***第11話***
「ほーう。それで、単独かつ自己判断で交戦した、ちゅう訳やね?」
「ハイ」
「んでもって、逃げられた上に怪我までしてきた、と」
「ハイ」
「何か言い残す事は……無いな?アリシアちゃん?」
「‥‥‥ハイ」
ひたすら謝るアリシアと、説教をするはやて。万が一、アリシアが狙われて拐われでもしたら洒落に為らない。それこそ予言の通りになってしまう。本当は優しく労ってあげたい所だが、ここは指揮官としては怒らねばならない。
「ヤレヤレ、やなぁ。もう何度も同じこと言わせんといてな?アリシアちゃんは要警護対象なんや。もし何かあったら取り返しつかへんのやで?世界の危機がかかっとるんよ。今後はちゃんと大人しくしとって。な?」
「はい」
そこまで話して、はやては表情を崩した。アリシアとて、自分の立場を分かっていない訳ではないだろう。ただ単に、スカリエッティの影が見え隠れしている所で位は、もう少しだけ大人しく警護されていて欲しいだけ。
そうして俯いているアリシアの肩をポンポン、と叩いて、フェイトに念話を送る。
《フェイトちゃん?アリシアちゃんのお説教タイム終了やから、後のフォロー宜しくな》
《わかった。それと、此方は今ユーノが来ててね?ちょっと話してた所》
ホホゥ、と何やらにやけるはやて。あ、悪い顔してる、とアリシアが苦笑いして見ている中、はやてはフェイトとユーノに合流する。
「ユーノ君、お疲れ様や」
「やぁ、はやて」
はやてはフェイトに小さく耳打ちする。
「フェイトちゃん、なのはちゃん呼んで来て。それじゃ、アリシアちゃんのこと頼むわ」
「うん、はやて。じゃあ、私は姉さんの所に行ってるから」
はやてと違い屈託のない笑顔でその場を離れ、アリシアの所へ歩くフェイト。入れ違いに此方に向かって来るなのはを見て、またニヤリと笑うはやては、ユーノの肩をポンッ、と叩く。
「じゃ、若いお2人でごゆっくり。後で進展聞かせてな?」
「またかい!?はやて、聞いてる?ねえ‥‥‥」
ユーノの言葉など聞こえていないかのように、怪しい笑みを浮かべてはやては去って行く。そしてなのはにすれ違い様に「なのはちゃん、頑張ってな?」と耳打ち。「ふぇっ!?」と声を出してはやての方を振り返り、顔を真っ赤にするなのは。ユーノとなのははお互い赤い顔を見合わせ、笑みを溢す。
「久しぶり、ユーノ君。今日は偶然‥‥‥なのかな?」
「どうだろうね。アコース査察官は、六課が派遣されて来るのはご存知だったみたいだけど」
「そうなんだ‥‥‥えっと」
そんな、少し赤い顔のまま話す2人をコッソリ伺うはやてと、その姿を半分呆れて見るリイン。「程々にしてくださいよ、はやてちゃん!」というリインの言葉など聞こえていないのか、「焦れったい2人やなぁ、全く」などと呟いて覗いていた。
***
フェイトと並んで歩くアリシア。ヘリに戻っているシャマルの元へと向かう。
「姉さん、手、痛む?大丈夫?」
フェイトは先程から右手甲を押さえているアリシアを気遣い、心配そうにしている。そんなフェイトに気が付いて、なるべく痛みを見せぬように、表情を作るアリシア。
「うん、大丈夫。大した事ないから。ね?」
「でっ、でも、姉さん」
普通なら、大した事の無い怪我程度で痛そうに押さえたり、態々シャマルに診せに行ったりはしない。フェイトの心配も分かるだけに、もっと上手く誤魔化すべきだった、と考えていたアリシアの左手を、フェイトがそっと握る。
「姉さん。無理だけは、しないで」
アリシアはフェイトに笑顔を向けた。「うん。ありがとう」と答え、繋いだ手を握り返す。フェイトの優しい温もりが伝わってくる。
「手が有るって、繋げるって、良いな‥‥‥」
ポツリ、と思わずそう溢してしまったアリシア。「え?何?」と、良く聞き取れなかったらしいフェイトに、再び笑顔を向けて「何でも、無いよ」と言って繋いだ手を引き、ヘリへと引っ張って行く。
***
「ティアナは、私と少しお散歩しようか」
あれから暫く。ティアナとスバルの元にやって来たなのはは、ティアナだけを呼び出した。決して怒る為ではない。無理にガジェットを殲滅しようとして、コントロールミスした弾丸がスバルに当たる直前迄行ったのを、ヴィータが止めた。自分のミスで惨事になる所だったティアナの心は沈んでいた。
「失敗ちゃったんだね?」
「‥‥‥はい」
ティアナは力無く、落ち込んだ様子で答える。なのははそんなティアナに、諭すように静かに話す。
「私は現場に居なかったし、ヴィータ副隊長に怒られて反省してるみたいだから、私が怒ることはしないけど。次に同じ失敗をしないように、どうしたらいいか考えて置いて、ね?」
「すいませんでした」
未だ落ち込んだ様子のティアナに一抹の不安を抱えつつも、なのははその場から離れる。ティアナは暫くその場でボーッと立ち尽くしていた。
***
一方、隊舎でアリシアの眼鏡型デバイスに残った映像の解析をしていたシャーリーは、アリシアと交戦した2人のデータを悩みながら見ていた。丁度帰ってきたはやては、それを横から見て驚く。
「なっ‥‥‥シャーリー、これって、まさか」
「はい、あのゼスト、ですね。魔力データも一致しますし。間違いないと思います」
ウムム、と唸ったはやては腕を組んだまま思案する。
(どういう事や)
ゼスト隊は8年前の『あの事件』で壊滅、生存者は0。スバルの母、クイント・ナカジマも命を落としたあの『戦闘機人事件』。そう、『発表』では、全員死亡。
(やっぱり上が絡んどるんか)
ますます動きにくくなった、と悩むはやては、もう1人の召喚師に目をやる。
「で、こっちの子は?かなりの魔力反応だったみたいやけど」
「まだ確定できませんし、言い難いんですが‥‥‥」
言い淀むシャーリー。はやてが彼女の言葉を聞いて、固まる。
「‥‥‥ルーテシア?」
「はい。魔力データから見て、恐らく。ルーテシア・アルピーノ。あのゼスト隊のメガーヌ・アルピーノの娘、でしょう。行方不明になっていた筈ですが‥‥‥」
これをどう見たらいいのか。まさか、8年前の事件の時からすべて仕組まれていたのか。ゼストとメガーヌを利用することも、レリックのことも。まさか『ゆりかご』のことも‥‥‥?と、すれば。
「シャーリー、すまんけど『極秘任務』頼まれてくれるか?報告は私だけに。上には何も言わんといて」
「いいですけど、何をすれば良いんでしょうか?」
周囲を少し警戒したあと、はやては黙ってシャーリーに念話を送る。
《ある人物を探して欲しいんよ。アリシアちゃんと同じ魔力を持つ人物を》
***
シャーリーとはやてがそんなやり取りをしている隊舎の外。ティアナは1人練習をしていた。もうかれこれ2時間は経っただろうか。これ以上自分だけ足を引っ張る訳にはいかない。早くもっと強くならないと。
(兄さんの夢‥‥‥執務官になる。それで、証明するんだ。兄さんの残したこの魔法は、役立たずなんかじゃないって)
その為なら何だってするつもりだ。ティアナは更に続けた。
いろんな意味で流石なはやてさん、の回。
キリがいいところで次回に続く。
***
なのは「ティアナ?」
ティアナ「どうしました、なのはさん?」
なのは「ちょっとした疑問なんだけど。この『管理局の白い砲撃魔王』って誰の事?」
ティアナ「……」ダラダラ
なのは少し、頭冷やそうか」
ティアナ「わ、私何も言ってませ……お願いですから今すぐその魔力収束をやめて下さい!」
なのは「スターライトーーー」
ティアナ「ヒィィ!」