過去と現在と魔法少女と   作:アイリスさん

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先走って、失敗して。後悔して。
強くなりたかった。証明したかった。認めて欲しかった。
兄さんのこの魔法で。私の力で。
ーー ティアナ・ランスター ーー

魔法少女リリカルなのはstrikers、始まります。


第3章 揺れる心
第12話


***第12話***

 

機動六課自慢の訓練スペースの、その端の端。そこにペタンと座り込んでるアリシアは、またしても考え込んでいた。先日対峙した騎士ゼスト。いかにして彼に対抗するか。

 

(今のままでは‥‥‥火力もパワーも、リーチも足りない……どうしましょうか)

 

それも当然。オリヴィエの魔力を未だ持て余し、完全制御出来ていない。魔力の絶対量があっても、それを放出する蛇口が小さいのでは全開にしても限界がある。それにアリシアの身体は未発達で、一撃一撃がまだまだ軽い。しかも、クリーンヒットを当てるには、相手の懐にかなり深く潜り込まなければならない。ゼストにそんな隙はそうそうない。

「ハァ」と一人溜め息をつくアリシアに、ヴィータが近寄って来る。

 

「アリシア、そろそろスターズの模擬戦が始まる。取り敢えず見学してみたらどうだ?何かヒントとか見つかるかも知れねえだろ」

 

アリシアは「そうだね」と頭を切り替え、歩き始める。確かになのはの教導なら何かヒントになるかも知れないと考え、ヴィータとともに模擬戦の見渡せるビルの上に移動する。そこにフェイトも遅れて合流してきた。

 

《やるわよ、スバル。いいわね?クロスシフトC!》

 

《うん、ティア!》

 

事前に作戦でも立てたのか、いつもと少し違う2人の動き。

 

「クロスファイア、シュート!!」

 

ティアナの魔法弾の束がなのはに向かって迫るが、しかし。

 

「何時もに比べて何か切れが無くねえか?」

 

「コントロールはいいみたいだけど、確かに何時もより鈍いような?」

 

ヴィータだけでなく、フェイトもその異変には気づいたようだ。確かに魔力弾に何時のような切れがない。調子でも悪いのだろうか。そう思っていたが、次のスバルの行動を見た一行はそれが間違いだと気づく。

 

「ウィングロード!!うりゃあああああ!!!」

 

スバルはいつもと違い、ティアナの幻術を使わずなのはに向かって真っ直ぐ向かっていく。

 

「フェイクじゃない!本物!?」

 

すぐにそれを見破り、シールドを展開するなのは。突っ込んでいったスバルは押し負け、吹っ飛ぶ。体勢を崩しながらも何とか立ち直り、距離を取る。

 

「スバル、駄目だよ。そんな危ない軌道」

 

「すいません!でも、ちゃんと防ぎますから!」

 

注意したのも束の間、なのはは姿の見えないティアナを探す。

ティアナは幻術を使い、ビルの上から砲撃する構えを見せている。

一方カードリッジをロードしたスバルは、そのなのはに向かって再度突撃する。

 

「でりゃああああ!」

 

再度ぶつかるスバルとなのは。

本物のティアナはというと、デバイスの先端に魔力を刃状に展開し、ウィングロード上を走っていた。なのはの上にまで来ると、魔力刃を向けてなのはに飛びかかる。

 

「レイジングハート、モードリリース……」

 

なのはは浮かない表情で、レイジングハートを待機状態へと戻す。向かって来るティアナの魔力刃を素手で受け止めようとした直前。二人の間に一つの影が割って入り、クロスミラージュから延びる魔力刃はその人物の左手に阻まれる。なのは以外の面子が呆気に取られている中、「駄目だよ、ティアナ」と口を開いたアリシアは、そのままティアナの腕を掴んでバインドで拘束する。

 

「アリシア‥‥‥邪魔しないでよ!」

 

「駄目だよ。なのははそんな危険な賭けは教えてない筈だよ」

 

「けど‥‥‥!」

 

今にも噛みつこうかという表情のティアナに、悲しそうな表情のなのはが静かに語りかけた。

 

「ティアナ。後で少しお話、しようか。『クロスファイア、シュート』」

 

なのはの左手に魔法陣が展開して、桜色の砲撃が放たれる。直撃したティアナは悲鳴を出す隙も無くそのまま気を失い、模擬戦は終了となった。

 

***

その日の午後。午前の出来事を引き摺りつつも、アリシアは再び聖王教会の敷地内にいた。

 

「リーチ、ですか。そうですね‥‥‥」

 

アインハルトに相談してみる。心配を掛けまいと、ホテル・アグスタの件は黙っていた。

 

「そんな簡単にはいかないよね‥‥‥ハァ」

 

アリシアは力無く溜め息をつく。やはり成長するまで待つしかないのだろう。だが、脅威は今当にすぐそこにある。ましてや敵があと数年なんて待ってくれる筈がない。

 

「すぐに大人になれる訳ではないですし。やはり成長しないとリーチは」

 

そう話すアインハルトの方を向いたアリシアは、不意にその両手を手に取って目を大きく見開き、興奮気味に話す。

 

「それです!アインハルト、それですよ!」

 

「は、はい?」

 

「すぐに成長出来ないなら、大人に成ればいいんですよ!」

 

思わず地が出でしまっているが、興奮してアインハルトと向かい合うアリシア。アインハルトはと言えば、理解出来ずにキョトンとしたまま、アリシアを見ている。

 

「アリシアさん、ですからどういう意味でしょう?」

 

「ですから、大人の姿なら押し負けませんし、リーチもありますし!」

 

「えっと、ですからどういう‥‥‥」

 

どうやらアインハルトは驚いていて気が付いてはいないようだが、漸く地が出ている事に気が付いたアリシアは一度「コホン」と咳払いをして、改めて落ち着いて話す。

 

「だから、『大人の姿』になればいいんだよ」

 

アインハルトはようやく理解した。つまり、変身魔法、ということだ。それなら手っ取り早いのだが、魔力の効率を考えると決していいとは言えない。

 

「アリシアさん、でもそれだと魔力運用の効率の問題が」

 

「『他人』への変身なら、ね。『自分』にならそれほど非効率じゃないと思うんだけど」

 

ああ、成る程とアインハルトは納得する。しかしそれは、独自に新たな魔法を組み上げる、ということだ。アリシアはまだ6歳。

 

(なんて人なんだろう、この人は)

 

感心と驚愕と……憧れ。

 

「そうと決まったら、図書館に行こう!」

 

この一言は、アインハルトには予想外だった。普通なら、市内の図書館とか、学校内の図書館とかを想像するのだが、何やらあちこちと通信をしているアリシアを見る限り、どうも違うようだ。やがて通信を終えたアリシアは、アインハルトの手をとり、転移魔法陣を展開する。

 

「じゃあ、行こっか?」

 

アリシアに圧倒され、「えっ」と声を洩らしたアインハルトは、虹色の光とともに転移した。

 

***

「話はユーノ司書長から聞いています。此方でお持ち下さい」

 

受付のお姉さんに案内され、待合室でしばし待つ、アインハルトとアリシア。まさか無限書庫に連れて行かれるとは思ってもいなかったアインハルトは、どうにも普通の人間とはとても思えないアリシアに、疑問をぶつける。

 

「あの‥‥‥アリシアさんは本当に何者なんですか?」

 

「ここのユーノ司書長には、『出掛けた先』で『たまたま』知り合ったんだよ」

 

またしても何とも曖昧な答え。アリシアにはどうも言えない事が多すぎる気がする。自分だけが蚊帳の外のような、疎外感を感じてしまう。

 

「その、私には言えない事なんでしょうか。私は‥‥‥嫌なんです。『あの時』みたいに自分だけ置いていかれるのは。その人の力にもなれずに、助けられずに、会えなくなってしまうなんて!」

 

言ってから、しまった、とアインハルトは後悔した。アリシアにはきっと何の事か分からないだろう。興奮してつい熱くなってしまった。俯いていたアインハルトが顔を挙げると、アリシアは驚いて固まったままだった。

 

 

 

「すっ、すいません。昔の事を思い出してしまって、その」

 

「あ、いいよ。こっちこそ、ごめんね」

 

我に返ったアリシアは、謝りつつも先程のアインハルトの言葉を思い返す。偶然、だろう。いくら子孫だからといって、先祖の記憶なんてある筈がない‥‥‥否、そんな魔法を魔女が使っていた気もするが、まさかそんな筈は無い。彼女の言葉がオリヴィエの記憶のそれと合いすぎ、つい動揺してしまった。気不味い空気が流れる。

 

救世主が現れたのはそんな折だった。

 

「いやぁ、待たせちゃってゴメンよ、アリシア。ちょっと厄介な案件があってね。はい、これ。役に立ちそうな物を幾つか探しておいたから」

 

「ユーノ司書長、態々ありがとうございます」

 

「うん、いいよ。もう少し相手をしてあげたいんだけど、クロノの依頼がキツくてね」

 

そう言って手を振り去っていくユーノ。目の下の深い隈を見る限り、かなり無理しているのだろう。(あとでフェイトに報告しておこう、うん)と思いつつ、後ろ姿を見送る。

 

そうして書庫の1室を借り、アインハルトとあーでもないこーでもないと談義を始めるアリシア。そうして変身魔法が完成するのは、もう少し先の話。




少しづつ重なり合いそうで重ならない、アリシアとアインハルト回。

ユーノはもはや仕事中毒。もちろん某提督のせいです。

アリシアとアインハルトが作ろうとしているのは勿論、『大人モード』です。はい。

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