥‥‥なんて場合じゃない。また怪我しているなら助けないと。そう思ったアリサは車から飛び出し、落ちてきたものの方へ駆け出す。

 

「大丈夫?‥‥‥って、不味いわ。鮫島!救急車を!」

 

アリサが見たのは、ところどころに打ち身と火傷のある、傷だらけの少女。不味いことに右腕の肘から先がない。その切り口が焼けただれ、骨が覗いている。出血もかなりしているようだ。息はあるみたいだが、一刻を争うのは明らかだった。だが最後にその顔を確認すると、アリサは驚愕した。ま、まさかこの子は‥‥‥フェイト!?

そうしている間にも血は流れ、容態は悪化していく。

 

「もうっ。救急車はまだなの!?」

 

「落ち着いて下さい、お嬢様。もうすぐでございますので」

 

アリサはその後到着した救急車に乗り込むと、鮫島に指示を出す。

 

「すずかに連絡しておくわ。この子はうちの病院に運ぶから、鮫島は月村邸に向かって頂戴!」

 

「畏まりました、お嬢様」

 

鮫島は一路、月村邸へと急いだ。

 

***

「ん‥‥‥」

 

ゆっくりと目を開く。病院、のようだ。身体が重い。口に当てられていた呼吸補助の機械を無造作に左手で払い、室内を見渡す。どうやらかなり危険な状態だったようだ。回りに配置された機械の多さが物語っていた。

 

「えっと‥‥‥」

 

どうにか生き延びた、ようだ。

身体中の包帯。痛みを感じないのは麻酔が効いているのか。

あの時。ゆりかごの『誤認』があと1秒でも遅ければ、ここにはいなかっただろう。一斉砲撃を受けるゆりかごの爆発に巻き込まれながらも、無理矢理転移したせいで最初の目的地からかなりズレたようだったが、どうにか無事だった。隣にはライゼもいる。「ふぅっ」と息を吐く。

 

「何とか‥‥‥なったようです。よかった。ね?ライゼ」

 

《ニャアァ》

 

「よくないよ、姉さん!どれだけ‥‥‥心配したと‥‥‥思って‥‥‥うっ、ううっ‥‥‥」

 

声のほうを見てみれば、フェイト。今にも泣き出しそ‥‥‥いや、もう泣いてしまっている。フェイトはそのままベッドのアリシアに抱きつき、号泣し始めた。

 

「うん。ごめんね、フェイト」

 

優しくそう言って右手で頭を撫でようとして、思い出した。

 

(あぁ。右手は、もう無いんでしたね)

 

フェイトの身体に回していた左手を一度離し、頭を優しく撫でる。

 

「アリシアちゃん、気が付いたんだ?」

 

病室に入ってきた寝間着姿のなのは。6日前の事件解決後から念のため入院している。本人は「教導が」と言って最後まで入院を拒否していたが、ヴィヴィオに「ママに何かあったら」と泣き付かれやむ無く納得したのだった。そのヴィヴィオはといえば同じく検査入院中。と言ってもなのはと同室なうえ、今も仲良く手を繋いでいるわけだが。ヴィヴィオにしてみたら泣きついたのは単になのはと一緒に居たかっただけだったのかも知れない。

 

「まあ、何とかみんな生きて事件解決出来たわけやな」

 

「そうだな。僕も一時はどうなるかと思ったが。アリシア、大丈夫か?これから色々と大変だと思うが無理だけはするなよ」

 

なのはの後ろにはやてとクロノもいたようだ。「うん」と一言クロノに返事をして、窓の外に目をやる。もう夕方。しかし黄昏る暇もなく不意に聞こえる、コンコンとノックする音。今日はやけに来客が多い。

 

「アリシアちゃん目覚めたのね。よかった」

 

「ホントよかったわ。アリシア見付けた時は手遅れにならないかヒヤヒヤしたわよ。で‥‥‥それはそうとアリシアの事すずかも知ってたのにアタシだけ知らないってどういう事よ!はやて、答えなさい!フェイトも何で教えてくれないのよ!どういう事なの、すずか!」

 

自己紹介する間もなく、入ってきたのはすずかとアリサ。フェイトとクロノの権限と、アリシアを保護した人物として調書を作る、という名目でミッドに来ているが、実際は只のお見舞い。その後も談笑する一同を見ながらアリシアは思う。

 

(今度は、生きて守りました。クラウス‥‥‥見ていてくれましたか?ねえ?クラウス)

 




ゆりかご編完結。次回は六課解散までの日常編をお送りする予定。ワンクッション置いてVivid編に行きます。

奇しくも再び腕を無くしたオリヴィエが今後どう関わっていくか。アインハルトとの絡みも増えるーーーんでしょうか……

***
セイン「セインと!」
キャロ「キャロの!」
セイン・キャロ「「突撃インタビュー!」」
セイン「今回はキャロなんだ?」
キャロ「ハイ!何か、ウェンディさんが、『今回は任せた』って。だから、頑張ります!」
セイン「キャロはいい子だね。さて、今回のゲストは、ルーテシアお嬢様(14歳)です!」
キャロ「えっ!」
ルーテシア「ヤッホー、セイン、それにちびっこキャロ(笑)」
キャロ「うにゃー!!」ポカポカ
セイン「(ウェンディのやつ…)まぁまぁ、ルーお嬢様も、キャロも落ち着いて。」
キャロ「だって!ルーちゃん、いつも私の事ちっちゃいって馬鹿にするし、それに…幼児体型って」ゴニョゴニョ
ルー「ソンナコトナイヨ」ヒラヒラ
キャロ「あるもん!」
ルー「それにホラ、愛しのエリオも連れてきたから。」ニヤニヤ
キャロ「ウニャー///」ポカポカ
セイン「ほら、キャロ、ゲストをあんまり叩かない!」
キャロ「うぅぅ…」

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