過去と現在と魔法少女と   作:アイリスさん

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第14話 聖王

***第14話***

 

機動六課課長兼部隊長、八神はやて。現在の彼女の機嫌はあまり良くない。 先日のホテル・アグスタの件の捜査は遅々として進まず。アリシアと同じ魔力データの人物は手掛かりさえ見つからず。スカリエッティの消息は掴めず。

それらが影響しているのか、あまつさえ「私の誕生日はな~んにもなかったなぁ、なあ、リイン?」などと言い始める始末。

 

「はやてちゃん、僻まないでくださいよ~」

 

「ちゃうで、リイン。僻みやない。ほんの、ほんのちょ~っとだけアリシアちゃんが羨ましいな~思うただけや」

 

「やっぱり僻んでるじゃないですか」

 

リインの手持ちの策でははやての回復は難しいようだ。二人がそんな、間の抜けたやり取りをしている所に、シャーリーが入ってきた。

 

「失礼します。部隊長、先日の報告書の件ですが‥‥‥って、どうしたんですか?」

 

驚いたシャーリーが見たもの。自分のデスクの上でグデーっと伸びているはやて。隣にリインが呆れて座っている。

 

「シャーリー、はやてちゃんさっきからこうなんですよ。何とかしてくださいよ~」

 

「そうですね‥‥‥ほら、明日はフォワード陣お休みじゃないですか。エリオとキャロのデートプランとか考えるのはどうですか?」

 

「それ採用や!面白そうやね」

 

ガバッと飛び起き、シャーリーに同意するはやて。2人とも大概である。何やらあれがいい、こうした方が面白いとノリノリで話す2人を横目に、リインは呆れて部隊の見回りに出掛けるのだった。

 

***

次の日。

 

「模擬戦お疲れ様。今朝の訓練はここまで」

 

何時ものように早朝訓練も終わり、息も絶え絶えにへたりこんでいるフォワードの4人。今回の模擬戦は第2段階の見極めテストを兼ねていて、どうやら及第点らしい。笑顔のなのはの隣で、ヴィータが話す。

 

「これにて2段階目終了だ。明日からはセカンドモードを基本型にして訓練すっからな」

 

「え、明日から‥‥‥ですか?」

 

ヴィータのその言葉に驚くキャロ。明日から、ということは。

 

「今日の訓練は此れで終了。今日はみんなは1日お休みです。あんまり遠くじゃなければ出掛けても構わないから、たまには羽を伸ばしてきてね」

 

ニコっと笑って話すなのは。4人から笑みが溢れる。それはそうだろう。六課に入ってからというもの、24時間勤務な上にまともな休日も無く此処まで来たのだ。なのはやフェイトの部隊じゃなければ訴えている所。まあ尤も、彼女達の部隊故に入りたいと志願した不純な動機の輩は多かったわけだが。

 

朝食を終えた一行は、それぞれスターズ、ライトニングの2人ずつに別れ街へと繰り出していった。その様子を眺めるなのは、フェイトと、ご機嫌斜めのアリシア。

 

「いいな~、みんなお出掛け出来て。私だって買い物とか行きたいのに」

 

「はやてに『アリシアは基本外出は禁止』って言われてるから。レリック事件が一段落したら一緒に出掛けよう、ね?」

 

フェイトの慰めでも一向に機嫌は治らない。場の空気を変えようと、なのはが話題をエリオ達の話に変える。

 

「フェイトちゃん、そういえばさ、ライトニングの2人は今日はどこにお出掛けの予定なの?」

 

「えっと、はやてとシャーリーが考えてくれたみたいなんだけど。これかな?」

 

モニターを拡げてその予定を見た3人は思わず固まる。やがて、「はやてってば、もう!」というフェイトの怒りと、「にゃはは」というなのはの乾いた笑いが響く。そのプランと言えば‥‥‥『公園で散歩→デパートを見て回る→食事(雰囲気のある所)→映画を見る→夕方に海岸線の夕焼けを眺める』というもの。

 

「エリオとキャロってそういう関係だったの?デートだよね、これ」

 

アリシアのストレートな感想に「にゃはは、これはちょっと」とひたすら苦笑いのなのは。「ね?フェイトちゃん?」と相槌を求めたが、先程まで隣にいた筈のそのフェイトがいない。

 

「あれ?‥‥‥フェイトちゃん?」

 

 

 

そんななのはの声は届かぬ遥か先の、隊長室の扉の前。いつの間に移動したのかフェイトはその扉を強引に開け放つ。

 

「はやてっ!こっ、これは何なのっ?」

 

「ん、フェイトちゃん、どないしたんや?」

 

さも何の事やら分かりません、とスッ惚けるはやてに、フェイトは顔を赤くしながら捲し立てる。

 

「エリオとキャロの今日の予定だよ!デ、デ、デートなんて!」

 

口籠りながら話すフェイトに、あっけらかんと答えるはやて。

 

「ええやん。まだ子供なんやし。それに何かあったとしても、何処の馬の骨かも分からん相手にかっ拐われるよりええやろ?そない頭硬いからフェイトちゃん未だに恋人の一人もできへんのやで?」

 

「なっ!はやてだって同じだよね?」

 

「私は経験あるし」

 

「へっ!?」と言ってフェイトは固まった。売り言葉に買い言葉で反撃したつもりが、意外な事実。相手が誰だとか気になる所もあるのだが、よくよく考えると、はやては経験あり。なのははユーノと良い感じ。

 

(もしかして私だけ‥‥‥)

 

機能停止したかのように固まったままのフェイトと、それを見てまたニヤニヤしているはやて。今のところ平和(?)な休日。

 

***

「単なる事故では無さそうね」

 

「はい、捜査官。運転手は貨物から爆発音が聞こえた、と言っています。それ以外は見ていないようです」

 

ギンガ・ナカジマ陸曹。陸士108部隊の捜査官であり、スバルの姉である。現在機動六課と108部隊は協力関係にある。彼女は自動車自爆事故の現場にいた。普通なら検分をして直ぐ戻れる筈なのだが、今回は少し違っていた。

 

(ガジェットの残骸!?それに‥‥‥生体ポッド?)

 

追突したトラックの傍には、破壊されたガジェットが数体。それと、割れた生体ポッドが横たわっていた。

 

(どう見るべきかしら。近くにレリックでも‥‥‥?)

 

ギンガが目にしたのは、少しだけズレているマンホールの蓋。まさかあの下に?そう思ったギンガは、そこに降りてみる事にした。ポッドの中に入っていたものを確かめる必要がある。それに、レリックがあるかもしれない。放って置くわけにはいかない。

 

「私はポッドの中身を追います。このまま検分を続けてください」

 

そう言うと、ギンガは下水へと降りていった。

 

***

デートちゅ‥‥‥もとい休暇を楽しんでいたライトニングの2人。エリオはふと地下から物音が聞こえた気がした。

 

「ねえ、キャロ、今何か聞こえなかった?」

 

「え、何も聞こえなかったけど?」

 

キャロのその答えを聞くより早く、エリオは路地裏へと走る。そうして道の間ん中で立ち止まると、目の前のマンホールの蓋が開き、下からボロボロの布を纏った少女が登って来て、エリオの前で倒れた。

 

「大丈夫!?」

 

エリオは慌てて駆け寄り、その小さな少女を抱き上げる。アリシアと同じくらいだろうか。どうやら気を失っているようだ。その足元には鎖が繋がれており、その先には‥‥‥見覚えのあるケース。

 

「エリオ君!その子は?」

 

心配そうなキャロに、冷静に答えるエリオ。

 

「気絶してるだけだよ。それに、ホラ、これ」

 

「まさか、レリック?」

 

「多分。キャロ、連絡お願い」

 

キャロはロングアーチへと緊急通信を入れる。

 

***

 

「レリックもその子も、迅速かつ安全に保護するよ!」

 

いつの間に戻って来ていたのか、はやてが全員に指示を出す。シャマル、なのは、フェイトにヘリでの回収を指示。ヘリで少女を保護した後、フォワード陣を地下に落ちたであろうレリックの回収に向かわせる手筈だ。ギンガからガジェットの報告も来ている。

‥‥‥が、はやてはもう1つの、ある事に気付いた。

 

「‥‥‥アリシアちゃんはどこや?」

 

アリシアがいない。まさか、と思った矢先、シャマルからの通信。

 

《はやてちゃん!》

 

《シャマルか、どないしたんや?‥‥‥まさか》

 

《その、まさか、なんですけど‥‥‥》

 

モニターには、シャマルの隣に座るアリシアの姿。キャロからの通信を聞き、密かにヘリに隠れていたのだ。

 

《何してるんや!全く。ええか、回収が終わったら大人しく戻ってーーー》

 

《違うんです!嫌な予感がするって言うか、何て言うか。感じるんです!》

 

いつもと違うアリシアの様子に、はやてはハッとする。どうやら『当たり』を引いたらしい。だとすれば、一刻を争うかもしれない。

 

《ヴァイス君!全速力で飛ばすんや!》

 

《了解、隊長!!》

 

パイロットのヴァイス陸曹に目一杯ヘリを飛ばすよう指示を出す。そうして無事現場に到着。シャマルによればバイタルは安定しており、やはり気絶しているだけのようだった。一同は胸を撫で下ろす。

 

「ごめんね。せっかくの休日だったのに」

 

「全然です、フェイトさん。それより‥‥‥」

 

エリオにはこの少女から、何かこう、違和感が感じられた。何と言うか、感じる魔力が誰かに似ているような。しかし、その続きを言うよりも早く、はやてから次の指示が飛ぶ。

 

《なのはちゃん、フェイトちゃん、海上にガジェットが現れたよ。迎撃頼めるか?》

 

《分かった。海の方は引き受けたよ》

 

そう返し、なのはとフェイトは海へと飛び立つ。シャマルは少女をヘリに回収、一路六課隊舎へと向かっていた。そのヘリの中。アリシアは自分の予感が当たってしまい、なんとも言えない表情で少女を見ていた。

 

(この子は、私の、私の‥‥‥クローン)

 

かつてアリシアがオリヴィエだった頃、鏡で見慣れたその顔が目の前にあった。いくら幼いとはいえ、自分の顔を見間違うなんてない。オリヴィエの肖像画、という物も幾つか見た事もあるが、どれもイマイチ似ていなかった。しかしこの子の顔は、自分の知っているかつてのオリヴィエ自身の顔。

それに、この子の発する魔力が、自分のそれと同じものを感じる。

 

(どうやって私のクローンを‥‥‥?)

 

はやて達の考えが正しいのなら、この子は『その為』に造られたに他ならない。ともかくこの子、自分の、オリヴィエのクローンを守らねばならない。

 

「大丈夫だよ、ヴィヴィ。あなたは『お姉ちゃん』が守るからね」

 

この子をゆりかごの犠牲にする訳には行かない。アリシアは決意も新たに、少女の左手を両手で握り、かつてのオリヴィエの愛称で呼ぶ。

 

 

 

 

 




六課の休日(前編)です。オリヴィエのクローンを見たアリシアさんが今後どう動くか。

なんとヴァイス陸曹は初登場です。(しかも一言。)
個人的には好きなキャラですが、なかなか活躍させる機会がありません。

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