死人子育て記   作:Shushuri

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ジェネレーションギャップ

 九尾事件。その大きな事件とは裏腹に、人的被害は少ない方であった。死者の数で語るなら、奇跡的と言える。

 

「冬木、ナツエじゃと! いや、そうか。言われれば、覚えがある。何分昔のこと、思い出せなかったことは謝ろう」

 

 三代目火影、猿飛ヒルゼンはあの場では英雄的な働きをしたとも言える少女を、警備込みで部屋で聞いていた。

 

「そう、仰らないで下さい。ヒルゼン様とは直接の面識はありませんでしたし」

 

 冬木ナツエが死亡したのは、未だ火影が二代目の千手扉間の時代である。

 しかし、戦時中とはいえ、里内に侵入を許し、忍ではない一般人の命と引き換えとなったという事、更には彼女の父、冬木ドウシンは木ノ葉の重要ポストの人間であったことから、当時の猿飛ヒルゼンは葬儀に参加したことはあった。

 

「それに、私も穢土転生で復活してから留まっている期間が長いので、忘却した過去もあります。年齢で言うなら、私も年寄りですから」

「そうか。しかし、ドウシン殿を囚え、処断したのはワシじゃ」

「それは火影として正しいですよ。それに獄中での自殺です。恨み辛みで行動するなら、復活せずに怨霊にでもなってみせます。ヒルゼン殿は、我らが一族を見誤っています」

「ははっ、そうかそうか。うむ、見た目十かそこらの子に『ヒルゼン様』とは、呼ばれ慣れぬなぁ」

「私たちの世代で猿飛一族の代名詞といえば、貴方のお父上の『猿飛サスケ』様ですので」

 

 ここで、新たに部屋へ入ってきた暗部が三代目へ耳打ちする。和やかな雰囲気は、そこで終わった。

 急な温度の変化に、三代目の後ろで待機する暗部の一人が軽く後退る。

 

「私のことを木ノ葉の大蛇丸と名乗る男が把握し、父のものを含めた研究資料の奪取を試みましたが、報告はやはり?」

「されておらぬ。大蛇丸の奴め、何を考えておる。

 本人を目の前に言うのもどうかと思うが、禁術で存在し続けるお主は、我ら木ノ葉が里を上げて回収すべき事柄。幾ら三忍とはいえ、報告もなしに単独行動など許されん」

「正直言いますが、あれは父以上に危険な男です。

 ……父は極度の血統主義者です。冬木の一族に血継限界の血筋はありませんが、自身が優秀であると、その能力は遺伝すると父は思っていました。父が『子種を作れぬ体』となっていた為に、『対象の出産が可能となることを目標にした蘇生忍術』の研究をし続けた大馬鹿者です。最も、研究は完成せず、私も幾らかは進めましたけれど、終わりは見えません。

 ですが、恐らく大蛇丸は違う目的で禁術を研究しているでしょう」

 

 現代でも、死んだ人間の再現というものは研究されている。完成すれば、貴重な血継限界を際限なく、里に還元できるという利点があるからだ。穢土転生という未完成の禁術に触れたドウシンが、その発展から目指したのがある種の「完全な死者蘇生」。その目標は「自身の血統を後世に伝える」ことである。

 ドウシンの妻は忍の家系ではない一般人である。だから、ナツエに特殊なチャクラや秘伝が伝わっているということはない。ならば、何故蘇生に拘ったのか。他に、自身の血脈を残す手法も考えられたであろうに。そこに妻への愛があったのか、ナツエに才能を見たのか、子を生む女性というものを神聖視していたのか。聞くことも出来ない。

 

「お主はこれよりどうする」

「人里で、堂々は無理でもある程度暮らしたいですね。大蛇丸という、影クラスの忍に狙われるのであれば、私一人は苦しいものがあります。代償としまして、私達親子の研究を全て木ノ葉の里へお渡しすることは検討しています。無論、大蛇丸という人物に対する処罰を求めた上ですが」

「まぁ、確かに。九尾事件の功績が大きい。生き残った忍には、お主を命の恩人と言う者も何人かおるしな。危険視する者もおるが、穢土転生の術者が死んでおる現状、出来る処置は封印のみ」

「私を封印したいのであれば反抗しましょう。大抵の封印式は学んでいますので、対抗策はありますよ? 禁術を扱う以上、山中一族の心霊忍術も対策済みですし、穢土転生の体が受け付ける毒物も対策済みです」

 

 これは事実だ。彼女は研究施設にいるだけの時期と、術式研究の為のフィールドワークを定期的に繰り返していた。

 そして、古い世代の人間であるからこそ、木ノ葉の血継限界と秘伝忍術には事更に詳しい。

 

「あまり不遇な扱いをすれば、幾人かが訴えてくるじゃろう。里内でお主のことを秘匿し、この屋敷で過ごしてもらう」

 

 暗部も思うことがあるのか、それに頷いた。

 屋敷からは出ることができない。監視は女性の暗部で、屋敷の中でも特定の箇所しか出歩くことはできないというものだが、ナツエは頷いて納得した。

 廊下を歩いて寝泊まりする為の部屋へ向かうときに、一人の男性が赤子をあやしているのを見つけた。木ノ葉の額当てから、忍としてこの場にいるのだろう。

 

「その子も、此処で育てるんですね」

「うん? ああ、あんたか。あの時は助かった、礼を言うよ」

「お気になさらず。それにしても、手馴れていますね。自身にお子さんが居らっしゃるんですか?」

 

 子がいても可笑しくない歳に見える。男は軽く笑った。

 

「いや、残念ながら独り身だ。下忍の時に『赤子の世話』ってDランク任務があるんだよ。俺は中忍になって長いけど、覚えてるもんだよ」

「そんな任務があるんですか!」

 

 真面目に驚いた。彼女は養成所にいたが、当時は戦時中だ。下忍達が里内で子供の世話をする光景など見たことがなく、卒業すれば後方支援など、適度に危険度の低い場所で修行と並行して行うものという認識があった。担当上忍によっては前線に行くこともあったらしいが。

 

「ああ、当時の俺も『何だコレッ! 忍者の仕事をさせろ!』って担当上忍や火影様に文句言ったもんだ。

 でもほら、この里って夫婦の片方だけが忍者だったり、若しくは昔の怪我で子供の世話ができなくなった人とかそれなりにいるんだよ。死んだ親友の子供を育ててる奴もいるし、意外と子育てって必要なんだ。最近の軍縮が理由っていう部分も否めないが」

「なるほど」

 

 後ろで、女性の暗部が驚いているようだが二人で無視した。

 

「まぁ、交代制だけど、四代目の息子の世話だなんて自慢できるよ」

「お若い人でしたが、残念でしたね。その子の名前、なんて言うんですか?」

「『うずまきナルト』だそうだ。どうやら三代目は四代目の子供だって隠したいらしい」

「それじゃ、バイバイ、ナルトくん。またね」

 

 赤子の手を軽く取って、握手をする。あまり反応らしい反応はなかったが、それで別れた。

 

「ねぇ、貴女」

「……何だ」

「私って物を食べなくても、変なものを食べても大丈夫な体から家事がからっきしなの。教えて欲しいと思って」

「必要ないんだろう」

「貴女、掃除のされてない部屋に入りたいなんて思わないし、私の部屋を態々掃除したくないでしょ」

 

 仮面の下でぼそぼそというので、聞き返した。

 

「私も、人並みにはできんと、言った」

「そっか。なら二人で覚えようか」

「……私がずっと担当なわけがないだろう。人手不足なのに。……それでもいいなら」

 

 この後、暗部の娘といろいろやらかして、生活力のある中忍くノ一にどやされながら二人で掃除や料理を覚え、時折男性が男料理を語り、生活力の薄い二人が環化されそうになってまたどやされる。その光景を水晶球で生暖かい目で見守る三代目とアットホームを演出する数ヶ月を過ごすのは誰もが予想外な出来事である。

 

 

 

 更に時は進んで。

 

「それで?」

「なにが」

「何故お前がその子供の世話をしている」

 

 ナツエの腕の中では哺乳瓶を加えるナルトがいる。数ヶ月の時は、ナツエが暗部の監視役により砕けた口調で話すようになるほどだ。

 

「ほら、あの大蛇丸が人体実験とかやらかして、里が上下に大騒ぎでしょ?」

「それで私が此処数日離れていたからな。だから?」

「『忙しいなら私が世話しようか』ってあの人にいったら『はい』だって。ヒルゼン様からも了承貰ったわ」

「……あの男どもはっ!!」

「大声ださないでよ。ナルトくんがびっくりするでしょ」

 

 ナルトに優しく話しかける姿がすっかりと様になっている。

 実は最近、ナツエが独身男忍者達の間で話題になっている。事情を知っている人間は、死人だとか関係なく話しかけて、ナツエの上達した料理に舌鼓を打ってナンパし、事情を知らずに仲良くなった男は存在しない将来を期待してデートの約束したりである。彼女の傍にいるときは任務中なので仮面を被っている彼女は、男性との付き合いが新たに生まれることはなかった。

 

「今度女暗部で合コンやらないかなぁ」




主人公の生きていた時代は戦争中なんで、Dランク任務などやる暇などないという現状を想像してみました。
あのDランク任務には火の国から「軍縮してもいいだろうから予算減らすね」から「忍は戦闘バカではなく役に立ちますよ」という火影様のアピールで出来上がった気がします。

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