過去と現在と魔法少女と   作:アイリスさん

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第10話

***第10話***

 

「あ、あのっ!」

 

アグスタに移動中のヘリの中。キャロが不意に手を挙げる。

 

「どうしてアリシアちゃんも一緒なんでしょうか?」

 

それも尤も。さも当然のようにシャマルの隣にちょこんと座っているアリシア。護衛任務に『民間人』が同行するというのは不自然である。

 

「キャロ、ええ質問や。それはやな‥‥‥ひとりで留守番なんて可哀想だからや!」

 

ババーン、と効果音の付きそうなはやてのボケ、もとい回答のくだらなさに、一同は口をアングリと開いたまま固まる。そんな中いち早く復帰したシャマルが「もう、はやてちゃんは」と呟き、答えた。

 

「半分ホントで半分は違うわよ。アリシアちゃんにはちょっと『民間協力者』としてやってもらいたい事があるの」

 

「そうなんですか」と何故か妙に納得しているキャロの隣で、ティアナは怪訝そうな表情を浮かべる。

やっぱりあの子には何かある。部隊長が隠すくらいだ。何か特殊なレアスキルか、またはもっと別の何か、なのか。

 

実際は、はやての答えもシャマルの答えも嘘であった。部隊戦力の全員が出払ってしまった六課にいるより、アグスタに連れていったほうが護衛しやすいから、というのが真の理由。

まあ、はやてにしてみたらオークション会場でアリシアの手を引くフェイト、という一見すると親子にも見えるであろう光景を見てみたかった、などという邪な理由があったりもするのだが。

 

そんな少しにやけた表情のはやてに、なのはは感づいたのか「はやてちゃん?なに考えてるのかな?」とツッコミを入れる。

 

「な、何でもないよ。は、はは。」

 

惚けるはやてを横目に、ヘリはアグスタへと向かう。

 

 

***

「いや~、アリシアちゃん、ドレスも似合うやん。流石お姫様やね」

 

「‥‥‥面倒なのでその辺にしておいてください」

 

「は、はやて!姉さんは確かに可愛いけど、お姫様は言い過ぎだよ」

 

(フェイトちゃん、DNA一緒なんだからそれだと自分が可愛いって意味に‥‥‥)

 

上からはやて、アリシア、フェイト、なのは。オークション会場に入るため4人ともドレス姿。

会場内の警備は厳重なようで余程の事がない限り、中にいる分には問題は起きないだろう。会場の外はフォワード陣とヴォルケンリッターが警備を固めている。これ以上ない布陣である。

仮にガジェットが出現しても、これだけの戦力があれば安心できる。できなくては困る。

ティアナ曰く、六課の戦力は無敵を通り越して明らかに異常。

隊長格は全員overSランク、副隊長でもnearSランク。ロングアーチや他のスタッフ達も未来のエリート候補ばかり。勿論未曾有の危機に対抗するためにカリムやはやて、クロノが尽力した結果だが。

 

《ごめんな。あまりにも似合っとったから》

 

《別に、構いませんよ。少し風に当たってきますね》

 

はやての言動に少し呆れて、アリシアは開場のホールから廊下に出て、吹き抜けに向かった。風に当たれる場所を探していると、微かに何かを感じた。探査妨害でも使っているのか、本当に極微量の魔力。彼女が聖王であったからこそ気付けたそれはホテルから見える森の更に先から感じる。

 

(魔力……?まさか、襲撃‥‥‥?今日のオークションにはレリックは出ていない筈ですが)

 

アリシアはその正体を確かめるべく、自身も探査妨害を展開しドレスのまま外に向かって駆け出した。

 

 

「あれっ?はやて、姉さんは?」

 

「えっ?フェイトちゃん一緒やないんか?御手洗いちゃうの?」

 

中の3人がアリシアの不在に気付いたのは暫く経ってからであった。

 

《八神部隊長、ガジェット反応!Ⅰ型35機、Ⅲ型4機!》

 

シャーリーから通信が入ったのはそんな時だった。はやてはすぐさま指示を出す。

 

《みんな、ガジェットが出現したよ。シグナムとヴィータは迎撃、フォワードの四人はシャマルを現場管制にホテルを固めるんや!》

 

《《《《了解》》》》

 

「行くぞ、ヴィータ」

 

「おうよ!」

 

シグナムとヴィータはロビーを走り抜け、外の森と向かう。他のメンバーも、其々配置に付く。

 

「レヴァンティン!」

 

バシュン、バシュンとカードリッジを炸裂させ、刀身に炎を纏うレヴァンティン。向かってくるガジェットに、それを降り下ろした。

 

「行くぞ、紫電一閃!」

 

***

「いいのか。あそこにはお前の探し物は無いのだろう?」

 

「うん。ゼストやアギトは博士を嫌うけど、私はそんなに嫌いじゃないから」

 

「‥‥‥そうか」

 

アリシアの感じた魔力の主、ルーテシア・アルピーノとゼスト・グランガイツ。2人共フェイトやなのはに劣らない強力な魔道師。特にゼストは8年前までは管理局に居り、その名を知らぬものはいない陸のストライカーであった。

 

「召喚」

 

ルーテシアは召喚魔法陣を展開する。彼女のグローブ型デバイス、アスクレピオスが光を放ち、魔法陣から大量の小さな虫が発生する。

 

「ミッション、オブジェクトコントロール。いってらっしゃい。気を付けてね」

 

虫達は一斉にホテル・アグスタ方面へと向かう。やがてガジェットの群れに追い付くと、それに寄生しコントロールを始める。

 

一方その頃ヴィータは大量のガジェットⅠ型を相手にしていた。

 

「アイゼン!」

 

《Schwalbefliegen!》

 

ヴィータは6個程の鉄球を打ち出す。さっきまでは直撃し難なく殲滅させられていたガジェット。しかしルーテシアによって虫達の寄生したガジェットは急に不規則に動きそれを避ける。

 

「何っ!?急に動きが良くなりやがった!」

 

「自動機械の動きじゃないな‥‥‥」

 

ヴィータのいる所迄後退してきたシグナム。この場で全て迎撃するのは難しい。一度下がってフォワード陣と合流、連携する必要がある。

 

「ヴィータ、新人達の所迄下がれ」

 

「おう」

 

ヴィータはフォワード陣の元へと急ぐが、時既に遅し。ルーテシアによって転送されたガジェット10数体が、新人達に襲いかかる。

 

「来ます!」

 

キャロの叫びにホテル前のフォワード陣は身構えた。スバルとエリオは迎撃、キャロとティアナはフォローに回るが。

 

《エリオ、センター迄下がって。行くわよ、スバル!》

 

(私だってこのくらい殲滅出来る。証明するんだ)。そう思ったティアナはエリオを下がらせ、スバルと2人のみで迎撃を試みた。

 

***

ルーテシアが虫達の様子を観察していると、不意に右方向から声が聞こえた。

 

「何を、しているんですか?」

 

その声のする方向へルーテシアが振り向くと、切り株に座る、騎士甲冑姿の少女。膝辺りに肘を置いて頬杖を付きルーテシアを見ている少女の表情は笑ってはいるが、その瞳は彼女をじっと睨んだまま。

 

それを見て一瞬止まった後、ルーテシアは少し不機嫌そうな表情を見せ、念話を飛ばす。

 

《ねえ、ゼスト》

 

《なんだ?》

 

《‥‥‥見つかった》

 

《何だと!》

 

 

 

「もう一度だけ、聞きます。何を、しているん‥‥‥」

 

とそこまで言いかけたアリシアは、新たな影を見付けて向き直る。目の前には槍型デバイスを構えた威圧感を放つ騎士。

 

《ルーテシア、お前は先に戻れ。目的のものは回収出来たのだろう?》

 

《うん。ガリューが博士の所に運んでる》

 

ゼストは念話でルーテシアに撤退を促し、それに従い彼女も撤退を始める。それを逃がさんとするアリシアの前に立ち塞がるゼストは、デバイスを構えたまま彼女を睨む。

 

「貴様、何者だ。局員ではあるまい?」

 

「あなたこそ、何者ですか?邪魔立てするのなら容赦は出来ませんよ?」

 

構えたままそう言いながらも、アリシアに緊張が走る。目の前の敵の強さを感じる。

 

「あまり気乗りはしないが、仕方あるまい‥‥‥我らの邪魔をするな。‥‥‥行くぞ!」

 

そう言うとゼストは此方に向かって来た。咄嗟に飛び退くアリシア。次の瞬間。さっき迄居た場所に、クレータが出来た。

 

「クッ!」

 

アリシアに更に槍を降り下ろすゼスト。辛うじて右手で受けたアリシアだったが、その勢いのまま後ろに吹き飛ばされる。

 

「キャァッ!」

 

小さく悲鳴をあげ、木の幹に叩きつけられる。抜かった。今の『アリシアの身体』では、まだ反応が遅い。何処まで対向出来るか分からない。

立ち上がり、五体を外部操作に切り替える。ゼストはそれを見て「ムッ」と声を洩らす。

 

「お前は、自分が何をしているのか分かっているのか?」

 

ゼストの予想外の反応。自分を心配しているのだろうか?でも分かってはる、危険なことは。

 

「貴方には関係のない事です。今度は此方から行きます!」

 

魔力を両手に纏いゼストに飛び掛かる。迎撃しようと槍を払ったゼストだったが、アリシアは上体を下げてそれを避け、その体勢のまま身体を反転させゼストの顎めがけて大量の魔力弾を放った。

 

「『ゲヴァイア・クーゲル!』」

 

弾幕に包まれるゼスト。一旦距離を取り、構え直すアリシア。

次の瞬間、煙の中から飛び出したゼストはデバイスをアリシアの頭めがけ斜めに降り下ろす。しかしアリシアはその腕を掴み勢いのまま投げ飛ばす。追い討ちを掛けようと一歩踏み出したが、空中で翻ったゼストは距離をとって構え直した。

 

「なかなかやるな。幼いのに大したものだ」

 

「貴方こそ」

 

互いにニヤリ、と笑みを浮かべる、ゼストとアリシア。

 

ゼストは槍を構えたまま、魔力を槍先に集中する。

 

「もう少し相手をしてやりたい所だが、あまり時間も無い。一気に決めさせてもらう。悪く思うな」

 

そう言うと、ゼストはアリシアに飛び掛かって来た。先程よりも速く、鋭い一撃。受け止めようと右手を出したアリシアだったが、そのまま吹き飛ばされる。

 

「っ痛ぁ……」

 

アリシアの、その右手甲がジンジンする。骨にヒビか入ったかも知れない。やはりまだ、オリヴィエの力の完全なコントロールには程遠い。

痛む右手を押さえて顔を上げると、ゼストは更に魔力を練って、アリシアに打ち下ろしていた。

 

(不味い!!)

 

咄嗟にアリシアは左手を突きだし反応したが、ゼストの放った魔力はそのまま炸裂。辺りは爆発。

 

「中々やる方だったな。さてと……何だと?」

 

立ち去ろうとしたゼストは顔を僅かにしかめた。右手に亀裂を入れた先程よりも威力は上だし確かに捉えた筈の一撃だったにも関わらず、アリシアは無傷で立って居たのだから。

 

アリシアはギリギリで『聖王の鎧』を展開、ゼストの一撃を受け止めたのだが、今のこの身体では『聖王の鎧』は長時間は持ちそうもない。現に、アリシアの身体はその負担に耐えられずに既に悲鳴をあげ始めている。さて、どうしたものか‥‥‥。

 

と、ゼストの足元に召喚魔法陣が展開される。ルーテシアのものだ。

 

「機会があれば、また手合わせ願おうか、小さな騎士よ」

 

そう言い残してゼストは消える。

 

逃げられた。しかし次に会うまでに対策を考えなくては。そう考えていた所に、念話が飛んで来た。

 

《ア~リ~シ~ア~ちゃ~ん、そ~んな所で何してる~ん?》

 

選りにも選って、はやてから。今の交戦を見られていたのだとしたら、非常に都合が悪い。

 

《え、えっと‥‥‥ハ、ハハ》

 

《ガジェットは無事殲滅したよ。まあそれは置いといて、や。勝手に出てって敵さんと勝手に交戦とか困るんよ~?》

 

そんなはやての言葉に、如何にして誤魔化して逃げようか考えつつも、アリシアはホテルの方へとゆっくりと戻って行く。

 

(お説教、ですかね。‥‥‥はぁ)

***

「素晴らしい、実に素晴らしい!!まさかプロジェクトFのオリジナルが生きていようとは!!フフ、フハハハハハ!!」

 

高笑いをするDr.ジェイル・スカリエッティの見つめるモニターの先には、ゼストと交戦するアリシアの姿。

 

 

 

 

 

 

 




アグスタ事件編、でした。
魔力をコントロール出来ていないAAのアリシア<<オーバーSの元ストライカーゼスト
という力関係。

アリシアさんは後でコッテリ怒られます。

何気にスカリエッティ初登場回。

***
ウ「所でなんスけど。ノーヴェ。」
ノ「何だよ、ウェンディ。」
ウ「あたしらって出番あるんスかね?」
ノ「……あ、アタシはVivid編で出るだろうし心配はないな。」
ウ「ずるいっス~」

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